最強バディ誕生!?
「夢人…見習い…?」
「そっ! あたしは夢人見習いだから、まだ夢人じゃないの」
「夢人になるのに試験があるんですか!?」
「うん。あるよ。誰でも簡単にこなせる仕事じゃないからね。夢人になるためには、相応の才能と努力が必要だから」
「仕事? 夢人って仕事なんですか!?」
「あっ、キミが思っている仕事とは多分違うかな。仕事というか、使命って言った方が近いかも」
「使命…? どんな使命なんですか?」
「それはね…」
国東がそう言いかけたとき、突然部屋の電気が消えた。二人はその場で立ち上がり、国東が電気のスイッチを押そうとしていた。そのとき、いつの間にかベランダの掃き出し窓が開いておりカーテンが風でなびいていた。中津と国東はベランダに視線を送った。外から月明かりが差し込むベランダには、黒いスーツを着た男が立っており、その男が「それは私が教えてあげよう」と言った。
中津は国東の前に立ち、もし相手が襲ってきても国東の身を護れるような配置についてから警戒モードで「誰だ、あんた? 何の用だ?」と言った。
「驚かせてすまない。そう警戒しないでくれ。キミたちを襲ったりはしない」
「いきなりベランダから現れた男の言葉を信じられると思うのか? しかも可愛い女子の部屋だ。あんた、覗きか? それとも下着泥棒か?」
「勘違いしないでくれ。私は覗きでも下着泥棒でもない」
男が妙に冷静だったので、中津は警戒心を強めた。もしこの男が覗き、または下着泥棒だったなら、中津たちに見つかった時点で戸惑うはずだ。この状況になったらすぐに逃げるか、襲って来るかのどちらかのはずである。しかし、男はどちらの行動も起こさずに、冷静な態度で話しかけてきた。このような場合考えられるのは、この男がヤバいサイコパスであるということだ。もし男がヤバいサイコパスなら、一番厄介である。相手がビックリしてすぐに逃げるなら無駄な怪我をしなくて済む。襲って来るとしても戸惑っていれば動きは読みやすく反撃しやすい。この状況で冷静にいられる人物は非常に危険である。
中津が「じゃあ、一体何者なんだ?」と言うと、男がベランダから一歩部屋の中に入ってきたので、厳戒態勢になった。
男が部屋の中に入ってきたことで、月明かりが男を照らし、さっきまで陰になっていた顔がはっきりと見えるようになった。男はグレーヘアで身長一七三センチくらい、やせ型で三〇代くらいの見た目だった。右手にはハードカバーの本を持っていた。
「私は……夢人だ」
「なっ!? 夢人……だと? 冗談はやめろ! 俺たちの話をどっかで聴いてたのか!?」
「冗談ではない。私は正真正銘、夢人だよ。ナンバーは910。語呂合わせで『くじゅう』と呼んでくれて構わない」
「ナンバー910……? くじゅう……だと?」
「信じてくれたかな? 中津…夢翔くん」
「なっ!? どうして俺の名前を!?」
「フッ、夢人なら簡単に知ることができる」
「いや、夢人じゃなくても名前くらい簡単にわかるはずだ。その程度で…」
「身長一七五センチ、体重五八キロ、血液型はAB型、誕生日は八月三〇日、好きな食べ物はとり天と唐揚げ。苦手な食べ物は…」
「ちょっ、ちょっと待って! それ以上はもういい! 勝手に個人情報を喋るな!」
「そうか。ようやく信じてくれたようだね」
「いや、あんたがまだヤバい奴という可能性がある」
「はぁ~、キミはどうしてそこまで疑り深いんだい?」
くじゅうのこの発言に中津は少しイラっとした。
「正常な反応だ! あんたは怪しすぎる」
「このままじゃ埒が明かないね。国東くん、黙ってないでキミからも説明してくれ」
「えっ!?」
中津が振り返って国東を見ると、国東は必死に笑いを堪えているようだった。
「す、すみません。先輩。ハハハ。ふ、二人のやり取りが面白かったから、つい。アハハハハ…」と国東が笑いながら言った。
「先…輩…!?」
中津が驚きを隠せないでいる中、国東は笑いを堪えており、くじゅうはそんな国東を見て呆れているようだった。
そのまま国東が笑い終わるのを待つこと一分、ようやく落ち着き始め、国東は部屋の電気をつけた。
「国東さん、この人と知り合いなんですか?」
「あー、うん。あたしの先輩だよ」
「じゃあこの人は本当に…!?」
「うん。夢人だよ」
「なっ!?」
中津はようやく目の前に立っている三〇代くらいの男が夢人であることを信じた。だが、あまりに驚き過ぎて言葉が出なかった。
中津は本気で夢人を探していたので、見つける気満々だったのだが、まさかこんな形で夢人と会えるとは思ってもみなかった。そのため、理解がなかなか追いつかないでいた。
「キミは、国東くんの言うことはすぐに信じるんだね」とくじゅうが言った。
「当たり前だ!」
「それは良かった」くじゅうは軽く微笑んだ。
「なんであんたが嬉しそうなんだ? てか、何しにここへ来た?」
「私がここへ来たのは、キミに、夢人のことを教えるためだ」
「……どうして俺に教えてくれるんだ?」
「キミに夢人の素質があるからだ」
「は!?」
中津はくじゅうが言った言葉を前に聞いたことがある気がした。いつ聞いたのか記憶を振り返っていると、頭の中にそのときの情景が思い浮かび、思い出すことができた。
あれは母が亡くなり、父が失踪してから一ヶ月程経ったある日、独り公園で遊んでいたときのことだった。誰もいない家に帰るのが寂しくて公園のブランコに座っていると、突然知らない男が現れて、本と栞をくれたのだった。そのとき、その男がさっきくじゅうが言ったことと同じセリフを言ったことを覚えている。そして当時の記憶が鮮明に蘇り、そのときの男が今目の前に立っているくじゅうと同一人物であることを思い出した。
「ようやく思い出したようだね」
「あ、あんたが…あのときの…」
「ああ。あのときの本と栞を大切に持っているようだね。そのおかげで、私たちは会うことができた」
「え!?」
「キミに渡した本は入り口で、栞は鍵だ」
「本が入り口で…栞が鍵…? ハッ! まさか、ビブリオテーカ!?」
「ああ。先日キミはその鍵を開けた。心当たりがあるだろ?」
中津はこのときようやく、前に夢で見たと思っていたあの薄暗い大図書館が夢ではないことを理解し、興奮した。
「あんた…たしか、くじゅう…さんだったか。ナンバー910だから、くじゅう。てことは、夢人は最低でも910人いるってことか?」
「ああ。私も正確に把握していないが、現在この国で活動している夢人は、2000人以上いる」
夢人一人説と複数人説は、どうやら夢人複数人説の方が正しかったらしい。しかし、中津が予想していたよりも多かった。
「2000人!? そんなにいるのか!?」
「これでも少ない方だ。正直、まったく手が足りない」
「夢人も人手不足なんだな」
「ああ。だから私は、夢人の活動をしながら、夢人になれる素質がある人をスカウトしている」
「スカウト? なんか人間社会みたいだな」
「そうだね。元々夢人は人間だったから、その名残があるのだろう」
「元々人間だった? 今は違うのか?」
「ああ。夢人は人間ではない。見た目こそ人の形を保っているが、歳を取ることもなく、病気になることもない。食事も必要なく、一定期間関わらなければ、人々の記憶からも消える。そんな存在だ」
「……俺にそんな存在になれと?」
「そう願っている。キミには優れた素質がある。きっと優秀な夢人になれるはずだ。しかし、強制はしない。決めるのはキミだ」
夢人の謎が一気に解消するという喜ぶべきときなのだが、中津は少し複雑な気持ちだった。自分が夢人としての素質があり、スカウトされているからという理由もあるが、それよりも気になることがあったからだ。
「……国東さんは、それを知っていて夢人になるんですか?」
「そうだよ」
「人間じゃなくなるんですよ。せっかく仲良くなった友達にも忘れられるんですよ! それでもなるんですか!?」
「そんなこと気にしてたら、夢人なんてなれないから。…あたしは、夢人になるために、今まで頑張ってきたんだから」
国東は覚悟を決めているような顔ではっきりと言った。そんな国東に対して何を言っても考えは変わらなそうだった。
中津は国東のことをまだほとんど知らない。国東がどうして夢人になろうとしているのか、過去に何かあったのだろうか、ということが気になった。国東栞のことがもっと知りたい、と強く思った。そしてある決心をした。
「そういえば、夢人の使命をまだ聞いていなかった。どんな使命なんだ?」
「そうだったね。一番重要なことをまだ教えていなかったね。……夢人の使命は、人々を幸せに導くことだ」
「まっ、そうだろうな。噂からある程度推測してたが、そのままだな」
「キミの信念と似ていないか?」
「俺の信念を知っているのか?」
「…いや、知らない」
部屋の中は一気に緊張感が高まった。
「たしか、夢人になるには、試験を受けないといけないんだよな?」
「ああ。夢人の活動は誰でもできるわけではないからね。いくつかの試験に合格した者だけがなれる」
「そっか。じゃあ、俺もその試験、受けるよ」
中津の発言に国東は驚いた表情をしていたが、くじゅうは目を閉じて予想通りの展開であるかのような余裕な表情だった。
「そうか。やる気になってくれたようだね」
「元々夢人について調べてたからな。ここまで来たらとことんやってやる!」
「フッ、良い心意気だ」
「で、早速質問なんだが、夢人の試験はどんな内容なんだ?」
「試験内容を説明する前に、まずキミに言っておくことがある」
「なんだ?」
「キミはすでに一次試験を合格している」
「は!? 何だと? どういうことだ!? 俺、まだ何も……いや、ビブリオテーカか!」
「そうだ。キミはすでにビブリオテーカの鍵を開けている。それが一次試験だ」
どうやら、くじゅうがここに現れたのは偶然ではなさそうだった。小さい頃に本と栞を渡された時点で、一次試験が始まっていたようである。おそらく、くじゅうはこのときから中津に目をつけてどこかで見ていたのだろう。そして、中津がビブリオテーカの鍵を開けたタイミングで正体を明かし、夢人へスカウトするのが目的だったようだ。
今までのことがすべてくじゅうの掌の上だったことを知ると、なんだか嫌な感じだったが、一旦その感情は置いておくことにした。
「そっか。ならラッキーだ。じゃあ、次は二次試験だな。どんな内容なんだ?」
「特に何もない。今まで通りに過ごしていればいい」
「今まで通りに? どういうことだ?」
「言ったままだ。キミは今までもいろんな人たちの夢を護ってきた。これからもそれを続ければいい。それが二次試験だ」
「そういうことか」
夢人になるための二次試験は実技試験みたいなもののようだった。実際に現場で働き、技術を身につけろということなのだろう。試験内容といい、スカウトといい、夢人が元人間であることが垣間見える瞬間だった。
「そうだ。これからキミは、国東くんと一緒に行動してもらおう」
「は!?」と中津が言った。
「え!? せ、先輩!? いきなり何を言ってるんですか?」
「キミも二次試験中だ。中津くんにいろいろ教えてやってくれ」
「な、なんであたしが…!? そんなことしてる暇ありません!」
「夢人になりたければ、夢人のすべてを理解しなければならない。当然他人に教えることができる程にね。今のキミにそれができるのかい?」
「それくらいできます!」
国東ははっきりと答えてくじゅうの目を真っ直ぐに見た。それに対して、くじゅうも国東の目を真っ直ぐに見つめていた。二人の見つめ合いが二〇秒程続いたあと、先に国東が折れて「すみません。まだできないです」と言った。どうやら見栄を張っていたようだ。
「焦ることはない。キミも素質は十分にある。中津くんと組むことで新たな発見があるはずだ」
「……わかりました」国東は不服そうだったが、渋々了承した。
国東の反応を見ていると、彼女が少し焦っているような気がした。早く試験に合格して夢人になりたいという気持ちが伝わってきた。
「じゃあ、あとはキミに任せる」くじゅうはそう言って、持っていた本を開いた。「中津夢翔くん。キミの活躍を楽しみにしているよ」
くじゅうが別れの言葉を言ったあと、持っていた本が光り出し、本から風が吹き出し始めた。その風でカーテンが激しく揺らぎ、周りに飾ってあったものもカタカタカタカタと少しずつ動いていた。そしてくじゅうは光に包まれ、本の中に吸い込まれて消えた。くじゅうが消えたことで風が止み、部屋の中は無風になった。
国東は開いていた掃き出し窓を閉めてからカーテンを閉めた。そしてカーテンの方を向いたまま「はぁ~、まさかこんなことになるなんて…」と落ち込んだ様子で言った。
「す、すみません。なんか成り行きでこんなことになってしまって」
「あっ、気にしないで。キミのせいでなったわけじゃないから」
「でも…教育係って面倒ですよね? 国東さんも二次試験中なのに…。もう一度くじゅうさんに言えば、考え直してくれるんじゃないですか?」
「んー、どうだろう。先輩って何考えてるのかわからないからなぁ。一度言ったことを変えそうにないけど…」
「そう…ですか」
「まっ、なってしまったんだから仕方ない。切り替えよう!」
「いいんですか?」
「うん。今日からキミはあたしのバディね。よろしく!」
「はい! よろしくお願いします!」
二人は固い握手を交わした。今ここに夢人見習いバディが結成されたのである。
中津にとってはラッキーな展開だった。国東とバディになったことで、一緒に行動する口実ができたからだ。これで国東のことをもっと知ることができると思って、頭の中は歓声が沸いていた。
国東も清々しい表情をしていて、手を力強く握り返してきたので、中津と同じくやる気に満ちているようだったが、握手を交わしたあと「じゃ、今日はこの辺で、また学校でね!」とあっさり切り替わり、中津は玄関から追い出されたのだった。
国東のあまりにもあっさりした対応に、一瞬ポカーンとしてしまった中津だったが、そのあとすぐに嬉しさを全身で表現し始めた。中津は寮の階段を全速力で降りて、自分の寮の部屋まで全速力で帰った。
翌日午前六時に目が覚めると、早速国東からメッセージが届いていた。昨日伝えきれなかった夢人の情報を教えてくれるということだった。中津は「了解!」と返信し、国東とドリームバックスで会う約束をした。
午前七時一〇分、まだほとんどの寮生が部屋にいる時間、中津はウキウキした様子でドリームバックスに向かっていた。到着し、店内に入ると、開店したばかりにもかかわらず学生と先生が数人いた。その中で綺麗な銀髪がすぐに目を引いた。すでに国東は到着して、カフェオレを飲んでいた。中津は案内しようと出てきた店員に連れがいることを伝え、国東が座っている二人掛けテーブルの向かいに座った。最初に挨拶を交わし、少し雑談をしたあと、早速本題に入った。国東が夢人のことを話している間、中津は耳を傾けた。わからないところがあれば、その都度質問するという形で話は進んだ。
国東の話によると、夢人は人の人生の本を読むことができるらしい。ビブリオテーカにあった本がそれらしい。一人一冊人生の本があり、その本には、その人が将来歩む可能性のある人生がいくつか記されているらしい。いくつか記されているというのは、人はいくつもの選択によってその後の人生が変わるということだった。たとえば、ある選択をするとプロスポーツ選手になる可能性が高まるが、そのとき違う選択をすると、サラリーマンになる可能性が高まる、ということらしい。つまり、人々はそのときそのときの選択でいろんな人生の可能性を選んでいるということだった。
夢人は、人々のいくつもの可能性の中から、その人が最も幸せになる可能性に進めるようにしたり、将来その人が世の中に大きく貢献できるような可能性に進めるように、陰から支えたりするらしい。夢人は、そんな彼ら彼女らを、夢追い人と呼んでいるらしい。
そしてもう一つ、夢人には特殊な能力があるということだった。それは、本の中を移動できるという能力だった。本があるところならどこでも移動できるらしい。夢人はその能力を使って世界各地を移動しているということだった。ただし、人には決して見られてはいけないということだった。夢人は素質のある者以外には、決して正体を明かしてはならないらしい。ただ、仮に正体がバレてしまったとしても、人々の記憶からいずれ消えるので、過度に心配しなくていいらしい。
中津は自分がそんなことできるなんて信じられなかったが、すでに何度か本の中を通っていると言われ、心当たりがあったので、納得せざるを得なかった。どうやったらできるのか尋ねると、あとで実演してくれるということだった。その流れで、昔くじゅうに貰って以来いつも大事に持ち歩いていた本を国東に貸すと、国東がその本を自分の掌に置いてから目を瞑って念じ始めた。すると、本が少しずつ小さくなっていき、最終的に国東は手を握り本が消えた。と思っていたら、国東の握っている手の中から小さくなった本が出てきた。これで簡単に持ち運びができるからいつでもどこでも移動ができるということだった。これは中津も念じればできるということだったので、あとで試そうと思った。
国東の話を聞いて中津はこう思った。
夢人は、ただ人の幸せのために陰で行動することが使命だという、まるで感情のないロボットみたいだ、と。
中津はくじゅうと話しているとき、薄々そう感じていたが、国東から話を聞いて合点がいった。国東と話している感じでは、国東にはまだ感情があるので、少しホッとした。
そして最後に、国東は次のドリーマーの話を始めた。くじゅうの指示により、中津と国東はバディを組むことになったので、これから一緒にドリーマーを陰から支えることになったからだ。
国東が机の上で掌を自分に向けると、何もないところから一冊の本が出てきた。国東はその本を開いて次のドリーマーの情報を話し出した。どうやら、その本はビブリオテーカから出てきたらしい。
俺もあとでやろう!
中津はコッソリそう思っていた。
中津がそんな風に浮かれていると、国東に注意されてしまったので、気持ちを切り替えて話に集中することにした。
中津と国東がバディを組んで記念すべき最初のドリーマーは、まだ入学して一ヶ月しか経っていない一年生だった。名前は、臼杵白馬というらしい。中津は名前を聞いて、イケメン俳優やイケメンアイドルを想像した。
国東曰く、彼はいろんな可能性を秘めているらしい。運動神経が抜群で、どのスポーツを選んでも超一流になれる可能性があるということだった。野球を選べば、大リーグで二刀流として活躍する可能性が高いらしい。打者として打率四割、ホームラン六〇本、投手として最速一七〇キロ、二〇勝するらしい。バスケットボールを選べば、NBAで大活躍し、チームで優勝したり最優秀選手に何度も選ばれたりするらしい。柔道を選べば、オリンピックや国際大会で金メダルを取りまくるらしい。
五〇メートルは五秒フラット、一〇〇メートルは、九秒六〇。握力は一五〇キロ。その他のどのスポーツを選んでも、臼杵は超一流になれる素質があるということだった。というより、すでに中学生の大会では無双状態らしい。
その話を聞いて中津は驚きを隠せず、にわかには信じられなかった。たしかに、超一流選手でイケメンはたくさんいるが、どのスポーツを選んでもその可能性があるというのは、大袈裟な気がした。
話を終えると、国東は席を立ち、移動を始めた。始業時間が近づき、今から臼杵白馬が登校して来るらしいので、まずは彼を観察するということだった。国東が先に店を出て行ったので、中津は当然のように奢らされ、会計を済ませたあと、国東の後を追った。
国東がベンチに座って鞄から本を取り出し、読んでいる振りをして周りを見ていたので、中津も隣に座って真似をした。
それから数十秒後、国東が「来た!」と言った。国東が見ていた視線の先に中津も視線を送ると、そこには想像通りのイケメンが歩いて来ていた。
ぱっと見、身長一八〇センチくらいで、やせ型だった。とてもさっき聞いていた化け物には見えなかったが、もしかして着やせしているのかもしれない、と推測した。
「あれが、臼杵…白馬。見た感じでは、さっき聞いたような人物には見えないですけど」
「ん? キミ、どっち見ているの?」
「えっ、どっちって、あのイケメンくんですけど」
「そっちは違うよ。彼は龍原寺風連くん。彼の隣が臼杵白馬くんだよ」
「え!?」
そう言われて中津は龍原寺の隣を歩いている人物に視線をずらした。すると、そこには体長二メートルを超える巨体の男子生徒が歩いていた。彫が深く、眉毛は極太、鼻と鼻の穴もでかい。口が大きく唇も分厚い。頭は角刈りで、下あごも大きい。まるでゴリラみたいだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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