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夢人  作者: たか
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夢人は誰だ!?【解決編】③

「あ、天瀬さん…何…言ってるんですか? あ、もしかして冗談ですか!?」

「えっ、冗談? なにが?」

「国東さんのことですよ! 今、誰って…」

「えっ、うん。だって知らない人だから…。中津くんの友達?」

「えっ…国東さんですよ! 国東栞さん! あんなに仲良さそうにしていたじゃないですか!」

「国東栞…? やっぱり聞いたことないけど、誰かと間違えてない?」

「なっ!?」

 天瀬は冗談で言っている様子ではなかった。だからこそ中津には理解し難いことだった。

 どういうことだ!? 天瀬さんは本当に国東さんを忘れている!? いや、忘れているというよりは、最初から知らなかったという感じだ。そんなことがあり得るのか!?

 そんなことを考えていたとき、中津はハッとしてあることを思い出した。ポケットに入れていたスマホを取り出し、ロックを解除して画面をタップし始めた。中津は写真フォルダを開いて、ある写真を探した。そう。前に国東、天瀬と一緒に撮った写真である。その写真に写っている国東を見せれば、天瀬も思い出せるかもしれないと考えた。中津はスマホで写真を撮ることがほとんどないので、フォルダには数枚しか写真がない。だから、探すのも簡単だと思っていた。しかし、三人で撮った写真はなかった。

 写真がない!? なんで!? 間違って消したか? いや、そんなはずは……。一回落ち着け、俺……。一度冷静になろう。…………天瀬さんは国東さんのことを忘れていて、この前一緒に撮った写真も消えている。これってまさか、記憶を…!? いやでも、なんで俺は覚えてるんだ!?

 そんな風に戸惑っている中津に、天瀬が「中津くん、大丈夫?」と心配した様子で声を掛けてきた。中津は「あ、大丈夫です。すみません、急に変なこと言って。じゃあ、これで失礼します」と言って足早に帰った。

 中津は部屋に帰り着いてから、すぐにスマホで国東の連絡先を検索し電話を掛けたが、応答なかった。なので「また国東さんとカフェに行きたいので、都合の合う日に行きませんか?」とメッセージを送った。それからしばらく待ったが返信は来ず、既読にもなっていなかったので、一旦はやる気持ちを抑えて、夕食を食べたり、シャワーを浴びたり、寝る準備をしたりした。いつも通り寝る前の読書をしていると、夜中の零時になっていた。この日、結局国東から返信が来なかったので寝ることにした。


 翌日の朝、目が覚めて真っ先にスマホを確認したが、国東からの返信は来ていなかった。

中津はすぐにでも国東と話したいという気持ちが強かったが、何度も電話を掛けたり、メッセージを送ったりすると、しつこくてウザいと思われるかもしれないから、気長に待つことにした。国東には嫌われたくなかったからだ。

 国東と連絡が取れなくてもできることはあるので、中津は今自分にできることをすることにした。

まずは学校で聞き込みをすることにした。迷路のときに国東は、別府、叶愛、宇佐の三人と会っている。この前のことなので、さすがにまだ忘れるには早すぎる。この三人が国東のことを覚えているか、確認することにした。

 午前中の講義で別府と同じになったとき、国東のことを聞いてみた。

「なあ、別府。国東さんってちょっと不思議な人だと思うんだけど、どう思う?」

「ん? いきなりなんだよ。てか、国東さんって誰だ?」

「知らないか? 銀髪で碧い瞳の可愛い女子なんだけど…」

「銀髪で碧い瞳? んー、知らないな」

「そっか。わかった。じゃあ、今のは忘れてくれ」

「は? なんだよ……ハッ! もしかして、恋に…」

「それは違う!」

「否定がはえーよ」

 別府は国東のことを覚えていなかった。名前を覚えることが苦手な人もいるので、見た目の特徴を聞いてみたが、それでも覚えていなかった。別府が嘘をついている様子もなかったし、嘘をつく理由もないので、別府は国東を忘れていると確信した。


 昼休み、中津は別府と一緒に食堂でご飯を食べていた。すると、そこに宇佐が遅れてやって来た。事前に別府に連絡を取ってもらい、宇佐から話を聞く約束をしていた。

中津がすぐに質問しようとしたら、別府が気を遣った様子でトイレに行った。別にこの場にいても構わなかったが、別府がいなくなってから宇佐が話題を振ってきた。

「で! あたしに聞きたいことってなんですか?」

「あっ、はい。宇佐ちゃんは二年の国東栞さんを知っていますか?」

「国東…栞さん…? んー……あっ、知ってますよ! ちょっと不思議な人ですよね!」

「えっ!? 知ってるんですか!?」

「えっ、はい。この前迷路で会ったばかりなので」

「ちなみに、髪と目は何色か覚えてますか?」

「あ、はい。えーっと、綺麗な銀色の髪に碧い瞳だったと思います」

 あれ!? どういうことだ!? なんで宇佐ちゃんは覚えてるんだ!? ……いや、別におかしくないか。俺も覚えているんだし。ただ、覚えている人と忘れている人の違いがわからない。一体どういう基準なんだ!?

 中津は宇佐も国東のことを忘れているだろうと推測していたが、まさかの回答に驚いた。しかし、自分が覚えていることを踏まえると別におかしくないということを冷静に判断し、戸惑うことはなかった。


 放課後、講義が終わってすぐ中津は早足でドリームバックスに向かった。事前に叶愛に連絡を取って話を聞く約束をしていたからである。

ドリームバックスに着くと、すでに叶愛が待っていた。

二人で入店すると速見がニヤリとした表情で案内してくれた。二人掛けテーブルに座ってから、ドリンクを注文し、少しして届いた。叶愛の振る舞いは、コーヒー一杯を飲むだけでも気品あふれる感じで優雅だった。中津はいつも通りだと雑さが目立つ気がしたので、叶愛の仕草をよく観察して真似をした。

「あ、あの、夢翔様。私の顔に何かついていますか?」

「あ、いえ。すみません。ジロジロ見てしまって。叶愛さんの真似をすると俺も上品になれるかなぁと思って」

「そうでしたか。安心しました。ですが、私の真似をしなくても、夢翔様は素敵ですよ」

「そ、そんなことは…」

「フフフ」

 このままだと叶愛に会話のペースを握られそうだったので、中津は早速本題に入ることにした。

「あの、叶愛さん! 一つ、聞きたいことがあるんですが…」

「なんですか?」

「国東栞さんという方を知っていますか?」

「国東栞さん…ですか? えーっと……」叶愛は斜め上を見て思い出そうとしていた。「すみません。私は存じ上げていません」

「そうですか。わかりました。答えてくれてありがとうございます」

「夢翔様が聞きたいことというのは、この質問だけですか?」

「はい。すみません、これだけのためにわざわざ時間を取らせてしまって」

「いえ、気にしないでください。私にとって夢翔様との予定は最優先事項ですので」

「ありがとうございます」

 中津はこれで話を終えて、コーヒーを飲んだら帰るつもりだったが、叶愛はそうではなさそうだった。

「……ところで、夢翔様」

「はい」

「さっきおっしゃられた、国東栞さんという方は、夢翔様のお友達ですか?」

「えっ、あー、そうですね。友達…なのかな? いや、まだほとんど知らないから友達なのか? 俺は友達だと思ってるけど、向こうはそう思ってない可能性もあるな。あれ? 俺って国東さんにどう思われてるんだろ?」

 中津は少し不安になった。今まで相手にどう思われていようが気にしない性格だったが、国東に対しては嫌われたくないという気持ちが湧いたのだった。

「心配しなくても大丈夫ですよ。夢翔様が友達だと思っているのなら、きっと国東さんも同じです」

「…ありがとうございます」


 天瀬、別府、宇佐、叶愛の四人に話を聞いた結果、中津はある推測をした。その推測を確かめるために国東と直接話したいと思っているのだが、一向に返信が来なかった。学校でも会うことがなくなり、休み時間や放課後に探し回ったが、手掛かりを掴めないまま、数日が経った。

 そんなある日の放課後、中津がまだ諦めずに探していると、綺麗な銀髪ショートヘアの後ろ姿が三〇メートル先に見えたので追いかけた。中津が追いかけ始めると、彼女も走り出した。中津は「国東さん!」と呼びかけながら追いかけたが、彼女は気づいていない様子だった。しばらく追いかけたが、途中で見失ってしまった。そのあとも近くをしばらく探し回ったが結局見つからず、暗くなったので帰ることにした。せっかくのチャンスを逃してしまい、中津は少し落ち込んだ様子で部屋まで帰った。

 クッ! このままもう国東さんと会うことはできないのか!? せっかく仲良くなれそうだったのにこのまま疎遠になっていいのか? ……嫌だ! まだたった一週間だ。同じ学校に通っているんだから、諦めずに探せばきっと会えるはず! よし! 明日も探すぞ!

 中津が気持ちを切り替えて再びやる気を奮い立たせたとき、頭がズキンとした。足元がふらついたので、倒れないように右手で壁に触れて踏ん張った。頭がズキンとしたのだが、いつものような誰かが事故や事件に巻き込まれるイメージは見えなかった。中津は、ただの頭痛かと思ってホッとしたのも束の間、あることに気づいてゾッとした。国東の名前が思い出せなかったのである。

 あれ!? 国東さんの名前ってなんだったっけ!? 俺、知ってたよな? どうして思い出せないんだ!? ハッ! まさか、俺も記憶が!?

 中津が最も恐れていたことがついに起こり始めた。それは、中津も国東のことを忘れてしまうということだ。忘れてしまうともう二度と会えなくなってしまう。そうなる前に見つけるつもりだったが、間に合わなかったらしい。先に記憶が消え始めたのだった。

 他の人が忘れている中、中津は忘れていなかったので、自分は大丈夫だろう、このまま忘れないかもしれない、と淡い期待を抱いていたのだが、そんなことはなかった。ただ忘れるまでに個人差があるだけのようだった。おそらく、あのとき覚えていた宇佐も今頃は忘れてしまっているだろう。例外はないのかもしれない。対策としてメモを残せばいいかもしれないと考えたが、一緒に撮った写真のデータが消えていたことから、おそらく、国東に関するものは記憶と一緒に消えるようになっているのだろう。

 あれ!? 国東さんってどんな顔だったっけ!? ぼんやりして思い出せない! クソ! このままじゃ全部忘れてしまう! どうすればいいんだ!?

 中津が頭を抱えながら戸惑っていると、足元にあった鞄の中が光っているのに気づいた。中津はしゃがんで鞄の口を開けると、いつもお守り代わりに入れている本が光っていた。その本は、小さい頃に公園でスーツを着たおじさんに貰った本だった。

 中津はその光っている本を鞄から取り出し開いたが、案の定何も書かれていない真っ白いページがあるだけだった。しばらくページを捲っていると、真ん中辺りの見開きページだけ真っ黒になっていたので、中津は驚いた。前に見たときはそんなページがなかったからだ。一ページずつ丁寧に開いて確認したので見落としていないだろうし、インクか何かが沁みているようでもなかった。

 そのとき、着ている制服のジャケットの胸ポケットが光っていることに気づいた。「ん? なんだ?」と思いながら胸ポケットに右手を突っ込み取り出したものは、本と一緒に貰った栞だった。栞も本と同じように光っていた。

 中津は、光っている本と栞を手にしたとき、この二つを使えば国東さんに会えるかもしれない、と直感で思った。どうすればいいのかわからなかったが、右手で栞を、左手で本の真っ黒いページを開いた状態で持った。そして国東のことを考えながら栞を本に突き刺すと、光が中津を包み込んだ。中津はその眩しさに目を瞑った。


 中津がゆっくり目を開くと、部屋の真ん中に立っていた。その部屋は、中津の部屋と同じ間取りのようだったが、装飾や家具がすべて違っていた。中津の質素な感じの部屋と違い、可愛らしい色や装飾がされている部屋だった。

中津は「ここは…? どこだ…?」とその場から動かず首だけを左右に振って部屋を見渡した。すると、後ろから「えっ…どうしてキミがここに…!?」という声がした。

中津は声を聴いた瞬間、国東だとわかり嬉しそうな表情で振り返った。中津は「国東さ…えっ!?」と想定外の光景を見てしまい目が飛び出した。中津が振り返ったときに見た国東は、シャワーを浴びようとしていたようで、白い下着姿だった。綺麗な色白の肌にスラっとした体形、Cカップ程の胸が目に飛び込んできた中津は、男の本能に逆らえず、無意識に目が釘付けになってしまった。

国東は、中津の反応を見て状況を理解し、一瞬で顔を赤くして「キャー!」と叫びながらビンタをしてきた。

中津は固まったままその場から一歩も動かなかったので、ビンタをもろに食らって吹っ飛び気を失った。


 ゆっくり目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。中津はベッドの上に寝ていた。いつの間にか自分の部屋で寝てしまっていた、と思った中津だったが、いつもよりいい香り(甘い香り)がしたので、横に視線を移そうとしたとき、左頬に痛みを感じて一度動きを止めた。痛みが引いたあと、自分で左頬をさすりながら、上体を起こして部屋を見渡すと、自分の部屋とまったく違うことに気づいた。

 中津は自分がどうして気を失っていたのか思い出そうとしたとき、キッチンの方から「あ、目が覚めたんだ」という声がした。声のした方に視線を送ると、可愛いスウェット姿の国東が出てきた。国東の姿を見て、中津はさっきビンタされて気を失ったことを思い出した。

国東は、マグカップを二個乗せたお盆を持って来て机に置いてから、中津の向かい側に座ったので、中津もベッドから降りて国東の正面に座った。国東はマグカップの一つを中津の前に「はい。これ」と言って差し出してきたので、中津は「あ、ありがとうございます」と言って両手で受け取った。もう一つのマグカップは、自分の前に置いた。

「だ、大丈夫?」と国東が気まずそうな様子で言った。

「あ、はい。なんとか」

「ご、ごめん。いきなりだったから驚いて」

「い、いえ。俺の方こそすみません。なぜか気づいたらここにいて」

「えっ? キミ、気づいてないの?」

「ん? 何のことですか?」

「…キミって鋭いのか、鈍感なのか、わからないね?」

「えっ、どういう意味ですか?」

「フフフ、内緒!」

「また内緒ですか!」中津は国東の笑顔を見てホッとした。「それよりも、また会えてよかったです!」

「キミ、あたしに会えてそんなに嬉しいの?」

「はい!」

「そ、そう…」

「もう会えないかもしれないって思ってたから。よかった!」

 中津は国東と会ったことで忘れていたことを思い出していた。可愛い顔、綺麗な銀髪、サファイアみたいに輝く碧い瞳、全部思い出して安心した。

「……あたしを探してたの?」

「はい!」

「どうして?」

 国東の質問に対して、中津は一度間を取って深呼吸した。頭を冷静にしたあと、今まで集めた情報をすべて考慮した推測を言う覚悟をした。

「国東さん、一つ…聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「……なに?」

「国東さんって……『夢人』…ですよね?」

「…………あーあ。とうとうバレちゃったか! 油断したなぁ。まさか本を通って来るなんて、想定外だよ!」と国東はあっさり言ったあと、キリっとした目つきになり、口元はニヤッとした。「そうだよ。あたしがキミにメールを送った『夢人』だよ」

 中津は、予想していたことだったが、衝撃的な事実に対して口ごもった。今までの振り返りと目の前の現実が一気に押し寄せてきたため思考が追いつかなかったからだ。その間に、国東は続けてこういった。

「まっ、厳密に言うと、あたしはまだ『夢人』じゃないけどね」

「えっ!? 『夢人』じゃ…ない? どういうことですか!?」

「そのままの意味だよ」

「えっ、でも、今、俺にメールを送ったって…」

「うん。『夢人』としてキミにメールを送ったのはあたしだよ。それは事実」

「じゃあ『夢人』じゃないですか!?」

「ううん。あたしは、まだ『夢人』じゃない」

「まだ…?」

「あたしは、『夢人』になるための試験を受けている『夢人見習い』だよ」

「なっ!!?」

 新しい事実、それも初めて聞く言葉に中津は驚き過ぎてすぐに言葉が出なかった。




読んでいただきあ、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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