夢人は誰だ!?【解決編】①
「私が……夢人…? 中津くん、いきなり何を?」
「誤魔化しても無駄ですよ。調べはついてます」
「えっ…!?」
「天瀬さんは昨日、国東さんと夢プラザで遊びましたよね?」
「えっ、う、うん」
「どうしてですか?」
「え?」
「どうして昨日、夢プラザで遊んだんですか? 他にも遊ぶ場所はあるのに」
「えっ、そ、それは、夢プラザなら駅から近いし、遊ぶ場所も多いから」
「本当にそれだけですか? 何か他に理由があったんじゃないですか?」
「えっ、な、ないけど…」
中津はジーっと天瀬の目を見つめた。天瀬は戸惑っているようだったが、目を逸らそうとしなかった。
「そうですか。実は昨日、俺と生徒会長も夢プラザにいたんですよ」
「へぇー、そうなんだ」
「知らなかったですか?」
「えっ、うん。今知ったけど」
「そうですか。では、昨日、生徒会長が夢プラザの屋上から落ちそうになったとき、あなたはどこで、何をしていましたか?」
「え!? 生徒会長が屋上から落ちそうになった!? どういうこと!? 大丈夫だったの!?」
「落ちる前に助けられたので大丈夫でした」
「そっか。良かったぁ」
「知らなかったのですか?」
「えっ、う、うん。知らないけど……中津くん、さっきから何を言っているの?」
「昨日、天瀬さんが夢プラザに行ったのは、生徒会長が屋上から落ちるのを知っていたからじゃないですか? 生徒会長を助けるために…」
「えっ…?」
「夢人なら何かしらの能力があっても不思議ではありません。未来を見ることができるという噂もあります」
「未来を…見る…!?」
「俺の推測はこうです。天瀬さんは未来視で生徒会長が夢プラザ屋上から落ちることを知った。それを防ぐために国東さんを誘って、遊ぶという体で生徒会長を近くで見守っていた。もしものとき、すぐ助けられるように……。だけど、俺が一緒にいたから近づけなかった。近づくと俺に正体がバレるかもしれないから。だから、何らかの能力を使って迷路を操作し、俺と生徒会長を分断したあと、生徒会長に接触して何かをした。そして生徒会長を助けたあと、自分は何事もなかったかのように帰った。どうですか?」
「……どうですかって、言っている意味がよくわからないんだけど……。つまり、中津くんは私が夢人だと思っているってこと?」
「はい」
「そっか……」と天瀬が言ってからしばらく沈黙が続いた。「でも残念。私は夢人じゃないよ」
「……やっぱり、そうですか」
「えっ…!?」
「すみません。いきなり適当なことを一方的に言ってしまって。今言ったことはすべてでたらめなので、気にしないでください」
「どういうこと?」
中津は最初から天瀬が夢人であると考えていなかった。ただ、可能性がゼロではないので試してみたのである。昨日のメールのやり取りで夢人は「会うことができたら、すべて教えてあげる」という約束をしてくれた。なので、少し強引な手段だが、これから会う人全員に適当に考えた理由を言って問い詰めれば、夢人がボロを出すかもしれない、と考えた。
それを天瀬に試してみた結果、天瀬は予想通り夢人ではなさそうだと判断した。天瀬は戸惑っている様子だったが、それは正体がバレそうだったからという感じではなく、中津の言っていることの意味がわからなかったからである。それも当然の反応で、誰でも自分のことを夢人だと言われれば戸惑うだろう。天瀬は戸惑いながらも冷静に最後まで付き合ってくれたが、人によっては途中で怒ったり、逃げ出したくなったりするかもしれない。罵詈雑言も覚悟していたが、理由を説明すると、天瀬は理解を示してくれ許してくれた。というより、好奇心が高まった様子で興奮気味だった。
中津は今までの夢人とのメールのやり取りと、いろんな人から教えてもらった情報を天瀬に教え、一緒に探してくれないかお願いしようとした。
「夢人とメールしてたの!? どうして前に会ったとき教えてくれなかったの!?」
「あのときは本物かどうかわからなかったので…。天瀬さんも夢人のメールは残らないって言ってたから」
「それは…そっか。でも、もしこれが本物だったら、夢人の正体がわかるかもしれない」
「そうですね」
「このメールアドレス、調べさせてもらってもいい?」
「あ、はい」
中津が自分のスマホを天瀬に渡すと、天瀬はパソコンに夢人のメールアドレスを打ち込んでから、キーボードをカチカチカチカチと高速でタイピングし始めた。
「あの、天瀬さん。何をしてるんですか?」
「ん? 夢人のメールアドレスから送信された場所を特定してるの」
「えっ!? そんなことできるんですか!?」
「うーん、わからないけど、やってみる!」
中津がお願いするまでもなく、天瀬が夢人のメールを解析してくれることになり、これがわかれば一気に正体を突きとめられそうだった。特定するのに少し時間が掛かるかもしれない、ということだったので、メール解析は天瀬に任せることにした。天瀬が「もし私が解析できなくても、もう一人こういうのに詳しい人がいるから、その人に頼んでもいい?」と言っていたので、中津は了承した。天瀬曰く、その人はホワイトハッカーをしているらしい。この情報を聞いた中津の頭には、赤縁眼鏡を掛けたある人物の顔が思い浮かんだが、すぐに違うだろうと思い直した。
天瀬がメール解析をしている間、中津は別の方法で探すことにした。
協力を願うなら雲海が一番頼りになりそうである。夢乃森財閥には様々な専門家がいて、潤沢な資金もある。雲海に気に入られている中津がお願いすると惜しみなく協力してくれるだろう。しかし、現時点で夢人候補ナンバー1である雲海にお願いしても、この前みたいにはぐらかさせるかもしれないので、先に他の人を当たってみることにしたのである。
ということで、翌日から早速行動に移そうとしていたのだが、中津はあることをすっかり忘れていた。もうすぐGWだということを。
中津は別府との約束を守るため、一緒に学食で昼食をとっていた。これから七日間学食を奢らなければならない、という約束だ。そのとき、別府がGWの話をしてきたことで、中津は忘れていたことに気づいた。ちなみに、学食を奢るという約束は、なぜか奢られる側の別府の方から破棄したいという要請があったので、七日間奢るのはチャラになった。別府はなぜか申し訳なさそうな態度だった。
奢りがなくなってお金が浮いたこともラッキーだが、それよりもGWのことを考える方がワクワクしていた。そのことで頭がいっぱいになり、すっかり夢人のことを忘れていた。
中津のGWは、毎年何か予定があるわけではない。本を読んだり、散歩したり、登山したりといつも通りに過ごすことが多い。だが、自分のしたいことができる時間、何をしてもいい時間、独りでゆっくり過ごせる時間、この自由な時間が連続してあることが溜まらなく好きなのである。最近ちょっといろいろあって忙しかったし、あまり本を読めていなかったので、GWは図書館に籠って本を読みまくろうと考えていた。しかし、そう上手くいかないのが人生である。
GW初日、外で遊ぼうと考えていた多くの人にとっては生憎の雨だったが、中津に天気は関係なかった。中津は朝から図書館を訪れて本を読んでいた。しばらく本を読んでいると館内がざわつき始めたことに気づいた。中津は気になって一旦読書を中断し、様子を見に行くと、ある棚の本がすべて床に落ちていたのである。
誰がこんな酷いことを!? 許せん!
中津は憤りを感じながらも、図書委員が本を拾っていたので、拾うのを手伝った。床に触れていた面を軽く払って汚れがついてないか全体を確認しながら丁寧に拾った。
床に落ちていた本をすべて拾ったあと、元の席に戻って読書を再開しようとしたとき、またもやざわついている声が聴こえた。その場所に向かってみると、さっきとは違う場所の本棚に並んでいる本すべてが床に散乱していた。中津は再度、散乱している本を拾い始めたが、その場にいた数人の図書委員は、犯人捜しを始めた。突然たくさんの本が散乱しているという事態を目の当たりにして、この場に集まっている本好きは怒っている人が多く、お互いを疑ったり、自身の潔白を述べたりして険悪な雰囲気になっていた。
しかし、この雰囲気は長く続かなかった。なぜなら、すぐに犯人がわかったからである。会話を聴いたり、それぞれの様子を伺ったりした中津は、直観でこの中に犯人がいない気がしていた。だけど、それなら一体誰がこんなことをしたんだ、ということを考えながらふと隣の本棚を見ると、誰もいない本棚から本が一冊床に落ちる光景が見えた。見間違いだと思いながらも拾う手を止めてしばらくその場所を見ていると、もう一冊ゆっくりと本が本棚から抜け出て、床に落ちた。
険悪なムードの中、中津が「皆さん。あれ見てください!」と言ってその方向を指差すと、全員がその方向に視線を送った。全員でそのまましばらく見ていると何も起こらなかった。本を拾っていた図書委員の女子が「あっちの本棚がどうかしたの?」と言った。犯人捜しをしてイライラした様子で立っていた図書委員の男子が「チッ、あっちも本が二冊落ちてるじゃねーか。一体誰の仕業だ!?」と言った。
中津は「シッ。静かに」と言って人差し指を立てて鼻の前に当て、そのままその方向を見るように促すと、全員が静かに見つめた。そして数秒後、その本棚の本一冊がゆっくりと動き出して床に落ちた。その光景を見た全員が驚いた。「なんだ、今のは!?」「今、本が勝手に動かなかったか!?」「どういうこと?」と驚きを隠せない様子だった。
次の瞬間、その本棚に並んでいた本すべてが一斉にカタカタカタカタと揺れ始めた。決して地震ではなく、本が勝手に動いていた。そして一気に本が本棚から飛び出した。ある本はそのまま床に落ちて、ある本はパタパタと鳥のように浮いて飛び回っていた。
全員がその光景に驚いていると、いつの間にか図書館にあった本すべてが同じ現象になっていた。今や図書館の中は飛び交う本でいっぱいになっていて、ぶつかったりしたら大怪我する状態だったので、全員その場に伏せて身を護った。
そのままの状態で何もできずにしていると、どこからか「ルールルルールー……」という歌声が聴こえ、それと同時に眠気が襲ってきた。中津は必死に眠気を堪えながら周りを見ると、すでに周りの図書委員は全員眠ってしまっていた。そして上を見ると、魔法使いのような格好をした人が杖に乗って飛んでいる姿が見えた。その人は本が飛び交う中、何かを追っている様子だった。中津はもう少しよく見ようとして態勢を立てたとき、本が思いっきり顔にぶつかってきて気絶した。
目を覚まして顔を上げると、中津は本を読んでいた場所に座っていた。どうやら、本を読みながらいつの間にか寝てしまっていたらしいが、頬には痛みがあった。中津は起き上がって、不思議な夢を見たと思った。
夢では本が勝手に動いて飛び回っていたが、現実ではそんなことなく、綺麗に本棚に収納されていた。しかし、中津はなんとなくただの夢ではないような気がした。もしかして、本たちが雑に扱われていたために反逆、もしくは謀反を起こしたのではないか、と思った。そして一通り暴れてから鬱憤を発散し終えて元に戻ったのではないだろうか。どうしてもさっきの出来事が夢だと判断するには早計な気がした。そう思った一番の理由は頬が痛かったからである。普段部屋では、読み終えた本をすぐに棚に戻さずに机の上や床にそのまま置いて何冊も重ねることがあるので、それがいけなかったのかもしれない。中津は今まで以上に本を大事に扱うことを誓った。
そして読書を再開しようとしたとき、館内放送が流れて時間の経過に気づいたのだった。中津が目覚めたのは、午後七時で図書館の閉館時間だった。せっかくのGW初日に読書三昧する計画は、ほとんどの時間寝ていたことで終わってしまった。外に出るとすっかり雨雲はなくなっていた。
中津は少し落ち込んだが、帰り着いてから気持ちを切り替えた。まだGWは始まったばかりである。明日から読書三昧すればいい、と前向きに考えた。ちなみに、日中数時間寝たにもかかわらず、中津は夜もぐっすり眠れたのだった。
翌日の天気は快晴だった。中津は寮を出て太陽の光を浴び、スッキリした気分で図書館に行った。しかし、いざ到着すると、一瞬で気分が落ち込んだのである。開館時間ちょうどに着いたのだが、まさかの臨時休業だった。なんでも図書委員たちが急遽、蔵書の点検をしたくなったらしい。本が傷んでいないか、汚れていないか、破れたページはないか、など本が大切に扱われているのか、GWを使って確認するということだった。どうして急にそんなことをするのか理由を尋ねると、ただなんとなくしなければならない、と図書委員全員が思ったらしい。もしかして、自分と同じ夢を見たのかもしれない、と思った中津は、昨日見たことを話すと笑われた。「なにそれ。楽しそうな夢だね」「俺もそんな夢見てみたいな」などと言われたので、どうやら図書委員は夢を見ていないようだった。
中津は図書館の常連で図書委員と顔なじみなので、自分も手伝おうと申し出たのだが、あっさり断られた。図書委員の女子から「せっかくのGWなんだから、こんなことするより、どこかへ出掛けた方がいいよ。これは図書委員の仕事だから任せて!」と気遣いの言葉を掛けられた。自分にとっては図書館で過ごす方が好きと言っても笑いながらあしらわれた。
ということで、中津が図書館前で途方に暮れていると、後ろから「あれ? 先輩…?」と声を掛けられた。振り向くと宇佐がいた。
「宇佐ちゃん! おはよう」
「おはようございます。先輩、図書館に入らないんですか?」
「あー、そのつもりで来たんだけど、臨時休業みたいで」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん。宇佐ちゃんも図書館に来たんですか?」
「あっ、はい。ちょっと様子を見に…」
「様子? 図書館のですか?」
「あ、いえ。違いました。本を読みに来たんでした。アハハハハ」
「そっか」
「でも、休業なら仕方ないですね。アハハハハ」
「そうですね。GW中は休業らしいです。昨日あんなことがあったからかな…?」
「えっ!? き、昨日…図書館で…なっ、何かあったんですか!?」
「あ、いえ。何かあったわけではないんですけど、ちょっと不思議な夢を見たなと思って」
「不思議な夢…ですか?」
「はい」
「どんな夢なんですか?」
宇佐が興味を抱いているようだったので、中津は昨日図書館で見た夢の話をした。図書委員たちみたいに笑われるかもしれないと思っていたが、宇佐は驚いた表情をして「先輩……どうして覚えているんですか?」と言った。
中津は「ん? 覚えているってどういう…」と尋ねたが、宇佐は一人で考え込んで聴こえていない様子だった。
「ハッ! まさか!?」と宇佐は何か閃いた顔をした。「先輩…このあと予定空いていますか?」
「えっ、うん。特に予定はないけど…」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれませんか? 聞きたいことがあるので」
「聞きたいこと?」
「はい。ここで立ち話も何ですので、ドリームバックスに行きませんか?」
「あ、はい。いいですよ」
ということで、中津と宇佐はドリームバックスに向かった。
このとき、中津は夢人の正体を暴いている最中であることを思い出した。中津は宇佐のことをほとんど知らないので、いい機会だと思った。宇佐は夢人候補の一人なので、話を聞いて情報収集すると、また一歩夢人の正体に近づけるだろうと考えた。
現段階では、宇佐は夢人ではないだろうと考えている。不思議な子であることは間違いないのだが、夢人とは違う何かのような気がするのである。中津の直観がそう告げているのだが、それが何かはわからない。
ドリームバックスに入ると、速見が二人を出迎えた。
「いらっしゃいませーって、中津くんだ! おはよー」
「おはようございます。速見さん。今日も朝からバイトなんですね」
「うん! GW中は稼ぎ時だから頑張らないと!」
「そうですか。仕事熱心なんですね」
「そうだよ! 私、この仕事好きだから!」
「見ていたら伝わってきます」
「そうでしょ!」と速見は笑顔で言った。「ところで、中津くん。そちらの方は…?」
「ん? ああ、この人は一年生の宇佐まりんさん。偶然一緒になったから、ちょっとお茶でもってことになって、ここに来たんです」
「へぇー、そうなんだぁ。……あっ、じゃあ席に案内するね」
速見の案内で中津と宇佐は二人掛けテーブルに座った。速見は案内しているときや、お冷とおしぼりを持って来たときに宇佐の方をチラチラと見て気にしていた。その視線に気づいた宇佐が「あの、あたしに何か?」と言うと、速見は「い、いえ。では、ご注文がお決まりになりましたら、ベルでお呼びください」と言って去っていった。
中津はメニュー表を見ていつものブレンドコーヒーに即決し、宇佐はしばらくメニュー表を眺めてから抹茶ラテを選んだ。数分後、二人の注文したコーヒーとラテを速見が運んできた。このときの去り際も速見は宇佐を気にしている様子だった。
中津は左手でマグカップの取っ手を持ち、まずは香り、次に一口飲んでじっくり味わった。宇佐は両手でマグカップを持ち一口飲もうとしたが「あちっ!」と言って口を離し「ふぅー、ふぅー」と息を吹きかけ少し冷ましてから一口飲んだ。そして二人は同時にカップを置いた。
「それで、あたしが聞きたいことなんですけど……。先輩の身長、体重、血液型って何ですか? あ、あと誕生日も」
「えっ、それが聞きたいこと?」
「はい!」
宇佐は真っ直ぐな目で中津を見た。
「一七五センチ、五八キロ、AB型、誕生日は八月三〇日」
「ふむふむ、そうですか、そうですか。結構普通の人と同じなんですね。じゃあ、先輩の趣味って何ですか?」
「えっ、趣味ですか? 読書とか、映画鑑賞とか…」
「へぇー、そうなんですね」と言って宇佐はもう一度マグカップを手に取り抹茶ラテを一口飲んだ。「休日は何して過ごしてるんですか?」
「えーっと、本読んだり散歩したり、ですね」
「へぇー、ふむふむ、そうですか。じゃあ、ボランティアは好きですか?」
「ボランティアですか? まあ嫌いじゃないですけど…」
「そうですか。ボランティアは嫌いじゃない…ですか。まあ、そうですよね」
「え?」
「あっ、いえ、こっちの話です」
宇佐ちゃんの聞きたいことって俺のプライベートなことなのか? そんなこと知ってどうするんだろ?
中津は宇佐の目的がわからなかったが、真面目に答えた。そして自分も情報を得るために質問することにした。
「宇佐ちゃんは、休日何して過ごしているんですか?」
「あたしですか? あたしは友達とご飯に行ったり、買い物に行ったり、遊んだりしてます」
「そうですか。友達って別府とかですか?」
「いえ。剣くんは友達というより幼馴染って感じなんで、遊びで出掛けるよりいろいろ手伝ってもらっていることの方が多いです」
「あっ、そうなんですね。そういえば、この前の迷路でも言ってましたね」
中津が何気なくそう言ったとき、宇佐の視線が急にキリっとして、少し空気が重くなった感じがした。
「……やっぱり、迷路のことも覚えているんですね」
「ん? どういう意味ですか?」
宇佐は両手でマグカップを持ち、残っていた抹茶ラテを全部飲み干してからテーブルに置いた。そして真っ直ぐな目で中津を見た。
「先輩……はっきり言ってもいいですか?」
中津はちょうどマグカップを持ってコーヒーを飲もうとしていたが、口につける前に「ん? 何ですか?」と言った。
「先輩って…………『夢人』……ですよね?」
「えっ……!?」
中津は宇佐の言ったことがすぐに理解できず思考と身体が固まってしまった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
感想、お待ちしております。