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夢人  作者: たか
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夢人からのメッセージ④

 夢人からのメールはこんな内容だった。

「おめでとう! ついに鍵を開けたようだね! キミと会える日が近そうだ。楽しみにしているよ。 夢人」

 中津はさらに戸惑った。

 鍵を開けた!? 何のことだ? 家の鍵なら毎日開け閉めしてるけど……そのことじゃないよな。じゃあ何の鍵だ!?

 しばらく考えたが思い当たるものがなかったので、正直に聞いてみることにした。中津は「あなたが言っている鍵とは、何の鍵ですか?」と返信をしてからベッドに横になった。今までの経験上、すぐに返信は来ないだろうと思い、頭を切り替えることにした。

 中津はベッドの上で一日を振り返っていた。

 今日一日いろんなことがあったな。そういえば、午前中は映画を観たな。結構面白かったけど、迷路が衝撃的過ぎて忘れかけていた。迷路の中でいろんな人に会ったな。姫島さんと津久見さん…叶愛さんと国東さんと別府……あと宇佐ちゃんにも会った……な……。

 中津は昨日ほとんど寝ておらず、日中も常に気が抜けない状態だったので、今になって眠気が襲って来ていた。そしてゆっくりと目を閉じて眠った。

 中津は気がつくと、暖色系の電気が微かに灯っている薄暗い場所に立っていた。「ん? どこだ? ここは?」と言って周りを見渡したが、暗くてよく見えなかった。しばらくその場所に留まり続けていると少しずつ目が慣れてきて、周りがうっすらと見えるようになった。

中津が立っている両サイドには、中津の身長の何倍にもなる巨大な本棚がズラーっと先まで並んでいた。その本棚にはハードカバーの本がびっしりと詰まっており、パッと見ただけでも数万冊以上の本があることがわかった。どうやらこの場所は図書館のようである。この場所は前に見たことがあったはずだが、いつ、どこで見たのか、思い出せなかった。ただ見たことあるという記憶だけ残っていた。

 中津は、両サイドを巨大な本棚に挟まれた先の見えない通路を見渡しながら歩いた。どこまで行けば本棚が終わるのかわからないが、心配よりも好奇心の方で心がいっぱいだった。こんな大きな図書館があることを知らなかったので、知ることができて嬉しかった。たくさんの本に囲まれて視覚的に幸せなのはもちろんだが、本の独特の匂いや自分が歩く足音が響く音、木で作られた本棚の感触など、五感で感じるのも心地良かった。そして、こんな大きくて素晴らしい図書館なのに、どうして誰もいないのだろう? と不思議に思っていた。

しばらく歩いていたが一向に景色が変わらないので、途中で立ち止まり、本を一冊読むことにした。しかし、本棚から本を一冊取り出そうとしたが、本はビクともせず、取り出せなかった。他の本も取り出そうとしたが、すべてダメだった。まるですべての本を強力な接着剤で本棚とくっついている感じでガッシリしていた。中津は本を取り出すのを諦めて、再び前に進み始めた。

それから数分歩いていると、右側の本棚のちょうど目線の高さにある一冊の本が光っているのに気づいた。中津はその本の前で立ち止まり、そっと手を伸ばした。さっきは全然取り出せなかったが、その本は取り出すことができた。そしてその本を開いて中を読もうとしたとき、中津は目を覚ました。


 パッと目を開けると目の前は見慣れた天井だった。中津は上体を起こし右手で頭に触れた。「俺、寝てたのか。てことは、今見てたのは『夢』。じゃあ、あの大図書館も俺の想像かぁ」と中津はガッカリした。

 時計に目をやると午後九時を過ぎていたので、起き上がって風呂の準備を始めた。今日は疲れたので、湯に浸かりたい気分だった。湯が溜まるまでの間、本を読んで過ごそうと思い、本棚から本を選んでいると、スマホの通知音が鳴った。中身を見ると、夢人からの返信メールだった。

「キミは『ビブリオテーカ』の鍵を開けた。そこは選ばれたものしか入ることができない場所です。キミは選ばれたのです」

 中津はその文章を読んで、さっき見ていた夢が想像なのか、現実なのかわからなくなった。『ビブリオテーカ』とは、図書館という意味の言葉である。つまり、夢人のこのメールを信じるなら、さっき中津が夢で見ていた図書館のことを言っている可能性が高い。夢とは通常見ている人の想像の世界だが、中津は自分が見ていた夢を想像とは思えなかった。あの図書館にいたときに味わった匂いや肌触りは、想像ではなく現実みたいだったからだ。

 中津は少し興奮した様子で返信した。

「ビブリオテーカとは、大きな本棚が並んでいる図書館のことですか? 選ばれたものしか入れないとはどういう意味ですか? 俺はどうして選ばれたのですか?」

 そのメールを送ってから数分スマホを見つめながら待っていたが返信は来なかった。その間に風呂が沸いたので、一旦興奮を落ち着かせるために風呂に入った。ゆっくりと湯に浸かり、しっかりと癒されたあと、体を拭き、パンイチの状態でリビングに移動し、真っ先にスマホを手に取った。まるでスマホ中毒のように中津はスマホを気にしていた。夢人からメールが届いていないか確認したが、来ていなかった。それで少し落ち着きを取り戻すことができた。今までの経験上、踏み込んだ質問をすると返信が来ないことはわかっているので、このメールに対する返事はないだろうと判断して、スマホを机に置いて眠ることにした。

 明日からまた学校だ。夢人にかまけすぎて勉学が疎かになったら元も子もない。しっかり休んで明日に備えないと。

 そんな風に思いながらベッドに横になったとき、スマホの通知音が鳴った。中津はパッと起き上がり机に置いていたスマホを手に取った。相手はまさかの夢人だった。夢人からの返信はこんな内容だった。

「会うことができたら、すべて教えてあげる。 夢人」

 そのメールを見た瞬間、中津はさっきまで考えていたことがどこか遠くへ吹っ飛んでいき、何が何でも夢人を探してやるという気持ちになってしまった。わからないことを知りたいと思うことが人一倍強かった中津だが、ここまで燃えたのは今回が初めてだった。

 明日から本気で調査を始めるため、今日はしっかり寝ることにした。


 翌日の月曜日、中津がいつも通り登校していると、校門前で安心院と出会った。

「おはよう。中津くん!」

「おはようございます。生徒会長。体調は良くなったのですか?」

「ええ。お陰様でね」

「そうですか。良かったです」

「昨日はごめんね。たくさん迷惑かけちゃって」

「迷惑だなんて思っていません。とても楽しかったですよ。映画も迷路も」

「そ、そう。なら良かったわ」と安心院はホッとしているようだった。「夢乃森さんに聞いたのだけれど、気を失った私を中津くんが助けてくれたのよね?」

「えっ、まあ、助けたって程でもないですけど」

「ありがとう。また助けてくれて」

「どういたしまして。また何か困ったら、いつでも協力します!」

「フフフ、そのときはお願いね」

「はい!」

「……それと…一つお願いしてもいいかしら?」

「お願い? なんですか?」

「私のことは、前みたいに名前で呼んでくれないかしら?」

「あっ、はい。わかりました。安心院さん」

「あっ……そっちなんだ……」

「ん? どうしました?」

「い、いえ。なんでもないわ。じゃあ、またね。中津くん」

「はい!」

 それから安心院は生徒会長室に戻って行き、中津は一時間目の講義が行われる教室に向かった。中津は朝から気分が良かった。安心院の体調が良くなっていたからだ。昨日寝る前に安心院の容体を叶愛に確認したところ、熱は下がって落ち着いたということだったので、ホッとしていたが、本人の元気な姿を見るまでは少し不安が残っていた。そして朝一番に安心院の元気そうな姿を見ることができたので、中津も心配事がなくなったのだった。これで心置きなく夢人に集中できることになった。

 

放課後、中津は『夢人見つけ隊』の部室を訪れた。天瀬に聞きたいことがあったからだ。部室には天瀬が独り、真ん中の机でパソコンをタイピングしていた。中津が訪れたとき、天瀬が集中してタイピングしていたので、それが終わるまで向かいの椅子に座ってしばらく待った。

数分後、タイピングを終えた天瀬が「ふぅー、終わった」と言って一息ついた。何を書いていたのか尋ねると、宇宙についてだった。てっきり夢人関連の記事を書いているのかと思ったが、ただのレポート作成だった。

「お待たせ、中津くん。今日は何の用事できたの?」

「ちょっと天瀬さんに聞きたいことがあって来ました」

「私に聞きたいこと? なに?」

「単刀直入に聞きます。天瀬さんって……『夢人』…ですよね?」

「え……!?」

 中津の発言を聞いた天瀬は驚いた顔のまま固まり、部室の空気は一瞬で緊張感が高まった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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