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夢人  作者: たか
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夢乃森学園

 中津は講義に少し遅れてしまったので、教室のドアをそっと開け、入り口から一番近い、空いている席に座った。この学校は、講義に遅れたからといって特にお咎めはない。

夢乃森学園は通常の高校と違い、カリキュラムは生徒自身が決めることになっている。様々な学部・学科があり、生徒は自分が興味のある分野の勉強をすることができる。なので、早くから学びたい分野が決まっていて、それに集中したい人にとってはまるで天国のような場所である。また、勉強が嫌いでサボりたい人にとっても心地良い場所のようになっている。だが、サボりすぎて単位を落としてしまえばもちろん留年、もしくは退学になるので注意が必要だ。

 夢乃森学園では、勉強にしろ、その他のことにしろ、すべて自己責任である。決まったクラスはないが、ゼミはあるので、同じ専攻の人とは顔なじみになることができる。講義はいろんな学年の生徒が受講しているので、先輩、後輩と仲良くなることもできるだろう。また、講義はすべてオンラインで配信しているので、教室に来なくても受けることができる。そのため、学園に一度も来ないですべての講義を受講し、そのまま卒業するという生徒もいるようだ。しかし、ほとんどの生徒は教室に来て講義を受けている。これはおそらく、人間が社会的な生き物なので、人との繋がりを作りたいという本能があるからだろう。

 このような自由な校風が人気を博し、今では全校生徒三万人以上いるマンモス校になっている。生徒の中には勉強、スポーツ、芸術などそれぞれの分野に秀でた人がおり、将来活躍する金の卵がここから巣立っていくのである。この学園の教員は選りすぐりの専門家を集めておりレベルが高いため、そのような向上心の強い生徒が集まるらしい。さらに、この学園には運動会や修学旅行といった定番の学校行事がない。やりたい人が募集をして人数が集まれば、してもよいことになっている。自分たちで企画したり、計画を練ったりすることも勉強になっているのである。文化祭は一応あるが、参加は自由である。

 学園の敷地はとても広く、端から端まで歩いて行くと数十分かかるくらいだ。当然学費は高く、親のいない中津が払える額ではないのだが、あることがきっかけで入学することができたのである。


中津が中学三年生のとき、川で溺れていた女の子を助けたことがあった。助ける直前に、突然頭の中にイメージが浮かんだから助けることができたのだった。そしてその女の子が偶然、夢乃森学園の理事長の孫だったのである。中津はそんなこと知らずに彼女を助け、そのあとに知ったのだった。

夢乃森学園理事長の名前は、夢乃森雲海ゆめのもりうんかい。シルバーヘアでガタイがよく屈強な見た目で強面だが、とてもやさしいおじいさんだ。雲海は中津に感謝し、ぜひとも夢乃森学園に入学して欲しいと提案してきた。中津はお金がないという理由で丁重に断ったのだが、雲海がすべて肩代わりしてくれるという話になり、悩んだ末に入学を決意したのである。中津は夢乃森学園に憧れを抱いており、こんな学校に通ってみたいと夢を見ていた。そして、まさかこんなチャンスに巡り合えるとは思ってもみなかったので、このチャンスは決して逃したくないと思ったのだった。しかし、さすがにすべて肩代わりしてもらうわけにはいかないので、中津は代替案で承諾することにしたのだった。

成績が優秀な生徒には授業料が免除されるということだったので、中津はそれを狙うことにした。それなら雲海に世話になっているという感覚が薄れ、自分の力で勝ち取ったと思えるからだ。雲海もそれで合意した。

それから中津の勉強三昧の日々が始まった。中津がそう決意したのは、中学三年生になったばかりの頃だった。残り一年しかなかったが、元々中津には友達が一人もいなかったので勉強する時間はたっぷりあり、中学の成績もトップだった。しかし、それでも夢乃森学園で成績トップを目指すのはすごく難しいことだった。なんといっても全国トップレベルの秀才が集まる場所なのだから、そう簡単に行くはずがなかった。それでも中津は懸命に勉強に励んだ。その結果、入試では一万人以上いる生徒の中、見事一位を取ることができ、なんとか学費免除で入学することができたのだった。

 中津は当然喜んだが、なぜか雲海の方が中津以上に感動しており、入学祝として制服一式から、一人暮らしをするために必要な冷蔵庫や洗濯機などの家電製品、夢乃森傘下のお店で使えるクーポンなどをもらったのだった。中津はすべてもらうのは申し訳ないと断ったが、雲海が「もう買ってしまったから、返されても困る」ということで強引に渡してきて、さらに「いらないのなら処分する」とまで言われたので、さすがに断るわけにもいかず、中津は感謝してすべてもらったのだった。

さらに、寮費やその他もろもろの生活費も払うと言い出したので、さすがにそれは約束と違うということで丁重に断った。自分の生活費くらい自分で稼がなければ、将来困るという説明をすると、雲海も渋々納得してくれた。というより、より感動して顔に似合わず涙を大量に流していた。どうやら雲海は子どもにとてもやさしく、かつ、とても甘いようである。子どもたちのためなら惜しみなくお金を使うような人だった。このとき、雲海が夢乃森学園の理事長である理由がわかったのだった。

 中津は人の心理に興味があったので、一年のときは心理学を中心に学んだ。そして周りにも同じ分野に興味を持っている人が集まるので、中津にも初めての友達ができたのだった。

中津は夢乃森学園をとても気に入っている。中学までは学校に決められた時代遅れのカリキュラムやルールの中で過ごすのは結構苦痛だったが、この学校は自分で自由に決められるので、とても居心地が良かったのである。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想もお待ちしております。

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