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夢人  作者: たか
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叶愛と時音の日曜日

 火曜日の放課後、叶愛は『ドリームバックス』に向かっていた。時音に報告することがあったからだ。朝、夢翔が名前で呼んでくれたことと、少し強引に誘ったせいで嫌がられたのではないか、ということの相談に乗ってもらおうと考えていた。

 しかし、叶愛がドリームバックスに着いたとき、時音の姿はなく、別の店員が出てきたのだった。今日はシフトが入っていると聞いていたので、どこか奥の方にいるだろうと思い、その店員に尋ねると、時音は火傷をしたので保健室に行っているということだった。叶愛は驚いて、スマホを取り出し電話を掛けた。時音はすぐに応答し、声を聴いた感じでは大きな怪我ではなさそうだったので、少しホッとした。

それでも心配だったので、どういう状況なのかを詳しく知るため、時音が戻って来るまで待つことにした。保健室に向かおうとも思ったが、すれ違う可能性もあったし、時音の荷物がドリームバックスに置きっぱなしだったので、ここで待っていた方が確実に会えるだろうと判断した。

五分程ドリームバックスの出入り口前で待っていると、右手にガーゼを巻いた時音がその手を振りながら戻ってきた。想像していたよりも右手をガーゼでグルグル巻きにしていたので、やっぱり酷い火傷なんだ、と叶愛は思った。

「時音! そんなに酷い火傷をしてしまったのですか!?」

「えっ、ううん。全然」

「でも、その右手…」

「これは先生が大袈裟に巻いただけだよ! 火傷したところをなるべく使わないようにするためだって」

「そ、そうですか」

「ごめんね。心配かけちゃって」

「大事な友達なので、心配するのは当たり前です」

「…ありがとう。叶愛」

「時音。このあとはどうするのですか? マスターからしばらくバイトは休ませると聞きましたが」

「あっ、うん。このまま帰るよ」

「そうですか。では一緒に帰りましょう」

「ほんと!? わかった。すぐに荷物取ってくるね!」

 時音は嬉しそうな様子で店内のスタッフルームに入って行った。

叶愛はその場で一分程待っていると、「カラン、カラン」というドアベルの音がして、時音が「お待たせ! 叶愛」と言って、左肩に鞄と手提げ袋を掛けて店内から出てきた。そして叶愛の隣に並び「じゃ、帰ろ!」と言った。

「時音。荷物を貸してください」

「えっ、どうして?」

「その手ですべて持つのは大変でしょう。私が持ちます」

「えっ、い、いいよ。たいしたことないから」

「いいえ。よくありません」

 それから荷物を持つ、持たないという攻防が数回続いた。こうなったときの叶愛は結構頑固である。結局、時音が諦めて叶愛が時音の鞄を持つことになった。帰りの途中、叶愛は、時音の手が治るまで、夢乃森家のメイドが送り迎えをしようと提案したのだが、さすがに断られたのだった。

 この日から叶愛は朝と夕方、時音と一緒に通学を始めた。時音の手が心配だというのが本心だが、久しぶりに一緒に登下校できることも嬉しかったのである。中学時代はよく一緒に通学していたのだが、高校に進学してからは、専攻課程の違いにより始業終業時間が異なったり、時音がバイトを始めたりしていたので、一緒になる機会は減っていた。なので、お互い募る話があり、たくさん会話をして楽しい時間を過ごすことができていた。叶愛が夢翔のことを話すと、時音は軽く微笑んだ様子で話を聴いていた。時音は、バイトをしているときに出くわす変な人たちの話をした。時音曰く「この学園にはいろんな人がいる」ということだった。体長が二メートルを超えるゴリラみたいな学生やミニスカートの可愛い巫女服を着た学生、ぶかぶかの制服を着た小学生など多様過ぎる学生がいるらしい。時音は本当だと言っていたが、叶愛は半信半疑で話を聴いていた。


 木曜日の放課後、この日も叶愛と時音は一緒に帰っていた。

「ねぇ、叶愛。日曜日、予定空いてる?」

「日曜日ですか。はい。空いてますよ」

「じゃあ、夢プラザに遊びに行かない?」

「夢プラザ…」

「久しぶりに叶愛と一緒に行きたいなぁって思ったんだけど…ダメかな?」

「……いいですね。行きましょう」

「本当!? やったー!」

 叶愛は先日の件があったので、雲海が許してくれるのか気になったが、そこは説得を試みようと思った。時音がバイトを再開すると、一緒に遊ぶ機会は少なくなる。お互いそれなりに忙しいので、休みが重なるのは稀だった。今回を逃すと、次がいつになるかわからない。だから、叶愛は承諾したのだった。それに、そのとき自分でもよくわからない気配を時音から感じたのだった。そう感じながらも、時音が笑顔で喜んでいる姿を見て、叶愛も嬉しくなった。

 別れる際、叶愛は日曜日の件はまだ確定でないということ、雲海に相談してからまた連絡することを伝えた。そう伝えたのだが、時音はすでに確定しているような様子で嬉しそうだった。

 家に帰り着いたあと、早速雲海に日曜日の件を相談した。すると、SPを護衛に連れて行けば問題ないということで、意外とあっさり許してくれたのである。雲海は心配しているだろうが、束縛をしたくないという気持ちもあるのだろう。叶愛は雲海に感謝してから、時音にメッセージを送った。すると、時音からすぐに歓喜の祝福をしているブバルディアのスタンプが送られてきた。


 日曜日の午前一〇時、叶愛はリムジンで時音の寮の前まで迎えに行き、そこから一緒に夢プラザまで向かった。この日、時音の火傷はほとんど治っており、右手もある程度まで使えるようになっていた。

夢プラザに到着してからは、時音のテンションがより一層高くなり、いろんな店を一緒に見て回った。叶愛の警護にためにSPが見守ってくれているはずだが、叶愛たちに気を遣った様子で気づかれないように変装して見守ってくれているようだった。なので、叶愛も気にならずに買い物を楽しむことができていた。

そんな中、いろんな商品を売っている雑貨店で、時音はパワーストーンが並んでいる商品棚を見つめていた。その中にあったクリスタルの綺麗な丸い石を手に取り、見惚れていた。時音は「ねぇ、叶愛! これ綺麗だよ!」と言って、叶愛に見せてきた。

クリスタルのパワーストーンは、まるでダイヤモンドのように透き通っており、店内の照明に当てると輝いていた。石の中をよく見ると、時計の模様が彫ってあった。その石を見た叶愛は、何か不思議な力を感じたが、それが何かよくわからなかった。パワーストーンのパワーを感じたのかもしれない。

時音はそのパワーストーンを気に入った様子だったが、値段が五千円ということで諦めようとしていた。なので、叶愛が買ってプレゼントすることにした。叶愛はなぜか、時音にこの石を持っていて欲しいと直感で思ったのだった。時音は遠慮していたが、そんなこと気にせず買ってから渡すと、受け取ってくれた。御守りとして肌身離さず持ち歩くらしい。

 その後、レストランで昼食をとってゆっくり過ごしたあと、買い物を再開した。

八階フロアを見て回っていたとき、期間限定で迷路を体験できる場所があった。時音が「やってみようよ!」とウキウキした様子で言ったので、二人は迷路に挑戦することになった。受付係の説明では、最新の技術を使った迷路という話だったが、中に入ってみると、壁は木で作られており、いくつか別れ道があるシンプルな迷路だった。ゴールが外にあったので左手法が使えるが、それを使うとつまらないということで、直観で進むことになった。

叶愛と時音が迷路に入ったのが、午後二時五分だった。

それからしばらく時音の直観を頼って進んでいると、突然壁や床が動き出した。これが最新技術かと一瞬思った叶愛だったが、木の壁がぐにゃぐにゃになって形を変えたり、床がデコボコ動いたり、突然階段が現れたりなど、まるで空間が捻じれているような、異次元な動きをしていたので、とても信じられなかった。時音は興奮した様子で迷路が変形するのを眺めていた。きっと、最新技術スゴイ! と思っているに違いない表情をしていた。

迷路が変形を始めて一分程でようやく落ち着いた。さっきまでのシンプルな迷路とまったく違う形態になったようなので、また振り出しから始めなければならなくなってしまった。最初は平面に壁があるだけの迷路だったが、階段で上ったり下りたりする立体的な迷路になっていた。明らかに難易度が上がっていた。

そんな状況にも関わらず、時音はまったく気にしていないワクワクした様子で再び進み出したので、叶愛も後をついて行った。途中、縄が張り巡らされて通りにくくなっている通路や行き止まりかと思ったら横の壁が隠し扉になっている仕掛けなどがあったが、時音の直観により、すべてクリアすることができていた。

そのまま順調に進んでいるように思われたが、目の前に頑丈そうな橋が現れたことにより、二人は立ち止まった。橋の前には木の看板が立っており「このはしわたるべからず」と書かれていた。

「あっ、これ聞いたことある! たしか…お坊さんの…」と時音が言った。

「一休さんの頓智話ですね」

「そうそう! 一休さん、一休さん。これって『橋』じゃなくて『端』なんだよね!」

「有名な話しではそうです。でも、何か引っかかります。罠のような、何かが…」

「てことは、真ん中を渡ればいいんだ!」

「あっ、時音! ちょっと待っ」

 叶愛が考えている間に時音は橋の真ん中を渡り始めたので、止める暇がなかった。そして時音が橋の上を三歩進んだとき、突然橋が崩れ始めたのだった。時音は反応が遅れていたので、叶愛が必死に手を伸ばして時音の左肩を掴み、後ろに引いた。その力で時音は橋の前に尻をついて助かったが、入れ替わるように叶愛が橋と一緒に落ちてしまった。落ちた先は深さがわからない程暗くて見えなかった。時音は下を覗いて「かのーん!」と叫んでいたが、叶愛がある程度落ちるとその声も聴こえなくなった。叶愛はそのまま落ちながら気を失った。





読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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