予知夢
このままじゃまずい!
そう思った中津は、急いで正門まで戻り始めた。中津には昔からこの能力があった。予知夢と言うほどでもないが、頭の中にイメージが浮かんだときは大抵その通りの事が起こっているのである。しかも、なぜかほとんどが事故に関するものばかりだ。中津はどちらかというとこのような超能力といった類のものは信じない方だが、自分の能力については今のところ百発百中なので、信じないわけにはいかなかった。
「夢翔くん、急にどうしたの? 心拍数が急上昇しているよ!」とイヴの声がイヤホンからした。中津の体の変化をいち早く察知して心配してくれたのである。
「イヴ、至急調べてもらいたいことがある」
「なに?」
「今正門に向かって来ている車ってあるか?」
「うん。スカイ(空飛ぶ車の車名)が一台近づいて来ているよ」
「その車、どこか異常がないか?」
「少し様子がおかしい。暴走しているみたい。このままだと、人にぶつかる!」
「制御できるか?」
「間に合わない」
「そうか」
中津はイヴの答えを聞いて予知夢で見たことが起こる可能性が高いと判断した。
中津が正門近くまで戻ると姫島は正門の前で少し俯いて立っていた。どうやらギリギリ間に合ったようだったが、少し離れた空の向こうから事故を起こす車が迫っているのが見えた。時間がないので、中津は姫島に声を掛けようとした。すると、突然どこからか「キュイン、キュイン、キュイン、キュイン……」という防犯ブザーのような音が鳴り始めた。その音に気を取られた中津は立ち止まり、どこから音がしているのか周りを見渡したが、わからなかった。姫島も周りをキョロキョロと見ながら探していたが、音が鳴り止むと立ち止まり、その場で立ち尽くしていた。
一体何だったんだ?
中津はそう思いながら、突然変な音が鳴りだしたことに少し戸惑っていると、頭がズキンとしてまたイメージが見えたのだった。そのイメージは、姫島が空飛ぶ車を避けきれずに正面からぶつかる場面だった。姫島は頭から血を流して倒れ、まったく動いていなかった。
さっき見たイメージよりも明らかに被害が拡大していたので、中津は急いで姫島の元へ駆け寄り、声を掛けた。
「あの、すみません。ちょっと一緒に来てもらえますか?」
「えっ、な、なんですか、急に…」
「いいから、ついて来てください!」
「えっ、ちょっと…」
中津はすぐにでもそこから移動しようとしたが、姫島はいきなり声を掛けられて戸惑っているようだった。それも当然の反応である。いきなり知らない人に「ついて来て」と言われてついて行くのは危険である。しかし、中津に考える時間はなかった。事故を起こす空飛ぶ車はもうすぐそこまで迫っている。なので、少し強引な作戦に出た。
中津は姫島の腕を掴み、強引に引っ張って行った。中津が勢いよく姫島を引っ張ったので、姫島は持っていたチラシをばら撒いてしまった。中津はそれでも構わずに引っ張っていると、姫島が抵抗するかのように「えっ、ちょっと、いきなり何するんですか!?」と言い、立ち止まろうとした。そんな姫島に対して中津は「今は黙ってついて来て。キミは俺が必ず守るから!」と言うと、姫島の力が少し弱まった。二人はそのまま走ってその場から離れた。
そして一〇メートルほど離れたとき、後ろから「ドカン! ガシャン!」という大きな音がした。部品が飛んでくると姫島が怪我をしてしまうかもしれないので、中津は咄嗟に自分が盾になるようにしゃがんでから姫島を抱き寄せた。
中津は音が止んだのを確認してから抱き寄せていた力を緩めた。振り返ると、先程二人が立っていた場所に空飛ぶ車が墜落事故を起こしていた。空飛ぶ車は大破しており、もし巻き込まれていたら大事故になっていた。
とりあえず姫島を事故から守ることができたので、中津はホッと胸をなでおろした。姫島は事故現場を見て立ち尽くしていた。おそらく、数十秒前まで自分が立っていた場所で事故が起こったので、驚きを隠せないのだろう。
これでもう安心だ。
中津は、イヴに警察を呼んでもらってから講義に向かった。事故について気になることはあったが、あとは警察が処理してくれるはずなので、任せることにしたのだった。
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次回もお楽しみに。