夢人からのメッセージ③
夢人から送られて来たメールを開くと、こんな内容だった。
「今日はお疲れさまです。キミのおかげでたくさんの人が救われました。夢人」
中津は素直にその言葉を受け取り、嬉しくなったので、こんな返事をした。
「あなたが手伝ってくれたので、とても助かりました。ありがとうございました」
まるで夢人とメル友のような感じになったが、姫島の歌を聴いて幸せな気分になっていた中津はそんなこと気にならなかった。すると、五分後に返信が来た。
「今日は特別な日です。なので、頑張ったキミの質問に一つだけ答えてあげます。夢人」
中津は予想外の内容に驚いた。
夢人に何か良いことがあったのだろうか。
そう思うと、夢人が少し人間っぽく感じて親近感が湧いた。そして中津はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。前にも聞いて無視された内容である。夢人が答えてくれる可能性は限りなく低いが、せっかくなので試してみることにした。
「あなたは一体何者なんですか?」
中津はそうメッセージを打って返信した。
その後、三〇分待ったが夢人からの返信は来なかった。最初から返信は来ないだろうと予想していたので、あまりショックではなかった。中津はスマホを机に置いて風呂に入ることにした。今日は一日大変だったので、浴槽に湯を溜めてから入ることにした。普段はシャワーだけで簡単に済ませるが、疲れたときは湯を溜めて浸かり、ゆっくりと休むのである。
久しぶりのお風呂でくつろいだあと、冷蔵庫に向かい水分補給をしていると、リビングの机に置いてあるスマホに通知が来て光っていた。スマホを手に取り、中身を確認すると、夢人からの返信が来ていた。
まさか、ついに正体を教えてくれるのか!?
中津は少し緊張した様子でメールを開いた。夢人からのメールはこんな内容だった。
「夢人はみんなのそばにいる。ただ、みんなそれに気づいていないだけ。キミのそばにもいるよ」
この文を読んだとき、どこかで見覚えがあったので、考えていると、少しして思い出すことができた。
これ、『見えない天使』の冒頭文と同じか!
すぐに電子書籍で確認してみると、ほぼ同じであることがわかった。夢人の部分が、天使に変わると、本文と同じになる。これはどういう意味なのか。夢人は『見えない天使』が好きで、ただ真似しただけなのか。それとも本当のことを言っており、中津もすでに出会っているのに気づいていないだけなのだろうか。もしくは、『見えない天使』の原作者である大野文護が夢人なのだろか。どれも可能性としてはあり得る話だ。
見えない天使は、誰もが知っていると言っても過言ではないくらい有名な作品だ。夢人が知っていてもおかしくないだろう。もし、夢人が見えない天使に出てくる天使と同じ、または近い存在だとしたら、一定期間関わらなければ忘れられてしまう。それはつまり、夢人と一緒にいても、いずれ忘れてしまうということだ。これが本当なら、夢人が謎の存在であることと辻褄が合う。そして最後の大野文護が夢人である可能性。大野文護は一切メディアに出ないし、SNSもやっていない。その正体を誰も知らないという、最早夢人みたいな存在だ。実際、大野文護が夢人だという説があり、いくらか支持者がいるようだ。
どの可能性にしろ、中津は夢人の正体に一歩近づいた気がして満足していたが、そのとき、またメールが届いた。夢人からだった。
「もし、夢人の正体を突きとめたら、夢人のすべてを教えてあげる。夢人」
夢人からの挑戦状のようなメールに中津は対抗心を燃やしてしまった。
絶対正体を暴いてやる!
中津は元々知的好奇心旺盛で知らないことを知ることが好きな性格である。また、負けず嫌いなところもあるので、このような挑戦を突きつけられると、簡単に乗ってしまう単純思考である。もしかして、夢人は中津の性格を知っていて、このようなメールを送って来たのかもしれない。
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次回もお楽しみに。
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