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夢人  作者: たか
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姫島響歌と偶然の出会い!?  

 響歌はとても緊張していた。なぜなら、今日は夢乃森ハイパーアリーナで開催される『ミュージックスター』に初出演するからだ。この音楽祭は一年に一回開催されており、歌手にとっては憧れの舞台である。この『ミュージックスター』に参加できる歌手は、ある程度人気があったり、有名であったりしなければ出ることはできない。そんなミュージシャンなら誰でも憧れを抱くだろう歌の祭典に響歌が選ばれたのである。

 

 ミュージックスターに出ることが決まった知らせを受けた日、最初は信じられずに何度も確認をしてみたが、事実であることに変わりはなかったので、一旦受け入れることにしたのだが、それから二日間程、実はドッキリではないかと疑っていた。そしてドッキリでもないということがわかったときには、心の底から嬉しさが込み上げてきたと同時に、自分で大丈夫なのだろうか、という不安も襲ってきた。出場歌手一覧を見てみると、第一線で活躍している誰もが知っている人たちばかりで、自分はまだ駆け出しのぺーぺーなのに、出場してもいいのだろうか、と思ったのだった。

 そんな不安を抱えていたある日の夜、津久見とオンラインで対話をした。響歌と津久見は出会った日以来、定期的に連絡を取り合う仲になっているのである。そのとき、津久見に『ミュージックスター』で歌うことを打ち明けると、津久見は自分のことのように喜んでくれ、応援してくれると言ってくれた。そこで響歌は、すでに有名人である津久見に今の気持ちを相談してみることにした。

「ねぇ、輝ちゃん。ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「ん? なんですか?」

「私ね、『ミュージックスター』に出られることがとても嬉しいの。でも、まだ何の実績もない私が出ていいのかと思って……実力もまだまだだし」

「何言ってるんですか! 出ていいに決まってるじゃないですか! 実績も実力も申し分ないくらいですよ。逆に今まで出ていないことの方がおかしいんです!」

「ありがとう。輝ちゃんの気持ちは素直に嬉しい」

「あたしは事実を言っているだけです。それに…」

「それに…?」

「それに、誰でも最初は似た感じだと思います。今当たり前のように歌っている歌手の方たちも、きっと最初は響歌さんと同じ気持ちだったんじゃないかと思います」

「えっ!?」

「誰でも初めてのことをするときは、不安や心配があります。あたしでいいのかな、あたしで大丈夫かな、って。……そして、みんなそれを乗り越えてきたんだと思います」

「輝ちゃんもそんな風に思ったことあるの?」

「もちろんです。今だって初めての現場ではいつも思います。でも、それと同じくらい自分を信じています」

「自分を…信じる…?」

「はい。あたしのことはあたし自身が一番信じているんです」

「そうなんだ。輝ちゃん、カッコいいね!」

「えっ、そ、そうですか?」

「うん。とってもカッコいい!」

「響歌さんはどうですか? 自分を信じていますか?」

「私は…どうだろう? あまり信じてないかも…」

「そうですか……。でも、大丈夫です。あたしが響歌さんを信じているので!」

「…ありがとう」

「だから、響歌さんはあたしを信じてください。響歌さんを信じるあたしを!」

「……うん! わかった! 私、信じてみる! 輝ちゃんが信じてくれる私を!」

「その勢いです! 響歌さんの歌声はきっとみんなを魅了します!」

「ありがとう! 私、頑張る!」

 響歌は津久見との会話で元気をもらい、ミュージックスターへの意欲を高めたのだった。自分がどこまでできるかわからない。だけど、出るからには全力で応えようという気持ちになった。

 この流れで響歌はもう一つ、津久見に聞きたいことを尋ねることにした。

「ねぇ、輝ちゃん。もう一つ聞いてもいい?」

「はい。なんですか?」

「ミュージックスターに出ることは、私の『夢』の一つだったんだけど、輝ちゃんの『夢』ってどんなの?」

「あたしの『夢』ですか?」

「うん。大女優の輝ちゃんの『夢』ってなんだろうって思って」

「あたしは大女優じゃないですよ。実力がまだまだです」

「そうかなぁ。私は大女優だと思うけどなぁ」

「そう言ってもらえるのは素直に嬉しいです。大女優になるのは『夢』の一つなので」

「やっぱりそうなんだね!」

「はい。でも、それだけじゃありません。もっと大きな『夢』もあります。響歌さんの『夢』と似ていますけど」

「え…?」

「あたしの『夢』は、演技を見てくれる人を笑顔にしたり、楽しませたりすることです!」

「笑顔にしたり、楽しませたりすること…」

「はい! つまり、響歌さんの『歌でみんなを幸せに!!』の『歌』を『演技』に変えたバージョンです」

「そうだったんだ!」

「はい。だから、あたしたち気が合うのかもしれないですね。目指している目標が似ているから」

「そうだね!」

 響歌は津久見の『夢』を知って嬉しかった。また、津久見のプロ意識を目の当たりにして、改めて尊敬の念を抱いた。すでに名実ともに評価されているにもかかわらず、決して驕ることなく謙虚な姿勢で物事を捉えているのは、見習わなければならないと思った。

 津久見との会話で触発された響歌は、練習時の不安が減り、より一層集中して努力することができるようになった。


 ミュージックスター当日、響歌は朝からリハーサルに参加していた。周りには響歌が小さい頃から知っている歌手、現在若者に一番人気のあるバンドなど、大物が集まっていた。みんな歌に情熱を傾けているという熱気がリハーサルの時点で伝わってきた。それに響歌も負けないくらい頑張っていた。

 響歌は楽屋で休憩していたが、部屋の中でじっとしていても落ち着かないので、外の空気を吸おうと思い立ち、夢乃森ハイパーアリーナの外周を散歩していた。一周したあと、少し休憩しようと近くにあったベンチに座った。そこで両手をついたとき、左手に何かの感触を感じた。響歌が左手に視線を移すと、そこには大きさ一〇センチくらいの木箱が置かれていた。箱の蓋には「姫島響歌さんへ」と書かれた紙が貼られていた。

「えっ、私に!?」

 響歌は不思議に思いながらも木箱を手に取り、周りを見渡した。ここに自分宛ての箱が置かれているとうことは、響歌がこのベンチに座ることを予想して誰かがここに置いたということ。つまり、まだ近くにその人物がいるだろうと推測したのだが、結局誰が木箱を置いたのかわからなかった。

響歌は少し怪しみつつも箱をいろんな角度で見たり、重さを確かめてみたり、箱を振って中身を揺らしたりしてみた。そして恐る恐る蓋を開けてみると、中には紙が一枚入っていた。

その紙には(128、18、12)(33、4、10)(76、22、9)…………という意味不明な数字がたくさん書かれていた。

 響歌は、なにこれ? と思って紙を見ていると、「あ、あのー」という女性の声が聴こえてきた。声のした方へ視線を移すと、目の前にショートボブの可愛い女性が立っていた。

「あ、はい」

「あ、あのー、ひょっとして姫島響歌さん、ですよね?」

「はい」

「キャー、やっぱりそうだ。私、姫島さんの歌声とても大好きで! ……あ、私は夢乃森学園二年の速見時音といいます。あの、握手してもらってもいいですか?」

「え、あ、はい」

 響歌が握手をすると速見はとても嬉しそうな笑顔で喜んでいた。すると、この騒ぎを聞きつけたのか、速見の後ろから「あたしも握手してもらっていいですか?」という女性の声がした。その声を聴いた速見が横に避けると、そこには銀髪女子が立っていた。彼女の姿を見た響歌はすぐに思い出し「あっ、あなたは、あのときの!」と言った。

「覚えていてくれたんだ。ありがとう」

 銀髪女子はそう言って右手を差し出してきた。

「忘れるはずありません。あのときあなたがいなければ、今の私はありませんから」

「そんなことない。今のあなたがあるのは、あなたが自分を信じて行動したから。すべて自分の実力だよ」

「…ありがとうございます」

 響歌が感謝を述べると、銀髪女子も口角を上げて嬉しそうな顔をしていた。

「ところで、さっきから手を出しているんだけど、あたしとは握手してくれないの?」

「えっ、あっ、ごめんなさい」

 響歌は慌てて握手に応じた。

「フフ、ありがとう」

「あの、名前は、何て言うんですか?」

「あたし? あたしは国東栞」

「国東…栞さん。あ、あの、これからもよろしくお願いします!」

「うん。よろしく」

 響歌はここでようやく国東の名前を知ることができたのだった。あの日の路上ライブから響歌の人生は変わった。そのときに最初に歌を聴きに来てくれた中津と国東は、響歌にとって大切な人になっていた。

 そして響歌と国東が偶然の再会を果たしていたところへ、今度はオレンジブラウンの髪に金色の目をしたイケメン男子が突然空から降ってきた。

彼は背中を地面に打った様子で「イテテ…」と言いながら起き上がろうとしていた。速見は驚きながらも彼が起き上がるのを支えようと手を差し出していたが、彼は「あ、大丈夫です」と断って立ち上がった。

響歌はそんな彼をどこか見覚えのある顔だと思いながらしばらく見つめていると、チラシを配っていたときに受け取ってくれたイケメン男子だということを思い出した。

「あ、あなたは!」

「ん、あれ? キミ、どっかで見たことがあるような」

「えっ!? キミ、姫島響歌さんを知らないんですか!?」と速見が言った。

「姫島…響歌……。あっ、思い出した。前に中津と手を繋いでた子か!」

「えっ、中津くんを知っているんですか!?」と響歌は言った。

「ん? ああ、知ってるっていうか、友達だし」

「友達! そうなんですか!」

「えっ、中津くんって、中津夢翔くんのこと?」と速見が言った。

「えっ、速見さんも知っているんですか!?」

「あ、はい。私の友達と仲が良いので……。姫島さんもお知り合いなんですか?」

「はい。私もこの前知り合って友達になりました」

「そうなんですか!?」

「へぇー、中津のやつ、いつの間にかこんなに友達が増えてたんだな」とイケメンは見渡しながら言った。そして国東に「キミもそうなのか?」と言った。

「あたしは別に。ただ知っているだけ」と国東は答えた。

「ふーん。そっか」

 国東は素っ気なさそうに答えていたが、響歌には今言ったことが本心には思えなかった。二人の関係を知っているわけではないが、中津と国東はもっと仲が良いだろうと思ったのだった。

 そして、響歌、速見、国東、別府の四人が集まっていたところにもう一名遅れて登場してきた人がいた。彼女は桜色ショートの髪に深紅の綺麗な瞳をした女の子だった。彼女は「剣くん! 大丈夫!?」と心配そうな様子でやって来た。

「ん? まりんか。ああ。大丈夫だ!」

「もう。せっかく怪我が治ったばかりなのに、無理しないで!」

「わりぃ、わりぃ」

「んもう! ……それより剣くん。この人たちは?」

「ん? ああ。夢乃森学園の生徒だ」

 ということで、五人はなぜかそれぞれ自己紹介する流れになった。

「俺は二年の別府剣悟。心理学専攻で中津の友達だ」

「あたしは一年の宇佐まりんです。専攻は自然科学です」

「私は二年の速見時音。専攻は外国語学。『ドリームバックス』でバイトしています」

「あたしは国東栞。専攻は人文科学」

「私は姫島響歌です。専攻は音楽科で一応歌手です」

「歌手ってことは、ひょっとして今日ここで歌うのか?」と別府が言った。

「はい」

「別府さん! 本当に姫島響歌さんを知らないんですか!?」と速見が言った。

「ああ。俺、そういうのに疎くて」

「ウソ! 剣くん、姫島先輩を知らないの!?」と宇佐が言った。

「同じ学校に通っていて今一番注目を浴びている姫島響歌の名前を知らないなんて、信じられない」と国東が言った。

「逆に一体何を知っているんですか?」と速見が言った。

「えっ、そこまで言われる程なのか!?」と別府は言った。

「ありえない」と宇佐が言った。

「キミと同じ学校に通っていることが恥ずかしい」と国東が言った。

「人生の九割損してるよ」と速見が言った。

「ご、ごめん」と別府は言った。

「そっ、そんなことないから。みんながちょっと大げさに言っているだけだから、気にしないで」と響歌は言った。

 響歌は別府をフォローするつもりで言ったのだが、時すでに遅かったようで、別府はシュンとして落ち込んでいた。

「そんなことより、姫島さんはここで何をしていたの?」と国東が言った。

「あ、私は気分転換にちょっと散歩を…」と響歌は言いかけたとき、謎の箱と紙のことを思い出した。「そういえば、これを誰かから貰ったんだけど、意味がわからなくて困っていたの」

 響歌は四人に謎の数字が書かれた紙を見せた。

「なんですか? これ」と速見が言った。

「何かの暗号みたいね」と国東が言った。

「暗号?」と別府と響歌声を合わせて言った。

「おそらく、数字を文字に変換すると、文章ができると思います」と宇佐が言った。

「数字を文字に? どうやってやるんだ?」と別府が言った。

「わからない。これだけじゃヒントが少なすぎる」

「そう…ですか」と響歌は言った。

「他に何か入っていなかったの?」と国東が言った。

「これ以外は何も…」

「そう…」

 四人にも解けなさそうな謎だったので、響歌が諦めようとしたとき、別府が「それなら中津に相談してみたらどうだ? あいつ、こーゆーの得意そうだし」と言った。

「えっ、中津くんに!?」と響歌は言った。

「ん? 嫌なのか?」

「い、嫌じゃないけど…」

「けど? ……あっ、連絡先知らないのか! なら俺が代わりに…」

「知ってる! だから自分でやる! やらせて!」

「あ、ああ」

 響歌は中津と連絡先を交換したあの日から、一度も連絡を取り合っていなかった。その理由は、どんな話題で最初のメッセージを送ればいいのか、わからなかったからだ。それで結局どんどん日が経っていき今に至っている。

せっかく別府が提案してくれたことを無下にするわけにはいかない、と自分に言い聞かせ、響歌は中津にメッセージと謎の木箱の写真を添付して送った。すると、中津からすぐに電話が掛かってきた。響歌が説明しようとすると、中津は若干食い気味で質問してきたので、電話越しでも中津が焦っていることがわかるくらいだった。そして最後になぜか感謝され電話を切られた。

「どうだった?」と国東が言った。

「うーん、よくわからないけど、中津くんに必要なものだったみたい」

「そうだったんですね。もしかして、叶愛と何かやっているのかな」と速見が言った。

 結局謎はわからないままだったが、響歌はそれで満足した。

謎のことは忘れて今日の歌に集中しようと思い、そろそろ楽屋に戻ろうとしたとき、国東が「あれ? あそこに何か青いものが…」と言って少し離れた何もない空を指差した。すると、別府と宇佐が鋭い目つきでその方向を向いた。別府は振り向く際に右腕を斜め上にブンッと振り上げた。その直後、国東が指差した何もないはずの空から「ボン!」という何かが爆発する音がした。そして別府が「チッ、また逃がしたか」と呟いた。

 速見が「えっ、今のなに?」と言うと、宇佐が「花火かなぁ」と言った。響歌が「こんな時間に花火?」と言うと、別府が「打ち上げの練習でもしてたんじゃないのか?」と言った。

 その数十秒後、今度は別の場所の何もない空から「ボン!」という音がした。別府は目を凝らして音がした方を見てから、「あっ、そういえば、俺、行くところがあったんだ! じゃあ、またな。姫島、ライブ頑張れよ!」と言って二回目の音がした方へ走って行った。それに続き宇佐も「では、あたしも失礼します。姫島先輩、今日のライブ楽しみにしています」と一礼してから別府のあとを追って行った。

 そのあと、国東が「じゃあ、あたしも行くところがあるから。ライブ頑張ってね」と言って去っていき、最後に速見が「姫島さん。今日のライブ頑張ってください!」と応援してくれた。

 響歌は四人のおかげでいつの間にか緊張感が和らぎ、良いコンディションで本番を迎えられそうだった。

 午後六時になり憧れの『ミュージックスター』が開催された。たくさんの一流ミュージシャンが最高のパフォーマンスを披露し、会場は大盛り上がりだった。響歌は自分の順番が近づく中、今まで出会った人たちのこと、応援してくれている人たちの顔を思い浮かべていた。父、母、津久見、速見、宇佐、別府、叶愛、安心院、国東、中津。みんなの応援が響歌の心を強くしてくれた。

 そして、響歌はすべての想いを力に変えて、いざステージに上がった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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