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夢人  作者: たか
23/64

射抜かれた叶愛  

 叶愛が目を覚ますと、そこは薄暗い場所だった。正面には三台のデスクトップパソコンが光っており、その前の椅子に黒ずくめでフードを深く被った人が座って画面を眺めていた。叶愛からは後ろ姿だけが見えていた。叶愛は椅子に座っており、手足を縄で縛られて動けないようにされていた。無理やり動こうとしても、椅子が床に固定されているため、まったく動かなかった。それでもどうにか縄を解くことができないか、と試していると、黒ずくめの人が気づいて振り返らずに声を掛けてきた。

「おや、目を覚ましたようだね」

 黒ずくめの声は中性的で、男か女かわからなかった。

「あなた、私をどうするつもり?」

「別にどうもしない。ただゲームを盛り上げるために協力してもらっているだけだ」

「ゲーム?」

「そう。これはゲームだ。つまらない人生に刺激を与えるゲーム。生きるか死ぬかを賭けたゲーム。どうだ、興奮するだろ?」

「ど、どういうこと?」

「そうか。キミにはまだ説明していなかったね。すまない。今から説明するよ」

 そう言って黒ずくめは、ゲームの内容とルールを叶愛に説明した。

「こんなことをして、あなたは何がしたいの? 何が目的? お金? 復讐?」

「それは最初に言ったはずだ。つまらない人生に刺激を与えるためだと」

「刺激……こんなことが……? こんなに多くの人を巻き込んで…」

「参加者は多ければ多い程楽しい」

 叶愛は犯人の考えが理解できなかった。それも当然である。犯人はサイコパスである可能性が高い。

 サイコパスとは、他人を見境なく傷つけても良心が痛まない、自分以外の人間に対する自分の行動の結果に興味がないなどの特性を持った人のことである。叶愛は犯人との少しの会話でそれを察した。話が通じているようで通じてない。すべて自分本位な視点で物事を語っている。

 ことが大きくなる前にどうにかしないと!

 叶愛はそう思ったが、身動きが取れないので、どうすることもできなかった。それでも何か方法がないかパソコンの光を頼りに周りを見渡したが、叶愛の周辺には目の前に机があるくらいで、他には何もなかった。

 まずは自分が今どこにいるのか知ろうと、暗闇の中目を凝らして見渡していると、犯人がパソコンを見ながら「ん? 誰だこいつは? 雲海でも安心院希望でもない」と言った。

 それを聞いた叶愛は気になり、動ける範囲で身体を動かして、犯人の隙間からパソコンを覗き込むと、画面には夢乃森美術館に入って行く夢翔の姿が映っていた。どうやら犯人は小型のドローンで夢翔たちを追跡・観察しているようだった。

「夢翔様!」と叶愛はつい言葉を漏らしてしまった。

「ん? 夢翔様? ……そうか。こいつ、キミと一緒にいた学生か! まさか彼が最初に美術館に着くなんてね。予想外だ」

「夢翔様には手を出さないで!」

「夢翔様かぁ。さあ、どうしよっかなぁ」と犯人は言ってキーボードをタイプして何かを調べ始めた。「ふーん、彼が夢乃森学園二年生の首席なのか。キミでも安心院希望でもなく」

 犯人が調べたのは夢翔の個人情報だった。その情報は夢乃森学園が厳重に保管しているので、漏れるはずがないのだが、犯人はハッキングをして情報を得ているようだった。いくつもあるサイバーセキュリティを破っているので、相当なスキルの持ち主ということがわかった。

「夢翔様に何かしたら、私はあなたを許さない」

「おー、怖い、怖い。自分が人質として捕まっているのに他人の心配とは、随分彼のことが気に入っているようだね。それに…彼も必死になって探しているようだ」

「夢翔…様」

「そうだ。形は違うけどキミも参加者の一人だから、彼らが解いている問題を見せてやろう。どうせ暇だろ?」

 犯人はそう言って振り返った。ようやく犯人の顔がわかると思って覗き込んだが、犯人は顔に不気味なピエロの仮面をしていたので見えなかった。サイコパスが好みそうな趣味の悪い仮面だった。

犯人は座ったまま叶愛の方に一枚の紙を指で挟んでからピッと投げ飛ばした。その紙はちょうど叶愛の目の前にある机の上で止まった。

叶愛は紙に視線を移した。その紙には問題と書かれており、その下には数字の羅列が並んでいた。

「それが記念すべき最初の問題だ。これを解いて彼は美術館に向かった。さて、キミにも解けるかな?」

「こんなの簡単ね」

「ほう? もう解けたのか?」

「この⇔は数学だと『同値』を意味するけど、国語では『逆』を意味する。だから、アルファベットを逆から数えて数字に当てはめると、ART、MUSEUM。美術館になる」

「驚いたな。たった一瞬で解くとは」

「これくらい、夢翔様にとっても簡単だったはずよ」

「では、次の問題だ」

 犯人はそう言って、また叶愛の方に一枚の紙を指で挟んでからピッと投げ飛ばし、紙は机の上で止まった。

「その問題は、今まさに彼らが頭を抱えながら解いている。そう簡単には…」

「夢乃森駅」

「えっ!?」

「次の場所は夢乃森駅でしょ」

「どっ、どうしてわかった!?」

「これも簡単よ。まずポリュビオスの暗号表に当てはめてから、数字を文字に変換する。そしてわかった文字が、草、目、月と馬、目、手枷。一つ上にあるCはCombinationの頭文字、組み合わせるって意味ね。そしてAはAncientの頭文字、古代という意味。ということは、①が『夢』、②が『驛』になる。この辺りで夢がつく駅は夢乃森駅と夢乃森学園前駅しかない。学園前駅には差別化するためにもう一文字加えるはず。よって、答えは夢乃森駅になる」

「まさかこれ程とは……。キミを誘拐して正解だったようだ。もしキミが解答者として参加していたら、あっという間にゲームが終わっていただろう」

「これくらい、夢翔様も解けますから」

「そうかな。結構苦戦しているように見えるけど」

 犯人が避けたのでパソコンの画面が見やすくなった。その画面には、様々な角度から撮影している夢翔たちの姿が映っていた。映っている人の中に安心院と津久見の姿もあった。どうやら、二人も生徒会室で一緒に問題を解いているようだった。

犯人は美術館と夢乃森学園という二つの離れた場所を同時に撮っており、夢翔たちは撮られていることに気づいていない様子だった。

 犯人の言った通り、夢翔たちは苦戦している様子で頭を抱えていた。しかし、叶愛は信じていた。きっと夢翔なら解くことができると。

そのまましばらく夢翔たちの様子を見ていると、突然夢翔がハッと閃いた顔をしたのがわかった。そして周りの人に説明するように喋り出した。おそらく問題を解くことができたのだろう。その後、雲海が号令を出したような動きをして、全員が移動を始めた。

「どうやら彼らにも解けたようだね。全員夢乃森駅に向かい始めたようだ」

「当たり前よ。私が解けて、夢翔様に解けないことなんてないんだから」

「たしかに、二問とも解いたのは彼のようだね。……中津、夢翔……」

 犯人は夢翔に興味を抱いた様子でドローンカメラを合わせて顔をアップにした。すると、偶然周りを見渡していた夢翔がカメラ目線になった。いや、夢翔は明らかに気づいた様子でこちらを見ていた。

「まさか! この距離の超小型ドローンに気づくはずがない」と犯人は驚いていた。

夢翔はドローンに向かって腕を伸ばしてこう言った。

「全部解いて絶対お前の正体を暴いてやる。そして、叶愛さんは俺が必ず助け出す!」

 それを見た叶愛はズキューンと胸を打ち抜かれたのだった。


 夢翔たちは夢乃森駅に到着し、問題の入った木箱を見つけた。そのとき、犯人は自信があるようなトーンでこう言った。

「次の問題は少し難しいから時間が掛かるはずだ。もしかしたら、誰も解けないかもしれない」

「そんなことないわ。夢翔様ならきっと解ける。それに…」

「ふん。ならキミにも解かせてやろう」

犯人は紙を指で挟んでからピッと叶愛の方へ投げ飛ばした。

今度の紙には、そのまま読もうとすると意味がわからない順番で平仮名がたくさん並んでいたが、叶愛はそれを数秒見ただけでピンと閃いた。

そのとき、安心院も問題を受け取ったようで、夢翔に電話を掛けているのがパソコン画面に映っていた。

そして「わかったわ」と叶愛と安心院が同時に言った。それを聞いた犯人の視線は、安心院が映っているパソコン画面と叶愛の顔の間を何度も行ったり来たりして「え!? え!?」と驚いている様子だった。

叶愛は解説しようとしたが、画面の向こうにいる安心院の自信満々な顔を見て彼女に任せることにした。そして安心院の「大学病院」という答えを聞いて、自分と同じ答えだということがわかり、解説も完璧だった。

叶愛が頼りにしているのは夢翔だけではない。安心院もとても頼りになる存在である。なんたって、夢乃森学園の生徒会長なのだから。夢乃森学園トップ三のうちの二人が協力しているのだから解けない問題があるはずない。叶愛は二人を信頼しているのである。

犯人の顔は見えないが、仮面の下は焦っているのだろうということは容易に想像できて、ようやく一太刀入れることができた気がした。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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