さらわれた夢乃森④
「えっ、もう答えがわかったんですか!?」と中津は言った。
「ええ。今回の問題は簡単だったわ。答えは病院……大学病院よ」
「大学病院? すまない安心院くん。わしはまださっぱりわからん。教えてくれんか?」と雲海が言った。
「はい。この文章は三つの文が合わさってできているんです」
「三つの文……あっ! そういうことか!」と中津は言った。
「気づいたみたいね」
「え?」「えっ?」と周りの警察官たちは頭の上に『?』を浮かべていた。
「何がわかったんだ。少年」茶色いコートの警察官が言った。
「生徒会長が言ったままです。この文章は三つの文が混ざっている。そしてそれぞれの文を一文字ずつ順番に並べているんです」
「一文字ずつ順番に?」
「はい。つまり、二文字飛ばしながら読むと、元の文章がわかるということです」
「なっ、なに!? そうなのか!」
「そうやって三つの文を元に戻すと、『人生は思考するものにとっては喜劇であり、感情に流されるものにとっては悲劇である』『どんな能力を持って生まれたかはたいした問題ではない。重要なのは与えられた能力をどう使うかである』『過去を変えることはできないし、変えようとも思わない。なぜなら人生で変えることができるのは、自分と未来だけだからだ』になるわ」と安心院が言った。
「ど、どういう意味だ? これがどう病院に繋がるんだ?」
「この名言はそれぞれ、ヒポクラテス、アルフレッド・アドラー、野口英世が言ったとされる言葉。彼らに共通することは全員医師だということ。そして医師が働く場所と言えば、病院」
「そういうことか! ん? しかし、どうして大学病院なんだ?」
「それは最初に書かれているBIGとSTUDYがヒントになっているの。BIGは大きいという意味だから『大』、STUDYは勉強するまたは学ぶという意味だから『学』。これらすべてを合わせると、大学病院になるわ」
「そうか。病院だけじゃとたくさんあるから、大学というヒントをつけたんじゃな。ここら辺で大学病院は一つしかないからな」と雲海が言った。
「夢乃森大学病院」中津と安心院が声を揃えて言った。
「よし! 次の場所は夢乃森大学病院じゃ」
「はい!」と警察官一同が声を揃えて言った。
雲海の号令で全員が一斉の走り出し、駅前に停めていた車に次々と乗り込み夢乃森大学病院に向かい始めた。
向かっている車の中で雲海が捜査状況を教えてくれた。電話の発信源やメールの発信元から犯人の居場所を特定しようと試みたらしいが、案の定、犯人が抜かりなく対策していたため、特定できなかったらしい。また、見つかった木箱に犯人の指紋や何か手掛かりになるものが付着していないか鑑定しているらしいが、特に手掛かりになるようなものは見つかっていないということだった。ということは、やはり問題をすべて解くことが一番の近道になりそうだった。
しかし、中津は少し心配していた。この問題はあと何問あるのか、制限時間内までに叶愛を助けることができるのか、ということが気になっていた。というのも、今までは順調に解くことができているが、解くのに時間の掛かる問題が出てこないとも限らない。それに結構移動に時間が掛かっているのである。今まで訪れた美術館、駅、そして今向かっている病院はそれなりに離れた距離にあるからだ。中津たちは北から南、東から西にといろんな方向へ行かされていた。
安心院からの情報によると、犯人はゲーム感覚で遊んでいるということだった。その性格からして時間内に解けない問題を用意しているとは思えない。おそらく、頑張れば時間ギリギリに間に合うように計算されているはずだ。誰でも絶対にクリアできないとわかっているゲームはつまらないからだ。そう考えると、残りは時間的に見て二~三問くらいだろう。ただ、これはあくまで中津の推測に過ぎない。犯人が誰で、どんなやつなのかわからない。こんなことをゲーム感覚でするくらいだから、おそらくサイコパスなのだろうが、そんなやつがはたしてルールを守るのだろうか。早く叶愛を助け出さなければいけない状況であること再認識し、不安が募っていた。
すると、中津の隣に座っていた雲海が「大丈夫じゃ」と言った。雲海の目は真っ直ぐ前を見ており、決して諦めないという意思を感じた。一番心配なはずの雲海がそのような態度だったので、それに中津も励まされ、「はい」と返事をした。
考えても仕方ない。今はできることをやるだけだ!
中津は気合を入れ直した。
大学病院に到着すると、女性事務員が一人入り口に立っており、一番大きな木の場所まで案内してくれた。その事務員は病院に連絡したときに対応してくれた人だった。さらに事務員は、病院にあるシャベルやスコップを用意してくれていた。中津たちは事務員に感謝を述べ、それを使って全員で木の周辺を掘り始めた。しばらく掘っていると、木箱が見つかった。中津は木箱を手に取り、軽く土を払い、蓋を開けようとしたとき、全員が木箱に目を向けていた。今回は雲海が安心院とテレビ通話していたので、安心院たちもスマホ越しに注目していた。中津は箱の中に入っていた紙を取り出した。
第四問はこんな内容だった。
『パリメモリーは友情や悲しい、治癒のアーチ』
たったこれだけだった。
「パリメモリーは友情や悲しい、治癒のアーチ?」と中津が言った。
「なんじゃこれは、どういう意味じゃ?」と雲海が言った。
「単語それぞれが何か別の意味になるのかしら…」と安心院が言った。
このときの時刻は午後三時五六分、制限時間まで残り一時間四分。
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