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夢人  作者: たか
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さらわれた夢乃森③  

 中津と安心院は電話越しに問題についての意見を出し合っていた。

「最初のこの言葉、ポリュビオスが言ったとされる名言ね」と安心院が言った。

「そうですね」

「ってことは、単純に考えてポリュビオスの暗号表に当てはめれば解けるはずだけど、おそらくそんな簡単じゃないわよね」

「そのようですね」

「おい! さっきから何を言っている?」と茶色いコートを着た警察官が言った。

「ポリュビオスの暗号です。調べたらでてきますよ」と中津は言った。

 状況を察した雲海が、中津の代わりに警察官たちにポリュビオスの暗号について説明を始めた。雲海はスマホで検索したポリュビオスの暗号表を警察たちに見せた。


 ポリュビオスの暗号とは、古代ギリシアの歴史家、ポリュビオスが発明した暗号である。5×5、25マスの行と列を1から5の順番で数字を割り振り、そこにアルファベットを当てはめる表が、ポリュビオスの暗号表である。表の一番左上11がA、その右隣12がB、その右隣13がCと続いて行く。15のEまで行くと、次の行に移り、21がF、22がGと続き、最後55がZである。マス目が二十五マス、アルファベットが二十六文字なので、一文字余ってしまうのだが、それは大抵24マス目にIとJの二文字を当てはめるようにしている。


「暗号表に当てはめると、①が(GRASS)(EYE)(MOON)」と中津が言った。

「②が(HORSE)(EYE)(HANDCUFFS)ね」と安心院が言った。

「すべて英単語ですね」と津久見が言った。

「ああ。①が、くさ、め、つき。②が、うま、め、てかせ。これに何の繋がりがあるんだ?」

「これだけじゃわからないわね。この上にあるCとAの意味がわかれば、解けるかもしれないのだけれど」

 問題はCとAの文字だった。おそらく、この二つが何かを意味しているのだが、これが何かの記号なのか、それとも単語の頭文字なのか、わからなかった。もし単語の頭文字だったとしても、数が多すぎて特定するのも難しかった。

 そのまま苦戦が続き、数十分が経過したとき、津久見がある一言を呟いた。

「これ、漢字にして組み合わせると、一つの漢字になるんじゃないですか? ほら、クイズ番組でよくあるじゃないですか」

「そう思ってやってみたけど、どう組み合わせるのかわからないんだ」と中津が言った。

「え!?」

「私もさっきからしているのだけれど、どうやっても漢字ができないの」と安心院が言った。

「CはおそらくCombination、組み合わせるって意味だ。だから、単語をそれぞれ漢字に変換して組み合わせているんだけど、できないんだ」

「①は草、目、月。草が草冠としたら、下は目と月。こんな漢字見たことない」と津久見が言った。

「もっとわからないのは②ね。馬、目、手枷。手枷がどうなるのか、まったくわからないわ」

「うーん。あたしたちの知らない漢字があるのかな? 大昔に使われていた漢字とか?」

「大昔の…漢字…?」

中津は津久見の言ったことが妙に耳に残り気になったのだった。そしてまた沈黙になりそうになったとき、突然ハッとして閃き、この問題のからくりに気づいたのだった。

「わかった! わかりました! そういうことだったのか!」と中津は叫んだ。

「えっ、中津くん、答えがわかったの!?」

「はい。俺たちの考えは間違っていなかったようです」

 中津の自信満々な態度に周りにいた全員が注目した。おそらく、電話越しの安心院と津久見もスマホに耳を傾けているだろう。そんな中、中津は解説を始めた。

「これは俺たちの考えていた通り、それぞれを組み合わせることで漢字ができるんです」

「じゃが、それだと存在しない漢字になるんじゃなかったのか?」と雲海が言った。

「いや、ちゃんとした漢字になります。①は草、目、月でしたね。この三つは『夢』の漢字の成り立ちです。『夢』の元となった象形だったんです」

「象形……ハッ! ということは、②は『駅』かしら!」と安心院が言った。

「そうです。AはAncientの頭文字、古代という意味です」

「そうか。象形か。……しかし、①が『夢』ということはわかったが、②はどうして『駅』になるんじゃ?」と雲海が言った。

「『駅』の旧字体は『驛』って書くんです。これはそれぞれ馬、目、手枷の象形から成り立っています」

「そういうことか!」

「津久見さんのおかげで気づくことができました。ありがとうございます」

「えっ、あ、そう」

中津には津久見の姿は見えないので、どんな顔をしているのかわからないが、おそらく照れているのだろうということは、容易に想像できた。

「ということは、問題の答えは夢駅。つまり、夢乃森駅か!」と雲海が言った。

「でも、夢がつく駅なら夢乃森学園前駅もありますが」と警察官が言った。

「いや、おそらく夢乃森駅で間違いない。もし夢乃森学園前駅ならもう一文字追加して差別化するはずだ。たとえば『学』の文字とか。それがないってことは…」

「そうね。私もそう思うわ」

「よし。今すぐ夢乃森駅に行くぞ。じゃが、念のため二班は夢乃森学園前駅に向かってくれ!」

 雲海の号令により、全員が一斉に動き始めた。美術館の外には夢乃森グループの車両とパトカーがたくさん停まっていた。全員が車に乗り込み、次の目的地である、夢乃森駅に向かい始めた。

 中津も雲海と同じ車に乗ることになったので、後ろをついて行っていると、ふと誰かに見られているような視線を感じた。中津が周りを見渡していると、少し離れた何もない空が一瞬光ったのを目撃した。それはまるで何かが太陽光を反射したような光だった。遠くてよく見えなかったが、中津はその光った方向に腕を伸ばしてこう言った。

「全部解いて絶対お前の正体を暴いてやる。そして、叶愛さんは俺が必ず助け出す!」

 なぜかわからないが、中津は空に向かってそう宣言した。

「夢翔くん。何をしとるんじゃ?」

「すみません。気を引き締めていました」

 中津と雲海は車に乗り込み、夢乃森駅へ向かった。時刻は午後二時一三分。制限時間まで残り二時間四七分。


 全員が夢乃森駅に到着し、探す箇所を分担してから探し始めた。夢乃森駅は近辺では一番大きくて広い。それに休日なので人がたくさんいる中を探さなければならなかった。もしかしたら、目撃者がいる可能性があるので、数人の警察官は聞き込みをしながら探した。また、すでに駅員が回収していないか確認したが、そんな報告は受けていないということだった。時間が経っているので、他の誰かが持って行った可能性もなくはないが、美術館に隠していた感じからすると、見つかりにくい場所に置いている可能性が高いので、誰も持って行ってないことを祈りながら探し続けた。

 今回は思いのほか時間が掛かり、三〇分以上見つからないままでいた。警察の中には、本当にここにあるのか、解答が間違っていたんじゃないのか、という疑念を抱く者が出始めたが、中津と雲海は必死に探し続けた。手の空いていた駅員も緊急事態であることを察して手伝ってくれた。

 それからさらに一〇分程過ぎたとき、若い駅員の人が「あったー。ありました!」と大きな声で叫びながらある場所を指差していた。彼の声が聴こえる範囲にいた中津と雲海は走ってその場に向かい、他の警察官たちはお互いに知らせ合い、徐々に集まってきた。

 駅員が指差していた場所はある柱の下の方だった。その柱には『ミュージックスター』と書かれた、今夜『夢乃森ハイパーアリーナ』で開催される予定の音楽ライブの宣伝ポスターが貼られていた。そこに美術館にあった木箱と同じ木箱が置かれていた。すでに何度も警察官が通っていた場所だったが、柱に寄りかかって休んでいる人がいたり、柱付近で会話している集団がいたりしたので、木箱が死角になり、見つけられなかったようだ。

 中津が木箱を手に取り蓋を開けると、中には問題と書かれた紙が入っていた。

第三問はこんな内容だった。


BIG、STUDY。

「じどかんんこせなをいのかはうえしりるこよこうくとすをはるもでもつきのてなにういとましつれかてたえはかよきはうげたときいもでしおあたもりもわかんなんだいじいなよでぜうはなにならないじがじんさゆせれういるよでもうかのなえにのるとはこつあとてたがはえでひらきげれるきたのでのはあうじるりぶよんくとをみどらういつだかけうだかかでらあだる」

「木箱はこの近くにある一番大きな木の下に埋めてある」


中津はすぐに問題を安心院たちに送信した。

中津が問題を見たときの第一印象はこうだった。

また時間が掛かりそうな問題だな。だけど、早く解いてやる!

この手の問題の解き方はいくつか考えられる。たとえば、反対から読んだり、斜めに読んだり、渦巻き状に読んだりなどだ。中津は考えられる解き方を片っ端から試して、早く答えを見つけようとしていたとき、安心院から着信が入ったので応答した。

安心院の第一声は「わかったわ」だった。

「えっ、何がわかったんですか?」

「次の場所よ」

「えーー!!」とその場にいた全員が驚いたのだった。

このときの時刻は午後三時一八分。制限時間まで残り一時間四二分だった。



読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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