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夢人  作者: たか
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さらわれた夢乃森②  

中津は、安心院から叶愛が誘拐されたと聞いて、自分を責めていた。

俺が電車に乗って行こうって言ったから、本屋に寄りたいって言って立ち寄ったから、寄り道ばかりしていたから、夢乃森さんはさらわれたんだ。クソッ!

そんな中津に対して、雲海は気遣いの言葉を掛けてくれた。この世で一番大切な孫がさらわれて一番落ち着いていられないはずの雲海が、中津にやさしい言葉を掛けてくれた。中津は雲海と話したことで落ち着きを取り戻した。

雲海に礼を言い、叶愛を助けることを誓い、安心院に強く当たってしまったことを謝った。安心院は「気にしてないわ」と言ってすぐに許してくれ、早速本題に入った。

ことが事なので、中津も切り替えて集中して情報収集した。そして犯人の異常な考えを知り、ゾッとしたが、この手の犯人はおそらくルールを守るタイプだろうから、叶愛は制限時間の午後五時までは無事だろうと推測した。しかし、絶対とは言い切れないし、それでも時間がないことに変わりはない。早く問題を解くのはルール違反ではないようなので、早速問題を送ってもらった。

安心院から送られてきた問題を見て、中津はいくつか質問をした。

「これって単純にアルファベット変換するだけは解けなかったんですよね?」

「ええ」と安心院は言った。

「じゃあシーザー暗号では?」

「それもダメだったわ」

「なら他の変換方法か…」

「そう思っていろいろ試しているんだけど、なかなか見つからないの」

「この⇔は何なんでしょか?」

「私もそれが気になっているの。これは同値を表す記号よ。でも、それがこの数字にどう関係するのかわからないの」

「同値…ですか…」

「ん? どうかしたの?」

「たしかに、同値だと意味がわからないですね」

「そうなの」

「ということは、他の意味があるんじゃないですか?」

「他の意味?」

「たしかこれって……逆って意味もありませんでしたか?」

「そうなの!?」

「もし⇔が逆という意味だと仮定したら……」

 中津は頭の中で、⇔が逆という意味だった場合、羅列された数字にどう関係しているのか考え始めた。そしてハッと気づいた。

「この数字、もしかしてアルファベットを逆から順に数えているんじゃないですか?」

「あっ!」とスマホの向こうから安心院の声が聴こえた。どうやら安心院も気づいたようだった。

「えっ、どういうことですか?」と津久見が言った。

「これはZが1、Yが2、Xが3と逆から数えている。だからシーザー暗号じゃ解読できなかったんだ。上の⇔は逆という意味で、アルファベットを逆から数えているというヒントになっていたんだ」と中津が言った。

「じゃ、じゃあ、アルファベットを逆から数えて数字を当てはめると…」

「26がA、9がR、7がT、14がM、6がU、8がS、22がEになるわね」と安心院が言った。

「それを読むと、ART、MUSEUM。美術館になる」と中津が言った。

「美術館ってどこの美術館ですか!?」と津久見が言った。

「制限時間があることと、犯人が夢乃森さんを誘拐した場所から考えると、おそらく近くの美術館だと思う」と安心院が言った。

「だとすると、ここから一番近い美術館は……」と中津が言った。

「夢乃森美術館!」中津と安心院が声を揃えて言った。

 すると、雲海が「今すぐ夢乃森美術館に人員を送れ! そして一〇センチくらいの木箱を探すんじゃ」と指示を出した。

「俺も今から向かいます!」

「わかった。私も今から向かうから、そこで落ち合いましょ」

「はい」

「あたしも行きます」と津久見が言った。

「うん。ありがとう、津久見さん」

「いや。安心院くんと津久見くんはここで待っていてくれ」と雲海が言った。

「えっ、どうしてですか!?」と津久見が言った。

「犯人が何を仕掛けているかわからん以上、キミたちを危険な目に合わせるわけにはいかん。もしかしたら爆弾が仕掛けられているかもしれんしな」

「ですが、一人でも人が多い方が…」と安心院が言った。

「物を探す人数は十分足りておる。それよりも安心院くんには、ここでもしものときに備えていて欲しいんじゃ」

「もしもの…とき…?」

「ああ。犯人はわしの大事なものを傷つけようとしておる。もしかしたらその中にこの学園の生徒たちも含まれているかもしれん」

「そんな!」と津久見が言った。

「そんなとき、頼りになるのは安心院くんなんじゃ。もちろん津久見くんも頼りにしておる。じゃから、残ってくれぬか?」

「……はぁ~、理事長は本当に、人を説得するのがお上手ですね」

「これでも一応、理事長じゃからな」

「わかりました。私と津久見さんはここに残ります。ですが、次の問題がわかったときには、私たちにも送ってください。それくらいは力になりたいので」

「もちろんじゃ。頼りにしておる」

「ってことだから、中津くん。気をつけてね」

「はい」

 そこで通話は切れた。

 中津は近くに停まっていたタクシーをつかまえて、夢乃森美術館まで急いで向かった。時刻は午後一時を過ぎていた。制限時間まで、残り四時間を切っていた。


 中津が夢乃森美術館に一番に到着した。着いたときには、美術館の係員がお客を誘導して、外に出していた。どうやら雲海が連絡を入れているようだった。何が仕掛けられているかわからないが、パニックにならないように、誘導している係員も詳しい事情を知らないようだった。

中津は出ている客の合間を通って中に入った。入り口の途中で係員に止められそうになったが、サッと身をかわして入った。そして怪しいものがないか、周りを見渡しながら木箱を探した。

さすがに館内は広く何階もあるので、一人のままだと時間が掛かりそうだったが、しばらく探していると、雲海と警察含む多くの人が駆けつけて全員で木箱を探し始めた。全階全フロアに分かれて、細部も見逃さないように徹底的に探した。

これなら早く見つかる。

人数が多くなったことで少し励まされ中津は隅々まで探し続けた。そしてゴッホ展のフロアに着いた。

本当は夢乃森さんとここにいたはずなのに。

そう思って悔しさを感じていたとき、ふとベンチの下に何かあるのが目に入った。しゃがんで見てみると、それは一〇センチ程の木でできた箱だった。その木箱は、ゴッホの『ローヌ川の星月夜』の前にあるベンチの下に見つかりにくいように置かれていた。

中津は木箱を手に取り「あった!」と叫んだ。すると、探していた人が集まり出し、少しして雲海がやって来た。木箱が軽かったので爆弾は入ってなさそうだった。一応開ける前に軽く振ってみたが、特に音はしなかった。もしかして何も入っておらず、探しているのはこれではないのか、という不安が募ってきたので、サッと蓋を開けて見ると、中には一枚の紙が入っており、その紙の一番上に「問題」という文字が書かれていた。

どうやら、犯人からの次の問題のようだった。

第二問はこんな内容だった。


次の目的地はここだ。

行いの正しき人は友人と祖国とを愛する人なり。

C、A

①(22、42、11、43、43)(15、54、15)(32、34、34、33)

②(23、34、42、43、15)(15、54、15)(23、11、33、14、13、45、21、21、43)


 中津が問題を見ていると、後ろから問題を覗き込んでいた見た目五〇代くらいの茶色いコートを着た警察官が「なんだ、これは?」と呟いた。中津はすぐにピンと来たが、まずは約束通り写真を撮って安心院に送信することにした。問題用紙を写真に撮っていると、茶色いコートを着た警察官が「おいお前、何をしている? 勝手なことをするな」と言ったが、中津は聞き耳持たず続けた。

「おい。お前だよ」と警察官は言った。

「彼はいいんじゃ。わしの協力者じゃから自由にさせておる」と雲海が言った。

「えっ、そうなのですか。協力者……まだ学生に見えますが…」

「彼は夢乃森学園の優秀な生徒じゃ。最初の暗号も彼が解いた」

「えっ、あの暗号を!?」

「そうじゃ。じゃから彼の邪魔はするな」

「は、はぁ」

 中津が問題を送信すると一〇秒も経たないうちに安心院から着信が入った。雲海にも会話が聞こえるようにスピーカーモードで応答した。

「中津です」

「中津くん、これって、ポリュビオスの暗号ね」

「はい」

 中津、安心院、雲海はすでに気づいていたが、周りの警察官はポカーンとした顔をしていた。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回もお楽しみに。

感想、お待ちしております。

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