はじまり
ある日、少年は一人誰もいない公園のブランコに座っていた。少年は朝からずっと公園にいるが、帰る気配がまったくない。なぜなら、家に帰りたくないと思っていたからだ。家に帰っても誰もいない。父も母もいなくなった。独りぼっちの少年にとって、家は寂しい場所になっていた。
空はオレンジ色になり、カラスたちが「カァ、カァ」と鳴いていた。少年は夕日を見て一瞬視界が眩み、手で目を覆った。そしてゆっくりと視界が戻り始めると、少年の目の前に黒いスーツを着た大人の男が立っていた。その男の見た目は、三十代くらいのおじさんだった。
少年はそのおじさんから栞と一冊の本をもらった。白い栞には大きな四葉のクローバーが一つ描かれており、本はアンティーク調のハードカバーで、表紙、背表紙、裏表紙には何も書かれていなかった。中を開いてページを捲ってみたが、どのページも真っ白で何も書かれていなかった。
少年はおじさんに尋ねた。
「どうしてこの本は何も書いてないの?」
おじさんは軽く微笑んでから答えた。
「それはね、キミの人生の本なんだ。だから、自分では見ることができないんだよ」
「人生の本?」
「キミには〇〇の素質がある」
「〇〇ってなに?」
「いずれわかるときがくる。そのときが来るまで、その本と栞を大切に持っておくといい。きっと役に立つ」
そう言っておじさんが少し横に移動すると、少年の目は再び夕日で眩んでしまった。そして視界が戻ったときには、おじさんはいなくなっていた。
それから少年は、おじさんの言いつけを守り、本と栞を大事に扱った。学校に行くときも、一人でご飯を食べるときも、夜寝るときも一緒だった。
そして月日が流れ、そのときの少年、中津夢翔は高校二年生になっていた。
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次回もお楽しみに。