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パリピ探偵×龍和红姫  作者: 相沢ケイ × 吉良 瞳
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お買い物

 眞理が連行された先は街中のファッションビル。

「ここって……」

 彼女の目の前には、ピンクで彩られたメルヘンワールドが構えられていた。

『Berry,The Stella Shine Bright』

 店頭に並ぶトルソーに着せられた、おとぎの姫のような洋服を見た眞理は顔をこわばらせた。彼女の脳内で、おそらくここの常連であろう友人が高笑いを上げる。

「俺、ゲームコーナーで遊んでいよっかなー」

 ポアが振り返ろうとしたが、その襟をタツが掴む。

「おいおい、さっき言っただろ。手伝ってくれよって」

 そもそも、ポアにはその意味がわからない。

 たかだかお洋服屋で何を手伝うのだろうか。

 明蘭はそのまま眞理を店内に連れ込み、後に続いてタツがポアを引き摺り込んだ。

「いらっしゃいませ」

 シフォンケーキのようにふわふわしたお洋服に身を包んだ店員達が挨拶する。だが、彼女達は明蘭の顔を見ると心なしか青ざめていた。

「り、李さん大瀧さんお久しぶりですね」

 その名前が出た瞬間、一面ピンクの店内でくっちゃべっていた女の子達が一斉に振り返る。

 眞理にはその場の皆が後ずさっているのがわかった。

「とりあえず……」

 周囲の様子など気にもせず、明蘭は吊るされた色とりどりの洋服を指さした。

「あそこ、全部ね」

 彼女の指示に店員がバタバタと洋服を運ぶ。

 他の客がそれを見て、気にしていた服を慌ただしくキープ。眞理はその様子を眺めながら顔を青白くしていた。

 今運ばれて行った服一着一着がいくら程するか、友人から嫌と言うほど聞かされていたからだ。

「さて、と」

 明蘭が改めて眞理を見つめる。

「眞理姉さん、どれか着たいのあるかな?」

 何とも大雑把な聞き方。

 眞理は頭の中で、『着たい服』では無く『自分が着ても無難な服』のイメージを模索する。……が、やはり浮かばない。

 ふと、店の隅でポアが洋服の隙間から紫色の裾を摘んでいるのが目に入った。

「と、とりあえずアレにしてみようかな……?」

「えっ。わかったよ」

 明蘭は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに表情を戻して店員の元へ。それから眞理は、連れてこられた店員に案内されて試着室に入った。

「ごゆっくりどうぞー」

 ゆっくりとカーテンが閉められる。

 彼女は改めて、今から試着する洋服を広げた。

「あの人の服、ここまでボリュームあったかな……?」

 幾多にも重ねられた生地が重たく嵩張る洋服……もとい、ドレスを眺めながら呟く。

 ――自分があまり知らないだけ。

 何となくそう思うと、胸の中でよくわからない納得感が湧いてきた。

 彼女はとりあえず、着ていたブラウスに細い指をかけボタンを一つ一つ外して行った……。


 試着室の外で、タツは一面青く色塗られたエリアで自分用の新しいブラウスを選んでいた。その隣でポアと明蘭が、トルソーに着せられた王子様の様な服を見つめている。

「ポア君もお着替えする? いいよ、買ってあげる」

「……マジで?」

「うん! だって似合いそうだもん」

「い、 いえーい」

 トルソーとポアがあっという間に入れ替わる。

 タイ付きの白ブラウス、少し膨らんだ黒いハーフパンツに、裾が燕尾になっている青いベスト。

 十字架模様の入ったニーハイタイツとパンツの隙間から覗く脚の素肌が、彼の幼い雰囲気と相まって愛らしい。

「わーい! ポア君かわいい!」

「何となく着替えただけなのに様になるなんて、ポア公すげぇな。俺なんて今だに服と面が馴染まねぇよ、ははは」

 タツが壁に背をかけながら爽やかに笑う。

「そういえば、眞理姉さん遅いね」

 明蘭はタツを連れて再びピンクのエリアに戻って行った。

 ポアもついて行こうとしたが、店員がベストの背中に編み上げられた紐を結んであげると言うので立ち止まる。

 彼の背中でゴソゴソしながら店員は切り出した。

「大瀧さん、前までここ入るの嫌がっていたんですけどねー……。あのジャケットも嫌々羽織っていたと言いますか」

「ふーん……」

 ポアはふと、タツの身の振りを思い返した。

 野暮ったい言動だけど、当たり前のように明蘭の身の回りを世話して、当たり前のように明蘭の趣味に合わせて、どんな明蘭も笑い飛ばして、彼女の全てを受け入れている。

 他にもごちゃごちゃ思う所はあるが、店員の言う通り元々は全て嫌々だったとしたら二人はお互いをわかりあうまで相当努力したのだろう。

 男としてポアはタツに感心したが、同時に彼を手懐けた明蘭にも驚かされていた。

「はい、おっけーです」

 キュッと締め上げられたベストがポアの背筋を正す。

「さんきゅー」

 すると丁度、ピンク側の試着室が開いた。眞理が着替え終わったようだ。

 早速ポアも向かう。

「あのー……、これ、本当に大丈夫ですか?」

 出てきた眞理が、重々しいレースを広げる。

 スカラップ状に加工された裾が何枚も重ねられたそのドレスは、まるで眩ゆい紫陽花のよう。

 だが、何かが違う。

 難しい顔をしながらタツが呟く。

「何か、うん。何て言えば良いんだ……?」

 その横からポアがケロッと入ってきた。

「わー、マジで着ただけって感じ? ピアノの発表会みたい! て言うかむしろアレだね、女装みたい。顔と服が合ってな……ぶへっ」

 彼の頭にタツの手刀が落ちていた。

「ですよねー……」

 苦笑いを浮かべた眞理は再び鏡を見つめた。

 ポアの言う通りだ。

 幸の薄い顔に、簡単に纏めただけのヘアスタイル。

 友人からよく言われるちゃちゃーっと済ませたようなメイクとスタイリングが、華やかなドレスワンピースに合うわけもなく、結果としてポアの言う通り違和感だらけに。

「……眞理姉さん、こっちの方が似合うかも」

 そう呟く明蘭の手には、また別の洋服が用意されている。

 それは先程纏めて購入した物で、同じく淡めの紫の、眞理が今着ている物に比べると随分素朴なデザインだ。

「メイが着せてあげる」

 彼女はそう言い、再び眞理を試着室に押し込んで自身も飛び込んだ。

「ねータツ兄、メイちゃんっていつもこんな感じ?」

「そう言うわけでもないぜ。……あ、でも、エリカがいなくなってから少し寂しそうだったんだよな」

 タツの目の奥に複雑な物が写る。ポアはそれ以上は触れなかった。

 しばらくしてバタバタと試着室が開き、お色直しした眞理がまだ顔を赤らめながら姿を見せた。

「おー!」

 ラベンダーカラーは元々眞理に合っていた。が、先程の場合は豪華な装飾が彼女の顔と喧嘩してしまっていたのだ。

 今度の物は幾分もスッキリしたデザインとなっており、レースが控えめになった分着る人そのものの可愛らしさを立ててくれている。

 また、胸からスカートの切り返しが上の方になっているため、腰の位置が少し高い眞理の大人可愛い雰囲気にしっかり添っていた。

「眞理ちゃんいいねー! 今度からそれで生活したら良いじゃ……ぶへっ」

 余計な事を言いかけたポアの頭に、タツは側にあったドロワーズを乱暴に被せた。

 一緒に出てきた明蘭も何故か同じ物の色違いを着ており、二人で紫と赤のお揃いに。

 彼女が脱いだバーバリーチェックのコーデをタツはせかせかと回収した。

「さ、行こう!」

「え、えぇ……」

 まだ躊躇っている眞理の手を引くと、彼女はそのままお店を飛び出して行った。

 

 

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