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蒼白の天狼  作者: ベルトに乗った肉
禁忌衝突編
6/34

06 一難去って

 ジーク不在の中、シリウスの前に現れたのは、世界最凶の存在【禁忌】だった。果たして彼女の命運は!?

「俺と戦って、俺を殺してくれませんか?」

 魔人はシリウスに言った。

 馬鹿げている。

 初めて見たのだ。これが俗に言う“破滅願望”と言うやつなのだろうか。

 多分断っても無駄だ。

 今のシリウスにできることは、ジークの帰りを待つこと。つまり、時間稼ぎ。

 その上で答える。

「殺してやるよ」

 本心ではない。それはシリウス自身が一番分かっている。これはただの焚き付けだ。

「ケヒッ……」

 不気味に笑う魔人。

 その瞬間、右手を差し出し、親指を下に突きつける。

『術式展開ーー禁忌ノ業【概念操作】:“冥墜(マイティー・フォール)”』

 未知の術式だ。

 だがーー

(のろ)い…!)

 間一髪でかわした。またしてもクレーターができる。

 強力な分、術式構築速度は遅い。とはいえコンマゼロ秒の世界である。それでも、回避するには十分すぎる時間だ。

 攻撃を躱していく中で、考えていた。

 反撃するべきか。

 どう見てもガラ空き。攻撃しようとすればいつでもイケる。

 だが、それが罠だという可能性も捨てきれない。もとより、それは有名な戦法だ。

 厄介なのは、魔人は拳に重力を纏っていることだ。

 アレで殴られでもしたら、内臓はグチャグチャに潰れかねない。

 魔人本人の速度は速く、むしろ肉弾戦の方が良いのではと錯覚するほどだ。もちろん、それも相手の作戦の内であるーーその可能性があることも忘れない。

 それによって相手に距離を詰めさせ、射程範囲内に来たところで、あの重力押し潰し攻撃が来るに違いない。

 だが、避けてばかりでは埒があかないことも分かっている。

 ここは背後をとってーー

 叩く!

『“破弾(はだん)突撃銃(アサルト)”』

「おうっ!?」

 予想外の攻撃だったのか、驚き混じりの声を上げてよろめいた。

 特別な属性ではなく、純粋に魔力を乗せての攻撃だ。属性相性によるダメージ上昇は狙えないが、その分、相性が悪かった時のダメージ軽減もない。それは戦闘において数少ない利点であった。

 しかし、魔人にはほとんど効いていない。

「甘いか…!!」

「素晴らしい……!」

 焦りすぎたかもしれない。

 魔力を乗せることができたものの、そもそもの込める力が、そのタイミングが合わなかった。

 ーーもっとだ!

 魔力と、インパクトのタイミング。これをコンマゼロ秒レベルで合わせれば、もっと強力な技になる。

 突撃銃(アサルト)なんかではない。圧倒的な破壊力を誇る、『砲撃銃(カノン)』。それは窮極魔法【(カイ)】に匹敵する。

 常に背後に回り、攻撃、を心がける。正面からの攻撃は、どんな目に合うかも分からない。

破弾(はだん)ーー』

「フッ!」

 ギュン!と重力の向きが変わった。そのまま飛ばされて、木の幹に激突する。まるで地面に背中から落ちたようだ。

「ガハッ……!」

 ーー重力の操作による吹き飛ばし。三半規管が狂う…。

 何度も何度も、重力の向きは忙しなく変わり、その度に、シリウスの体は()()()()()()()()()

 側から見れば横方向に飛ばされていても、シリウスの感覚では落下しているのと同じだった。なぜなら重力が横向きに掛かっているからだ。

 範囲も絶妙だ。あと少しのところで重力の向きが変わり、魔人との距離が開く。全身がムカムカする。近づけないことへのやるせなさが、苛立ちへと変換される。

「あぁぁ、クソッ!!」

 ーー駄目だ。平静を保て。オレは乗せられていた。

 深く深呼吸し、込み上げた怒りを鎮める。

 それは魔力として、力に変換される。とても美しいまでに、正しく、純粋な力。感情任せではない力となる。

「良い……!」

 魔人が何を言おうと、気にしない。

 戦いの本能のままに、全神経を、この一撃に賭けるために集中させる。

 魔力と力が同時にぶつかる。

『“破弾(はだん)砲撃銃(カノン)”』

「【無】属性攻撃……!ーーなるほど」

 シリウスの全身全霊の攻撃。


 それは、避けられた。


「ガラ空きですよ」

 足払い。

 重力を掛けるまでもなく、簡単に地面に倒れ伏した。

「まだ、早かったかな」

 親指を下に突きつける。

 またあの術式が発動する。

「んあぁぁ!!」

 重力が掛かる前に、立ち上がろうとする。

 手が、膝が、地面から離れた。

 逃げられーー

『“冥墜(マイティー・フォール)”』

「ぁ……!?」

 ーーなかった。

 ようやく立ち上がれたのが、再び叩きつけられる。

 膝が割れるかと思うくらいの衝撃。

 圧倒的な力を前に、押し潰されそうになる。

「う、あ……がぁぁぁぁぁ!!!!」

 四つん這いとなり、全力で抵抗する。

「ハァ……ぬんっ!」

 魔人はさらに力を込める。

「ッ!?が、あぁぁぁ…!!」

 左腕が外れた。肘が付いて、体制が崩れる。

 それでも耐える。

 体がミシミシと音を立てようとも、気にしなかった。それどころか術式の範囲外まで逃げようと、()う。

「クッ!!」

 また重くなる。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 右腕も、耐えかねて肘が付いた。

 魔人はさらに力を込める。

「グ……うぅぅぅぅ…!!」

 不味い。これ以上は死ーー

『“影牢(かげろう)”』

「ッ?」

 突然、魔人の影からいくつもの漆黒の触手のようなものが伸びる。

 それは魔人の頭の上で一点に集中する。

 まるで、“影でできた牢獄”のようだ。

 触手は徐々に狭くなり、繭のように魔人を包み込んだ。

「ハァ、煩わしいーー」

 魔人はそう言い残すと、自身の影に押しつぶされ、消えてしまった。

 それと同時に、“冥墜(マイティー・フォール)”は解かれる。

「っハァ……!」

 その瞬間、完全に力が抜けたのか、地面に突っ伏した。

 現れたのは、ジークだ。フードを被っており、顔はあの骸骨になっていた。

「間に合って良かった。大丈夫ーーじゃないか……」

「お陰様で」

 地面に倒れ伏したまま答える。

魔獣(あのコ)は?」

 辺りを見回し、狼型の魔獣の姿を探すジーク。

 寝返り、仰向けになったシリウスは、結界がある方を指す。

「家の中。多分ね」

「避難させたのか」

「ーージーク」

 仰向けのまま、シリウスは問いかける。

「……」

 ジークはだんまりだ。

 構わず続ける。

「今のは、何者だったんだ?」

 異端、異物、怪物、狂気、不気味、それでもまだ言い表せないような存在。

「………この世に、存在してはいけないモノだよ」

 世界の規律から逸脱し、かつては封印された。

 しかし、数千年の時を越えて復活ーー眠りから目覚めたソレは、再び世界を混沌に陥れようと暴れ始めた。

 数多の禁忌を犯し、存在そのものが禁忌となった彼の名は、【禁忌(タブー)】。

「存在しちゃいけないって、ヤバいじゃん!」

「でもそう簡単に殺させてくれないのが【禁忌(タブー)】だよ。君も今ので痛いほど理解しただろう」

 死を望み、一方で、戦いを望む。その矛盾が、奴の異様さに拍車をかける。

 戦いの愉悦。自身の本能に従い、奴は死ぬために戦い続ける。

「『禁忌ノ業【概念操作】』、奴はその能力(チカラ)に呑まれるどころか、使いこなしてしまった。奴を怪物たらしめている最大の要因だ」

 ーー奴を倒す術は今のところ、無い。

 まだ“寝起き”の奴は、【禁忌】としては不完全である。

 それでも、やがて完全に覚醒すれば、手に負えないほどの存在になるだろう。

 叩くのならば、今が好機だ。

 しかし、簡単に殺せるものではない。それが【禁忌】である。

 戦うこと。それが絶対条件である以上、並の戦士ではまるで話にならない。

「あの様子だと、完全覚醒までは、ざっと見積もって……四年」

「よ、ねん……?」

「長いなんて言うなよ?これまでこの世界では数多の【禁忌】が生まれ、封印され、中には奴のように再び目覚める者もいた。奴らが完全に覚醒するのに要した年月は、十年あるいはそれ以上」

 シリウスは理解した。気づいた。【禁忌(タブー)】が如何に危険なのかを。

 そして、悟る。


『三年で原始魔法を究極魔法へと進化させる』


 常人ではたどり着くことすら難しい術式の極地。それをたった三年でなんて、無茶だと思っていた。

 【禁忌(タブー)】と出会って分かった。

 フリーは焦っていたのかもしれない。

 あくまでも予測でしか無いが、ジークが叩き出した、【禁忌(タブー)】の完全覚醒までの年月数。

 そして術式強化のための年月数。

 それらを照らし合わせた時、自ずと答えは見えた。

 シリウスは自分の役目を理解した。

 ーーオレが【禁忌(タブー)】を殺す。

 シリウスは起き上がった。体の痛みは完全になくなっている。

 ジークはふとシリウスの表情を見た。

「これから忙しくなるよ」

 そして、そう声をかける。

「あぁ、分かってる!」

 覚悟の目。ーー良い眼だ。ジークは笑った。


◇◇◇


「お、お出かけ……?」

「そう!気分転換に、ね?」

 もっと血と汗と涙滲む、キツい修行が待っていると思っていたシリウスは、楽観的な様子のジークに拍子抜けした。

 いや、違う。聡明なジークのことだ。きっとシリウスが思っている以上に『すごいとっくん』が待っているに違いない。

 出かける準備を始めるシリウス。

 とはいえ、持ち物はほとんどない。全てドラコに置いてきた。それもこれも、全て無断でここまで連れてきた、ジークが悪いのである。

 そこで、ジークは肩掛けカバンをシリウスに渡した。

 【収納(ストレージ)】の術式が刻印されており、容量は何と無限。

「それでは、行こうか!」

 杖を持ち、シリウスを抱き寄せる。

「っ……?」

 杖を床に突く。

 魔法陣が二人及び一匹の足元に展開。術式を発現する。

『【空間転移】』

 暗転。

 ズンと軽い衝撃が掛かると、視界が晴れる。

 何の変哲もない、ジークの家だ。

「はい、着いた」

「冗談でしょ?」

「さあ?ドアを開けてごらん」

 半信半疑になりながらも、玄関へと向かう。

 外の音が聞こえる。それで何となく理解したが、ドアノブに手をかけた。

 開け放つ。

 ーーそこは、街だ。

「………は?」

 見たことのない建物。ドラコではない。

 では、どこだ?

 狼型の魔獣を抱えたジークが出てきた。

 その服装はパリッとしており、そこにフードではなく、中折れハットを前下がりに被る。

「魔導大国、エデン帝国へようこそ。魔導技術の最先端であり、西洋で最も大きな国さ」

「エデン、ていこく?」

「あー、皇帝様が治める国のことさ。この国は、その中でも最大規模を誇る」

 郊外に出れば、帝国領で法律適用外の区域、エデン平原が広がる。そこは大型魔獣が悠々と歩く姿が見られるが、命の保証は一切ナシ。

 平原は四つのエリアに分かれている。

 低級エリア。スライムやゴブリンなど、下級の魔獣や魔物が湧く、冒険初心者向けの区域だ。

 中級エリア。物理攻撃耐性や術式耐性のある魔獣、魔物が生息する。中、上級者向けのエリア。

 上級エリア。中級エリアの魔獣はもちろん、小型でも多くの群れを成す種や、状態異常攻撃をしてくる個体が登場する。ここまで来ると、一国の騎士団が遠征に来ている姿がたまに見られる。

 “不可侵入区域”。踏み入ったが最後、生きては帰れぬと言われる、東の区域。かつてこの区域に入り、生還したのはフリーただ一人である。

 これらはかつて、一つの平原だった。

 それを階級ごとに区域分けを行なったのが、三代目エデン皇帝だ。

 区域境界付近には強力な結界が張られ、魔獣や魔物だけを拒む効果を持っている。そうすることで、人間の活動範囲を獲得、拡大していったのである。

 現在の皇帝は五代目。史上最年少の皇帝で有名だ。彼の年齢はシリウスの少し上、十七歳である。若年で即位したのには、先代の急逝が関係していたという。

「あの大きな建物は?」

 白いレンガ造りの建物を指差すシリウス。十字架を模した(つるぎ)と盾のシンボルが特徴的な、帝国で二番目に大きな施設だ。

 国民でアレを知らぬ者は誰一人としていないだろう。

「“帝国魔導聖騎士団(ていこくまどうせいきしだん)”の訓練施設と、寮だよ。アレは帝国最大の軍事施設なんだ。覚えておくと良い」

「へぇ……」

「あそこの団長さんは……確か13、だったかな?シリウスの二つ上だね」

「13歳!?」

 驚愕の事実に思わず叫ぶ。

「本当さ。この国では皇帝の次に有名なんだから。彼女の名は、ヴェガ=リラ」

 帝国魔導聖騎士団長、【琴座】のヴェガ=リラ。人は彼女を『黒に愛されし剣姫(けんき)』と呼ぶ。聖騎士団最強の細剣(レイピア)使いで、剣技で彼女の右に出る者はいない。

 さて、ジークがここに来た目的は他でもない。

「書店に行くよ!」

 嬉々とした様子で、魔導書を買いに歩き出した。

「やっぱりそれか…」

 呆れながらも、狼型の魔獣とともにジークの後をついていく。


 訪れたのは、まるで書庫のような店。ジークの身長以上の高さの本棚には、魔導書がギッシリと詰められていた。ほとんどはジークの家にあるものだ。

 ジークは迷うことなく、最奥のカウンターまで歩いていく。シリウスは、魔獣が入ることができないため、外で待機だ。

「店長」

 ジークが声をかけると、本を読んでいた店長は、上目遣いに(ジーク)の顔を見た。そして驚愕する。

「ま、魔人王殿!?」

「やっぱりバレちゃったか……久しぶりですね」

 言って、微笑む。

 手を伸ばし、両者は握手を交わした。

 ジークと店長は昔から知り合っている仲で、ジークの家の魔導書のほとんどはここで入手しているものだ。

「それで、本日はどのような本をお探しで?」

「“絶版”を」

「……………畏まりました」

 店長は立ち上がり、更に店の奥へ行く。

 およそ一分後、店長はとある一冊の魔導書を持って戻ってきた。

 角に金属が取り付けられ、耐久性を高めている。さらに専用のベルトが巻き付けられ、如何にも閲覧禁止と言っているかのようなそれ。

 長年探し求め、ようやく見つけたものだが、これが現存する最後の商品である。故に“絶版”なのだ。

 魔導書と言うよりは“教典”に近く、それもそのはず、中身は【聖】属性魔法がたくさん書かれており、神官や司教、聖職者御用達の逸品である。

「流石、仕事が早いね」

「恐縮ですな。たまたま売れ残っただけですよ」

 これでも正規のルートで手に入れたものだから、彼が如何に業界で信頼できる人物かが分かる。

 魔導書、特に教典となると、神官や聖職者専用なだけあって、マニアには大変人気が高い。

 教典は、常に新しいものが作られている。故に旧版ができ、収集家はこれを狙っている。

 魔人王であるジークは、その権力を振るえばどうとでもなるのだが、本人がそれを嫌う。だから“旧版”となる時まで待ち続ける。有り余る命を楽しむため、ジークはどんなことだって我慢できるのだ。

「金貨20枚です」

「ーー高くない?」

 項垂れながらも、20枚きっかり払う。

「いいえ、妥当な金額かと思いますが?」

「まあ、良いけど。ありがとう、店長」

「まいど」

 一仕事終えて、読書に戻った店長は無愛想だ。これほどまでの切り替えの速さ、これもまた店長の魅力でもある。

 ジークもそれ以降は言葉を発することなく、無言で店を去った。

 再び通りに戻ってきたジーク。

 シリウスの姿がないことに気づいた。

 しかし、怒ることなく落ち着いた様子で教典を懐にしまった。

 問題ない。

 狼型の魔獣の、魔力の残滓を辿ればシリウスも見つかるはずだ。

 魔導大国エデン帝国は、街中に術式に関することがたくさんあふれている。歩くだけでも術式の勉強になる。だからこそ、ジークはシリウスを自由にさせている。

「一応、待っとくように言ったんだけどなぁ……」

 観光がてら、シリウスと合流することにしたジーク。

 魔獣の魔力の残滓を辿り、歩き始めた。


 それは数分前のこと。

 書店の壁にもたれかかり、座るシリウス。その横には狼型の魔獣。静かに、ジークが戻ってくるのを待っていた。

 しかし、魔獣が突然頭を上げて、鼻を鳴らし始める。何かの匂いを察知したのだろう。

 ふと、シリウスの顔を見る。

「ーージークが待っとけって言ってただろう?」

 魔獣の様子を見て、忠告するが、それでも行きたがっている。

 シリウスは思案する。

 ジークなら、魔力の残滓を辿ってきてくれるはずだ。

 動物が森で足跡や匂いを残すように、魔獣もまた、歩いた道に魔力の残滓を残す。これはドラコで知ったことだ。ジークほどの魔導師となれば、それを辿るくらい造作もない。

 後ろ髪引かれる思いもありながら、魔獣の後を追い、その場を去っていった。

 ーーやがて辿り着いたのは、小さな雑貨店。

 伝統工芸品やお守り、その他諸々。店頭にもいくつか陳列されていた。

「へぇ……!」

 良いお土産になりそうだ、と商品を眺める。

 先程の通りから、街道をいくつか挟んで辿り着くここは、武器や防具の店が軒を連ねている。

 中には、“帝国魔導聖騎士団御用達の武具店”なんてものがあったが、明らかに胡散臭い。

 そもそも、騎士団の武器は全て魔鋼製のものだが、その店には魔鋼製の武具が一切並べられていなかった。

「オレの眼は騙されないぞ」

 武器の知識に関しては誰にも負けないほどの自信がある。シリウスには、ドラコに武器屋を営む、獣竜族の親友がいるのだ。武器に関する話は、その彼からいろいろと聞いているから分かる。

 そんなふうに武器屋を見ていた時だった。

 突然通りが騒がしくなった。

 男性の叫び声が聞こえる。

「泥棒だぁぁぁぁ!!」

(嘘だろ、エデン帝国!?)

 万引き犯だ。奇しくも、その男はシリウスの方へ走ってくる。その手に持たれているのは、魔剣。

(ッ……!紋章は!?)

 魔剣の多くは、剣身に紋章術式が刻まれている。それにより、剣が炎に包まれたり、斬った相手を凍らせたりできるのである。

 シリウスは魔剣の紋章を確認する。モノによっては、振り回されたら辺り一帯が真っ二つに切れてしまう可能性がある。

 紋章の種類は魔導書で読んだことがあるので、ある程度のものは分かる。

 しかし、男は走っている上に、抱き抱えられているそれ。紋章の確認ができない。

「ッ……!」

 躊躇っているうちに、犯人はシリウスの目の前を通り過ぎていく。

 すると、魔獣が吠えて、犯人を追いかけ始めた。

「…………分かった、行こう!!」

 シリウスも追いかけ始めた。

 流石はフリーの弟子である。足の速さは並の冒険者以上だ。

 徐々に距離を詰める。

 あと少し……!

 シリウスはさらに【迅速】を発現しようとした。

 ーーその時。

「ウォン、ウォォン!!」

 魔獣があらぬ方向を向いて吠えている。

「何!?」

 思わずその方向を向いた。

 それは、屋根の上。

 大きな影が、そこを駆けていた。

「何だ、あれ?」

 一瞬止まるが、その後を追うように再び走り出す。

 一方、屋根の上を走っているのは大きなリュック。一歩走る度に、取り付けられた金具ーーお守りやら伝統工芸品やら貴金属がぶつかり合い、ガチャガチャと音を立てていた。

 何よりその大きさ。

 大きなリュックは、背負っている主を隠すほど。背後からは完全にリュックしか見えない。

 視線をずらし、犯人を見た。

 小路に入る。

「クソッ!」

 シリウスも、手前の小路に入った。

 その瞬間、右手の屋根を走っていた者は、幅十メートルはある通りの上を跳び、反対側の屋根へ。

 その時に初めて見えた。

 燃えるような赤い髪。それに、獣耳。そして、尻尾。

「まさか……!」

 なぜかこの時、シリウスは犯人への興味が薄れてきていた。

 赤髪の獣耳を持った獣人の方が気になったのだ。

 もし彼が、本当にそうだとしたら、シリウスが初めて出会う者かもしれない。

 小路を抜けた。やはり犯人はいる。

 同時に、赤髪の獣人も現れる。

 犯人はシリウスに向かってきた。

「このッ……!」

 男の前に立ち塞がるシリウス。

 男は叫んだ。

「ッ!退けェ!」

「嫌だ!」

 全力で否定する。

「チッ……」

 男が取り出したのは、

(なッ!?)

 盗み出した魔剣だ。

「術式展開!!」

(ここで振る気か!?)

 シリウスの表情が、焦りの色に変わる。

『【氷纏装身(ヒョウテンソウシン)】』

 まだ不完全だが、やらないよりはマシだ、と氷を纏った。

 魔剣が光り輝き、術式の気配がした。

『術式展開ーー紋章術式:“光斬”』

 魔剣を振るう。

「ッーーーー!!」

 飛んでくる斬撃を、背を逸らして避ける。

 透明な剣身。収束した光を斬撃として、固定、飛ばしてきたのだ。

「あっぶな!ーーあぁっ、待てー!!」

 回避に気を取られたところを、あっさり突破される。

「ヤロー……!」

『【迅速】』

 身体強化術式を発現。

 先程の何倍もの速度で、犯人を追跡する。

 ーーだが、それよりも早い速度で犯人を追いかける者がいた。

 赤髪の獣人だ。

 大きな荷物を持っていながら、速度はシリウスよりも速い。

 ドン!と踏み込み、独特の構えを取る。

 そして、犯人目掛けて飛び掛かった。

「ッーーー!?」

 驚愕するシリウス。

 赤髪の獣人は、空中でリュックを放り投げ、男の退路を断つ。

「クッ……!」

 そこに、身軽になった赤髪の獣人は空転する。

脚闘術(きゃくとうじゅつ)・弐式奥義“鎌鼬(カマイタチ)”』

 着地と同時に蹴り上げ。そこから斬撃が飛び出した。

「何ッ!?」

 男は魔剣で受ける。

 そこに、赤髪の獣人は距離を詰める。

 両手の拳を、男の腹へ叩き込んだ。

拳闘術(けんとうじゅつ)・陸式奥義“震烈拳(シンレツケン)”』

「っガハッ………!!」

「フッ……!」

 右手を蹴り上げる。

 持っていた魔剣が宙を舞い、赤髪の獣人の手元に落ちてくる。

 そのまま男の眼前に向けた。

「ヒィッ……!」

 情けない声で悲鳴を上げる。魔剣の恐ろしさを知っている故の反応だ。

「魔剣はーー」

 赤髪の獣人は口を開いた。

「ーーただ振り回しときゃ良いって訳じゃねーんだよ」

 向けていた魔剣を収める。

 リュックを拾い、再び背負った。

「これに懲りたら、もう盗みを働こうとするんじゃねーぞ?」

「……チッ、お、覚えてろよ!!」

 赤髪の獣人の忠告を聞くが、そう吐き捨てると、その場から走り去っていった。

「反省の色ナシ、か……。ーーあ、お前もサンキューな」

「へ?」

 赤髪の獣人はシリウスに話しかけた。

 不意打ちだったのか、素っ頓狂な声を上げる。

「アイツに魔剣を振らせてなかったら、俺が攻撃する隙が無かったからな。助かった」

「あ、あぁ、よかった……よ」

 間違いない。

 目の前にいる彼、赤髪の獣人は、人狼族だ。それにしても、赤毛なのは珍しい。

「俺の名は、カムイ。カムイ・グレンだ。まさかこんなところで同族の奴に出会うとはな」

 赤髪の獣人ーーカムイ・グレンは獰猛に笑った。

「シリウス・ブラウ」

「おう、よろしくな、シリウス」

 二人は握手を交わした。

 カムイは手に持っていた魔剣を見つめる。

「これ、店に返さないとだよなぁ」

 そう呟くカムイ。

 しばらく思案したシリウスは、カムイに言った。

「……ちょっと借りて良いか?」

「お、おう、良いけど」

 魔剣を受け取る。

 少し見つめた後、しゃがみ込んだ。

「これの匂い、辿れるかなぁ?」

「……なるほど!使い魔か!」

「使い魔ってほどじゃないけどな。まだ名前もつけてないし。ーーこれと同じ匂いの店に、つれて行ってくれ」

 シリウスは魔剣を狼型の魔獣の鼻先に近づける。

 魔獣はすんすんと鼻を鳴らす。

 やがて辺りを見回し、止まる。そして吠えた。

「こっちだ!」

「へぇ、凄えな!」

 二人は魔獣の後を追うように歩き始めた。


放浪家(ほうろうか)?」

「そう。世界中を回って、見聞きしたものを本に書く。ある意味、作家みたいな職業だな」

 カムイは放浪家だった。

 今からおよそ五年前。故郷の村を出発して、これまでで五十カ国回ってきたという。エデン帝国は、記念すべきその五十カ国目だそうだ。

「シリウスは何をやってるんだ?まさか、お前も放浪家か!?」

「……いや、オレは、修業中なんだ」

「ーー修行?」

「あぁ、人狼王になるための修行!」

 自信満々に言うシリウス。

 しかし、カムイはそれを聞いて硬直してしまった。

 ーーしまった。言わない方がよかったか?

 だが、

「クッ……」

「あ、やっぱうそーー」

「ハァッハッハッハッハッ!!!」

 笑った。カムイは思いっきり笑った。

 やはり信じてもらえなかったか。

 そう思われた。

「ーー良い!!」

「は?」

「面白ェ!夢はそれくらいデカい方が良いよな!」

 ーー信じてくれた、のか?

 どんな種族だろうと、王の名を語る愚か者はいない。

 しかし、カムイはシリウスの話を信じるどころか、応援までしてくれるようだ。

「確かに、お前の“色”なら、素質あるかもな」

 それは、シリウスの体質が全てを語っていた。カムイは、フリーやジークも見抜いたシリウスの才能に、気付いていた。

 しかし、悲しいかな、シリウスには自覚がなかった。

 この時、シリウスは気づいていた。

 ーーカムイは恐らく、否、絶対オレより、強い……!!

 見覚えがあると思っていた。

 カムイを見た時に覚えた、既視感。

 彼は、フリーの第三幹部ガニメデを彷彿とさせる。

 (もっと)も、ガニメデも武術で戦うが、それだけではない。

 “色”は違えど、性質は似通っていた。恐らく、実力もガニメデに並ぶだろう。

 この男は一体何者なんだ!?

「ーーここみたいだな」

 一方、魔獣の案内で目的地に着いた二人。

 店の扉を開けた。

 ーーあ、魔獣は入っちゃダメなんじゃ……。

 しかしその心配は無かった。

「いらっしゃいませ!」

 そこには、魔人がいた。

 血の気の引いた白い肌、燃えるような深紅の瞳。

 「いらっしゃいませ」と言ったからには、店主だろう。しかし、服装は冒険者然としており、何とも不思議な雰囲気だ。

「魔人てみんなあんななの?」

 カムイに耳打ちする。

「し、知らねぇよ……」

「いやはや、大変お騒がせしました。まだ実験段階だったのですが、お怪我はございませんか?」

 魔人の店主は、二人を見つめた。

 瞳が不気味に光る。

「ーーほぅ?あ、いや失礼。ご無事で何よりです」

「店長さん、これ返しに来た」

 カムイは魔剣を取り出し、魔人の店主に渡す。

「これは!わざわざありがとうございます!どうお礼を申したら良いか……!」

「気にしないでくれ。犯人を連れてこられなかったのは残念だが、商品は無事でよかった」

「……なんと、お気遣い、痛み入ります。ーーそうだ!何か、お礼のものを差し上げなければ」

「えぇ!?」

 店主の言葉に驚愕を隠せない様子のシリウス。

 しかし、そんなシリウスを他所に、店主は店の奥へと行ってしまった。

 残された二人と一匹。

 それにしても、不思議な武器屋だ。

 陳列されているのは全て魔剣。だとすると、あの店主は“魔剣鍛治師(まけんかじし)”ということになる。

 魔剣鍛治師は特別なライセンスを持っていなければ名乗ることができない、希少な職業だ。

 魔剣ということもあってか、陳列された武器のほとんどが歪な形をしている。魔剣ならではの形だ。

 その中でも目に入ったのは、店のカウンターの壁に掛けてある二丁の魔剣。双剣だ。

 深い海のような青い剣身と、燃え盛るような紅い剣身が特徴的で、しかしそれは非売品のようだ。

「おぉー!サバイバルナイフ!しかも【火】の術式が刻印されている!これ一つで火起こしもできるのか!」

 魔剣には大きく二つに分類される。

 一つは紋章術式型。文字通り、紋章術式が剣身や柄に刻印されているもので、魔力を流し込むだけで術式が発現する優れものだ。

 もう一つは、魔鋼製の魔剣だ。これは上記のものと違い、発現される術式は使用者の“色”に左右される。例えば、シリウスが使えば、固有術式の【氷】が発現するのである。

 しかし、この店ではそれだけでなく、さまざまな魔剣も作っているようだ。

 カウンターの壁に掛けてある双剣。これは魔鋼製でありながら、紋章術式も刻まれている。

 紋章に魔力を流し込めば紋章術式が、そのまま魔力を流し込めば自身の“色”に応じた術式が発現する、ハイブリッドな魔剣だ。

 これが上級者になると、同時にそれぞれ魔力を流し込むことが可能で、その場合は二つの術式が合体した状態で魔剣に纏われる。扱いが難しい分、強力なものだ。

 他にも、“スロット型”というものがあり、効果は紋章術式型と同じだ。

 大きく異なるのは、一つの武器に対し一つないし、二つまでの術式が限界だった紋章術式型。それに対して、スロット型は、特殊な“宝珠”をはめ込むことで術式発現を可能とするものだ。

 つまり、二つの孔があれば、それぞれ別の宝珠をはめ込むことで、オリジナルのカスタムができるというわけである。

 元来、宝珠は術式行使を安易にするための魔導道具である。スロット型魔剣はその応用だ。

 実はこの店主、このスロット型魔剣の特許を取得しているという。つまり、全世界の魔剣鍛治師で唯一、スロット型魔剣を作ることができる、スゴイ人なのだった。

 店主は店の奥からいくつかの魔剣を持ってやってきた。

 魔剣ならではの歪な形が多い中、シリウスの興味を唆ったのは、比較的形の整った短剣だった。

「お礼と言ってはなんですが、この中からお好きなものを一つ、差し上げますよ」

「い、良いのか!?」

「えぇ、勿論!」

 これら全て、店主が趣味で作ったというもので、()()()()()()()()業物ばかりだ。

 中でも面白いのが、シリウスも目をつけた、短剣。

 本来、誰でも強力な術式を行使できる、で評判の魔剣だが、この剣だけは使()()()()()()らしい。選ばれし者だけにしか扱えないのだ。

「あぁ、それは失敗作ですよ。本来あるべき魔剣とは違う物ですからね。ま、それが良いと言うのなら、何も言いませんが」

 店主曰く、形の整った魔剣を作ってみたところ、店主には扱うことができなかったらしく、調べた結果、使用者を選ぶ魔剣だと言うことがわかったらしい。

 それを聞いてか、カムイは別のものにしようとするが、シリウスは違った。

「……コレだな。コレが良い」

 一目惚れ、とは違う何か。

 でも魔剣(それ)に惹かれたのは間違いない。

 本能的に、コレだ、と思った。

「へぇ、珍しい……」

 店主は驚きも、止めもせず、シリウスが魔剣を手に取る瞬間を注意深く見ていた。

 ーーその時、店の扉が開いた。

 職業病とでもいうのか、店主は扉の方を見た。

 そこに立っていたのは、スーツに身を包み、右手にステッキ、左手には被っていたであろう中折れハットを持っている、男。

「あ…………」

 店主は言葉を失った。

 彼を知っていた。

 一目見た時に気付いた。魔人だ、と。

 その魔人は微笑み、店主に声をかける。

「やぁ」

 聞いたことのある声。

 間違いない。

 彼が、彼こそが、最強の魔導師。

「ジーク!?」

 狼型の魔獣の、魔力の残滓を辿って、たどり着いたのは、小さな武器屋だった。

 しかし、店の風貌も、漂うオーラも、他とは一線を画すものがあった。

 店主が呼んだ名前に、シリウスも、カムイもそちらを見た。

「じっ!?ジークって、あのジークか!?」

 彼のことを知っているのか、驚愕するカムイ。

「待ってたよ!来てくれると思ってた!」

 合流できたことを喜ぶシリウス。

「まったく、残滓が不自然なルートで……辿るのも一苦労だったよ。それにしても、たまたまここに来るなんて、君たちはなかなかお目が高い」

「ちょっと、ね」

 ジークはふと、カムイを見た。

「へぇ!君はあの放浪家のカムイ君では?」

「えっ?あ、あぁ!俺こそ、世界一の放浪家、カムイ・グレン様だ!」

「本物は違うね!とても綺麗な“色”だ」

「………あー、どうも」

 カムイには、何のことか分からなかった様子。

 一方、ジークは店主の方へ。

「こんなところで店を開いているなんてね」

 見知った人物なのか、随分と馴れ馴れしい話し方だ。

 すると、店主の顔つきが変わった。

「ハァ……まさか君が来ると思わないだろう?何の用なのさ?」

 声のトーンは低くなり、軽く悪態をつく。店主だとは思えない態度だ。

「弟子を探してたんだ、はぐれちゃってね。で、魔獣(このコ)の残滓を辿ってきたら、ここに来たってわけ」

「……弟子?まさか、彼女が君の弟子かい?」

「厳密にはフリーの弟子なんだけどね、訳あって僕が預かってるの」

「ーーフリー!?」

 ジークと店主の会話で聞こえてきた名前に、カムイは叫んだ。

 そしてシリウスを見る。

 ーーコイツ、ホンモノだ!!

「あはは……」

 恥ずかしそうに頭を掻くシリウス。

 店主はシリウスに話しかけた。

「そうなると、話は変わってきますね」

 ゴホン、と咳払いを一つ。

「私の名はヒノト。こうやって魔剣を作る(かたわら)、冒険者をやっている。【迅速の双剣使い】とは、私のことだよ」

 双剣使い。シリウスはカウンターの壁に掛けてある双剣を見た。

 そして思い出す。

 ジークの知り合いにいるという、上位魔人の双剣使い。

 魔人一の速さを持つ、最も名の知れた現役冒険者。

「ヒノトとは、昔冒険者パーティを組んで遊んでたんだ。懐かしいよなぁ!」

「黙りたまえ。もう君と組むのはウンザリだ。手柄をことごとく持っていく、最低な男だよ、君は」

「辛辣だなぁ。全く変わってないね、ヒノトは」

 この二人は仲が良いのか悪いのか。少なくとも、敵対勢力同士というわけでもないようだ。魔人は多く、様々な派閥が存在する、と聞いていたが……。

「君に言われたくないね。他人(ひと)よりちょっと魔力操作が上手いからって、調子に乗るなよ」

「アハハッ!そう怒るなよ!ーーで?シリウスに魔剣をくれるのかい?」

 ジークはテーブルに並べられた魔剣を見た。

 そして、一つの魔剣に目をつける。シリウスも惹かれたという、あの魔剣だ。

「これ、面白いね」

「君も、それを選ぶのかい。二人揃って、頭おかしいんじゃないのかい?」

「酷いな。単純に気になったんだよ。魔剣が持ち主を選ぶなんて、とても珍しい」

 ーー(もっと)も、シリウスは別の理由で選んだんだろうけど……。

「売り物じゃないから、タダであげますよ。シリウスはやはり、それが良いんだね?」

「ーーあぁ。なんかビビっと来た」

「では、間違いないだろうね。カムイ君、君も決めましたか?」

「勿論、俺はコイツだな!」

 カムイが選んだのは、孔が四つもついた、片手剣だ。

「“スロット型”ですか…。思い切って四つも開けてみたのですが、量産は体力的にキツいので、一点物です」

「決まりだな!」

 こうして二人は魔剣をそれぞれ選んだ。カムイは赤い剣身に、孔が四つ付いたものを、シリウスは直感で決めた、短剣を手に取った。

 これで終わりーーではなく、突然ヒノトは立ち上がり、言った。

「試し斬り、しましょうか」

 その言葉に、シリウスとカムイは嬉々とした様子で叫んだ。

「「おぉ!!」」


 というわけで訪れたのは、エデン平原中級エリア。ジーク自慢の転移術式でひとっ飛びだ。

「では、これから試し斬りをしてもらう訳ですが、魔剣の扱い方はわかりますか?」

 人狼族二人に問いかける。

「おう!問題ない!」

 とカムイ。

「……ゴメン、分かんない」

 そう呟くのは、シリウスだ。

「そうですか。では大丈夫ですね」

「えっ!?」

「シリウス、君の魔剣は私も仕様が分かっていない。同じ魔剣とはいえ、常識が通じるかもわからない。なので、分からない、が正解です」

「そ、そうなんだ……」

 ヒノトは五つの宝珠を取り出した。

「これは、基本五大属性の宝珠です。好きなものを四つ、スロットにはめ込んでください」

「よし!」

 カムイは【水】、【木】、【光】、【闇】の宝珠を手に取ると、魔剣のスロットにはめ込んだ。

 そして、魔剣を構える。

『術式展開ーー接続:魔導宝珠【水】』

 剣身が、水に纏われた。

「スゲェ……!」

『“水刃(すいじん)”』

 魔剣を振るうと、水の斬撃が飛び出した。

 さすがはヒノトの魔剣。非売品であってもきちんと動作した。

「他の宝珠にも魔力を通してみましょうか」

「おっし、任せろ」

『術式展開ーー接続:魔導宝珠【光】“雷刃(らいじん)”』

 魔剣に稲妻が(ほとばし)り、振った瞬間、振った範囲に稲妻が流れた。

「ほう!【水】と【光】の同時発現ですか!」

 カムイは持ち前のポテンシャルで、見事使いこなして見せた。

 さて、一方のシリウスは。

「先ず、その魔剣の持ち主となることができるか、ですがーー」

「問題ない」

 懸念するヒノトを、ジークがばっさりと切った。

「しかし!」

「大丈夫。シリウスだもん」

 ヒノトは何かを言おうとするが、ジークの眼を見て、抑える。こう見えても、ヒノトはジークを信頼している。だから、彼が信頼しているシリウスのことも信頼することにした。

「……いくぞ」

 シリウスは魔力を魔剣に流し込む。

 しばしの沈黙が流れた。

「……やはりーー」

 ヒノトが声を漏らした、その時だった。

『術式展開ーー』

「何ッ!?」

 驚愕の声を上げるヒノト。

 なんと魔剣が蒼白に輝いたのだ。

『接続確認:“起動”』

 魔剣を構えた。

 そして、術式を発現する。

『術式展開ーー魔剣術式:“絶対切断(アブソリュート・スラッシュ)”』

「フッ……!」

 魔剣を振る。

 その瞬間、目の前の魔獣が真っ二つに切断された。

「なーー!?」

「流石だね」

「すっげぇ……」

 魔剣がシリウスを持ち主と認めた上、とんでもない術式が飛び出した。

 ーーこれは、ヤバい。

 シリウスも気づいていた。

 魔剣、なんと恐ろしいものだろう。

 今発現したのは、紋章術式でもなんでもない。魔剣が持つ、固有術式だ。

 ちなみに、紋章は【風】が刻まれていた。

「初めてだ……。まさか、魔剣に固有術式が存在し得るなんて……」

「そのまさか、だ。大当たりだね」

 シリウスに優しく微笑みかける。

「なん、だこれ」

 魔剣を見つめ、呆然とするシリウス。

「……はぁ、こりゃ売り物になりませんね。魔剣も主人を認めた。完全に、シリウスのものですよ。もってけドロボー!です」

 ヒノトは額を抑え、言った。

「よかったね、シリウス」

「お、おう……」


 店に戻ったシリウスらは、待機していた。

 ヒノトから、待っているように言われ、当の本人は工房の奥に消えた。

 やがて姿を表すと、手に持っていたのは、鞘だ。

 カムイとシリウスに、それぞれ渡す。

「カムイ君のは、腰に。シリウスのものは、(もも)に巻き付けて使用してください」

 二人は言われた通りに、魔剣を収めた。

「おお!いいな!」

「確かに、しっくりくるかも」

「いいね、二人とも似合ってるよ」

 ジークも嬉しそうだ。

「お気に召されて、よかったですよ。それと、カムイ君には宝珠も特別に差し上げます」

「おう!ありがとう!」

「二人とも、そろそろ…」

 ジークが二人に声をかけると、二人は頷いた。

「ヒノト、ありがとう」

 最後に、ヒノトに礼を言う。

「いえ、こちらこそ、面白いものを見させてもらったよ」

「また来るよ」

「嫌だ」

「アハハッ、じゃあね」

「ありがとう、ヒノトさん!」

「楽しかったぜ」

 三人は店を出て行った。


「さて、カムイ。君はどうする?」

 店を出るなり、ジークが問いかけた。

「そろそろ次の国に行く。宿泊費がもったいないからな、平原抜けて、森ん中で野宿だ」

「そうか……。ありがとう、シリウスの相手をしてくれて」

「気にすんなよ、ジークさん。たまたま出会っただけだ。じゃあな、シリウス」

「うん、元気で」

 二人に見送られ、カムイは歩き出した。

 しかし、途中で止まる。

「……?」

 カムイは再び振り向いた。

「シリウス!」

「何だよ!?」

「お前がマジで人狼王になったら、俺を仲間にしてくれよ!」

「………わかった!約束する!!」

「あぁ、約束だ!!」

 二人は約束を交わし、別れた。

 カムイのリュックに提げられた貴金属やお守りの音は、離れていてもよく聞こえた。

 カムイはまた、遠くに行ってしまう。

 でもまた出会える。シリウスは信じていた。

 人狼王になって、約束を果たす。

 シリウスの決意は、完全に固まった。

「それじゃ、行こうか」

「うん」

 二人はしばし観光した後、ジークの家に戻るのであった。

ステータス

〈カムイ・グレン〉

・No data


〈ヒノト〉

・No data


〈【禁忌(タブー)】〉

・禁忌ノ業【概念操作】

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