表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼白の天狼  作者: ベルトに乗った肉
禁忌衝突編
5/34

05 最強の魔導師

人狼の王になるために修行をしていたシリウス。

我流術式【氷纏装身(ヒョウテンソウシン)】の完成、固有術式の強化のためにフリーの元を離れ、魔人王ジークの元で修行することになった。

「この湖を凍らせることができるかい?」

「無理」

「諦めが早いな………」

 二人が出会った翌日、早速シリウスの術式強化の修行が始まった。

 ジークが初めに提示したのは、近辺で最も大きな湖。それを氷の大地に変えること。一面を氷に変えることが、結果的に術式強化の完了を意味する。これほど分かりやすいものも無いだろうと、自信満々のジークだったが、シリウスによってあっさり切り捨てられた。

 ーーさて、どうしたものか……。

「実を言うと、術式は使えば使うほど強くなるんだ」

 毎日のように自分の魔力と触れ合うことで、より早く魔力の核心に迫ることができる。術式の連続行使が手っ取り早いというのはそれが理由であり、『戦いの中で成長する』というのも、そのことが関係している。

「厄介なのは、固有術式によって強化の方法が異なること。戦闘向けの術式であるほど簡単なんだけど、支援(サポート)系の術式となると、使う機会も少ない。昨日のは言葉足らずだった。イオが二年そこらで究極まで辿り着いたのは、種族王の直近であり、戦士だったからね。ドラコを襲う魔族とは嫌でも戦わなければならなかった」

「その上で反転術式も習得したのか」

「よく知ってるね。究極魔法に進化して、イオは治癒特化の術式となった。それを逆手に取った、機転の利いた発想。術式には無限の可能性が秘められている。僕にも知らない秘密が、まだまだあるのかもね」

 どうやってシリウスを鍛えようか考えていたジーク。

 無理だからと、この湖の件を諦めることはしなかった。ーー今は無理でも、究極魔法へと進化すれば出来ないことはない。“修了試験”とでも称し、最終目標にでもしよう。と、今回は妥協したのだった。

 それよりも過程である。

 ジークは最も大切なことを見落としていた。

 何のために家に魔導書を集めているのか。もっと早く気づけばよかったのだ。

「ーーシリウス、ここにはまた来よう。とりあえず、帰ろうか」

「ん、分かった」


 ドン!

 机に大きな衝撃がきた。

 何冊もの分厚い魔導書が、シリウスの借り部屋の机に置かれたのだ。

「えぇ……」

 何かを察したのか、シリウスの表情が曇る。

「術式の使い方がいまいち分かっていないと見た!先ずは術式が何たるか、勉強しよう!」

「うえぇぇ……あんなの感覚だろぉ?」

 項垂れるシリウス。

 狼型の魔獣も、ジークに向かって唸り声をあげる。

「………とにかく、君は一刻も早く術式を鍛えなければいけない。だけどそれ以前に術式の基礎的な部分がまるでなってない。君は自分の魔力が何色か、分かるかい?」

「はっ?な……何色ォ?」

 ーー白?

 適当に答えてみる。

 が、ジークはムカつくような表情で首を振る。

「違う。他人が見ても分かるほど、君の魔力は凄まじいものを放っているというのに、自覚がない。基礎的な部分がなってないのは、そこだ。並の魔導師でも、自分の色は把握しているものだよ」

 決まった。

 修行のメニューが出来上がった。

 ジークはシリウスに告げる。

「暇な時間は、そうやって魔導書を読むこと。あと適度な運動をすること。そして一日に必ず、二時間の瞑想の時間を取ること」

「め、瞑想!?」

「そう。精神を統一することで、魔力の輪郭を捉えることができる。下手すれば、それで一気に究極魔法へ、なんてことも夢じゃ無い。大切なのは、“自己理解”だよ。君は魔力であり、魔力は君であると意識するんだ」

「わ、分かったよ……」

 こうして、シリウスの術式強化の修行が始まった。


 翌日。早朝から瞑想の時間である。集中するのは早いものの、ただ暗闇の中に立っているだけである。

(まだ雑念があるのか……)

 意識的に無になることは、なかなかに難しいものだと痛感する。

 無になれることはよくあるが、意識的にその状態へと至ることができなかった。放心するにも場所を選ぶ。しかし、それでは意味がない。シリウスは自分に喝を入れた。

 やがて朝食の時間になると、ジークが部屋まで呼びにきてくれた。

 今日の朝食はサンドイッチだ。

 たまには外で食べよう、と家のベランダに用意されたテーブルには見事なサンドイッチが並べられている。

 相変わらずイオより、うまい。

 朝食を食べ終わり、シリウスは魔導書を読み始める。もちろん、狼型の魔獣も一緒だ。

 少し読み進めては、術式を使い、実践する。

 その様子を、ジークはただ見届けていた。

(それにしても空間干渉が上手い……。なのに戦う時には体に纏い、自らの攻撃力と防御力を上げている。魔導師には考え難い発想だ……)

 シリウスの様子を見ていて、違和感を覚え始めた。

 空間干渉をすることなく戦闘で術式を行使するのならば、空間干渉を前提とした、魔導士のための書物は意味がないのでは?と。

 無論、術式を行使するにあたって、基礎的な知識は必要となる。そのため、完全に無意味なわけでもない。

 なのでーー

 空間干渉訓練は続けるとして、ここでは術式の使い方を覚えてもらう。

 もう一つ、シリウスの戦法『氷を纏い、攻撃力と防御力を上げての肉弾戦』に関しては、知識でどうにかなる問題ではなく、実戦でやるしかない。との結論に至った。

「シリウス、【氷纏装身(ヒョウテンソウシン)】できるかい?」

「ん?……やってみるよ」

 手の甲から、肘までなぞるように手をかざす。

 氷が顕現し、籠手のように腕に纏われる。

『我流術式【氷纏装身(ヒョウテンソウシン)】』

 手指を握ったり開いたり。手のひらを返したり。どんな感じか、と確認する。

 そして分かった。

「前より、大分マシになったな…」

「へぇ……」

 ーー思った以上に面白い術式だ。

 【魔眼(まがん)】でシリウスを見る。ほんの僅かだが、シリウスの魔力が上昇している。

 魂の底に沈んでいた、潜在的な魔力が汲み上げられ、純粋な力へと変換されている。

(【氷纏装身(ヒョウテンソウシン)】、恐るべき効果…!)

 魔力が上昇し、いわゆる集中(ゾーン)の状態が強制的に、否、必然的に引き起こされている。いつもより感覚が冴え、視野も広くなるだろう。

 これが完成した時、シリウスは間違いなく化ける。ジークは確信した。

「分かった…もう解いて良いよ」

 ジークの合図に、ふぅ、と全身の力を抜く。すると、パキンと氷が弾けて、小さな結晶が舞う。それは太陽の光に反射して、美しく輝いていた。

 ーー展開、解除は手慣れている。あとは、精度、か。

 鍛え甲斐がある。と、ジークはニヤリと笑った。

 しばらくして、ふとシリウスはジークに問いかけた。

「ジークの固有術式って何なんだ?」

 ーー知りたいかい?と、微笑み、立ち上がる。

「見てて」

 そう言って、仁王立ちになる。杖も持たずに。

『“華炎(フローラル・フレイム)”』

 手のひらに火の玉が顕現し、それを握る。そのまま、空へと振り撒いた。

 それは美しい花を模し、紅く燃え盛る。

 シリウスが初めて見た術式だった。

「この通りさ。僕は術式の詠唱を必要としない、【詠唱破棄(クイックマジック)】が固有術式なんだーー」

「へぇ!」

「…というのは嘘で、僕の本当の固有術式は“大魔導師(ウィザード・マスター)”と呼ばれている」

 『授与』、『強奪』、『作成』。あらゆる術式に干渉することができる。

 術式詠唱を煩わしく思ったジークは、【詠唱破棄(クイック・マジック)】を『作成』し、自身に『授与』した。お陰で、ジークは他のどの魔道士よりも魔力操作に長けており、“大魔導師”と呼ばれている所以である。

 ジークは種族王の中でも太古から存在しており、唯一代替わりのない王だとも言われている。それほどまでに長寿なのは、ジークが魔人であるからだ。

 魔人は、文字通り“魔の人”である。人間より魔力操作が上手く、上位の魔人ほど魔導師であることが多い。ジークも然り。

 しかし、世界は広く、上位魔人でありながら、接近戦を好む者も存在する。

 ジークの知り合いだという彼は、双剣を持ち、俊敏性は魔人随一だという。ーーそのうち会わせてあげる、とシリウスに約束してくれた。

「ーーさてと、僕は『生命の書庫』に行ってくる」

 杖を手に取り、フードを被る。

「ん、分かった」

「いい子にして待っててよ」

「子供じゃないんだから、分かってるよ」

 ーー冗談さ。そう言ってジークは森の奥に消えていった。


「おーい、戻るぞ」

 狼型の魔獣に声をかけると、すぐにシリウスの元へ駆けつけてきた。

(こんなに懐いてくれているのに、まだ名前をつける時じゃない気がする……)

 ただ仲良くなるだけじゃない。もっと別の何かが必要な気がする。とシリウスは感じていた。

 それが何なのか、この時のシリウスにはまだ、分からなかった。



 翌朝、ジークはまだ帰ってきていなかった。心配になりながらも、ジークなら大丈夫、と心を落ち着かせる。

 今日はいい天気だ。

 いつかドラコでも感じたような、気持ちの良いそよ風。

 シリウスは、新たな日課となった、早朝瞑想をしていた。

 やはりというべきか、自然の中にいる方が、集中の深さが違う。

 心地良さ。それが鍵になっているのではないか。そう思い始めている。

 暗闇の中で立つ、自分の姿が見えた。

 いつかも見た、夢のような場所。

 それは夢と現実の狭間。精神の中である。魔導書にはそう書かれていた。

(来た……!)

 そう思った時だ。

 突然集中が途切れた。

 余計なことを考えてしまった。その揺らぎで、精神がシリウスを追放した。

 まるで別人。同じ自分の中にいながら、捉える事ができないそれ。ただ悔しい、と歯を噛み締める。

 しかし、時間はきっちり二時間、経っている。

 定刻によって途切れてしまったのだろうか。この時ばかりは、自分の体内時計を恨むシリウスであった。

 ジーク曰く、二時間以下でも、それを越えても意味がない、とのことだ。

 二時間という絶妙な時間の中で、深い集中状態で精神の中に入り込み、魔力の輪郭を把握する。これにこそ意味がある、とジークは語る。

 シリウスは、ジークが不在の時でも食事を取れるように、ジークから食料について説明を受けている。

 昨日の残りがあった、と朝食のために家に戻ろうとした時だった。

 魔獣がいない。呼び掛ければいつでも駆け寄ってくるどころか、動くたびにシリウスにべったりだった狼型の魔獣が、いなかった。

 ふと、先に視線をやると、あらぬ方向に向かって、唸り声をあげていた。そこはジークが出かけた方向とは違う、別の森への入り口である。

「おいおい、そこには何もいないぞー」

 笑い混じりに告げるが、動く気配がない。

 ますます怪しい。

 ジークが帰ってきたのだろうか。それにしては魔獣の様子が変だ。そもそも、その方角から帰ってくること自体おかしい。

 ガサ、と草木をかき分ける。パキ、と枯れ木を踏む。一定間隔で聞こえる音は、明らかに人が歩いているものだ。

「……戻れ」

 声が漏れた。自分の発声に気づいたのは、言い終わった後だ。反射的に漏れた。

 魔獣は言うことを聞かない。

 否、聞こえていない。

 声が小さかった。

「っ…戻れェッ!!!!!」

 ビクッと魔獣の体が跳ねる。シリウスの大声に、流石の魔獣も気づいてくれた。

 シリウスの必死の表情に、彼女の足元まで戻る。

 その瞬間ーー

 ズンッ!!!!と、魔獣がいた場所の地面が凹んだ。何かの力に押し潰されたかのように、綺麗な円形を描いて凹んだ。

 明らかに自然現象ではない。

「家に戻ってろ」

 魔獣に耳打ちする。

 心配そうに、クゥンと鳴くが、シリウスの表情を見て、一目散に駆け出した。

 建物の姿は見えない。魔獣は、ある所で姿が見えなくなった。建物の結界の中に入ったのだ。

 果たして今のは何だったのか。

 残されたシリウスは辺りを見回しーー

「こんにちは」

「ッーーーーー!!!」

 恐怖。それ以上のもの。その時シリウスは、反射的に“死”を見て、後ずさった。

 目の前の存在。

 異物。

 その異様さは、森のざわめきで分かる。

「魔…人?」

 嘘だ。

 アレが魔人だと言うのか?

 ジークは言っていた。


「生物には“色”がある」


 目の前のソレは、無色透明。

 否、そんなものではない。

 “色が無い”。無色ですら無い。“色”と言う概念そのものがない。

 まさに、“皆無”。

「強い。…………強きお方!!」

「………!?」

 この魔人は、シリウスに向かって言っているらしい。

 なんとも不気味だ。

 彼女を強いと言って、それが何になる?

 続けられた言葉に、シリウスは驚愕し、戦慄した。


「俺と戦って、俺を殺してくれませんか?」


 世界の規則から逸脱した異物。【禁忌】がシリウスの前に立ちはだかった。

ステータス

〈ジーク〉

・“大魔導師(ウィザード・マスター)

・【詠唱破棄(クイック・マジック)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ