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蒼白の天狼  作者: ベルトに乗った肉
禁忌衝突編
16/34

15 迎撃

 いよいよ第1章も終盤に入りました。ようやくシリウスを暴れさせることができて少し嬉しいです。

 キノエの森の外に出た魔人王ジーク、人狼族の少女シリウス・ブラウ、シリウスの従魔プロキオン=ブラウの3人。森の状況にそれぞれの反応を示した。

 外は明るかった。

「――もう朝か?」

 シリウスが尋ねると、ジークは答える。

「精霊の国は時間が歪んでいるからね。向こうが夜でも、こちら側が必ずしも夜だとは限らないのさ。特に、日昇、日没は驚くほど早く過ぎていくんだ」

「本で読んだ通りだな」

 どうやら精霊の国の言い伝えは、ジークの家にある魔導書で読んだことがあるらしい。

 さて、当のキノエの森は、なにやら大変なことになっている様子。

 巨大な結界に覆われている。ジークらが訪れる前は、こんなものは存在しなかったはずだ。

 興味深く結界に触れるジーク。バチッと電気のようなものが走り、ジークを拒む。

「外からも、内からも干渉を拒む結界か……考えたね」

 何でも、結界には大きく2種類あり、内側からの干渉を拒む代わりに、外側からの干渉を容易くするもの、逆に外側を強固にして内側からの脱出を安易にするものが存在する。

 結界の術式にもキャパの概念は存在する。1つの結界で、内外両方を強固にしようものなら、相応の術式構築技術が必要であるが、並の魔導師にはできない。

 ただ一つ、できるとすれば――

「2重に展開したら、別だけど」

 外側に、外部からの侵入を拒むもの、内側に、内部からの干渉を拒む結界の2種類を展開することで、完全無欠の結界を作り出すことができる。

 その異様さに目を見張り、唖然とするシリウス。

「どうなってるんだ!?」

 森全体を覆うような巨大な結界。地面には、相応の魔法陣が展開されている。

 これほどまでに巨大な術式は、シリウスは初めて見ただろう。

「地脈干渉ってレベルじゃねぇぞ!?」

「キノエの森には豊富な魔力があるからね。それで結界が維持できているのかも」

 キノエの森の魔力は、精霊の国を隠すために必要だ。

 だが、それを結界の魔力に使ってしまったらどうなるか――

「早く止めないとね」

 ジークは真面目な表情で言った。

 一方、プロキオンはなぜか付いてきた精霊と戯れていた。精霊もまた、興味深くプロキオンを見ている。

「――いやいや、なんでだよ!?」

 そのあり得ない存在に、シリウスは突っ込まざるを得なかった様子。

 ジークはなるほど、と呟く。

「あぁ、ネレイスさんの仕業だ。彼がネレイスさんの目となり、耳となる」

 透き通る青髪は後方で結われ、耳には細長い雫の形をしたガラス細工のような耳飾りを付け、上裸でサルエルパンツを履いた美少年。

 ネレイスの精霊術によって服従させた精霊の1つだそうだ。

 ネレイスは一方で、ヴァールハイト家、特にシェアトにかけられた呪いについて調査するとのこと。ジークとしては、犯人についてある程度目処が立っているらしい。

「ネオがかけたんだと思うよ」

『否、その可能性は限りなく低い』

「――??」

 どこからともなく聞こえる男の声。

 ふと、ジークがプロキオンを見ると、その横にいる小さな光が、ジークを見据えていた。

「君、喋るんだ」

『シェアト嬢から、ネオとやらの匂いはしない。彼奴がお嬢に呪いをかけた可能性は皆無に等しいと言える』

 淡々と語る精霊。

 空で胡座を描き、ジークの眼前に迫る。

『呪いの正体は別の存在だ。今はまだ小さいがね。あのネオとかいう小僧でも、どうにもならんほど、ソレは大きくなる』

 と、意味深な発言をする精霊。

 それより、シリウスはジークの予見が外れたことが気になっていた。当のジークはあまり気にしていない様子だが。

「ところで、君は何?」

 ジークは宙に浮かぶ小さな生き物に問いかける。

 尚も胡座をかいたままのソレは、こう言った。

『“ウンディーネ”、と言えば分かるかね?』

「……!?」

 ウンディーネ。ネレイスが従えている水の精霊とは、彼のことだ。

 まさかの大物の登場に一同が唖然とするも、ジークはすぐに冷静さを取り戻し、違和感の正体を探る。

 かの水の都の名を冠したそれは、強大な力を持つと云われている。

「大精霊様にしては、小さいね」

 つんつんとウンディーネに触ると、簡単に吹っ飛んだ。

『ッ、仕方がないだろう。吾は思念体だからな。今の吾に、触れることはできても、吾には実体という概念はない』

「アハハッ、訳わかんねぇよ」

 実体が無いのに触れられる?全くもって理解不能だ。

『ただの錯覚だ。お前たちに触れるという感覚はないが、触れられた感覚は、吾にはあるからな。相応の反応を見せた時、お前たちは触ったと勘違いする』

 ウンディーネはそう語った。

 殆どが理解不能な表情をする中、ジークだけは納得している様子だ。

「まぁとにかく、どうする?シリウス」

「うぇぇ!?オレ!?」

「種族王たるもの、仲間に的確な指示を出せないと」

「いつも急なんだよ……」

 とりあえず、とシリウスはプロキオンに手を差し出した。

『【変態(トランス)】』

 人の姿から魔剣の姿へと変えたプロキオンは、シリウスの手元に飛んでくる。それを掴んだシリウスは、右腿に巻き付けた鞘に収めた。

「ドラコに行く」

 強い瞳をジークに向け、シリウスは宣言した。

「よしきた!」

 時期尚早というわけでもない。むしろちょうどいい。

 すぐさまジークは転移門を展開し、シリウスとウンディーネと共にドラコに向かうのであった。


◇◇◇


 孤島と呼ぶには大きく、大陸と呼ぶには小さい、絶海に浮かぶ、そこは島国ドラコ。豊かな自然が広がり、島のほぼ中心にはドラコのシンボルであり信仰の対象ともされている死火山がある。

 その火山に埋め込まれたように鎮座しているのが、史上最強の種族王、獣竜王フリー・アンノウンの居城である。彼の城は、山を削りくり抜かれたものだ。不思議なことに、信仰の対象である火山を弄ることに異を唱える住民はいない。それほどまでにフリーは強い。

 そんなドラコが危機に瀕していた。

 近海は真っ黒に染まり蠢く。それは津波の類いではなく、どこからともなく沸き出た魔族の集団だ。

 住民は既に避難を済ませ、街には四つの人物だけが残った。

 長い前髪はすっかり目を隠し、非常に清潔感のあるボブの薄桃髪。頭の左右には厳つい角が、背には竜の翼を持つ。全身をローブのような服に身を包んでおり、しかし彼女の豊満な胸までは隠しきれないようだ。

 彼女は、アンノウン・ファミリア第一幹部イオ。右肩に軽々と担いでいるのは彼女の身長かそれ以上はある大剣。可憐で柔和な外見からは想像できないほど、彼女は怪力の持ち主である。

 最前線に立つのは、肩あたりまで伸びた長髪に、真珠のように滑らかな双角。非常に整った顔立ちで、その瞳は右目が赤紫(マゼンタ)、左目が青緑(エメラルド)のオッドアイ。無翼種と呼ばれる翼を持たない個体で、その代わり素の走力はフリーをも凌ぐ。

 アンノウン・ファミリア第二幹部エウロパ。久々の故郷での戦いの予感に、高揚を抑えられない様子だ。

 もう1人は、髪を雑に撫で上げ、イオと同じく頭の左右には角が。ハイネックにノースリーブで、身体にぴったりと着られた上着は彼の鍛え上げられた肉体を強調する。下半身は股下がゆったりとしたものを履き、如何にも武人然とした外見だ。

 彼こそ、アンノウン・ファミリア第三幹部ガニメデ。我流の武術を得意とし、肉弾戦ではフリーに匹敵する実力を誇る。

 そして、その3人の影に潜むのが、第四幹部カリスト。突然分裂変異体の双子で、本来は1人の個体である。分裂しているため、角と翼はそれぞれ片方ずつ。術式特化と体術特化に分かれ、特に体術特化のカリストはなんと固有術式が使えない。瓜二つ、というか全く顔立ちが同じ、透き通るような白短髪の可憐な少女だ。

 そして、彼らの遥か上空にいるのが、史上最強の種族王、獣竜王フリー・アンノウンである。

 『究極魔法』を持って生まれたとされる稀有な存在。その圧倒的な能力と引き換えに、獣竜族としては角と翼が欠陥し、さらに獣竜族特有の術式以外の、後天的に習得可能な術式はすべて使えないのだ。

 与えられたのは、万理を破壊する術式と、その強大な力に耐えうる強靭な肉体のみ。しかし、それでも最強と呼ばれるまでに至ったのだ。

「………ん?」

 術式の気配を感じ、城のある火山を見る。

 遥か上空ゆえ、小さく見えるが、間違いない。あれは転移門だ。

 そこから現れたのは、フードを被った骸骨のローブを着た男と、蒼白髪で狼の耳と尾を持つ少女。

 なんとなく予想はついていたが、それでもフリーは目を見張った。

「――フッ、負ける気が尚更せんな」

 種族王の一角、魔人王ジークと、愛弟子シリウスだ。どこから嗅ぎつけてきたのか、加勢に来てくれたらしい。

 少しだけなら問題ないと、持ち場を離れ、2人の元へ翔んでいく。


 久しい故郷。厳密にはドラコではないだろうが、彼女にとっては紛れもない愛すべき“ふるさと”である。

 数年ぶりに感じる南の風に、シリウスは高揚していた。

 それは、ジークもまた同じだ。

「エウロパもこんな気分なんだろうな」

「さぁ、全員ぶっ殺そうぜ!」

 いつにも増して野蛮な言葉を吐くジーク。もちろん異常ではない。平常運転だ。

 そんな2人の元に降り立ったのは、筋骨隆々とした、身長はジークと同じくらいの大丈夫。縦に長く細い瞳孔は、翼や角を持たずとも彼が、孤高で崇高な獣竜族であることを示している。

 獣竜王フリー・アンノウン。シリウスの師匠であり、史上最強の種族王と呼ばれた存在だ。

 背中の翼は、着地とともにフリーの身体にぎゅっと巻きつくと、一瞬にしてローブマントに変わり、ふわりと広がる。

 そう、フリーは翼を持たないため、このように義翼を装備しているのだ。普段は体を覆い隠すローブマントの役割を持つが、首元の留め具に触れることで【変態】し、竜翼となる。

 ちなみに、このフリーのローブマントも、ジークのフードを被ると顔が骸骨になるローブも、魔剣の一種であり、いずれもヒノトではない別の魔剣鍛治士が造ったものだ。

 ジークの持つローブは、『退魔のローブ』と呼ばれ、魔族に触れさせない効果がある。しかし、効果があるのは布部分であって、これを着ているからと言って全身が完璧に守れるわけではない。小さな隙間、その綻びからなら、魔族は干渉できるのだ。

 一方のフリーのローブマントは、『翼化のマント』と呼ばれるもので、その能力は先の通りだ。さらに付加効果で、このマント越しに受けた物理攻撃ダメージを10分の1に軽減してくれる能力もあるが、フリーはほとんど前者の目的でしか使用していない。

「多少は闘えるようになったんだろうな?」

 おかえり、とも言わず、シリウスに言った。

 一方のシリウスも、どこかぎこちない様子で突っかかる。

「失礼だな、今のオレに勝てない相手はいない!」

「過言だな」

「………あのなぁ!これは言葉の綾ってやつで――」

「まぁ、せいぜい活躍して魅せろ」

 それだけ告げると、ジークへの挨拶もなしに再び翔び立った。

「うっし、やるぞ、ジーク!」

「………ねぇ、僕生きてるよね?」

「んぇ?」

「僕………無視されてた?」

「萎えるなよ、テンション下がる」


 一体どれだけの数がいるのだろうか。

 ――というところで、ガニメデが動いた。

 コキンコキンと首を鳴らし、長く呼気したのち、足を振り上げ震脚する。

『術式展開――究極魔法【()】:“追跡者(チェイサー・モード)”』

 ガニメデを中心に透明な波紋が広がる。障害物にぶつかると、その輪郭を描き、なお止まることなく広がり続ける。

 周囲を把握する能力。震脚から出た音、揺れ、それが対象にぶつかるまでの距離、物体と物体との距離、密度。あらゆる情報を把握する。

「大体5000万ってとこだな」

 魔族の数は、ガニメデが言うにはそうらしい。

 5000万、その数にシリウスは戦慄するが、アンノウン・ファミリアの面子は、なんだ、と肩をすくめる。

「軽く億は超えてくるかと思ったのですが」

 と、イオ。

「これならすぐ終わるかな?」

 エウロパはそう言って不敵に微笑む。

「「いちばんおおくたおしたひとがかち」」

 全員の背後から、可憐な少女の声が。影からカリストが話しているのだ。

(………あぁ、思い出したよ)

 シリウスはふと空を見上げる。

 3年間という短い時間は、それでもシリウスの感覚を鈍らせた。

 ジークからは、とにかく命を大切にと言われ続けた。なぜならジークにとってシリウスは、彼女の師匠であるフリーから預かっているからだ。

 シリウスもジークを心配させまいと、彼の言うことに従っていたのだが、心のどこかで遺憾に思っていた。

 呆れるくらいに交戦的で血気盛んな幹部たち。そんな彼らとともに、多くの時を過ごしてきたシリウス。

 —――やっぱりオレは、これが良い。

「スゥゥゥゥゥゥ…………ハァァァァァァァァ………」

 髪を撫で上げ、深く呼吸する。

 そんな彼女の様子を見て、ジークは言った。

「さぁ、狼煙を上げるよ」

 杖を振り回し、地平線に向ける。

『“爆裂”』

 鈍い轟音とともに、巨大な水柱が立ち上る。太陽の光を浴びて、美しい虹が架かった。

 速い……!

 術式構築速度は言わずもがな、座標の指定と範囲の設定をあの一瞬で!?

 一方で、唖然とするシリウスを他所に、面々は一斉に動き出した。

「獲るぞ!」

 ガニメデが叫ぶと、

『応ッ!!』

 フリーの幹部が一斉に呼応し、各自が術式を解放する。

『術式展開――究極魔法【()】:“流震拳(リュウシンケン)”』

 ガニメデは我流の武術の構えをとる。

『術式展開――窮極魔法【(ガン)】:“解放(リリース)”』

 エウロパは、制御していた力を解放した。右眼がより紅く輝きだすと、全身から魔力(オーラ)が溢れ出す。

 カリストは普段通り影に潜む。

 そしてイオは、大剣を軽々と片手で持ち、もう一方の手をその剣身に触れた。

 前髪で隠れた目元。側からすれば虚にも見えるその表情は、イオにとって、魔族など敵ではないのだということ、彼女の冷淡さを物語り、それに拍車をかけていた。


『術式展開――究極魔法・反転【()】:“延纏(えんてん)”』


 万物を癒す術式を反転させ、自身の大剣に纏わせる。剣身が僅かに赤黒く輝きだした。

(あれが“反転術式”……!)

 シリウスの目の前で、イオが魅せた神業。

 “反転術式”は、通常の術式行使を“正転”とし、それをひっくり返して真逆の効果を発現させるものである。“正転術式”は自動で発動するため、真逆の向きに変えるにはいつもの倍の魔力を消費しなければならない。それをイオは、常時発動状態で戦うのだ。

 あのジークも、感心したように見ていた。

 ただでさえ魔力消費がデカい反転術式を、無駄な魔力消費量を減らし、より効率的に魔力を消費している。

「上手いね」

 ジークにそう言わしめるほどの実力。第一幹部の名は伊達ではない。

 ついに魔族の波がドラコに上陸する。

 ――その瞬間。

 上空で音がした。

 気がつけば、フリーがぶっ飛ばされている。

「なッ!?」

「フリー様!!」

「――構うな!!」

 思わず幹部らが叫ぶが、フリーが咎める。

「やはり、ここに居たね」

 ジークが空を見上げる。

 そこに居たのは、右手に二俣鉾を持った青年だった。

 金茶髪は白くなっており、瞳は金と黒のオッドアイとなっていた。全身から禍々しい魔力(オーラ)が溢れている。

 精霊王ネオ・ファルシュだ。

「本当に、ネオなのか!?」

 彼の変貌ぶりに、シリウスは驚きを隠せない様子。

「あれが本来の姿だよ。彼は人間と混血の妖精と、純精霊の、混血(ハーフ)なんだ」

「…………ん?」

 ややこしい話に、首を傾げるシリウス。

 ジークは続けた。

「彼こそ精霊術を極めし者。彼の種族は、闇妖精(ダークエルフ)

 ダークエルフ族には虹彩異色(オッドアイ)が多い。というか、殆どの虹彩異色はダークエルフと言っても過言ではない。エウロパのような例外も居るが。

 ネオは、二俣鉾を振り回し、(くう)に突き刺した。

 そして魔力を流し込み、術式を展開する。

『術式展開――接続:刻印術式“鎖縛(フェア・ズィーゲルン)”』

「結界!?」

「チッ!メンドくせぇ!!」

 結界を幾つも展開し、シリウスたちを分け隔てる。

 行動の範囲を制限させられたイオたちは、顔を顰める。

 展開された結界は内側からの脱出を拒むものだ。なので、逆に言うと、外からの侵入は容易い。

 しかし、結界は小さく、ドラコの街に点々としているため、守備範囲が限られている現状、イオたちは街を守り切ることができない。結界の間を縫うように魔族が来られては、結界から外に出られない彼らにはどうしようもないのだ。

 なす術もなく、魔族の上陸を簡単に許してしまった。

 海岸線で抑えようとしていたが、作戦を変更するしかない。

「クソッ!クソッ!………このッ………!」

 シリウスは無謀にも結界を殴り続ける。

 地脈干渉によるものであるため、魔力量で上を取ることは難しい。結界としては小さいが、人ひとり単位で考えれば、これほど大規模なものに対抗するのは無理がある。

 上空にいるネオは、両手を広げ、狂気に嗤う。

「さぁ!()りあおうぜ……!!!!」

 ――その瞬間、突如舞い上がった土煙。鳴り響く鈍音。瞬きのうちに、上空にいたはずのネオが撃ち落とされた。

 ネオと代わり、そこに居たのはほとんど無傷のフリーだ。ネオの急襲を受けたにもかかわらず、ピンピンどころか力が増しているようにも見える。

「図に乗るな、痴れ者」

 ――ふと、シリウスは思った。

 何気にフリーが戦う瞬間は、初めて見るかもしれない。

 そんな惚けたことを考えるシリウスを他所に、フリーに一閃が飛んでくる。

 ネオが二俣鉾を投げたのだ。しかしそれはあらぬ方へ。ブラフだ。

 次いでネオ本人が飛び上がり、重力を纏った拳で殴りつける。

「………つまらんな」

 ぽつりと呟くフリー。

 あっさりとネオの攻撃を避けざまに、右ストレートをかました。

 またしても地面まで一直線に墜落するネオ。しかし、彼は不敵に嗤っていた。

 ネオの特攻こそ真のブラフ。

 何と、どこかへ飛んでいったはずの二俣鉾は、転回して戻ってきた。

 だがしかし、その思惑のさらに上を行くのがフリーという男である。

 フリーは二俣鉾を避けざまに掴むと、その勢いのまま一回転。まだ地面に到達していないネオ目掛け投げ放ったのだ。

 その威力たるや、投げた瞬間にソニックブームが発生するほど。

 あまりにも視野が広すぎる。それどころか、戦闘における一瞬の閃き力は群を抜いている。

「ッーーーーーー!!!!!」

 残念ながら大きく逸れたが、掠ってもいないネオの頬から鮮血が吹き散った。

 あれだけの速度。音速を超えるそれは、それだけ重さが加わる。間違いなく、掠っただけでも致命傷だ。

「バケモノかよ!」

 思わずネオが叫ぶ。そしてそのまま地面に叩きつけられた。

 一方のフリーは、少々萎えているようだ。

「――チッ、力みすぎたか」

 地面を見る。

 ネオはどこに潜んでいるのか、先ほどとは打って変わって、静かになった。

 誘いに乗ってやるべきか?とはいえ、このまま島に野放しにしているわけにもいかないだろう。

 ふとシリウスたちのいる方を見た。

「俺はさっきの馬鹿を片付ける。そっちは頼んだぞ!」

 そう言うとネオがいるであろう場所まで一直線に降りていった。

「――頼まれたのは良いが、どうする?」

 ガニメデが項垂れていると、ジークは胡座をかきながら杖をコツコツと突く。

「“回廊”でどうにかならないかな?」

 カリストの『究極魔法【影】』での脱出を試みようというのだ。

「だめ。そとに“回廊”がつながらない」

 術式担当のカリストが顔を出し、そう言った。

 どうやらネオの結界“鎖縛”は、外界へ術式での干渉すら許さないようだ。

 八方塞がり、というわけでもないが、渋々ジークが立ち上がる。

 ジークの“大魔導師(ウィザード・マスター)”と呼ばれる固有術式。

 その能力は、術式の“作成”と“授与”。

 ――そして、“剥奪”。

「……………仕方がない。本当はやりたくなかったけど、僕にまかせ――」

 ジークが言いかけた時だった。

 突然バリンと硝子が割れるような破裂音が聞こえたかと思うと、拳から血をボタボタと垂らしながら結界の外にシリウスが立っていた。

「……………まじ?」

 流石のジークもこれには驚くどころかドン引きだ。

 痛々しい拳は、彼女の無謀ともいえることを成し遂げた異端さを物語っていた。

 肩で息をしながら、しばらく立ったまま動かない。

 そこに隙ありと、1匹の魔族が襲いかかる。

 ――が、

「……邪魔だよ」

 軽く裏拳で遇らう。一撃で魔族の胸から上が吹っ飛び、核が顕になる。それを掴むと、硝子のような素材で形成されているのにもかかわらず、片手で握り潰した。

 魔族の身体が黒い霧となって消えていく。

 魔族の群れはそれに反応し、シリウスに襲いかかる。

 が、シリウスはそれを見据え、低く構える。

「まさか、まだ本気じゃ、ない………!?」

 ジークが呟く。

 ただ少なくとも、シリウスは今研ぎ澄まされた精神の中にいる。極度の集中状態。覚醒はしていなくとも、『窮極魔法』に匹敵する実力を誇る。

 魔族の群れ目掛け、渾身の一撃を放つ。

『“破弾(はだん)砲撃銃(カノン)”』

 シリウス史上、最高の一撃。“広範囲の点攻撃”。

 魔族の、条件反射の魔力防御も虚しく貫通し、一度で数十の核もろとも粉々に破壊した。

 そしてジークのいる結界に手を差し出す。

 全ての結界が凍り、指を鳴らすと、その全ての結界が砕け散る。

「“術式干渉”………!!」

 固有術式は極めることで、自身の固有術式の効果を他の術式に与えることができる。それは基本的に、魔導学とは別に、物理法則を無視する。例えば炎が凍るというのだってあり得る。

 シリウスの『究極魔法【氷】』は、“術式干渉”の域に到達することで、術式を凍らせ、機能を無効化することができるのだ。

 さらに、凍った術式は、通常の氷と同じく、脆くなる。

 それを知ってか知らずか、シリウスはネオが展開した結界を砕いたのだ。

 解放された一同は、今度こそ、術式を展開する。

(本当はこんな結界、僕だけでどうとでもなったけど、シリウスが覚醒してくれるなら、そっちを選ぼうかな)

 ジークは後衛に回り、最前線にはシリウスとイオが立った。

「シリウス、合わせます」

「頼む」

 ほぼ同じタイミングで地面を蹴る。

 家々の隙間から押し出されるように、雪崩の如く魔族が押し寄せてきた。

 それをものともせず、シリウスは構え、魔力を練る。

『“破弾(はだん)突撃銃(アサルト)”』

 一撃で魔族を屠る。

 打撃のエネルギーを内に留めるようなものではなく、貫通させる一撃。的確に魔族の核を撃ち抜くそれは、さながら徹甲弾のよう。

 これまでとは異なり、今のシリウスは素手での戦いだ。

 【氷纏装身】を纏わずとも、あらゆるものを撃ち抜くことができるようになったのは、ネオの結界を素手で破壊したからこそ掴んだ、最もロスが少ない、全てのエネルギーを攻撃に転換できる打撃。

 魔力によって身体が形成されている魔族に最も有効なのは、魔力による攻撃だ。

 シリウスは魔力を乗せた一撃を――その発散する魔力を、これまで同様、打撃のギリギリまで抑え、一気に発散するのに加え、打点の中心により多く集中するようにした。一点に加わる魔力の圧力、質量、速度が格段に上昇し、従来の“ぶっ飛ばす”発散から、“貫く”発散の特性を持つようになった。

 瞬く間に数十の魔族を撃破したシリウスだったが、まだ魔族の波は収まることを知らない。

「シリウス!!」

 イオが叫ぶ。

 一瞬の隙を突いた背後からの攻撃に、ギリギリまでシリウスは気が付かなかった。

 シリウスが伏せたところに、すかさずイオが入る。

 『究極魔法・反転【癒】』を纏った大剣がその魔族に触れた瞬間、血のような液体が噴き出し、切り傷――下腹から上が爆散した。

 その後も何かに蝕まれるように、核が潰されていないので修復し続け、同時に腐敗し続ける。事実上の機能停止。

 今やその身体は、あらゆる黴菌(ばいきん)の温床。一方で健常者への感染のリスクはない。なぜなら、目の前の魔族だけが、免疫力を無限に減らされているからだ。

 一言で言うなら、えげつない。

 シリウスの心臓が弱ければ、今頃吐き気を催していただろう。

 シリウスに代わって、今度はイオが前に立った。


 ――彼女が立つ戦場に、流れない悪血などない。


 まさに死神。

 悲しいことに、魔族に恐怖というものは存在しない。より強い物を喰らい、強くなる。共食いだって厭わない。

 それが、イオにとっては飛んで火に入る夏の虫。ただ迫り来る魔族を、次々と薙ぎ払い万病に侵すだけだ。

「………ッ!?」

 大きな拳がイオに振り下ろされる。それを大剣で受け止めるが、そこに違和感を覚える。

(効いていない?)

 一瞬焦った様子を見せるが、すぐに立て直す。

「――ッオラァッ!!」

 鈍い轟音と無限の振動。ガニメデが背後から強烈な一撃を与えた。

 ビリビリと魔族の周りに張られた防殻が震える。

「やはり、術式の“腐敗”はまだ難しいようです」

 肩をすくめるイオ。現状の彼女では、術式にまで『究極魔法【癒】』の反転術式の影響を及ぼすことはできないようだ。

 一方のガニメデにとって、この程度の防殻の破壊、造作もない。

 破壊力に特化した術式は、並の防殻を最も容易く破る。

「チェストォォッ!!」

 再び構え、正拳突きを放つと、魔族の眼球はグルンと剥き、防殻には亀裂が走り、割れる。

「感謝します」

 無防備となる魔族。イオはそれだけ告げると、大剣を引いて担ぐ。

 左手で魔族の胸元に手を当てると、ありったけの術式を流し込んだ。

『術式展開——究極魔法・反転【癒】:“痐癁(ヒール)”』

 万傷、万病、精神やあらゆる部位欠損を完治させる術式。その効果を反転させる。

「………ゥ、ぉオぅぼァァガぉあァぁぁぁァァ!!!!!!!」

 ボコボコと上半身だけが膨れ上がる。眼球は剥き出し、充血する。ミシミシと軋む音と、ブチブチと何かが千切れ、潰れる音が鳴る。

 それでもイオは、その手を離さない。

「…………ォォぉォォああァぁアぁぁぁァッッッーーーーー!!!!!!!!!!!」

 やがてバキバキと音を立てて背中がさらに大きく膨らみ――

 赤黒い液体を撒き散らしながら爆発した。

「アハハッ、イカれてやがる」

 ジークはとても楽しそうに呟く。

 イオが反転術式を使用して戦うという話は聞いていたが、まさかここまでとは思うまい。

 イオを強者たらしめるもの。それは“えげつなグロさ”にあるのだ。

「少しは、楽しめるでしょうか」

 大剣を振り回し、余裕の表情を見せる(目は前髪で隠れているので表情は伺えないのだが……)。


 その一方で――

 結界から抜けるまでに、魔族の街への侵入を許してしまった。

 その取りこぼしの処理をするのが、エウロパとカリストの役目であった。最初から決められたわけではない。

 戦闘において、街を破壊しかねないだろうガニメデは前線に。

 戦闘狂イオは望んで最前線に。

 消去法という形となったが、むしろこれで良い。

 エウロパの持つ『窮極魔法【眼】』。“外界干渉”。視界に特定の現象を起こすことができる能力だ。加えて、「彼の視界にいる限り、発現された術式は必中する」という効果もある。

 さらに、右の紅い眼は、正面――視界に入ったあらゆる攻撃を反射する。

「やれやれ、無駄なことを」

 攻撃を反射し、仰け反った魔族の群れに術式を発現する。

『術式展開――窮極魔法【(ガン)】:“(イン)・【(カイ)】”』

 空間を両手で掴み、捻じるようにして押しつぶす。その手の動きに連動するように、魔族のいる周囲の空間が球状に(ひず)み、抉られる。当然、巻き込まれた魔族は一瞬にして消え去った。

 この男――エウロパもかなり強力な術式を持っている。

 彼の攻撃範囲(レンジ)は視界のすべて。圧倒的広範囲に及ぶそれこそが、エウロパを強者たらしめる要因のひとつだ。

 唯一の弱点。それが背後からの攻撃。

 エウロパは正面、もとい視界の範囲からの攻撃にはめっぽう強いが、後ろからの攻撃に持ち得る対抗手段が無い。

 それを補うのが、我らが小さき暗殺者、カリストである。

 エウロパに迫る1つの影。

 不意打ちの一撃がエウロパに命中するかと思われた時、魔族の身体が硬直する。

「……グっ!?」

 絶対的な信頼。背後からの奇襲に気付いてもなお、エウロパは正面を向き続けた。


『術式展開――究極魔法【(エイ)】:“影捕縛(シャドウバインド)”』


 影あるところに実体あり。影を固定することで、本体を捕らえる術式だ。

 そこに、エウロパの影から飛び出した1人の少女。

 透き通るような白色の髪と瞳。全身を黒装束に身を包み、不思議なことに、頭の角と背の翼は片方だけにしか無い。

 アサシンダガーを逆手に持ち、目にも留まらぬ速さで魔族に迫る。

 魔族の眼前で体制を崩したかと思いきや、その勢いのまま股下を潜り抜け、ターンしながら背中にそれを突き刺す。

 ――彼女は“1人”ではない。

 エウロパの影から飛び出したのは、双子の妹――という設定のカリストである。

 原因不明のショックにより2つに分裂してしまった、突然分裂変異体の個体である。

 2人のカリストは、その能力も大きく異なる。

 カリスト(妹)は、固有術式である『究極魔法【影】』を行使することができない。その代わりに、身体能力が飛び抜けており、その小柄な身体を活かした常人離れした速度で瞬きのうちに獲物を狩る。

 背中からダガーを刺したのは、最も核まで刃が到達しやすい、薄い部分だったからだ。

 魔族は全てが同じ位置に核があるわけでは無い。

 カリスト(妹)の真髄は、術式とは似て非なる、熟練の“技術(スキル)”の数々にある。

 『狩猟者(ハンター)の勘』。瞬時に急所を見抜き、的確に突くことができる。

 『絶影(ぜつえい)』。正確無比の足運びを可能とし、スピードが上昇する“技術”。10個の段階があるとされ、カリストは現在、最上位から5番目の段階まで覚醒している。極限にまで錬磨された『絶影』は、音は愚か、光さえも置き去りにすると云う。

 そのほか数を挙げるとキリがないが、そんなカリストの持つ“技術”のほとんどは、冒険者のジャンルの一つである、近接特化・短期決戦型『暗殺者(アサシン)』が習得するようなものだ。

 ただでさえ常人離れした身体能力を持つのに、それをさらに引き上げるあたり、暗殺術に対する、執念とも言える強い思いが受け取れる。

 瞬時に、刺し殺した魔族の影に潜り、その後続の群の中心に現れる。

 1秒にも満たなかっただろう。

 30体ほどの群れを一瞬にして葬り去った。

 今の彼女は、素の走力ではアンノウン・ファミリア最速を誇るエウロパをも超越し、さらにカリスト(姉)のみが行使できる『究極魔法【影】』の力もあり、最早誰の手にも負えない程の無類の速さを持っている。

 阿吽の呼吸で、最速かつ最短の手数と歩数で標的を屠る。体術特化のカリスト(妹)と、術式特化のカリスト(姉)。まさに一心同体の早技。それこそがカリストの強さたる所以だ。

「さぁ、さっさと片付けようか」

「「わかってる」」

 エウロパとカリストは互いに背中を預け合い、互いに走り出した。


 ジークは家屋の上で様子を伺っていた。

「【禁忌(タブー)】がいない………。連れてきていないのか」

 どこか抜けているのか知らないが、間違いなくこの場に【禁忌】を連れてくればジークやフリーにもそこまで苦戦することなく戦えたであろうに。

 それとも、ジークやフリーに死なれては困る、彼なりの事情があるのか。

「まぁ、あるに決まってるよなぁ」

 では【禁忌】はどこに放たれたのだろう?

 南陸国(ズューデン)か?いや、ありえない。禁忌の温床と呼ばれた彼の地には、あの人――【白銀の狩人】なる【禁忌狩り】がいる。最強最悪の禁忌、【禁忌】といえど、わざわざそんなところに放つメリットなどないし、ネオはそこまで馬鹿ではない。

『お前は小僧の術式を知らんのか?』

 耳元で聞こえた男の声。

 精霊の国を出てからここまで、何故か共についてきた、元精霊王ネレイス・ヴァールハイトが従えている大精霊ウンディーネ(の思念体)。

 胡座をかきながら、ジークの顔の周りをふわふわと浮遊する

「聞いたことはある。『窮極魔法【霊】』。ただ、精霊術が上手いとしか――」

『不味いな』

「え?」

『お前の認識は非常に不味い』

「……彼の“色”は嘘つきなんだよ。この僕をも惑わすほどの隠蔽力。惜しい才能だよね」

『その惜しい才能のせいで、この戦い、負けるやもしれんぞ?』

「………そうかなぁ?相手はあのフリーだよ?」

『あの小僧に勝つには、お前の力が必要だ』

「どうするの?」

『お前の術式を利用するのだ。術式の“授与”、“作成”、そして――“剥奪”』

 ジークの“大魔導師”と呼ばれる固有術式で、ウンディーネが危惧している固有術式を封じ込めるというのだ。

「やってみる価値は、無いわけではないけど………」

『何だ、嫌なのか?』

「メンドクサイよ」

『……………おい』

「それよりも問題なのは、ネオがどこに【禁忌】を解き放ったかだ」

 彼は何を企んでいるのか?

 例の“偽【禁忌】”を利用してジークとフリー以外の種族王を潰す計画。これはあっさりと失敗したように見えるが、それはブラフだという可能性も捨てきれない。

 あるいは、“実験”と言ったところだろうか。

 未だ未知数なネオの固有術式。本人すらも『窮極魔法【霊】』の能力の全てに気づいていないとするならば、色々と試そうとするのは当然のことである。

 いずれにせよ――

「【禁忌】の封印を解いたのは、ネオで間違いないね?」

 ウンディーネに問いかけるような形で、1つの結論を語る。

『左様』

「よかった。――じゃあ本題」

 ネオの目的は、【禁忌】を利用して、ジークやフリーに対して有利に戦える状況を作ること。そして、その2人を倒す、あるいは別の目的のために利用する。

 という仮説が正しいとするならば、今この場に【禁忌】がいても不思議ではないのだが、その【禁忌】が見当たらない。

 まだ完全にいないと決まったわけではないが、フリーやジークが同じ場所にいるこの状況で、【禁忌】を連れてこないのには、必ず別の訳があるはずだ。

 ネオに直接メリットはないが、何らかの手を加えることで、今後ネオが世界の覇権を握ろうとする際に大きな決め手となる場所。

 帝国――?

 否、それはない。あそこには世界最強と言わしめた戦力がある上に、彼がいる。

「エデン皇帝………」

 いくら【禁忌】といえど、帝国魔導聖騎士団と、帝国の頂点であるエデン皇帝を前に単身で壊滅させるというのは難しいだろう。

 あるいは――極東連合国か。

 あそこは近年、目覚ましい成長を見せている。今後エデン帝国と並ぶ国家として台頭することはほぼ間違いないと言える。

 他にあるとするならば、ケレス大公国。

 国のシンボルである大樹。それはケレスだけではなく、世界的に見ても神聖なものだ。【禁忌】ならあのデカブツも、簡単に破壊できるだろう。

 それらを破壊され、人々が絶望する中、颯爽とネオが登場。【禁忌】を既に従えているのならば、八百長試合だって不可能ではない。見事【禁忌】を討ち取ったネオは、一躍世界のヒーローとなる。

 ざっとこんなシナリオだろうか。

 ジークからすれば、ありきたりのなにものでもないつまらない物語だが、汎用性が高いからこそ、“ありきたり”と言われるほどオマージュされてきた、英雄になれるシナリオだ。

「一国家ではない可能性………」

 ぼそりと呟く。

 国家では無いが、非常に重要な場所はいくらでもある。

「僕たちがドラコ(ここ)に来るのを知っていた?」

 ネオが姿を現した際、ジークやシリウスの姿を見て驚いた様子はなかった。

 つまり、想定通り。

 それを分かった上で、ネオが【禁忌】を配置するのは――

『お前たちが此処に来ることで、今最も手薄な場所』

「………………ッ!?」

 ウンディーネの言葉が決定打となった。

 ジークはハッとして、顔を顰める。

「悪い、ここを離脱する」

 急足でシリウスの元へ戻る。

 そのシリウスはというと、魔族の群れと絶賛戦闘中であった。隣にはイオがいる。

 シリウスは魔族の処理に追われ、とても話せる状況ではない。

 煩わしく思ったのか、ジークは杖も構えず術式を発現した。

『“爆炎”』

 魔族の核を座標とした術式の発現。パチンと指を鳴らすと、次々と魔族が爆ぜていく。

 唖然とした様子のシリウス。

 その彼女の元にジークが降り立った。

「シリウス、一刻を争う。来て!」

「――どこに!?」

「【禁忌】が放たれた場所が分かったんだよ!」

「だからどこに!?」

「――『生命の書庫』だ!」

ステータス

〈ネオ・ファルシュ〉

・窮極魔法【霊】

・精霊術


〈フリー・アンノウン〉

・窮極魔法【壊】


〈イオ〉

・究極魔法【癒】


〈エウロパ〉

・窮極魔法【眼】


〈ガニメデ〉

・究極魔法【波】


〈カリスト(姉)〉

・究極魔法【影】


〈カリスト(妹)〉

・“技術”『狩猟者の勘』

・“技術”『絶影』 など

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