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蒼白の天狼  作者: ベルトに乗った肉
禁忌衝突編
11/34

11 ネクストステージ

 この世界の通貨は、金銀銅の硬貨が使用されている。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。日本円では、金貨1枚あたり10万円と同じ価値をもつ。

 基本的には銅貨での買い物がほとんどなので、金貨を使う時といえば、現実で言うところの車とか家を買う時くらいかなぁと思います。

「魔力は、生きとし生けるもの全てに同じ量だけ存在する」

 と精霊王ネオ・ファルシュは言った。

 だが、シリウスは言葉の意味をあまり理解していない。

「はぁ……」

「ーーって言われたら、君は信じるかい?」

 これは問いかけだ。

 言われ、シリウスは先の言葉を脳内で再生する。答えはすぐに出た。

「違う。オレとジークが、それを証明してる」

「……あぁ、その通りさ。しかし、彼は別格ゆえ、誰でもその答えは言えるんだよなぁ。面白いのは、この世界には特異がゴロゴロいることなんだよ。こんな世界じゃ、通説というものを作ろうにも、例外が居すぎる」

「言われてみれば、確かに」

 なんとなく感じるから、それでは具体的な答えにはならないだろう。しかし、感覚で既にわかる。ジークは明らかに自分とは別格の魔力を持っていると。

「これはすごくひねくれた話だけど、ボクは、全ての生物には、同じ“割合”の魔力があると思う」

 プロキオンの言葉に、シリウスとネオは顔を顰めた。

 お互いがそれぞれの思案をする。

「………見た目ーー“数値”は違うけど、魔導的には同等、ということかな?」

「ひねくれすぎだろ……」

 ーー生きとし生けるもの全てに同じ大きさの器が与えられるわけではない。それぞれに異なる大きさの器が与えられ、そこに魔力が注がれるとして、その量には差があるが、いずれも同じ“100パーセント”、と。

 無い。あまりにも穿った見方だ。

 シリウスはそう思っていた。

「いや、それは、真理やもしれん」

「おおっ!」

 プロキオンが期待に目を輝かせ、

「マジ……?」

 予想外の反応に驚くシリウス。

 『探究』それはネオの生きる指針の一つだ。

 魔力とは何か。探究心の強いネオをもってしても、その答えには辿り着けなかった。

 全ての生物には、“平等”が与えられる。

 ずっと疑問だった。なぜ“平等”が与えられたはずの我々生物に、魔力という“不平等”が存在するのか。

 “平等”とは“概念”……!目に見える形ではない!故に、“同量の魔力”は存在し得ないのか!?

 ひとえに魔力といっても、まず“色”も違えば形も違う。既にその時点で、目に見える“平等”など存在していなかった。

 無論、その真偽を証明するものは、ここには一つも存在しない。かといって、今すぐ持ってこいと言われても、それは無理だ。

「ーーありがとう。シリウスくん、プロキオンくん、良い話を聞かせてもらったよ」

 ネオは言った。

「あくまでも、ボクの見解だけど……」

「いや、貴重な意見だ。さすが、魔獣といったところかな。魔力に関して、独自の感覚を持っているみたいだ」


 ーーコツンッ!

 何かが地面と接触する音。木製だ。木の質量は大きく、棒状のものだと察する。

 音に関しては、フリーから戦闘の術として叩き込まれた。

 アレは、杖だ。

 しかも、ここ数ヶ月間、聴きなれたものだ。

「ーーやぁ、ネオ。二人を見ていてくれたんだね」

 そこに立っていたのは、フード付きのローブマントに身を包んだ、長身の人物。

 右手には歪な魔導杖を持ち、フードを被った顔は、骸骨だ。

 およそ一ヶ月ぶりに見た、魔人王の姿がそこにはあった。

「ーーやぁ、ジーク………」

 ネオは、ジトっとジークを見た。

「そんな顔すんなよ。友達だろ?」

 ジークのその声色は、一見普通だが、どこか嘲笑うようにも聴こえた。

「友達………あ、あぁ!友達!うん、友達だね。ーー嫌だなぁジーク…………僕が裏切るわけないだろう?」

 沈黙が流れた。

 ネオの言葉を最後に、しばらくの間誰も話さなくなった。

 そばには川がある。聞こえたのは、流れる水の音、その他自然の音だけが響いていた。

 “音”は、空気の存在をこの場の者たちに知らせる。

 そして時は動き出した。

「……そうだね……また会おう、ネオ。シリウス、プロキオン、帰ろうか」

 ここで初めて、ジークがフードを脱いだ。見慣れた顔が現れる。

 シリウスはジークの言葉に疑問を抱き、質問を投げかける。

「帰るって……?」

「よし!」

「………?」

「合格だと言っているんだよ、シリウス。君は僕の期待に、予想以上に早く応えてくれた」

 にっ、と笑うジーク。

 予想が確信に変わり、シリウスの表情が一気に晴れる。

「ッ!それって……!」

「シリウス、そしてプロキオン。これから君たちに、“究極”を教えよう……!とりあえず今は、家に帰るよ」

 ジークの言葉を聞いて、最初に立ち上がったのは、ネオだ。

 【収納(ストレージ)】してあった二俣鉾を手に取ると、空間に向かって突き刺した。

 ズブズブと空間に呑み込まれる二俣鉾。やがて柄までも見えなくなると同時に、そこを中心として魔法陣が展開されると、ネオは右手を突っ込んだ。

 するりと通り抜けた、魔法陣の裏側には何もない。俗に言う、“転移門”の展開だ。

「シリウス、プロキオン。いつか、僕の国へ招待してあげよう。秘境“精霊の国”だ。共に魔力について語り合おうぜ……!」

 そう言うと、颯爽と転移門の中に入っていった。

 コツ、コツと杖を地面に突くジーク。そんな彼の表情は、どこか勝ち誇っているようにも見えた。

「気になるかい?」

 ジークがシリウスに問いかける。

「へ?」

「彼の鉾だよ。無詠唱で転移門を発現させただろう?」

 ジークのおかげで感覚が鈍っていたが、そもそも無詠唱というのはすごいことだ。“術式展開”から始まる、術式の開示。これは、どんな術式かを明かすのと、それにかかる時間とを引き換えに、術式の命中率を高める効果がある。

「あぁ、魔剣だろ?見たよ。刻印がたくさんあった」

 基本的に刻印なら、詠唱は必要ない。刻印の術式が強力であったり、あるいは命中率を高めるためにあえて詠唱をする場合がある。

 現在プロキオンが所持している魔剣は、『絶対系(アブソリュート・シリーズ)』と呼ばれ、その効果は“必中”だ。

 必中であるために、その引き換えにたとえ刻印であろうと術式詠唱が必須となるが、絶対に当たるのならば実質無詠唱と変わらない。故に『絶対系』は強いとされている。

 ネオが持っていた二俣鉾には、刻印術式が七つ付いている。ただし、いずれも戦闘には向かないようなものばかり。一つは、先の転移門を展開するもの。もう一つは、【収納(ストレージ)】の刻印だ。ただでさえ詠唱が少ない戦闘向けではない術式であることと、刻印による詠唱の省略によって、無詠唱が可能なのだ。

 通常、一つの魔剣に刻印は一つないし、二つ。それは、魔力を流し込んだ際に、同時に二つ以上の術式が発現するのを防ぐからだ。

 それでも一つの鉾という武器に、七つもの刻印がされているのは、武器そのものの刻印のキャパと、ネオの卓越した魔力操作があってこそである。

 ネオの鉾をよく見ると、隙間なく刻印がされている。だが、彼の魔力操作技術があれば、的確に、針の穴に糸を通すように、一つの刻印に魔力を流し込めるのだ。

「七つめは見えなかった」

「……確か、シリウスは武器が好きだったね」

 ジークの家にある書物の中でも、特に刻印術式に関するものは読み漁っているというシリウス。刻印は、描くだけでも効果を発動できるので、覚えておいて損はない。ーーということでジークは余程大切な物ではない限り、家の魔導書は好きにさせている。

 杖を地面に突き、魔法陣を展開。こちらも転移門だが、ネオのと異なり、通常の術式展開である。

 ジークがシリウスを抱き寄せ、シリウスがプロキオンの腕を引っ張る。

 魔法陣が足元から頭上へ垂直に上がり、三人の姿が消えた。


◇◇◇


ーさらに一年後ー

 シリウスは目を覚ました。

 ……筈だ。分からない。真っ暗だから。

 たしかに彼女は立っている。地面の感覚はある。でも暗すぎて、部屋がどれくらい広いのか分からない。

 その暗さたるや、自身の手すら見えないほどだ。目を見開くが、光一つない空間で見えるはずもなかった。

 気がつけば歩いていた。辺りを見回す。否、見回していないのか?暗いから自分の動きすらよく把握できない。

 感覚が麻痺してきた。

 なるほど、普段どれだけ目の情報によって動きを把握しているのかよく分かる。

 動く、見る、それでようやく、脳で本当に動いていることを理解していた。

 それではダメだ。

「そうか……そういうことか」

 ぽつりと呟いた。

 その時、瞬きした瞬間に、何もなかったはずの空間に一つの光が現れていた。

 不思議な光だ。光なのに辺りの暗さはひとつも変わらない。そこだけが明るい。だから自分の手も、体も、まだ見えない。

 シリウスはその光に向かって歩き続けた。

 やはり分からない。

 確実に近づいているのだろうが、明るくなることはない。

 やがて目の前までやってきた。

 まるで黒いキャンパスに一つの点を描いただけのよう。だが、その点が“光”だということは認識できる。

 ゆっくりと手を伸ばす。ここでようやく手の形が見えた。無論、目の前の“光”は光としての役目は果たしておらず暗いので、爪も肌もその色も、確認することができない。

「………」

 指先が触れた。

 その瞬間、辺りが明るくなる。ようやく“光”が光として輝き出した。

 蒼白色の光。

 なんとなく、触れていいと思った。むしろ、触れなくてはならないとまで思っている。

 だからシリウスは、躊躇なく掴みにいった。確実に、逃さぬように、両手で、その光を、掴んだ。

 そして世界は凍りついた。


………

……


 シリウスは目を覚ました。今朝はいつになく、窓からの日が眩しい。

 体を起こすと、パラパラと光るものが零れ落ちた。

 そっと髪に触れる。

 パキッ、と音を立てて、また光の粒が舞い落ちた。

 ベッドから降りようとして、気づいた。

 平穏とは非なる静寂に違和感と孤独感を覚えた。

 今、この世界は自分以外の全てが、凍っていた。

 心当たりがないわけではない。明らかに今までの自分とは違う何かを感じる。

 世界が澄んで見える。

 世界のあらゆる事象が把握できる。まだこの世界は生きている。

 とりあえず部屋を出る。

 バキバキと音を立てながら、凍ってしまい、重くなったドアを開いた。

 やはり、自分の部屋だけではない。この家が、そして、世界が凍りついている。

 はやくジークを探さなければ。

「ジーク!ヤバいよ!!」

 まだ彼の姿を見ていないが、彼の名を叫んだ。きっと、この呼びかけに応えてくれると思った。

「どうしよう!?ジ……………!?」

 そこに彼の姿はなかった。

 そしてそこには、氷の人形と化した相棒(プロキオン)の姿があった。

 壊さないように優しく触れる。

 冷たい。触覚が働いている。夢では無いようだ。

 プロキオンはまだ生きている。

 いずれにせよジークを探さなければならない。きっと彼なら、この状況をどうにかできるかもしれない。

 家を出る。

 やはり凍結現象は家の外にも及んでいた。

 凍っているというか、あらゆるものが氷でできているような光景が広がっていた。

「『生命の書庫』か?」

 ジークの姿が見当たらなかった。

 迷うことなく、『生命の書庫』へと続く道を歩いた。

 蠢く殺気は以前と変わらず感じるが、何故かこちらを襲おうとはしてこなかった。果たしてセキュリティの役目を果たしているのか……?怪訝に思いながらも、真っ直ぐ、ひたすら歩き続けた。

 やがて少し開けたが、そこにはただの広場しかなく、建物は見当たらなかった。

 だが、シリウスは知っていた。

 というか、分かっていた。

 ゆっくりと目を閉じる。

 十数えて、目を開くと、そこには無限に広がる本棚が現れたのである。

 先ほどまで森の中に居たはずが、地面は床に変わり、おおよそ自然に存在するものは見当たらなかった。

 “入館”したのだ。『生命の書庫』に。


「待ってたよ」

 突然声がした。

 その方を向くと、やはり彼が立っていた。

 最強の魔導師であり、魔人の王。そして、ここ、『生命の書庫』の管理人。“大魔導師(ウィザード・マスター)”ジーク。

 手には分厚い本が持たれていた。その題は、“シリウス・ブラウ”。彼女の記憶が記された書物だ。

 ジークはシリウスの前に立つと、ゆっくりと手を叩いた。

「まずは、おめでとう」

 その言葉の意味を理解するのは、これまでのどの言い回しよりも理解できた。

「やっぱり、そういうことなのか?」

 なんとなく、分かっていた。

 目の前の彼は例外だが、この凍った世界で自分だけが自由に動ける。つまり、自分が発現させた【氷】だと。

「夢の内容を覚えているかい?光は見えた?何色だった?」

 言われ、シリウスはありのままに答えた。

「…………つまり独自の“色”じゃあないのか」

「………え?」

「あぁ、君の“色”。蒼白い魔力は、そのまま【氷】の魔力ということさ」

 人は誰もが独自の“色”を持つというが、そのベースとなっているのは、大元の属性の“色”である。

 なので、シリウスの蒼白色の魔力は、【氷】の魔力の“色”と全く一致するためーー

「『究極魔法【氷】』。それが君の新たな術式だ」

「究極、魔法……」

 ついにシリウスは術式を進化させることに成功した。

「実感が湧かない?アハハッ、もっと自信を持ちなよ。君は強くなった。誇っていい」

 ジークはそう言ってくれた。

「……うん」

 シリウスは、それだけ呟いた。


………

……


 凍った世界で、プロキオンも同じく凍ったままだった。

 この世界では、時間そのものが凍っていて、まさに冷凍保存の状態にある。

 床に落ちた魔剣。プロキオンの主人であり、相棒であり、最愛の友とも言える、シリウスから譲り受けたものだ。

 その魔剣が突如輝きだしたのである。

 持ち主を選び、その人だけに術式発現の権限がある、特殊な魔剣が、自ら起動し、鞘から飛び出し、宙を舞う。

 やがてピタリと平行に静止したその切先は、プロキオンの胸元、心臓の位置を指し示していた。

 カタカタと震える魔剣。

 不気味な色に輝きだし、やがて、灰蒼色に治った。

 その瞬間ーー

 ドスッと、プロキオンの胸を刃の根元まで、差し込んだのである。

 続いて、ビキッ!と音を立てて、氷に大きなヒビが入ると、瞬く間にプロキオンの氷化が解けた。

 プロキオンの生命活動が再開されたと同時に、彼に猛烈な痛みが襲う。

「ガッッッッ!?」

 吐血。

 膝を突く。

 視線を痛みの中心に向け、震える手で魔剣に触れた。

「ぁ……が、あぁぁぁぁぁ!!!?」

 痛い。熱い。恐い。

 その感情とは裏腹に、魔剣はさらに深く沈み込む。

「う、ぅ、ガッ、あぁ!いッ、あぁぁぁぁぁ!!」

 力が入らない。

 必死に引き抜こうとするが、圧倒的な力の前では無力だった。

 心臓が激しく鼓動する。胸が頭が、鼓膜がドンドンと震える。全身で、命を感じる。そしてそれが消えゆくまでのありのままも感じる。

 とうとう魔剣はプロキオンの中に全て入った。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!………ぁ?」

 胸を押さえたまま、膝は床についたまま、前傾姿勢になる。

 ゴツンと額が床に着いたところで、プロキオンから一切の音が消えた。

 その瞬間、魔法陣がプロキオンの上下に展開。それぞれの点と点を結ぶように光の線が伸びて、プロキオンの体は形を変える。

 魔法陣が消え去った時、そこには魔剣だけが残されていた。新たな刻印を残して………。

ステータス


〈シリウス・ブラウ〉

・究極魔法【氷】


〈プロキオン=ブラウ〉

・unknown


〈ネオ・ファルシュ〉

・unknown

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