ある人の記憶
どうも、ごってぃと言うものです。
今回が初投稿となります。
今回は、ある人の記憶を書かせていただきました。あくまでも短編小説でございますので、これを一人の人間の「記憶」だと思って、読んでいただけると幸いです。
僕は、いじめられている。
なぜいじめが始まったかなんて、もう覚えていない。今分かるのは、この地獄のような日々がいつまでも続くこと。ここまでの高校生活二年間のなかで、楽しかった瞬間なんて一つもなかった。いつも一人だ。でも、別にいい。一人には慣れてるから。
これまで他人から言われたことと言えば、「死ね」「消えろ」「どっか行け」くらい。暴力なんて当たり前。毎日ごみのように扱われてきたおかげで、もう一人でいるのか普通になった。
「こんにちは!俺は凪。今日からよろしく!」
彼は笑顔でそう言った。先生曰く、転校生だという。髪が耳の辺りまであって、左目のほうが髪で隠れている。体は結構細め。正直言えば、弱そうで、いつも皆の後ろにいる感じ。でも、そんなイメージとは違って、彼はとても明るく、優しかった。授業中は積極的に発言するし、色んな人と気軽に話しかけていた。成績もいいらしく、先生に頼られるほど。しかもスポーツ万能で、一言で言えばなんでもできた。たちまち、彼はクラス、いや学校の人気者になった。
ある日の放課後、僕をいじめているうちの三人が、凪くんと話していた。どうやら、そのうちのリーダーらしい女子が、彼のことが好きらしい。引いてしまうくらいにデレデレだった。そんなとき、凪くんがこんなことを言った。
「そういえばさ、奏、だっけ。あの、いっつもパーカー着てる子。どこにいるか分かる?俺あの子とも話してみたいんだよね。」
僕のことだ。どうして、彼が僕のことを。そう思った瞬間、
「えー、あいつは止めたほうがいいよ。」
そんな言葉に、僕の思考は遮られた。そうだ。今、凪くんが話しているのは、あいつらだ。僕のこと色々言われたら、どうしよう。怖い。怖い。怖い。
「なんで?」
お願い、聞かないで。嫌だ。もう、他の人に嫌われたくない。
「だって、あいついっつも暗いし、影みたいなやつだし。正直最悪って感じだから。」
「…」
彼の顔色が変わった。あぁ、もうだめだ。また僕は、嫌われるんだ。そんなことを思いながら、僕はその場から逃げ出した。
「はぁ…」
僕は、学校のとある木の下にいた。ここは、ほとんどの人が知らない場所で、知っているのは本当にごくわずかの人だけ。だからこそ、僕にとって、そこは安らぎの場となっていた。
「どうしよう、これから。」
本当にどうしようもなかった。学校の人気者である凪くんに、僕の悪口を言われたとなると、学校中に広まるのも、もう時間の問題だ。そうなれば、僕はまた…
「おーい、そこで何やってんの?」
目の前には、彼がいた。走ったのだろう。少しだけ息が荒い。
「何って…特に何も。」
「本当に?君、今めっちや暗い顔してるよ、大丈夫?」
笑顔で、そんなことを言われた。大丈夫なんて言葉、初めて言われた。大丈夫って、なんだっけ。なんで彼は、そんなことを僕に言うんだろう。そう思うと、なんだか胸の奥が熱くなってきて、なんだか恥ずかしくて、僕はフードをかぶった。
「あ、なんで顔隠すのさ。せっかくの美人なのに。」
「え…美人って、誰が?」
「奏ちゃんだよ。だって、君女の子じゃん。」
「え、あ…」
僕の、私の顔が熱くなるのを感じた。同時に、涙がこぼれるのを感じた。私のことを、彼は、人として見てくれているんだ。そう思った。
「え、ちょ、大丈夫?俺なんか悪いこと言った?大丈夫?」
「ううん。そうじゃないの。」
涙が止まらない。大丈夫と言ってくれる嬉しさと、今まで誰も私のことを考えていなかったんだという悲しさと、こんな姿を彼に見られるのが嫌な恥ずかしさと。そんな気持ちが混ざりあって、溶けていく。そして、やっと分かった。私は、誰かに分かってほしかったんだ。そう思うと、余計に涙が溢れてきた。
気がつくと、私は彼に抱き締められていた。
「え、あ、あの…」
余計に顔が真っ赤になる。体が熱い。恥ずかしい。
「つらかったんだね。色々と。本当につらかったんだね。ごめん。もっと早くに気づいていればよかった。そして、もっと早くにこうすればよかった。」
「…」
「奏ちゃん。今日は、好きなだけ泣いていいから。そのつらさが、少しでもよくなるまで。」
「…うん。」
私が泣き止むころには、既に辺りは暗くなっていた。
「一人じゃ危ないから、家まで送ってくよ。」
そう彼は言って、私は、彼と私の家の前まで帰ることになった。帰る最中、彼と、凪くんと一緒に歩いて帰りながら、いろんなことを話した。彼は、私がいじめられていたのを少し前から知っていたこと。私がいじめられないように、私をいじめる人とできる限り話して、私がいじめられないようにしていたこと。そして今日、いじめのリーダーらしい人が私の悪口を言った時、私のために怒ってくれたこと。どうして早く助けてくれなかったのか。そんな思いはなくて、正直嬉しかった。私のためにこんなことをしてくれる人がいるなんて、思いもしなかった。私のために怒ってくれる人がいるなんて、思いもしなかった。そんなことを思っていると、いつの間にか家に着いていた。
「それじゃあ、僕はこれで。」
そう言って、彼は帰っていく。嫌だ。嫌だ。彼と一緒にいたい。
私は、彼のことを抱き締めていた。
「ん?えっと…どうしたの?」
顔が真っ赤になる。私自身、どうしたいのか分からない。でも、一つだけ言える。
「行かないで。」
「そう言われましても…」
「私、離れたくない。凪くんと、一緒にいたい。」
そう言って彼の後ろ姿を見る。少し耳が赤くなっている。
「うーん…じゃあ、こうしよう。」
そう言うと、彼は振り向いて言った。
「奏ちゃん、僕と付き合ってよ。そうすれば、ずっと一緒にいられるでしょ?」
「え…」
もう、なんて言ったらいいか分からない。彼の明るさに、優しさに包まれて、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちだった。けれど、私が今言うべき言葉は、もう、決まってる。
「それで、返事は?」
「それは、もちろん」
これは、私が、女の子として、幸せになるまでの物語だ。
いかがだったでしょうか。
お楽しみいただけましたでしょうか。
短編小説「ある人の記憶」は、もしかしたら今後不定期で更新するかもしれないので、その時は、お楽しみいただけたらと思います。
それではまたどこかで。




