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ある人の記憶

作者: ごってぃ
掲載日:2019/09/21

どうも、ごってぃと言うものです。

今回が初投稿となります。

今回は、ある人の記憶を書かせていただきました。あくまでも短編小説でございますので、これを一人の人間の「記憶」だと思って、読んでいただけると幸いです。

僕は、いじめられている。

なぜいじめが始まったかなんて、もう覚えていない。今分かるのは、この地獄のような日々がいつまでも続くこと。ここまでの高校生活二年間のなかで、楽しかった瞬間なんて一つもなかった。いつも一人だ。でも、別にいい。一人には慣れてるから。

これまで他人から言われたことと言えば、「死ね」「消えろ」「どっか行け」くらい。暴力なんて当たり前。毎日ごみのように扱われてきたおかげで、もう一人でいるのか普通になった。

「こんにちは!俺は凪。今日からよろしく!」

彼は笑顔でそう言った。先生曰く、転校生だという。髪が耳の辺りまであって、左目のほうが髪で隠れている。体は結構細め。正直言えば、弱そうで、いつも皆の後ろにいる感じ。でも、そんなイメージとは違って、彼はとても明るく、優しかった。授業中は積極的に発言するし、色んな人と気軽に話しかけていた。成績もいいらしく、先生に頼られるほど。しかもスポーツ万能で、一言で言えばなんでもできた。たちまち、彼はクラス、いや学校の人気者になった。

ある日の放課後、僕をいじめているうちの三人が、凪くんと話していた。どうやら、そのうちのリーダーらしい女子が、彼のことが好きらしい。引いてしまうくらいにデレデレだった。そんなとき、凪くんがこんなことを言った。

「そういえばさ、奏、だっけ。あの、いっつもパーカー着てる子。どこにいるか分かる?俺あの子とも話してみたいんだよね。」

僕のことだ。どうして、彼が僕のことを。そう思った瞬間、

「えー、あいつは止めたほうがいいよ。」

そんな言葉に、僕の思考は遮られた。そうだ。今、凪くんが話しているのは、あいつらだ。僕のこと色々言われたら、どうしよう。怖い。怖い。怖い。

「なんで?」

お願い、聞かないで。嫌だ。もう、他の人に嫌われたくない。

「だって、あいついっつも暗いし、影みたいなやつだし。正直最悪って感じだから。」

「…」

彼の顔色が変わった。あぁ、もうだめだ。また僕は、嫌われるんだ。そんなことを思いながら、僕はその場から逃げ出した。

「はぁ…」

僕は、学校のとある木の下にいた。ここは、ほとんどの人が知らない場所で、知っているのは本当にごくわずかの人だけ。だからこそ、僕にとって、そこは安らぎの場となっていた。

「どうしよう、これから。」

本当にどうしようもなかった。学校の人気者である凪くんに、僕の悪口を言われたとなると、学校中に広まるのも、もう時間の問題だ。そうなれば、僕はまた…

「おーい、そこで何やってんの?」

目の前には、彼がいた。走ったのだろう。少しだけ息が荒い。

「何って…特に何も。」

「本当に?君、今めっちや暗い顔してるよ、大丈夫?」

笑顔で、そんなことを言われた。大丈夫なんて言葉、初めて言われた。大丈夫って、なんだっけ。なんで彼は、そんなことを僕に言うんだろう。そう思うと、なんだか胸の奥が熱くなってきて、なんだか恥ずかしくて、僕はフードをかぶった。

「あ、なんで顔隠すのさ。せっかくの美人なのに。」

「え…美人って、誰が?」

「奏ちゃんだよ。だって、君女の子じゃん。」

「え、あ…」

僕の、私の顔が熱くなるのを感じた。同時に、涙がこぼれるのを感じた。私のことを、彼は、人として見てくれているんだ。そう思った。

「え、ちょ、大丈夫?俺なんか悪いこと言った?大丈夫?」

「ううん。そうじゃないの。」

涙が止まらない。大丈夫と言ってくれる嬉しさと、今まで誰も私のことを考えていなかったんだという悲しさと、こんな姿を彼に見られるのが嫌な恥ずかしさと。そんな気持ちが混ざりあって、溶けていく。そして、やっと分かった。私は、誰かに分かってほしかったんだ。そう思うと、余計に涙が溢れてきた。

気がつくと、私は彼に抱き締められていた。

「え、あ、あの…」

余計に顔が真っ赤になる。体が熱い。恥ずかしい。

「つらかったんだね。色々と。本当につらかったんだね。ごめん。もっと早くに気づいていればよかった。そして、もっと早くにこうすればよかった。」

「…」

「奏ちゃん。今日は、好きなだけ泣いていいから。そのつらさが、少しでもよくなるまで。」

「…うん。」

私が泣き止むころには、既に辺りは暗くなっていた。

「一人じゃ危ないから、家まで送ってくよ。」

そう彼は言って、私は、彼と私の家の前まで帰ることになった。帰る最中、彼と、凪くんと一緒に歩いて帰りながら、いろんなことを話した。彼は、私がいじめられていたのを少し前から知っていたこと。私がいじめられないように、私をいじめる人とできる限り話して、私がいじめられないようにしていたこと。そして今日、いじめのリーダーらしい人が私の悪口を言った時、私のために怒ってくれたこと。どうして早く助けてくれなかったのか。そんな思いはなくて、正直嬉しかった。私のためにこんなことをしてくれる人がいるなんて、思いもしなかった。私のために怒ってくれる人がいるなんて、思いもしなかった。そんなことを思っていると、いつの間にか家に着いていた。

「それじゃあ、僕はこれで。」

そう言って、彼は帰っていく。嫌だ。嫌だ。彼と一緒にいたい。

私は、彼のことを抱き締めていた。

「ん?えっと…どうしたの?」

顔が真っ赤になる。私自身、どうしたいのか分からない。でも、一つだけ言える。

「行かないで。」

「そう言われましても…」

「私、離れたくない。凪くんと、一緒にいたい。」

そう言って彼の後ろ姿を見る。少し耳が赤くなっている。

「うーん…じゃあ、こうしよう。」

そう言うと、彼は振り向いて言った。

「奏ちゃん、僕と付き合ってよ。そうすれば、ずっと一緒にいられるでしょ?」

「え…」

もう、なんて言ったらいいか分からない。彼の明るさに、優しさに包まれて、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちだった。けれど、私が今言うべき言葉は、もう、決まってる。

「それで、返事は?」

「それは、もちろん」

これは、私が、女の子として、幸せになるまでの物語だ。

いかがだったでしょうか。

お楽しみいただけましたでしょうか。

短編小説「ある人の記憶」は、もしかしたら今後不定期で更新するかもしれないので、その時は、お楽しみいただけたらと思います。

それではまたどこかで。

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