演出には拘りたい
どうやら日間で地道に順位が上がってきているようで。まだまだ末端の方ですが、有り難い限りです。
「闇ギルドかぁ。……面白そうだから興味はあるんだけど、面倒なのはやだなぁ」
リンは取り繕う事なく素直に答える。
するとガクがそれに首肯いた。
「俺も面倒事は真っ平ごめんだがよ。ギルド作んのに面倒な事ってあんま無くねぇか?」
「いや人間関係とか拗れたら嫌じゃん?」
「そういうことはたぶん起こりづらいと思うわよ?」と、ラスプがリンの懸念を否定すると、カナの方を見やる。
「だって今回の闇ギルドの発案者は彼女だもの。そんなお堅いギルドにはならないわよ」
「うーん……。なら私も参加しようかな。それで今何人くらい入る予定なの? ギルドマスターは?」
リンの闇ギルド参加を聞いたカナははしゃぎながらも答える。
「確か……70人くらい?」
「リンさんも合わせて73人ですよ」
「え、多くない?」
「まあ、PKを繰り返してるプレイヤーに片っ端から声かけたからなぁ。それとギルマスはまだ決まってねぇんだよ」
ガクは楽しそうに呵々と笑う。
だが当然リンはギルマスの話に疑問を抱く。
「ギルマスってカナじゃないの? 勝手にそう思ってたんだけど」
「いやー、せっかくの闇ギルドだし、イメージ的にやっぱり強い人がマスターの方がいいじゃん? だから一週間前……今月の頭から、ギルメン全員でPKした数を競いあってるの。ちなみに期限は明日までだよ」
「へぇー。でもどうやってPKした数なんて知るの?」
「それはねー」と、カナがシステム操作用のウィンドウを虚空に表示させ、プライベートモードを切って周りの人にも見えるようにする。
「ここの“ランキング”に月別のPK数の順位が出てくるから、それを見せ合うの」
「なるほどねぇ」
そんなものがあることなど知らなかったリンは、カナのウィンドウを見て操作を覚える。
「皆は結構上の方だったりするの? もしかして3人の中に1位がいたりとか?」
すると3人は一度顔を見合わせると、困ったような笑みを浮かべた。
「ちょっと一位は無理だよ」
「ええ。流石にあれはねえ?」
「ありゃ次元が違ぇからな」
「どういう事?」とリンが質問を重ねると、カナがまいったとでも言うように頭を掻きながらその理由を語る。
「実はね、確かにランキングの上位……2位から4位はあたしたちなんだよ」
「おぉ……。凄いじゃん。因みに誰が2位?」
「私よ。PK数だけは他人でも見れるけど、167回だったかしら?」
「あれ?」とそれを聞いたリンがとてつもない違和感を覚える。
「3位があたし! PK数は149回だよ!」
「4位が俺で140回だ」
「それで、1位の人なんだけどね? 憶測の段階だけど、実は外見だけもう割れちゃってるんだよね」
カナの言葉に頷いたラスプは話の続きを受け継ぐ。
「1位のPK数は1356。数日前から頭角を現した、恐らく金の重瞳を持つプレイヤーです」
とたん、リンが石像のように硬直する。もうバレてる。装備は作れたからギリギリセーフだろうか? いやアウトだ。まさかここまで大事になっていたとは。
世間で話題となっている“金の重瞳を持つプレイヤー”。
最初に目撃されたのはおそらく3日前。
当初は誰もが新手のモンスターだと思った。その外見が巨大な鳥の姿だったからだ。
混合種を除き、プレイヤーは皆人型である。だがその姿は、色々な生物の複合体である混合種とは明らかに異なっていた。
その翌日、今度は腐肉と黒い鱗を纏う【腐食竜】が現れた。先日の鳥と同じ金の重瞳を持って。
そして誰かが気づく。重瞳のモンスターが暴れると同時に1人のプレイヤーのPK数が馬鹿みたいに増える事に。
「それで、モンスターの正体がプレイヤーなんじゃねぇか? って話になったわけだ」
「へ、へえ~! なるほどね~」
内心ひどく狼狽し、滝のように汗をかきながら相槌をうつリン。それを見ていたカナは自分の予想が信憑性を増していくのを感じて、ラスプに耳打ちをする。
「(……流石にそれは……最悪私がPKされるんじゃ……はぁ……わかりました……)」
ラスプはリンの様子を伺い、こちらの動きに意識が向いていない瞬間を見計らって動き出す。
彼女のスキル【超加速】を発動させ、リンの後ろに回り込み、そして──
「失礼しますっ!」
「わっ!?」
「げっ……!」
「よし!!」
リンとガク、そしてカナの三者三様の反応。
ラスプの手により目を覆っていた黒布が剥ぎ取られ、金に輝く重瞳が外界に晒される。
「って、ちょっと何すんのさー!?」
必死に隠そうとしていたリンはもう涙目だ。
「やっぱりねー。お姉はほんとに分かりやすいなー」
リンが睨むが、カナは何処吹く風で高笑い。その様子からとっくに自分だとバレていた事に気付いたリンは深く溜め息をついた。
「……何とか隠そうと頑張ってたのになぁ」
「その割には結構バレバレだったような……」
「全く隠せてなかったな」
ラスプとガクはもう苦笑いだ。
「はぁ……。もう隠すのは諦めるかぁ……」
リンはラスプから布を受け取ると、身に付けずにアイテムボックスにしまう。
「お姉。隠そうとするから恥ずかしいんだよ。もっと堂々としないと」
カナが適当なアドバイスをしていると、ガクが「あ」と声を上げた。
「わりぃ。俺、この後用事あるから先に落ちるわ」
「そっか……。じゃあ、お姉を皆に紹介するのは明日でいいかな? サプライズみたいな感じで」
「いいんじゃないかしら? どうせ上位枠は私たちが独占しているのだし、後から来たのにって僻む者もいないでしょう」
「そもそもそういうタイプの人自体いなそうだけどね」
全員でフレンド登録を終えると、今日はここでお開きということになり、予定のあるガクと色々と疲労を溜まらせたリンはログアウトしていった。
残ったカナとラスプはこれからまたPKをしに行くつもりだ。
「にしてもカナさんのお姉さんがあの“重瞳”とは驚きました。ネットじゃ既に災害扱いですからね」
「ゲーム開始早々とんでもない方向に突っ走っちゃってたねー。お姉、昔からすぐ周りに流されて調子に乗るタイプだから。で、後になって後悔するの」
二人は町の外に向かいながら笑い合う。
「でも何時からお姉さんの正体に気づいていたんですか?」
「いやー、お姉のインしてる時間と“重瞳”の出現日時がやけに被ってたからもしかしてと思ってね。でも確信したのは今日会ってからだよ。あからさまに目を隠してるんだもん。あれじゃあねぇ」
外に出た2人はそれぞれ、ラスプがククリナイフを、カナが銃を手に持つ。
「それじゃあ始めましょうか」
「うん。1位は無理だけど、少しでも差を縮めないとね!」
***
翌日。
カナたちのギルドはまだマスターがおらずギルドとして完成していない為 、ギルドホームがない。その為、皆でお金を出し合って町の一角にある酒場を貸し切り、そこに集まる事になっていた。
21時に集合なので、それに合わせてログインし、喫茶店で落ち合ったカナたち3人に連れられて酒場に入る。サプライズという事なので、“怨嗟の封視幕”はつけたままだ。
入り口の扉を開けると、中にいたたくさんの人々からの視線を一気に浴びる。
人類種、獣人種、森精種、土精種、男、女、子ども、大人…………。
実に多様な人々が集まっていた。
「あー、ちょっと通して通してー!」
その中をカナが突っ切り、リンがその後を追っていく。ラスプとガクも後ろから続いてくる。
そのまま店の一番奥の一段高くなっている所に上がると、カナが大声を張り上げた。
「はいちゅうもーく!!」
店内の者たちはやっと主催者が来た、と一斉に静まる。闇ギルドらしからぬ行儀の良さだ。
「えー、ごほん! 皆さん、本日はお集まり頂きまして誠にありがとうございます。今日皆様にお越しいただいたのは──ぶふっ! あ、無理だ、真面目にやろうとすると笑っちゃう」
カナは自らが作り出した厳かな雰囲気を早々にぶち壊す。
他の者たちも「え? あいつ本当にカナか?」みたいな空気だった。
「よし! それでは今からギルドマスターを正式に発表するぜー!!」
「「「おおーーーーー!!!!!」」」
「──の前に!!」
「「「おおーー!?」」」
「すんごい人をスカウトしてきたから今から紹介するぜ!!」
(え、ハードル高くない?)
酒場のボルテージが異様なことになり、リンはやや気圧されるも昨日の事で半ば自棄にもなっていた。
「では、紹介しよう! “金の重瞳”こと、我が姉だ!!」
何とも適当な紹介とともに、リンは少しでもサプライズになればと、“怨嗟の封視幕”を外し、構成遺伝子を【ロック鳥】、【腐食竜】、【天翼種】に4対4対2で割り振る。
背中からロック鳥の巨大な左翼と、腐食竜のどす黒い襤褸のような右翼が生える。右手は竜の鉤爪と鱗で被われた。両足にも鉤爪が現れ、化け物のそれへと変わった。
ついでに町中ではダメージが発生しないのを良いことに、腐食竜のスキル【瘴気】を発動させて演出に。周囲に黒い毒気が立ち込めた。
羽を軽く広げ、重瞳をアピールするように目を見開けば完璧だ。
ここまでやって白けたら恥ずかしいなぁ、などと思いながらリンが周囲の様子を伺うと──
「「「ギャアァァァァァア!!!?」」」
「ちょっ、あれ、えぇ!?」
「お、お姉やり過ぎ! てか何それ!?」
恐慌状態の集団を落ち着けるのにはかなりの時間を要した。
お読みいただきありがとうございます。
ランキングについてですが、表示されるのは順位と、キル数などのスコアだけです。自分の順位のところだけ、自分のプレイヤーネームが記載されています。
お時間ごさいましたら評価、感想など頂ければ……。
明日も18時に投稿しますので、どうぞ見てやって下さい。