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だ、大丈夫だ……まだバレてない……

妹出てきます。テンション高い系です。

「お姉、IROやってみた?」


 翌日。3連休最終日。彼女の妹である香苗は、朝食の卵かけご飯を頬張りながら琳花の方を見る。


「うん。初めは色々大変だったけど結構楽しいよ」

「そっかー。自由度が高い分、戦闘は自分で動かないとだから慣れないと戸惑うよねー」


 琳花は適当に相づちをうちながら、マーガリンを塗ったトーストをかじる。


「そういえばお姉は何の種族になったの?」

混合種(キメラ)だよ。あれ思ってたより使いやすいねぇ」


 琳花はゲーム内でのあれこれを思い出しながら答える。最初こそ派手にやらかしてしまったものの、ダンジョンや昨日の戦闘でかなり慣れてきた。


「え!? キメラ!!? あ、あのさ。それハズレ種族だよ……? それを使いやすいって……」

「そうなの? 最近は気に入ってきてたんだけどなぁ。そういう香苗は何の種族なの?」

「私は機甲種(オートマタ)! 遠距離メインのね」

「へえ~」


 琳花はあまり離れて戦うことはないので、恐らくスキル構成が幾らか違うのだろう。といっても琳花の場合、機甲種(オートマタ)らしからぬステータスや他の種族のスキルも同時に使うのでそれも原因の1つであるが。


「ねえねえ、今日IROで会ってみようよ?」

「え、今日? うーん……まあ良いよ。レベル上げも一段落したし」


 そこで琳花は「あっ」と重要な事を思い出す。


「ちょっと寄る所もあるから、それからでいい? あとあんまり人が多いところは嫌なんだけど」

「おっけー。じゃあ、そうだな……スラム街の場所分かる?」

「うん」

「その手前に一軒だけ喫茶店があるから、そこでどう? 時間は午後2時で」

「分かった」


 先に朝食を食べ終えた琳花は食器を片付ける。


「あとさ、私の他に2人パーティー組んでる人がいるんだけど、一緒に行ってもいい?」

「えっ、うーん……」


 今までのプレイスタイル的に、人との接点が増えるのはあまり好ましくない。だが、まあ目を隠せる装備も手に入るし、大丈夫だろうか。


「まあ2人くらいならいいよ。まだフレンドとかもいないしね」

「やった! じゃあまた後でね!」


 琳花は自室に戻ると、すぐにIROを起動した。




***




「親方、来たよー! 出来たー?」

「ああ、来たか。ちょっと待ってろ」


 昨日と同じ天翼種(ケイレム)姿のリンが店に入ると、カウンターにいた店主は店の奥へと消え、手に黒い布の塊を持って戻ってくる。


「こいつが完成品だ。【空間把握】のスキルを付与してある。試しに着てみろ」

「着てみろって何処で着替えろと? ……まさか」

「アホか。俺はガキにゃ興味ねぇよ。アイテムボックスに仕舞ってから直接装備すんだよ」


 そんな方法があるのかと、リンは店主の指示に従うと共に、この店主がプレイヤーなのかNPCなのか非常に興味が湧いてきた。


 兎も角、店主の指示通りに装備を身に付ける。

 装備は目を隠す頭部用と胴用の2つがあった。


“怨嗟の封視幕”──装備者によって能力が変化する目隠し用の布。身に付けているものの視界を奪う。自身の周囲の様子が俯瞰的に把握できるようになる。装備者に触れたものに低確率で【即死】の効果をもたらす。


“怨嗟の黒衣”──装備者によって能力が変化する衣服。自身の状態異常系攻撃に補正がかかる。装備者に触れたものに低確率で【即死】の効果をもたらす。


 リンの両目は黒い布で覆われ、首から下もゆったりとした生地の黒衣によって完全に隠れている。

 外から見えるのは、目元を隠した顔と白髪だけだ。身体を覆う黒衣は、ボロボロのようでいて何処か上品さがあり、非常にリン好みの出来となっていた。


「おお、これ凄い! 自分が上から見える」

「ああ、【空間把握】の効果だな。生地に付与したんだ。視界を無くすわけにはいかねぇからな。ただ、普通の視界とは違うから戦闘にゃ向かねぇな」

「なるほど。あ、あとさ。安いのでいいから全身を隠せるフード付きのマントとかある? 予備で持っておきたいんだけど」


 リンはマントの代金と合わせて602,500円を支払い(このゲームでは通貨は円で数えるらしい)、店を出る。


 時刻を確認すると、まだ10時にもなっていない。


「よし、またレベル上げするかぁ」


 リンはお昼時まで森に籠り、無差別に狩り尽くして時間を潰す。

 勿論、その間は装備が反映されないので、思い切り重瞳を見せびらかす事になるが、人型のときはちゃんと隠す事が出来るのでもう気にする必要はない。

 12時になると、一度ログアウトして昼食をとる。


 そして待ち合わせの時間に合わせて再びログインした。




***




 デフォルトになりつつある天翼種(ケイレム)姿のリンが予定の喫茶店に入ると、店内は伽藍としており、客は3人しかいなかった。

 彼らは入ってきたリンの顔を見ると、その内の1人、香苗が手を振ってくる。


「お姉! ……だよね? こっちこっち!」


 目元を隠しているからだろう。若干自信無さげだった。


「お待たせー。か──プレイヤーネーム何?」

「カナだよ。お姉は?」

「リン。2人して単純だねぇ。あ、初めまして。カナのリアルの姉のリンです」


 リンはカナの仲間、獣人種(ビースト)の女性と鬼人種(オーガ)の男性に挨拶する。


「よろしく、リンさん。私はラスプと言います」


 ラスプは真っ黒な狼の耳と尻尾を揺らしながら上品に微笑む。


「俺はガクだ。宜しくな」


 ガクは角の生えた鬼人種(オーガ)に似合わず人好きのしそうな笑みを浮かべた。


「ところで、だ。俺ァ確か、カナから今日、混合種(キメラ)の姉貴と会うって聞いた気がすんだが俺の聞き間違いか?」

「そう、それ! お姉混合種(キメラ)じゃなかったの!? あとその装備何!? 超格好良いんだけど!」

「そうそう──じゃねぇ! 何でお前の姉だっつうやつの方がお前よりずっとチビ何だって聞いてんだよ!!」

「チ、チビ……!?」

「あらら……」


 確かにリンの背格好は妹のカナよりずっと小さい。決してカナが大きい訳ではない。リンが小さいのだ。何処とは言わないが、身体の一部、とある部位も小さい。無いといっても差し支えない。


「あー、お姉は昔から私よりちっちゃかったしね。初対面でどっちが上か分かる人はいないよ」


 「まあ、そんなことより」とカナはリンのコンプレックスを一言で一蹴すると、先と同じ質問を繰り返す。


 リンは自分のスキルに関わる事なので言うべきか迷ったが、言った所ですぐにどうこうなるものではないので話してしまうことにした。


「私は歴とした混合種(キメラ)だよ。初期スキルでね、自分の遺伝子を自由に組み替える事が出来るの。それで例えば……」


 リンは会話をしながら構成遺伝子を天翼種(ケイレム)から森精種(エルフ)に振り直す。


 驚愕の表情を浮かべる3人の目の前で、リンの身体は溶けるようにして森精種(エルフ)のそれへと変化する。


「まあ……!」

「うっそ!? そんなスキルあったの!?」

「聞いた事ねぇな。新しいスキルかエクストラじゃねぇか?」


 凄い凄いと騒ぐ彼ら(主にカナ)が落ち着きを取り戻すまではしばし時間を要した。




「お姉がだいぶ特殊な混合種(キメラ)だって事は分かった。次はそのカッチョいい装備について吐いてもらおうか……!」

「お前さっきも言ってたが、そんなに言うほど格好良いか……?」


 カナが変なテンションになってきているが、思わぬところから待ったがかかる。


「リンさんだけ自分の事を話すのはフェアじゃないでしょう。私たちもちゃんと情報を開示すべきだと思うわ」


 ラスプのその発言により、カナたちも自分の種族と初期スキルを明かしていく。


カナ

 機甲種(オートマタ)

 【狙撃銃生成】──超高精度の狙撃銃を生成する。作り直せば“過熱状態(オーバーヒート)”を回避できる。


ラスプ

 獣人種(ビースト)

 【超加速】──MP消費で一時的にAGI値を大幅に上昇させる。


ガク

 鬼人種(オーガ)

 【凶暴化】──一時的にSTR、INT、AGIが上昇するが、VIT、RES、DEXが下がる。


「さあ、またお姉の番だ!」

「えぇ~……」


 これはどうやら逃げられそうもない。取り合えず、なるべく自分の“目”には触れないように話すしかないだろう。


「えっと、これは……スラム街の奥の方にある武器屋に持ち込んだ素材で作って貰ったものです」


 リンにカナのジト目が突き刺さる。


「ほぉ~? つまり私がゲームをプレゼントしてから4日しか経ってないのに、もうスラム街に入り浸っていて、しかもオーダーメイドの装備を買えるほどのお金を持っていると……?」


 これは不味い事になった。正体を隠すために使っている装備でここまで追い詰められるとは。


 リンはニヤニヤと黒い笑みを浮かべているカナを見ると、観念したようにため息をついた。


「……ちょっとPKをしちゃってね。なるべく外見を隠す為に買ったの」


 それを聞いたカナは何故か「よっし、当たりぃ!!」とガッツポーズを決めている。

 どうしたことかとリンが首を傾げると、見かねたラスプが答えた。


「実は私たちもかなりPKしちゃってるんですよ。PK対策の掲示板で有名になる程度には」

「えっ、そうなの?」


 思わず聞き返すと、ラスプとガクが揃って首を縦に振る。


「何だぁ。てっきり私、全プレイヤーに晒し者にされて討伐されるのかと思ったよ……」

「誰もそんなことしねぇよ。お前どんだけ肝っ玉小せぇんだ……」

「それともそれだけ沢山のプレイヤーをキルしたのかしら?」


 ニヤニヤと二人が笑ってくるが、完全に図星のこちらとしては苦笑いしかない。


「でも、さっき言ってた『当たり』ってのは?」

「そう! ちょっとPK大好きのお姉に話があるんだけどさ。お姉、念のため聞くけどパーティーとかギルドとか入ってる?」

「全然。始めたばかりだし、やってたこともあれだしね」

「だよね。そこでお姉に提案、というかお誘いがあるの!」


 急な話の展開について行けず、リンはただ頭の上に疑問符を浮かべる。


「私たちと一緒に“闇ギルド”作ろう!」

ブックマークなどありがとうございます。

ジャンル別の日間ランキングに載ってて驚きました。皆様のお陰です。本当に感謝の言葉しかありません。

明日も18時に投稿しますので、よろしければお付き合いくださいませ。

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