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ボスは美味しい

 ボス部屋へはすぐに辿り着いた。

 その道程に特筆すべき事はない。ただ、化け物が化け物らしく大暴れしていただけだ。どっちがモンスターなのだか分かったものではない。

 死体は適当にアイテムボックスに仕舞った。勝手に分類してくれるので非常に便利だ。


 現在、リンの目の前には重厚な両開きの扉が佇んでいる。

 

 彼女のレベルは3上がって26になった。

 当初の予定通り、消耗はゼロ。全てのモンスターを先制攻撃で即死させてきたからだ。


 作戦としては、まず開幕速攻で【悪食】を発動。敵に(かじ)りついて遺伝子を掻っ攫う。その後スキル連打で倒す。無理なら逃げる。倒す必要はない。


 最悪こちらは一撃入れれば目的は達成するのだ。


「よし、行こう!」


 リンは気合いを入れ直すと、扉を押し開いた。


 まずは入らずに中を覗くが、モンスターの姿はない。


 意を決してゆっくりと部屋の中へ入っていく。

 すると3メートルほど進んだところで扉が独りでに閉まった。


「あれ、これってもしかして倒すまで出れないやつ……?」


 直後、部屋の中央に巨大な魔法陣が現れ強い光を放つ。


(これってあそこにモンスターが出てくるってことだよね? それなら──)


 リンは眩い光の中を駆け抜け、一気に魔法陣へ接近する。


 そして甲高い鳴き声と共にモンスターが現れた瞬間、翼を羽ばたかせその背中に飛び乗った。そして──


「いただきます!!」


 首筋に思い切り齧りつく。


『【腐蝕竜】の遺伝子を獲得しました』


 目的を達したリンはすぐに腐蝕竜から飛び降りる。

 どうやら太い血管を噛み千切ったようで、腐蝕竜のHPが7割まで一気に減り、更に【出血】の状態異常となる。

 【出血】は他の状態異常とは異なり普通の回復魔法で癒せるが、その分継続ダメージは大きい。


 様子を見ていたリンに向かって腐蝕竜が大きく口を開く。

 慌ててその場から離脱すると、そこを猛毒のブレスが通り過ぎていく。

 リンは腐蝕竜の技後硬直の隙に首に【鎌鼬】を撃ち込む。

 腐蝕竜が身体を翻して尾を横凪ぎに振り抜いてくるが、身を低くして接近し、拳を叩き付ける。その一撃は腐蝕竜の脇腹に当たり、鱗を砕く。

 腐蝕竜のHPが半分を切った。


 だが次の瞬間、腐蝕竜の身体から灰色の煙のようなものが吹き出した。


「熱っ!?」


 それに腕が触れてしまったリンは、焼けるような痛みを感じて飛び退く。

 見れば、皮膚が赤く焼け爛れているのが分かった。


「っ、酸性の毒、とか? 触ったら溶けるって事か……」


 リンの近接攻撃を警戒しているのか、腐蝕竜は毒霧を纏ったままリンの様子を伺っている。

 これでリンは近接攻撃が困難になったわけだが、だからと言って何か困るかと言うとそうでもない。


 リンは構成遺伝子を振り直し、【天翼種(ケイレム)】の分を【機甲種(オートマタ)】に変える。


 とたんにリンの身体が空気に溶けるようにして変化する。

 全身が機械仕掛けの身体になり、背中の羽も金属のそれへと置き換わる。右目は眼球からセンサーとレンズに変わり、尾骨の辺りから尻尾のようにコードが延びる。

 先のままでも遠距離攻撃の手段はあったが、威力はこちらが断然上だ。


「【カノン砲】起動」


 その発声と共に、リンの左手が音を立てて変形。小柄な彼女の体躯には不釣り合いな巨大な銃身が現れる。

 同時に腰元からアンカーが射出され、身体を地面に固定する。


 そこでようやく事態が不味い方向へと向かっていることを悟った腐蝕竜がブレスを放とうとする。が、余りに遅すぎた。


「【発射(ファイア)】」


 極限まで圧縮されたエネルギーが、轟音と共に腐蝕竜目掛けて放たれる。

 回避も防御も出来ないし、意味を成さない。


 光はその巨体を塗り潰し、後ろの壁を貫く。外から見れば、巨大な光の柱がダンジョンから生えたように見えただろう。


 光線が収束すると、焼け残った腐蝕竜の下半身が地面に崩れ落ちる。


『レベルが29に上がりました』

『記念称号〔ダンジョン単独踏破者〕を獲得しました』


 リンは熱を帯びた右腕をゆっくりと下ろす。


「ふぅ……何とか勝てた~!」


 すると部屋の奥に魔法陣と一つの宝箱が現れた。

 ダンジョンの入口まで転移する為の魔法陣と、ダンジョン攻略の報酬だ。


 右腕が高熱を放ってしまっているので、リンは再び【天翼種(ケイレム)】と【ロック鳥】の姿になると、宝箱を開ける。そこにはボロボロに裂けた黒い布が入っていた。


 “怨嗟の黒布”──数多の憎悪、苦しみがこもった黒い布。善人が身に付けるとその身に死が訪れ、悪人が身に付けると周囲に死をもたらす。


「……私は使えるのかなぁ。ていうかそもそもこれ、どう使えば……?」


 このアイテムについてはまた今度考えよう。


リンは半分になった腐蝕竜の死体と一緒にぼろ布をアイテムボックスにしまうと、新しい遺伝子【腐蝕竜】について確認することにした。


~~~~~


リン


混合種(キメラ)(+腐蝕竜)


Lv.29


所持金:1,518,246


HP:304/304[69(+235)]

MP:281/281[69(+212)]


STR:70[34(+36)]

VIT:157[34(+123)]

INT:91[34(+57)]

RES:160[34(+126)]

AGI:102[34(+68)]

DEX:99[34(+65)]


装備

武器:

頭:

胴:布の服

手:

足:革の靴


スキル:

【遺伝子組み換え】【悪食】


【腐蝕海(1日に1度だけ使用可)】【猛毒の吐息(消費MP15)】【瘴気(消費MP1/10秒)】


称号:

【虐殺者】【格上殺し】【殲滅者】【殺人鬼】〔ダンジョン単独踏破者〕


保有遺伝子:

森精種(エルフ)】【機甲種(オートマタ)】【天翼種(ケイレム)】【ゴブリンロード】【シャドウウルフ】【レッサーワイバーン】【ロック鳥】【腐蝕竜】


~~~~~


【腐蝕海】──自身の周囲300メートルを腐蝕毒の海に変える。触れたものに【毒】【猛毒】【麻痺】【発狂】の状態異常を与える。触れている間、装備などの耐久値を下げる。一日に一度だけ使用可能。


【猛毒の吐息】──猛毒のブレス攻撃。触れた相手に【猛毒】の状態異常を与える。MPを15消費する。


【瘴気】──自身の周囲に瘴気の霧を纏う。触れている敵に継続ダメージが入る。長時間触れ続けるとランダムで【毒】【猛毒】【麻痺】【発狂】の状態異常になる。


称号〔ダンジョン単独踏破者〕──ダンジョンを一人で踏破したものに与えられる記念称号。効果などはない。


「やっぱりボスモンスターだけあって強いなぁ。このスキルの感じだと搦め手中心の戦い方になるのかなぁ」


 【腐蝕海】とか試しに1度使ってみたい気もするが、ほぼ間違いなく【ロック鳥】のそれと同じ類いだろう。おいそれと使えない規模に違いない。


 リンは町に戻るために構成遺伝子を適当な人型、【天翼種(ケイレム)】に極振りすると、帰還用の転移魔法陣へ足を踏み入れた。


(初日から色々やらかしちゃったし、明日からは普通にレベル上げしよう。経験値の美味しいモンスターとかっているのかな)




***




 翌日、朝食を食べ終えた琳花は休日であるのを良いことにすぐにIROを始めた。


 昨日と同じ【天翼種(ケイレム)】の姿をしたリンの視界に城下町の風景が広がる。


「そういえばまだ町をちゃんと見てなかったなぁ」


 少し町中を散策してみることにし、あちこちを見て回る。


 だが、人の多いところに何となく居心地の悪さを感じたリンの足は、自然と人のまばらな方へと向かっていった。


 次第に人とすれ違う事も少なくなり、町並みも煌びやかなものから廃退的なそれへと変わる。

 時折見かける人の姿も皆薄汚れた身なりをしていた。


「へぇ、ここってもしかしてスラムとか言うやつかなぁ」


 リンはキョロキョロしながら、左の重瞳も目まぐるしくギョロギョロしながらフラフラとスラムを探索する。


 そうして歩くこと暫く。リンの目の前に寂れた、しかし明らかに他の空き家たちとは違う建物があった。

 見上げると薄くなった剣のイラストが微かに見てとれた。


「ここって、もしかして武器屋かなぁ。あっ! 黒布を加工して貰えるかも!!」


 リンは思い付きのままにその建物のドアを開け、中に入った。

 はたしてそこはやはり武器屋だったようで、無人の店内には様々な剣や槍、防具などが並べられていた。


「すみませーん、誰かいませんかー!?」

「あぁ!? ちょっと待ってろ!!」

「うわっ」


 突然、ヤクザのような声が響いてきた。リンもこれには少し驚く。

 店内を彷徨きながら待っていると、店の奥から肌の薄黒い禿頭の大男が出てきた。他に誰も見当たらない事から彼が店主なのだろう。


「何だ、ガキ。何しに来た?」

「……私、今年で17になるんだけど」

「ああ? って、お前その目……いや、余計な詮索はするもんじゃないか」


 リンは店主のその言葉で「目……? って、まさか……!?」と昨日キャラメイク中に見た左目を思い出す。


(あの変な瞳って初期のごちゃ混ぜの身体の時だけじゃなかったの!? ひょっとして今までずっと……?)


「……えっと、鏡ってある?」

「あ? ちょっと待て」


 店主はカウンターの下を漁ると、古ぼけた鏡を取り出す。

 それを覗き混むと、2つの目と3つの瞳が……。

 間違いなく【ロック鳥】の時もこの目だったのだろう、とリンが気付いた瞬間だった。


「…………ありがとうございます、もういいです」

「お、おう」


 あまりのテンションの下がり具合に店主の方も面食らう。


「それで、何しに来たんだ? こんなところガキが来るような場所じゃねぇだろ。……いや、あんたを知っててちょっかい出すバカはいねぇか」

「えぇ……もうそんなに広まってるのかぁ。……それで、これって加工出来る?」


 そう言ってリンはアイテムボックスから“怨嗟の黒布”を取り出す。


「何だ? そのボロいのは」


 店主は黒布を受け取ると、「ちょっと【鑑定】するぞ」と言ってそれを見つめる。


「……おいガキ。こんなもん何に使うんだ?」

「服……というか防具にしようと思って」

「はっ、イカれてんなお前。どうなっても知らねえぞ」

「まあ、流石にちょっと勇気いるけどね。それで出来そう?」

「ああ。加工するだけなら問題は無さそうだしな。デザインの要望とかはあるか?」


 その言葉にリンは少し考え込む。完成品の能力によってはずっと使う事になるかもしれない。


「うーん。目がちゃんと隠れるようにして欲しいかな」

「……なるほどな。お前【透視】とか【空間把握】とかのスキルは持ってるか?」


 聞いたこともないスキル名を言われ、すぐに首を横に振る。


「じゃあ、装備の方に付加するしかねえな。こっちで素材は用意できるが値段が少し高くなるな。大丈夫か?」

「え”っ」


 リンは慌ててステータスの所持金欄を確認する。特に金を稼いだ覚えはない。もしかしたら初期のままかも──


~~~~~


所持金:1,518,246


~~~~~


「え”っ」


(あれぇ!? 何時から!? ダンジョン? いや、まだ素材を売ったりもしてないしこんなには……まさかPK!?)


「い、一応100万あります……」

「十分過ぎるな。60万で足りるが金は完成してからでいい。そうだな……明日までには作れるからまた受け取りに来い」


 その後適当に別れの挨拶をして店を出た。


「……もうPK狙おうかな。経験値もお金も、場合によっては遺伝子も手に入れられるなんて美味し過ぎるし」


 森に入ってから化け物の姿になって暴れれば、明日までは顔バレもしないだろう。目だけなら隠せる。【腐蝕竜】のスキルも試せるし、一石二鳥どころじゃない。

 リンはなるべく人の視線を避けながら町を出ていった。

 明日も18時に投稿します。よろしければ感想、評価など頂ければ作者は庭駆け回ります。昨日の雪が積もっていますが。

 それと、投稿時間って、何時がいいんですかね。

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