寄生プレイヤーリン、働く
そろそろ見慣れてきた広大な荒野。
今回のリンたちの相手は4人組のパーティーだった。
大盾とショートソードを両手に構えた人類種。戦鎚を担ぐ土精種。杖を持った森精種と弓矢を持った森精種。
杖の森精種以外の3人が男のパーティーだった。
すると、彼らの様子を確認したリンがガクたちに近づき小声で話しかける。
「あれって…… 所謂姫プレイってやつでは……?」
「ああ、確かにパーティー構成だけ見ればあり得そうではあるが……」
「そんな不健全なパーティーがここまで勝ち進めるものなんですかね?」
「うーん……はっ!」
そこで何かに気づいたリンがガクの方を向く。
「これ、私たちも逆玉の輿ならぬ逆姫プレイみたくみられてるんじゃ!?」
「あ? 1人ちんちくりんが混じってる時点で無理だろ。てか昨日までの行動を見たら、むしろお前が寄生プレイヤーだろ」
「な、なにおう!?」
「あの、そろそろ始まりますよ」
ラスプが2人を諫めていると、すぐにアナウンスが入る。
『これよりリン、ガク、ラスプ対アレン、シャケ、ヒカリ、ケイの決闘を開始します』
「誰から狙う?」
「そりゃヒーラーから狙うのが定石ってもんだろ」
「ヒーラーってあの女の人? 魔法アタッカーかもよ?」
「面倒な遠距離が1人減るんだから、それならそれで別に構わねぇだろ」
「なるほどねぇ。じゃあ私がやる!」
リンが背中の剣を地面に突き刺す。それは相手を煽る行為。「貴方たちの相手をするのに武器など必要ない」と言っているのと同義だ。
それを見たガクはやれやれと首を振り、武器を取り出す。拳に装着して打撃の威力を高める武器──ナックルダスターを。
「俺もたまには拳でいこうかな」
「ガクさんも案外人の事言えませんよね。私はいつも通りいかせて貰いますけど」
相手チームの者達も戦意を漲らせ、得物を握り締める。
『では──』
その瞬間、相手の前衛2人がそれぞれリンとラスプ目掛けて走り出した。意表を突かれたリンたちは僅かに反応が遅れる。
『──開始!』
「【フラッシュ】!」
杖の森精種が開始の合図と同時に、目眩ましの強烈な閃光を放つ。
更に矢がガクに向けて放たれた。流石のガクもこれには対応しきれない──と思われた。
相手チームの予想に反して、ガクは見えていない矢を容易く弾く。まるで飛んでいる羽虫をはらうかのように。
ラスプを狙った男も、奇襲を悟った彼女が全速力で後退した事で捉えられなくなる。
そしてリンを狙った大盾の男は。彼女の蹴りによって盾ごとまとめて吹っ飛ばされた。そもそも目隠しをしているリンの視界は普通のそれとは異なるので、目眩まし自体効いていなかったのだ。
「──アレンッ!?」
仲間の1人が呆気なく返り討ちにされた事で、相手側の攻撃が止まる。
その隙にガクとラスプも視力を取り戻した。
「……なるほどな。確かに『戦闘開始前の移動を禁ずる』ルールはねぇな。よく考えたもんだ」
「それに何となく対人戦に慣れているように見えますが……ひょっとして貴方方、PKを良くするんですか?」
ガクとラスプの冷静な分析に、相手チームの面々は冷や汗を垂らす。
「……そういうあなたたちこそ、全然動じてないじゃない」
相手チーム唯一の女性、杖を持った森精種が内心の焦りを隠して言う。
「あれくらいで死ぬのは三下の雑魚だけだ」
ガクは楽しそうな笑みを浮かべ、ある場所を指さす。
「そんな事より、あれを止めなくて良いのか?」
ガクが示す先ではリンが先ほど突き立てた剣を地面から抜いていた。
何をしているのかと彼らが戸惑う中、リンは剣を大きく振り被り、投擲。
「ガハッ!」
その剣は狙い違わず、瀕死の状態で生き残っていたアレンに止めを刺す。
『アレン、戦闘不能』
アナウンスと共に彼の身体が消える。
「くっ! で、でもまだこれでようやく3対3なんだから!」
「ああ、このまま防御に徹して10分逃げ切ればそれだけで俺らの勝ちだな」
「なっ!?」
「安心しろ。そんなつまんねぇ事するわけねぇだろ」
そう言うとガクは足を開き、拳を構える。ラスプもククリを構え、リンは直立のまま。
狼狽する女森精種らに、ガクは挑発するように言い放つ。
「PKランカーの俺らが少し遊んでやるよ」
最初に動いたのは無防備に突っ立っていた筈のリン。2、3歩走って加速すると地を強く蹴って大きく跳躍する。戦鎚を持った前衛の頭を越え、直接後衛の女森精種に接近していく。
「空中じゃ避けれないだろ!」
隙ありとばかりに矢が飛んでくるが、リンはそれを宙で掴み取った。
相手の後衛2人がぎょっとするのを尻目に、リンは身体を捩り女森精種目掛けて踵落としを叩き込む。
「──っ!」
一応戦闘慣れはしているからか、女森精種は後ろへ転がる事で辛くもそれを避ける。リンの蹴りは地面に直撃し、大量の砂ぼこりを巻き上げた。
女森精種はすぐに顔を上げ、周囲を警戒しようとしたが、その必要はなかった。
突然、砂ぼこりの中から腕が伸びてきて、彼女の頭を掴んだ。
「──痛ッ!?」
女森精種は必死に暴れるが、人外の膂力を持つその腕はびくともしない。
すぐに砂ぼこりは収まり、腕の持ち主──リンの姿が露になる。
女森精種はリンの目隠しした顔を睨みつける。するとリンは愉悦に口元を歪め、彼女の頭部を地面に思い切り叩きつけた。
他方、ラスプは乱心状態となっている射手の森精種に狙いを定めた。
相手の状態などお構い無しに、一撃で決めるつもりで一息に接敵する。
すると半分ほど走破したところで相手の森精種もこちらに気づく。
森精種は慌てて矢をつがえ、放つ。余裕なく放たれた矢はしかし、狙い通りラスプの心臓目掛けて飛んでいく。
だがラスプは少し身を逸らし、紙一重で矢を避ける。
「──っ! 【クイックショット】【クイックショット】【クイックショット】!」
ならばと森精種は速射用のスキルを立て続けに使う事で矢を連射する。
しかしスピードを落とす事なく最小限の動きで躱していくラスプには、ただの1つも当たらない。
すぐに矢を射れるような距離ではなくなり、森精種は近接用の大振りのダガーを取り出す。
だが取って付けたような剣術など、ラスプの前ではないに等しい。2本のククリを巧みに使い、容易く森精種のダガーを絡め取る。そしてその流れるような速さのまま相手の喉笛を掻き切った。
ガクは戦鎚の土精種を相手取った。
「普通に考えて、長柄武器相手に徒手空拳挑むってのはイカれてんだろうけどなぁ。……いやメリケンサック持ってるし素手ではないか?」
ガクはぼやきながら小刻みに移動し、相手との間合いを測る。
互いにしばし硬直し、そしてガクから動く。躊躇いもなく戦鎚の間合いに入り、そのままこちらの攻撃が届く距離まで詰め寄ろうとする。
土精種はガクの動きを封殺するように、戦鎚で横薙ぎを見舞う。
回避など出来ない完璧なタイミング。受け止めるなど到底出来ない。そう思われた。
しかしガクは前に倒れ込み、地面に張り付くようにして戦鎚を躱した。そしてその低い姿勢のまま自身の間合いまで入る。
戦鎚を振り抜いた後の土精種は慌てて得物を引き戻し、ガクの拳を柄で受ける。その衝撃は土精種の予想以上で、思わず両手を痺れさせた。
連続で拳を叩き付けるガクは、土精種がその全てを柄で受け止めている事に、内心舌を巻いていた。
(思ってたよりやるようだが……こいつは物を掴めねぇのが欠点だな)
ガクはあえて単調な、それでいて威力のある拳を繰り出し続ける。
このままではじり貧である事を悟った土精種は、一か八か攻勢に打って出る。柄に角度を付ける事でガクの拳を横に流し、戦鎚をコンパクトに振り抜く──事は出来なかった。
攻撃を受け流されたガクはその勢いを生かして身体を反転、回し蹴りを放ったのだ。それは土精種の顔面を完璧に捉え、その身体を吹き飛ばす。
脳を激しく揺さぶられた土精種は倒れたまま身動きが取れない。
このまま殴り殺すのは骨が折れると判断したガクはナックルダスターをしまい、代わりに日本刀を取り出す。
「誘いに乗ってくれてありがとよ」
ガクはそれだけ言うと刀を一閃。首を切りつけた。
『ヒカリ、ケイ、シャケ、戦闘不能。勝者リン、ガク、ラスプ』
その後3人は、勝ち進むにつれ敵が強くなっていくのを感じながらも、余裕を持って予選を通過した。
だが彼らに油断はなかった(ただしリンは除く)。
何故なら、このIROはもともとトッププレイヤーと呼ばれるプレイヤーたちとそうでない者達との戦力差が激しかったからだ。
これには理由がある。 IROはその特性上、かなりレベルの高いプレイヤースキルを求められる。
更に多彩なプレイスタイルでの戦闘が可能なので、“慣れ”が非常に重要であり、『コツを掴んだプレイヤーはチーターになる』とも言われる。勿論、チーターというのはあくまで比喩だが。
それ故ガクとラスプはむしろこれからが本番と言わんばかりに気を引き締める。リンは何処までも驕る。
そして──ガクにこってりと絞られた。
予選、思いっきり飛ばしてすいません。最初は書こうと思っていたのですが、「10戦も書いてられるかぁ!」となりまして。
あとナックルダスター、メリケンサック、紛らわしくてすいません。「やめてぇ~」と言って頂ければ直します。
次は12日更新予定です。
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