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リン、戦力外通告

最近、寝ても覚めても眠いです。

 遂にパーティー対抗戦の開催日がやって来た。


 今日と明日で予選が行われ、8組まで一気に絞られる。そして3日目に準々決勝。4日目に準決勝と決勝が執り行われる。

 3、4日目は町中にある闘技場で行われるのだが、予選はそうはいかない。如何せん参加者の数が多すぎるのだ。

 その為、予選はかなり詰め込んだスケジュールとなっている。


~~~~~

予選について


・トーナメント形式で行われる。


・4人以下のパーティー同士での決闘となる。


・制限時間は10分。


・決闘は専用の特設空間で行われる。参加プレイヤーはシステムにより自動的に転送される。


・予め登録してあるもの以外を参加させる事は出来ない。


・アイテムの使用は可能。


・HPが0になった時点でそのプレイヤーは戦闘不能となり、決闘から除外される。


・決闘終了次第、プレイヤー(戦闘不能となったプレイヤーも含む)のHP、MP、状態異常は自動的に回復される。


・勝利条件:相手チーム全員を戦闘不能にするか、決闘終了時に相手チームの戦闘不能になった人数が自チームのそれを上回っていた場合。または相手が降参した場合。


 敗北条件:味方全員が戦闘不能となるか、決闘終了時に相手チームの戦闘不能になった人数が自チームのそれを下回っていた場合。または自チームが降参した場合。


・必要以上に相手を痛め付ける行為は禁止とする。




・なお予選中は時間が限られているので、アイテムは予め多めに用意しておくことをおすすめします。

~~~~~


「勝ち進めば1日で5戦もするのかぁ~」

「言うほどキツくはねぇだろ。特にお前にとっては」


 もう間もなく対抗戦が開始されるので、リンたち3人はギルドホーム内で集まっていた。他の参加するメンバーたちもホームに留まっている。


「なるべく皆とは当たりたくないよねぇ」


 予選の相手やトーナメント表は発表されていない。その為、会場に転送されないと相手チームが分からないのだ。


「でも私たちよりも皆さんの方が、私たちとは──と言うかリンさんとは当たりたくないと思っていますよ?」


 ラスプが皆の心を代弁する。実際、「リンたちのチームに当たったら潔く降参しよう」と考えているメンバーがほとんどだった。


 そんな事を話しているとポーン、という軽快な音と共に『間もなく対抗戦が開催されます。会場に転送されますので、ご注意下さい』という文字が視界の端に表示される。


「おぉ、ついにかぁ。何か緊張するなぁ~」

「じゃあお前は言った通りにな。出来る限り出し惜しみしてけ」

「……りょーかい」

「それでは優勝目指して頑張りましょう」


 ラスプがそう言った瞬間、3人の足下に転移用の魔法陣が出現し、彼らを別空間へ誘った。




***




 リンたちの目の前に荒野が広がる。イメージとしては申し訳程度の草木が生えたサバンナみたいなフィールドだ。

 そこに(たたず)む人影はリンたちのものと──


「あの人たちが相手って事かな」


 その人影はリンたちと同じく3つ。相手は3人とも人類種(ヒューマ)の男性のようだ。


 彼我の距離はおよそ30メートル。何か話しかけた方が良いのだろうかと、リンが口を開こうとした瞬間、何処からともなく無機質な音声が響き渡る。


『これよりリン、ガク、ラスプ対せんべい、リュウ、Kの決闘を開始します』


「挨拶も無しに始めるんですね……」

「うっし、じゃあリンは下がっとけ」

「は~い。頑張ってね~」


 リンたちは勝ち進む為に、1つの方針を決めていた。それは出来る限りリンの戦闘能力を隠し通すという事だ。

 というのも、リンが暴れれば間違いなく話題になってしまう。イベントは数日に渡って行われる為、それが対戦相手の耳に入ればこちらは一気に不利になってしまう。……まあ仮にリンの実力を知ったところでどうする事も出来ない気もするが。

 とまれそういった理由から手の内はなるべく見せない方が良いという話になったのだ。


 ガクが六尺棒を、ラスプが2本のククリを構える。リンは2人の後ろに下がる。リンの役目は【統率】で2人のステータスを補強する事だけだ。一応半片手剣は用意しておく。


 相手チームの3人もショートソード、カットラス、ダガーを構えた。


『では──開始!』


 合図と同時にラスプが加速。ショートソードの男に後ろから切りかかる。


「なっ!?」


 男には目の前にいた人間が突然消え、次の瞬間真後ろに現れたように感じられただろう。それに対応しろと言われても土台無理な話だ。

 何とか振り返った瞬間、頸動脈を切り裂かれる事になった。

 文句無しのクリティカル。


『リュウ、戦闘不能』


 死体となった彼の身体はすぐに光に包まれて消える。


(……あれだと死体を盾に、みたいな事は出来ないわけかぁ)


 リンは高みの見物をしながらそんな事を思う。


「は、速い……!」

「嘘だろ……」


 開幕速攻で仲間の1人をやられた男2人が戦慄の眼差しでラスプを見る。

 ラスプはあえて見せつけるようにゆっくりと構え直す。


「おい、俺の前で余所見とは良い度胸じゃねぇか」


 ラスプに気を取られている内に接近したガクが六尺棒を回転させ、カットラスの男の顔面とダガーの男の後頭部を同時に殴る。


「ぐぁっ!」


 前によろめいたダガーの男にラスプが突っ込み、喉にククリを突き込む。

 ガクは反射的に顔をおさえてしまったカットラスの男の頚椎(けいつい)に体重をのせた突きを入れる。ゴキッという音が辺りに響いた。


『K、せんべい、戦闘不能。勝者リン、ガク、ラスプ』


 アナウンスにより、3人の勝利が告げられる。


「おぉ、やっぱり2人ともすご──」


『間もなく元の場所へ転送されます』


 直後、3人の足下に魔法陣が現れ、彼らの姿を掻き消した。




***




「……何あれ。追い出された気分なんだけど」


 ホームに戻ってきたリンたち。しかし第一回戦で勝利した興奮は何処へやら。あまりにぞんざいな扱いに憤りを感じていた。主にリンが。


「まあ良いじゃねぇか。勝ったんだしよ」

「私喋ってる途中だったのに……ていうか本当に私って今日はただ立ってるだけなの?」

「何だ不満か?」

「当たり前だよ!」


 最初から分かってはいたが、やはり見ているだけでは暇で暇でしょうがない。人がプレイしているゲームをただじっと見ている時以上の苦痛を、リンは知らない。

 ガクは「しょうがないなぁ」というように苦笑しながら肩をすくめる。それを見たリンは顔に喜色を浮かべた。


「俺たちが戦ってる間、座ってて良いぞ」

「違う、そうじゃない」


 立っている事が嫌なのではなく、見ているだけというのが嫌なのだ。


「ったく、話し合った時は納得してたじゃねぇか」

「納得はしてないよ。理解しただけで。それに思ってたよりつまんなかったし」


 ガクは「こいつ何とかなんねぇか」とラスプの方を見るが、彼女は苦笑しかしない。


「……はあ~~~~~。しょうがねぇなぁ。じゃあ明日からだ。ただし武器とスキルの使用は禁止。重瞳を露出させるのも駄目だし、その身体を変える事も駄目だ。それでも勝てるってんなら良いぞ」

「えぇー、結局今日はダメなの? ……カナぁ~、カナからも何とか言ってよ~」


 リンは我関せずとばかりに隅で何かを食べているカナを見る。


「──って何食べてるの?」

「ん? ポップコーンもどき。あとお姉は話題性に富んでるから、戦ったら速攻で情報が拡散されて、皆対策しようとするに決まってるじゃん」


 カナは口に食べ物を運ぶ手は止めずにリンからの要請を一蹴する。


「む~~~~~……。じゃあそれ頂戴」

「何が『じゃあ』なのかわかんないけど、まあ良いよ」

「やった!」


 リンがポップコーンもどきが入っている容器に触れる。

 その瞬間、魔法陣が現れた。


「「え?」」


 そしてリンたち3人は再び転送される。ポップコーンもどきと共に。




 その日執り行われた残りの4つの決闘で。ガクとラスプが真面目に戦う中、リンは地べたに横になりポップコーンもどき片手に試合を観賞していた。




***




 昨日はリンがだらける中、ガクとラスプは余裕をもって勝ち進んだ。

 ちなみに1度だけギルドメンバーと当たったが、開始と同時に降参された。

 今日あと5試合勝てば決勝トーナメントへの出場権を得られる。

 更に今日からは自分も戦えるという事で、リンのやる気はマックスだ。


「そういえば目隠ししたまま三人称視点で戦うのって初めてかも」

「あら、そうなんですか? やっぱり戦いづらいんでしょうか?」

「うーん」


 ラスプの言葉を受けて、リンは軽くその場で動く。後方倒立回転跳び(バク転)や片手倒立を軽いと言って良いのかはこの際置いておく。


「……特に問題はないかなぁ。ただやっぱり普段通り(一人称視点)の方が見慣れてるからさ」

「な、なるほど」


 ラスプはリンの無駄にピシッとした完璧な動きに頬をひきつらせる。


「あの、リンさんはリアルでもバク転とか出来るんですか?」

「ん? 出来るわけないししようとも思わないよ? 今のが初めて。体育の成績も下から数えた方が早いしね」


 これにはラスプもハッキリと驚愕を覚えた。


 確かにゲーム内の身体能力はリアルのそれとは比べるべくもない。リアルで出来ない事がゲーム内なら出来るというのは分かる。

 むしろそれがゲームの魅力の一つでもあるわけだが。

 しかしいくら超人的な身体能力を得られると言っても、それを操るのは凡人のプレイヤーだ。

 時折混合種(キメラ)の動きづらさが取り上げられているが、その身体能力をコントロールしきれていないという点では他の人型種族も変わらない。

 例えば今ここでラスプが後方倒立回転跳び(バク転)をしようとすれば、一応出来ない事はない。だがリンとは違い、軸がぶれたり、着地でよろめいたりするだろう。

 何故ならリンほど精密な身体操作が出来ないから。これはラスプが劣っているからではなく、リンが他プレイヤーよりも異常なほど優れているからだ。


「……何だかリンさんの強さの根底が少し分かった気がします」

「え?」

「いえ、何でもありません。……っとそろそろ始まるみたいですね」


 昨日と同じメッセージが届き、ラスプが話を打ち切る。

 いよいよ6回戦。既に半分を勝ち進んできたわけだが、リンにとってはこれが最初の決闘だ。彼女は自分の鼓動が高鳴るのを感じた。


「これが血湧き肉踊るっていうやつか……」

「……リンさんにぴったりのおどろおどろしい字面ですね」

お読みいただきありがとうございます。

次は3月9日18時に更新予定です。

評価やブクマ、感想などお待ちしております。どしどしお願いします。

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