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そういえば店主って名前何?

お待たせしました。

 昨日“ギルドの印”を持って帰ったリンたちだったが、既に外出中の者が多かったので日を改めて──つまり今日、シンボルマーク作成の話し合いが行われる事になった。


「このギルドの名前にもなってるし、やっぱり目に関係するものがいいよね」

「だな。そのまま重瞳をマークにするだけでも十分格好良さそうだし」

「でもそれじゃギルドのマークじゃなくてマスターのマークにならねぇか?」

「……目がたくさんって事で複眼にするとか?」

「それはどうあがいてもキモそう」


 皆でわいわいと意見を出し合っていく。ちなみにリンは早めの段階で戦線離脱した。他者の追従を許さぬ斬新なセンスを展開した為だ。


 話し合うこと約20分。皆の意見をまとめてようやくシンボルが完成した。

 たくさんの眼裂で輪を作り、その中心に重瞳を描いたマークだ。シンプルにギルドの象徴である“目”だけでデザインしようという事になったのだが。


「……何か思ってたのとちょっと違う気が」

「ああ、もう少し格好良い感じになると思ってたんだがこれは……」

「どっちかというとおどろおどろしいね……」


 何だか怨念のこもってそうな見た目になった。しかもインパクトが強く他に妙案が浮かばない。

 結局それで完成という事になり、いよいよメンバーたちの身体に印す。


 “ギルドの印”の使い方は簡単だった。拳大のスタンプのようなそれに、完成したマークを描いた紙を押し付ける。それだけで登録完了だ。あとは肌に押し付けるだけ。ちなみに紙は町中で買える普通のものだ。


「じゃあ順番に押していこうか」


 印をつける場所は各々の自由という事になった。

 大抵の者は手の甲だったが、ガクは首のつけ根の辺り、チンピラBはスキンヘッドの側頭部につけていた。リンは左の鎖骨の辺りだ。始めは腕にしようと考えていたのだが、リンの場合鱗やら金属やら羽毛やらで覆われる事が多い手足は避けた方が良いと思ったのだ。

 ついでにノーラにも背中につけてあげた。

 全員が印をつけ終えたのを確認すると、集会はお開きとなった。


「お姉は今日どうするの?」

「うーん、ちょっとお金稼ぎをね。対抗戦前にどうしても買っておきたいものがあるから」

「つまり今日は魔獣大災害が起こるのかー。エンカウントしたらやだし、しばらく町でうろちょろしてようかなー」

「災害って……」


 酷い言い草だと思ったが、あながち間違いでもない気がする。


「ま、まあそういう訳だからそろそろ行くね。この時間が一番プレイヤーの数が多そうだし」


 この一言だけでリンが何を収入源としているのかが良く分かる。

 リンはホームの外へ出ると、すぐに遺伝子を操作し、【ロック鳥】の姿になる。スラムはほとんど人が居らず、しかも建物が入り組んで乱立しているのであまり人目を気にする必要がないのだ。一々隠れるのに疲れてきたというのもあるが。


 いつもの様に空から人の多いところを探し出し、そこへ急降下。


「──で、出たぞー! 重瞳の悪魔だ!!」

「集中放火だ! 遠距離攻撃できない奴はさっさと離れろ!!」


 どうやら高レベルのプレイヤーが集まっていたようで、すぐにリンに気づき撃ち落とそうと総攻撃が始まる。

 巨大な火の玉が、風の刃が、氷の礫が、某弾幕ゲームのごとき密度で迫ってくる。

 リンは翼を大気に叩き付け、急旋回、急降下でその隙間を縫うように躱していく。


「はぁ!? あれが人間!?」

「嘘だろ!? 何だよあの動き!」


 そして遂にリンが攻撃を全て掻い潜り、勢い良く地面に着地する。


「──っ!!」


 化け物がすぐ側に降りてきた事でプレイヤーたちは一瞬硬直してしまう。

 一方のリンはまさかこんなにも統率の取れた迎撃をしてくるとは思っていなかったので、純粋に感心していた。だから素直に言葉にする事にした。


「──ナかなカやルねぇ」


(あ、変な声になっちゃった。てか今気づいたけどこの身体でも喋れたんだ)


 これ以上抵抗されても面倒なので手短に【崩天(テンペスト)】を発動させると、暴風が収まるより先にそこから飛び立ち、今度は【腐蝕竜】で暴れる為に移動する。


 だから。


「あれがプレイヤー、ねえ……」


 【崩天(テンペスト)】を受けてもギリギリ耐えられるだけの実力を持つ者がいた事をリンが知る事は出来なかった。




***




「ふう。大猟大猟~」


 リンは上機嫌で町に戻ってきた。今回の騒動2つでレベルが4つも上がり、所持金は70万ちょいまで増えた。プレイヤーが各地へ散らばり始めた為か以前よりかなり収入は減ったがそれでも十分だ。


 荒稼ぎしたリンは目的の店──お馴染みの武器屋へ来ていた。

 いつものように店内へ入り、店主を呼ぶ。


「またお前か。何しに来た? 言っとくが戦斧の返品は受け付けねえぞ」

「そんなことしないよ。あれ気に入ってるんだから。そうじゃなくてあれと使い分けれるように剣を買いに来たんだよ」

「ああ、そういうことか。どういう剣が欲しいんだ?」

「うーん……この身体でも思いっきり振り回せるやつ!」


 現在リンは遺伝子を【ゴブリンロード】に4割、【ヴァンパイア・ロード】に6割振っている。この身体だと残念ながらあの戦斧は手に余るのだ。


(……そういえば何で【ゴブリンロード】は【ゴブリン“・”ロード】じゃないんだろう。ノーラちゃんなら知ってるかなぁ)


 とまれ、対抗戦でフル活用する予定のこの身体では今ある武器はうまく使えないのだ。これでは何の為に武器を買ったんだか分からない。

 そういうわけで、リンは店主に一通り剣を見せて貰う。

 だが──


「これで終わり?」

「ああ、両手剣は一通り見せたが、ピンとくるものはなかったか?」


 一言に両手剣と言っても様々な種類がある。片刃だったり両刃、200センチメートルを超えるグレートソードと呼ばれるものもあれば、バスタードソードという片手剣と両手剣の中間のようなものもある。

 だがリンが望んでいたものはそこにはなかった。


「……親方。私はね、ここにロマンを買いに来たんだよ」

「……は?」

「あるでしょ! 親方なら! 絶対! 使い勝手なんぞそこらに捨ててきたようなやつが!!」

「な、何でそれを……!?」

「ほらやっぱり!」


 店主はしばらく渋っていたが、諦めの悪いリンに根負けし、一振りの剣を持ってくる。

 それは一見、ただの片刃のバスタードソードに見えた。だがやけに造りが重厚で、峰には穴が空いていて分厚い刃の中が覗けるようになっていた。

 店主に手渡されて持って見ると、見かけよりもやや重く感じる。


「これ何?」

「激発式半片手剣だ。中に特殊な油が仕込んであってな。柄の部分を両手で持って強く捻ると、それが発火して後ろの穴からガスを噴出するんだ。それによって勢い良く剣を前に押し出すっていうギミックを組み込んだ剣なんだ」

「? ……な、なるほど」

「絶対分かってねぇだろ。……まあ見せといて何だが、こいつはマジで欠陥品だぞ。あの戦斧みたく、膂力があれば何とかなるってもんでもねぇしな」

「え、何で?」


 店主は武器としては致命的な、その武器の欠点を挙げた。

 性質上、この剣は内部に大量の液体(・・)燃料を抱えている。その為、重心が常にチャプチャプと揺れ動く。

 ついでにいうと、燃料を消費すればそれだけ重量も変わってきてしまう。


 要するに、剣としては破格の破壊機関を持ちながらも、剣本来の性能は最悪というのがこの“激発式半片手剣”であった。


「なるほどねぇ。うーん……何となくは分かったけど、やっぱりそれが欲しいかな」

「……まあ何となく言うと思ってたよ。代金は45万でいい」

「あれ、意外と安いね」

「こいつは燃料の補充とかメンテナンスが必要だからな。その都度金がかかるから売値は安くしといてやる」

「あー、そういう事か。あと背中に背負えるように留め具とかってある?」

「おう、特別にサービスしといてやるよ」

「やった!」


 リンは剣を背負い、ホクホク顔で店を出た。




 さて、風変わりではあるが剣を手に入れた。しかし剣というのは案外慣れないと使いづらいと聞く。リンは器用なタイプではないから独学では苦労するだろう。

 ならば人に教えて貰えば良い。自力で出来ないのならば他力だ。

 では誰に教えて貰うか。そんなのは簡単。知人の中で最も武器の扱いに長けている者。

 つまり──


「──お願いします!!」


 リンは、ギルドにいたガクに勢い良く頭を下げていた。


「剣の稽古だぁ?」


 ガクは胡乱(うろん)な目でリンを見やり、その背に歪な剣を見つける。


「はぁ……。また変なもん買ってきたな。……まぁ対抗戦までなら付き合ってやるよ」

「本当!?」

「あぁ。ただし──」


 パァッと顔に喜色を浮かべるリンに、ガクがニタリと笑う。


「──絶対に途中で逃げんなよ?」


 パーティー対抗戦が開催されるまでの2週間。リンは生き地獄を味わう事になった。

 後に彼女はこう語る。


『今なら自衛隊のレンジャー教育にも耐えられそう』

自分のデザインセンスの無さに絶望します。

次は3月6日更新予定です。

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