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このチーターどもめっ

お待たせいたしました。

 国王らとの対談から二日が経った。予想通りの事だが、今のところ彼らからの依頼はない。

 代わりに運営からのメッセージがシステムウィンドウに表示されていた。


『パーティー対抗戦開催のお知らせ』


 IROが発売されてからおよそ三週間。初の運営主催イベントだ。これが世間的に見て早いのか遅いのか、他のゲームをほとんどしたことがないリンには分からなかったが、彼女個人としては待ちに待ったという感じだ。


「でもパーティーかぁ……ずっとソロだったしなぁ」


 今更誰かとパーティーを組むのは難しいだろう。

 リンが唸っていると、チンピラBが近づいてきた。


「別にパーティーじゃなくても出られるみたいだぞ?」

「そうなの?」


 改めて参加条件を確認すると、確かに一人から四人までとなっている。


「……じゃあダメ元でソロ参加してみようかなぁ。一応聞くけどチンピラ、一緒にエントリーしない?」

「無理だな。何かコロシアムっぽいところでやるみたいだし、俺じゃまともに戦えない」

「いいよ。隣で敵を恫喝(どうかつ)しててくれれば」


 「やだよー」とか「でもさー」などと言って嫌がるチンピラBを何とか引き込もうとする。

 そうこうしていると、カナたち三人組もやって来た。


「あ、リンさん。なら私たちと臨時パーティー組みません? カナさんも不利になるから参加しないので代わりを探していたんです」


 どうやら話を聞いていたようで開口一番にパーティーのお誘いが来た。


「えっ、いいの!?」

「ええ。むしろこっちからお願いしたいです。リンさんが居れば百人力ですから」

「あんまり期待されても困るけど……じゃあお願いします!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 これで三人パーティーとしてイベントに参加できる。

 他のギルドメンバーたちもほとんどの者たちは参加するようだった。


「でもこのパーティーって役割分担とかあるの? 二人とも生粋のアタッカーだよね?」

「そうですね。まあガクさんならタンクも出来そうですが、基本はアタッカーです」

「まあ出来なくはねぇがちょっと厳しいな。そういうオメェは何が出来んだ?」


 そう言われて少し考え込む。まずアタッカーは考えるまでもなく出来る。

 次にタンクはステータス的には問題ないが、タンク用のスキルを持っていないので本職の人には大きく劣るだろう。

 ヒーラーは一応回復系のスキルを持ってはいるが、範囲回復などもなく最低限だけなのでやはり本職には負ける。

 あとは後衛での戦闘くらいか。しかしリンの遠距離攻撃は広範囲に及ぶものが多く、使用回数に制限があったりもするのでやはり現実的ではない。


「私もまともに出来るのはアタッカーかなぁ」

「だろうなぁ。となるとアタッカー三人のパーティーか」

「中々に尖ってるねぇ。……まあ良いんじゃない? タンクだけとかヒーラーだけとかよりは遥かにましだよ」

「それは比べるものが極端な気がするのですが……」


 まあ即席のパーティーではこんなものだろう。むしろ変に連携を取る必要がない分、動きやすいかもしれない。

 そこへカナが口を挟む。


「あと、改めてお互いの戦闘スタイルとかも確認し合った方がいいんじゃない?」

「おお、それもそうだね。カナ、ナイス!」


 確かにカナの言う通り、お互いの戦い方を知っていれば、いざという時フォローし合ったり出来るかもしれない。

 逆に知らなければ、味方の戦闘を邪魔してしまう可能性もある。


「私は一撃離脱での戦闘がメインですが補助に簡単な魔法系スキルも使います。よく使うのは“アロー”系の魔法と……あとは目眩ましの“フラッシュ”ですかね。武器はこれです」


 ラスプは内反りの大振りなナイフを二つ取り出す。

 リンはあまり見ない形状の刃物を興味深げに見つめる。


「ククリとかグルカナイフとか……いくつか呼び方がありますが、かなり殺傷能力の高いナイフとしてまあまあ有名なものです」

「俺も少し知ってるぞ。重心が先端の方にあるし、鉈にも似た形してるから威力がクッソ強いんだよ」

「へぇー。私あんまりそういうの興味なかったからなぁ」


 ラスプは素早い動きとスキルで相手を翻弄しながらヒットアンドアウェイを繰り返すというスタイルらしい。

 だがVITやRESはあまり高くないらしく、相手がある程度こちらの動きについてこれるようだとカウンターが恐いとの事。


「こないだ見たからある程度わかるとは思うが、俺はいくつかの武器を使って戦う。刀、大太刀、槍、短刀、薙刀、棒、鎖鎌、鉄鋼鉤……他にも西洋の武器とかもいくつかあるが……」

「……ガクってチート?」

「テメェにだけは言われたかねぇわ!」


 相手との相性や戦況、あとはその時の気分で武器を変えながら臨機応変に戦うのだそうだ。


 そして最後にリン。


「私はステータスとスキルに物言わせて強引に突っ切る感じかな」

「あらら……」

「ほんとに化けもんじゃねぇか」


 四人は困ったような、呆れたような表情をする。


「あ、でも使用回数に制限があるから使えるスキルは結構絞られるのか……」


 リンは使えそうなスキルを吟味しようとして、ふと気づく。


(そういえば全く使わない遺伝子とかも溜まってきたなぁ。一回整理しよう)


 確か保持出来る遺伝子は10個までだったはずだ。要らない遺伝子は削除(デリート)できるようなので、この際一気に捨ててしまおう。


 現在所持している遺伝子はこうだ。


森精種(エルフ)

機甲種(オートマタ)

天翼種(ケイレム)

【ゴブリンロード】

【シャドウウルフ】

【レッサーワイバーン】

【ロック鳥】

【腐蝕竜】

【ヴァンパイア・ロード】


 この中であまり使っていない、或いは一度も使っていないのは、【森精種(エルフ)】【ゴブリンロード】【シャドウウルフ】【レッサーワイバーン】の四つだ。

 【森精種(エルフ)】は使いこなせれば魔法主体での戦闘が出来るようになるのだろうが、今のところ他の種族の超火力スキルが優秀過ぎて下位互換となっている。

 そもそもリンは派手な技や物理で殴る方が好きなのであんまり使いたいとも思わない。よって捨てる。


 次に【ゴブリンロード】。使えるスキルはたったの一つ、【統制】のみ。

 効果は味方のステータスを1.2倍にするというもの。以前は完全にソロだった為、全く出番はなかった。

 しかしギルドマスターとなった今、これほど有益そうなスキルはそうないだろう。

 特に今回はパーティー戦だ。使用するのに相応しい限りだと言える。


 そして【シャドウウルフ】と【レッサーワイバーン】。これらは普通に使い道がない。

 【シャドウウルフ】は一度だけ移動用に使った事があるが、今では【ヴァンパイア・ロード】で普通に走った方が遥かに速い。

 【レッサーワイバーン】に至ってはもう何も語るところがない。“lesser(劣った)”とは良く言ったものだ。スキルに【飛翔】という飛行補助のスキルがあるのを見たときは笑ってしまった。


(そんなの無くても普通に飛べるのにねぇ)


 一般的に【飛翔】は、プレイヤーが自力で空を飛ぶのに必須のスキルである事をリンは知らない。


 長考の末、リンは【森精種(エルフ)】【シャドウウルフ】【レッサーワイバーン】の遺伝子を捨てる。システムウィンドウ上での操作である為、見かけで何か変化があるものでもないが。


「よし、整理終了! あとはゴブリンを試してみようかな」


 周囲から見れば、何かリンがシステムウィンドウを操作しているという事しか分からないので、四人は「何のこっちゃ?」という顔だ。


 そんなことはお構いなしに、リンはちゃちゃっと遺伝子を【ゴブリンロード】に全て振る。

 勝手に入手していた遺伝子の為【ゴブリンロード】がどんな姿なのか分からず、興味があったのだ。

 リンのイメージは、ゴブリンをそのまま少し大きく、そして厳つくしたような感じだ。


 果たしてその姿は──


「……ちっさ」


 それは誰の言葉か……。


 全体的に肌の色が白くなり、額には小さな角が二本、ちょこんと生えていた。

 更に150センチメートルはあった(本人の主張)身長は120センチ程まで縮んでいた。


「え、変わるのこれだけ? てか皆デカ!」


 試しに目隠しを外して見ると、やはり目線がだいぶ下がっているのがわかる。


「わ、私の身長が……もっと強そうなのイメージしてたのに……まあ変なのになるよりはマシかなぁ」


 皆何とも言えない表情で小さなリンを見下ろす。正直もはや小学生にしか見えない。


「ぶふっ! もう小学生じゃん」

「ア”?」

「いえ、何でもないッス、リンの姉御」


 チンピラBが直立不動になる。何というか本当にチンピラとして様になっていた。


 その後、システムウィンドウでパーティー登録をし、【統制】を使用。しっかりとラスプたちのステータスが上がっている事を確認する。

 やはりスキル説明の『味方』というのはパーティーメンバーの事を表すのだろうか。或いは他に何らかの条件があるのかどうかは分からなかった。

いつも誤字報告などありがとうございます。

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