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さぁ、ちからみなぎる、おれが相手だ!

「じゃあ、行こっか」


 翌日。カナとラスプ、ガク、そしてチンピラBを引き連れたリンは王城へ向かった。現在彼女は吸血鬼の姿で、一応目隠しはしている。


「って言うか何で俺も? 俺だけ場違いじゃね?」


 キル数トップ組に囲まれたチンピラBが居心地悪そうな顔をする。


「そんな事ないですよ。チンピラBさんも十分頼りになりますし、それにリンさんと仲が良いようですしね」

「そうか?」


 ラスプの言葉に首を傾げる。言われるほど仲良く接していたつもりはなかったのだが。


「そうだぜ? それに俺らがついてくのは戦力としてじゃなくてリンの暴走を防ぐ為だからな」

「そうそう。お姉は何をしでかすか分からないからねー」


 ガクとカナの発言を聞いたリンは唇を尖らせる。


「私だって良かれと思ってやってるんだよ?」

「良かれと思って騎士団の連中を皆殺しにすんじゃねぇよ……」


 そうこうしている内に、町の中心にある城の前までたどり着く。

 城門の前には大勢の騎士たちがおり、物々しい雰囲気が感じられた。


「……何か物凄く睨まれてる気がする」

「そりゃそーだよ。仲間を殺した化け物が目の前にいるんだもん」

「うーん……今後は出来るだけNPCをキルするのは避けた方がいいのかなぁ」


 周囲の視線を浴びながら、門をくぐる。リンたちの事が伝えられているのだろう。誰にも止められる事はなかった。


「ねぇ、これって何処に行けば良いの?」

「さあ……誰か案内でもいれば良いのですが……」


 そう言って辺りを見回していると、天翼種(ケイレム)の青年がこちらに近づいてくるのが見えた。


「……あれ? あいつどっかで……」


 チンピラBが何やら記憶を探っているが、本人がやって来る方が早かった。

 青年が「皆さんが“重瞳”の?」と確認してきたので、肯定を返す。


「私はノイリーです。プレイヤーなんですが、王様の護衛と皆さんの案内という依頼を受けまして」

「それだ! トッププレイヤーのノイリーだ!」


 何とかお目当ての記憶を掘り起こしたチンピラBが声を上げた。


「そんな大したものではありませんよ。それで、折角ですから皆さんの名前も伺って良いですか?」


 断る理由もないので、5人も軽く自己紹介を済ませる。リンはRPの口調で。


「……えっと、リンさんのそれは素? それともロールプレイ?」

「さて、どうかしらね?」


 取り敢えず一行は王がいるという謁見の間に移動を始める。


「そういえば私、以前リンさんの攻撃に巻き込まれてPKされてしまった事があるんですよ」

「あら、じゃあ私の事を恨んでるのかしら?」


 リンは内心冷や汗をかきながら尋ねる。トッププレイヤーに恨まれては面倒な事になりかねない。


「いえいえ。もちろん簡単にPKされてしまったのは悔しいですが、過度に恨みを持つのは間違っていますから。でも次は簡単にはやられませんよ?」


 ノイリーは事も無げに言って見せた。その様子にホッとしつつも、「そう」と素っ気なく返す。

 しばらく歩くと、立派な扉の前までたどり着いた。扉の両脇には、武装した騎士が佇んでいる。


「連れてきましたよ」

「はっ。少々お待ち下さい」


 騎士は中に確認を取り、許可を得てから扉を開いた。

 リンたちの前に煌びやかな広間が広がる。

 部屋の正面には王座があり、そこに初老の男が座っている。脇には一人の騎士と、貴族と思しい人々が並んでいる。


 ノイリーはリンたちを部屋の中央に導くと、王の斜め前──すぐに王とリンたちとの間に入れる位置に移動した。そこには彼の仲間と思われる土精種(ドワーフ)の男と獣人種(ビースト)の女がいた。


 リンは王座の男を見る。この男が国王……という事で良いのだろうか?


「……そなたが“重瞳の悪魔”か?」

「ええそうよ。貴方がこの国の王様ってことで良いのかしら?」


 リンはあくまでRPを崩さない。それに対して周囲の貴族たちが顔をしかめるが、気にしないようにする。


「ああ。私はこの国の王、ロランド・フォン・リーズだ。悪いが前置きはなしだ。昨日は騎士団の者たちが世話になったようだな」

「別に気にしてないわ。私たちは客人をもてなしただけだもの。当然の事をしたまでよ」


 皮肉には皮肉を。これにはロランドも苦い表情をした。


「……何故対話を望んだ? そなたらの目的は何だ?」

「ただの挨拶と……あとは悪魔の取引を持ちかけに来たってところかしら?」

「何?」


 ロランドが怪訝そうな顔をする。悪魔だ何だと呼ばれてはいるが、本物ではないであろうに。


「当然だけれど、政治は綺麗事だけでは成り立たないでしょう? 私たちは見返り次第でどんなことでも引き受けるわよ?」


 ロランドは思わず息を飲んだ。要するに彼女らはこの国の暗部として力を貸しても良いと言っているのだ。そして、彼女らの実力なら期待以上に動いてくれるだろう事は想像に容易い。

 だが──


「……我が国の騎士たちを無残に殺すような連中を頼ると思うのか?」


 こんな連中を信用出来る筈がない。というより、もはやこの提案自体こちらを馬鹿にしているとしか思えない。

 だが、リンは一切引かなかった。


「だからこそよ。貴方たちの可愛い兵隊さんよりも私たちの方が遥かに優れているのは明白でしょう?」


 その言葉を受けて、ロランドの脇にいた騎士が声を上げた。


「それは聞き捨てならないな。私たち騎士団がお前たち逆賊に劣る道理はない」

「……貴方、何を言っているの? 貴方のお友達が私たちに殺されたばかりじゃない。それとも、もう忘れちゃったのかしら?」


 リンは心底呆れたという表情を浮かべる。この人は今までの話をちゃんと聞いていなかったのだろうか、と。


「確かにお前は強者かもしれない。だがお前の仲間もそうだとは限らんだろう。いくらお前個人が強くとも、集団戦の前では個の強さは霞む」

「貴方、絶対人の話を聞かないタイプね。……まあ良いわ。なら貴方とこの4人のうちの誰かで模擬戦でもしてみましょうか?」

「ほう……? 良いだろう。それが一番手っ取り早い」


 二人は周囲の者たちそっちのけで話を進めていく。


 勝負は一対一の模擬戦闘。武器以外の道具、スキルの使用は禁止。相手が降参か気絶したら勝利。ただし、相手の命を奪ってはならない。


 どのみち、お互いの正確な力量を測る事は必要だ。ここまで話が纏まってしまえば、もうやらないわけにはいかない。


「はあ……もう良い。騎士団長、レオン・ブランシャールとそちらのギルドメンバーの一名との決闘を認めよう」


 常日頃からレオンの考えのなさに頭を悩ませているのか、ロランドは諦めたように話を飲む。


 まさかその場で戦闘を繰り広げるわけにもいかないので、全員で城の広場へ移動する。そこは中庭のようになっており、50メートル四方は優にありそうだ。


「それで誰がやる?」


 広場に着くと、周囲に聞こえぬよう小声でリンが相談する。


「お前が言い出したのに何で決めてないんだ……」


 チンピラBがジト目でリンを見る。皆、もうちょっと考えてから行動しろと呆れ顔だ。


「やってみたいけど私は遠距離専門だからなぁ」


 カナは狙撃手だ。近距離での決闘など到底出来ない。


「となると選択肢は……ラスプかガクか、チンピラか……」

「ムリムリムリムリ!! 俺は真正面から戦うタイプの戦闘スタイルじゃねぇから!」


 チンピラBが勢い良く首を横に振る。頬の肉がブルンブルンしており、リンは吹き出しそうになった。


「えぇー。じゃあどういうスタイルなのさ」

「俺は暗殺系だよ。隙を伺って初撃クリティカルを狙うタイプ」

「ぶふっ! チ、チンピラが暗殺者……ぷっ!」

「う、うるせぇ! いいだろ、別に!」


 リンとチンピラBが言い合っていると、ガクが前に出る。


「俺がやる。ラスプの戦い方はスキルが必須だからな」

「あら、助かります。ガクさんは普段、スキルを使いませんしね」

「え、そうなの? じゃあどうやって倒すの?」


 リンが驚愕の声を上げる。普段からという事は、スキルを使う相手にもスキルなしで戦っているということだ。


「技術だ。ま、黙って見てな。俺にゃこいつ一つありゃあ十分だ」


 そう言ってガクは腰にくくりつけた一振りの日本刀を叩いて見せた。

お読みいただきありがとうございます。

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