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ゴブリン? あぁ、奴さん死んだよ

 騎士団を壊滅させた後。皆で真面目に話し合った結果、ようやくギルドの方針が定まる。


「もう今更進路変更なんて出来ないし、絶対悪を掲げて突き進む。もう、これしかないね」


 結局良い案はあるはずもなく、自分たちの存在を周りに押し付ける方向で行くことに。


 具体的には、明日の国王との対談では、何が何でも罰を受け入れない。無罪である必要はない。有罪でも良いがそれに対する罰は一切を拒否する。これは自分たちが国には下らないという意思を示す為だ。


 兎に角これまで通りに。自由にPKなり何なり、好きにIROをプレイする。

 当然といえば当然だ。あくまでゲームなのだから。ただ少し、いやかなりNPCが人間らしいから戸惑っただけ。


「にしても本当にここまでNPCが活動的だとはな……」


 隣でチンピラBがぼやく。それに皆も首肯いた。


「ノーラちゃんもすっごい優秀だしねぇ」


 リンは皆の後ろで、壁の装飾品を掃除しているノーラを見る。特に掃除をするよう指示したわけでもないのに、彼女は率先してホームの管理を行っていた。


「そういえばノーラちゃん、まだ一度も血を吸ってなくない?」


 すると、自分が話題になっている事に気づいたノーラが振り返った。


「私はヴァンパイアの中でも特別な種族なので、月に一度ほど血をいただければ十分なのです」

「なるほどね~。ノーラちゃんって戦闘も出来る?」

「はい。一応戦闘用のスキルも持っています」


 「へぇー」と皆から関心の声が上がる。改めてノーラの優秀さを感じる。


「さてと。話し合いも終わったし、今日は普通にフィールド探索でもしてみようかな。RPGらしい事してないし」


 リンのその言葉を皮切りに、皆が動き出す。ほとんどの者はやはりPKをしに行くらしい。PK専門のプレイヤーも多いのだから当たり前とも言える。


「そうだ、ノーラちゃんも一緒に行かない?」

「そうですね……日の光がありますが問題はないでしょう。ご一緒させていただきます」


 リンがノーラを誘うと少し考えた後、了承してきた。


 リンは上機嫌でノーラの手を引いて町の南側の街道へやって来る。

 そのまま探索を始めようとすると、ノーラが不思議そうな顔をした。


「マスターは武器を使わないのですか?」

「え、ああ、うん。そもそも持ってないしね。素手で殴った方が早そうだし、買わなくても良いかなぁって」

「そ、そうですか。私は剣があるので装備してもいいですか?」


 リンが了承すると、ノーラの手元に黒いロングソードが現れる。よく見ると所々に彫刻が施されていて、一級品である事は明らかだった。

 その間にリンも【天翼種(ケイレム)】と【ロック鳥】に遺伝子を割り振る。これが回復スキルがあり、かつ十分なステータスを得られる組み合わせなのだ。


 武装した二人はフィールドを進んでいく。

 そこへ現れる二匹のゴブリン。だが次の瞬間、一匹はその身体を爆散させ、もう一匹は上から下まで綺麗に真っ二つになった。


「お見事です。マスター」

「ノーラちゃんも強いねぇ」


 二人がいる道は最初の【城下町】から次の【ナディアの町】へと続いている。

 この道は弱いゴブリンやウルフしかおらず、ボスもいない。完全に初心者向けの場所なのだ。

 そこを我が物顔で行く化け物二人。道を阻むものは文字通り粉砕、叩き切る。


 ふと、ノーラが顔を上げた。


「マスター。ここから南東の方角に多数のモンスターがいます。恐らくゴブリンの巣でもあるのかと」


 この辺りに出現するのはゴブリンとウルフだけ。集団で生活するのはゴブリンしかいない。


「じゃあ行ってみようか。……でも何でモンスターがいるって分かるの?」


 リンが不思議に思っていると、ノーラが事も無げに答える。


「私は【気配探知】というスキルを持っているので。ある程度の距離まで近づけば分かるんです」

「便利だねぇ。私も探知系のスキル欲しいなぁ」


 そうして歩いていくと、岩肌が剥き出しの地形が広がってくる。その中に、高さ3メートル程の洞穴があるのが見えた。

 リンが「あそこ?」と訪ねると肯定が返ってくる。だが、その周囲にゴブリンの姿はない。


「見張りとか居ないんだねぇ」

「ゴブリンにそこまでの知恵はありませんから」


 そういうものかと思いながらリンたちは巣に近づく。

 少し中を覗いてみるが、かなり深そうだ。


「こういうのってやっぱり人が捕まってたりするの?」


 ゴブリンの巣と言えば、中に女性が捕まっていて慰み物にされているのが御約束だろう。あまりいい気はしないが、リンもそういうものだろうという想像をしていた。


「いえ。ゴブリンにそこまでの知恵はありませんから」


 ノーラから先程と同じ答えが返ってきた。


「え? そうなの?」

「はい。ゴブリンに他の生き物を生け捕り出来るほどの知能はありませんし、仮に出来たとしてもすぐに死なせてしまうでしょう」


 他の生き物の世話というのは簡単ではありませんからね。とノーラは語る。

 どうやらIROに薄い本展開は無いらしい。一応全年齢を謳っているのだから、むしろあったら問題なのだが。


 ともあれ、見張りも人質も居ないのなら、ゴブリン退治は途端に簡単になる。


「ねぇ、巣がどっちに続いてるかって感知スキルで分かる?」

「えっと、そうですね……この方向に続いています」


 ノーラは穴の正面、やや下向きを指差した。


「おっけー。ちょっと離れててね」


 そう伝えながら、遺伝子の割合を【機甲種(オートマタ)】4割、【ヴァンパイア・ロード】6割に。超物理アタッカー仕様の組み合わせだ。すぐに過熱状態(オーバーヒート)になる為、持久戦には向かないが。


 八重歯が伸びてきて、内側から唇をこじ開ける。金属の装甲が右腕、右足を包み込んだ。背後には柄の無い剣のような4つの装甲が現れ、独りでに浮遊している。他にも身体のいたるところに何らかの機器が取り付けられていた。


 身体の変化が収まると、レベルが40になったときに新しく得た機甲種(オートマタ)のスキルを発動させる。


「【電磁加速砲】起動」


 【電磁加速砲】──超速の砲弾を発射し、物理ダメージを与える。必ず全MPを消費する。使用後5時間は過熱状態(オーバーヒート)となる。


 またも出てきた高火力スキル。もはや対集団戦、殲滅戦はリンの得意分野だ。


 リンの右腕が、以前とは違う形状に変化する。

 二本の巨大な電極と、発生するプラズマを逃がさない為に電極間を塞ぎ密閉する絶縁体の砲身。二脚の砲架まで出てきた。

 腰元から射出されるアンカーで身体を固定し、背後の4つの装甲が後方に放出機構を露出させる。


(うわ~、前よりもっとえげつなくなってる……)


 リンはノーラがしっかりと距離を取っている事を確認すると、その一句を口にする。


「【発射(ファイア)】!」


 電極を流れるアホらしいまでの電気エネルギー。それにより超加速される砲弾。弾体の一部がプラズマ化する事により発生する圧力で更に加速を重ね、圧倒的質量を持つ砲弾が放たれる。同時に4つの装甲からカウンターマスが放たれ、反動を軽減した。


 轟音と衝撃が辺りを襲う。幸いな事にリンの攻撃は指向性を持ち、一点に甚大なダメージを与える類いのものだった。そのお陰で周囲の地形が変わる事はなかった。

 その代わり、ゴブリンの巣は酷い有り様だ。オーバーキルどころの話ではない。つい先程までは天然の洞穴といった様相だったのだが、今は一直線に空洞が続いている。どこまで続いているのかは分からない。岩肌は融解し、熱を帯びていた。


「ふう。ノーラちゃん、ゴブリンの生き残りってまだいる?」


 リンが再び【天翼種(ケイレム)】、【ロック鳥】に振り直しながら尋ねる。


「え、ああ、いえ。モンスターの気配はありません。流石ですね、マスター」


 一瞬呆けた様子を見せていたノーラはすぐに我に返り、リンの側へと戻る。


「じゃあ町に行こっか。もうすぐだしね」


 その後は何事もなく、二人は【ナディアの町】に辿り着いた。




『【ナディアの町】のマップを獲得しました』

『マップの機能が拡張されました。町の中であればマップから他の町へ転移出来るようになりました』




***




「そうか、騎士団が壊滅か……そなた程の実力者が手も足も出んとはな……」

「申し訳ありません……」


 始まりの町の中央にある王城。その中の謁見の間にレーナの姿はあった。

 彼女の正面には、玉座に座り難しい顔をする初老の男がいる。彼がこのリーズ王国の国王、ロランド・フォン・リーズだ。


「そなたを責めているわけではない。そなたはよくやってくれた」


 「何にしても」とロランドは続ける。


「我が国の精鋭たる騎士団を容易く蹴散らす“重瞳の悪魔”とそれが率いるギルドか……厄介な事この上無いな」


 そしてその者らが会話を望み、明日ここへ来るという。謁見の間にいた貴族たちはこれに難色を示した。


「陛下。そやつらは本当に会話を望んでいるのでしょうか?」


 ロランドは発言をした貴族の方を見ると、続けるよう伝える。


「はい。私にはそやつらがこの城に入る為の口実に聞こえるのです。何か良からぬ事を企んでいるのではないかと。そもそも逆賊ごときが陛下と対話をしたいというのが、何ともおかしな話だと私は思います」

「ふむ……確かにそなたの言う通り、これは何らかの罠かもしれぬ。我々の姿を見た途端暴れだす可能性もあるな。ただ、そうなると一つ疑問が残る」


 騎士団を圧倒出来るほどの力を持ちながら、何故彼らはそんな回りくどい方法を使うのか。

 正面から堂々と攻め入った方が遥かに手っ取り早いだろう。

 確かに城には大勢の兵士たちがいるが、話を聞く限り彼らに片手間で散らされる事は想像に容易い。


「……結局のところ、情報不足で何も分からんな」

「それで、どうなさるおつもりで?」

「どうもこうも、会って話をするよりなかろう。拒否出来るとは思えんし、下手に刺激して暴れられるのは困るからな。だが、打てる手は打とう。遠征中の団長を呼び戻す場合、どのくらい時間がかかる?」

「はい。今すぐに早馬を出せば明日の朝には戻るかと」


 ロランドの質問に側近の男が即座に答える。ロランドは一つ頷くと、考えをまとめる。


「ではそうしろ。それと可能な限りの兵をここへ集めろ」

「はっ」


 続いてロランドは貴族たちの方を向く。


「悪いがそなたらの私兵も少し貸してもらうぞ。ここを落とされるわけにはいかないからな」


 貴族たちも当然だと言わんばかりに頷く。


「それともう一つ、これは皆の意見も聞きたいのだが……」


 彼らは明日の会談に向けて準備を進めていく。

 一人蚊帳の外のレーナは居心地悪い事この上なかった。


(……そういえば、先刻ポーションをくれた男にちゃんとお礼を言えんかったな。正直あの姿には驚いたが……)

お読み頂きありがとうございます。

次の投稿ですが……何日かあくかもしれません。

急いで書いておりますので、しばしお待ちくださいませ。

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