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第4話 なんじゃそりゃ


いざ入学式場となる実演棟の大ホールに入らんと、まあまあの覚悟で踏み込んだだけに肩透かしを食らったような気になった。


そこに待っていたのは、「新入生は空いている席に座っておけ」という大雑把な指示だけだった。正直に言って拍子抜けしてしまった。


保護者や来賓が参加できないとあれば、果たしてそこではいかなる暗黒儀式が執り行われるのかと身構えていたものだが、一般にイメージする入学式よりもフランクで、それがかえって俺を屈託に沈ませた。


これでは他校の入学式と何ら変わらない。それどころか、むしろ敷居を下げているぶんこちらの方が格式ばってなくて好まれるのではないかとさえ思う。

そのための一要素としての決まりなのかと考えてしまうほどだ。




来席拒否の起こりはどこにあるのか。

その気掛かりに、式が始まって数分は悶々とした時間を過ごさせられるのは、まぁ後の話になるわけだが、そのおかげで登校中に感じていた視線を考えずにいられたのは不幸中の幸いと言えなくもない。


〜〜〜〜〜〜〜


定刻となり、入学式が始まってからしばらくは、例に漏れず格式ばった"式典"であった。


プログラムに国歌斉唱が組み込まれていないのは、東西の確執の名残であるかは不明だが、別に保護者の参列を認めないほどの理由にはなり得ないだろう。


そう思っていた矢先、一人の女性が登壇した。グレイのパンツスーツを着こなし、腰まで届くストレートのブロンドをなびかせるその姿は、数分前に学園長祝辞を述べた人物その人であった。


式次第や進行の言葉から、次のプログラムはオリエンテーション説明兼閉式の辞であることは把握していたが、進行役ではなく、学園長から直々の言葉があるとは思ってもいなかった。


彼女はこの場の全員の視線を一身に受け止めているにもかかわらず、先ほどと同様にスムーズにステージへ上がり、マイクの前でピタリと静止。軽く微笑んだかと思うと、そのまま流れるように一礼して見せた。顔をあげた拍子にふわりと舞うブロンドから、気品があふれる。再び一瞬だけ口元をほころばせると、一拍ほど焦らすような間を取ってから、一言。


「鬼ごっこをします」


まったく突然、脈絡もなく、壇上に立った彼女は美しい姿勢のままにそう告げた。その表情からは冗談や戯れの色は窺えない。


眼下に整列する若者の困惑を予想していたように、詳細の説明を始めた。


「我が校に努める教員、通称EIM48の中でも、私が選抜した7名――神セブンを鬼役とし、逃げ惑う新入生諸君との鬼ごっこを繰り広げてもらいます。左腕に腕章をしているのでわかりやすいかと思います」


なんじゃそりゃ。


「実は、あなた方が1年間苦楽を共にするクラスメイトは、まだ決まっていません。それを、本年度第1学年を受け持つ先生方に決めてもらおうというのが主な目的となります」


そこでいったん区切り、さらに続けていく。

「先生方には各員50名の新入生を捕まえたら本日は終業と伝えてあります。出せる範囲で本気を見せてくるでしょう。タッチ制ではなく確保制の、魔法あり、体術ありの鬼ごっこ。制限時間は3時間。場所はこの屋内実演棟全フロア。建物への影響は考慮せずとも構いません。本日のために、予め防護と自己修復の魔法を掛けるのに苦労しました」


無邪気で楽しそうな、いたずらっ子のような調子のその言葉に、周囲の顔色も変わっていく。


「10分後に鬼役が動き出します。それまでに隠れるも良し、建物の構造を把握するも良し、仕掛けやグループを組んでも構いません」

10分というのは、準備の時間としてはいささか短すぎるが、咄嗟の対応力というか、即応性をチェックする側面もあるのかもしれない。



大体の説明が済んだのか、そこで今までになく言葉を切ると、


「それでは、入学式を閉式し、これよりオリエンテーションへと移行します。解散」


言い終わるや否や、パンッと大きく手を打った。



これは保護者も来賓も参加できないな、とざわつく新入生の群れの中で1人納得した。



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