第2話 さらば、俺の高等部生活
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冬。吐く息が白く、耳の感覚がほとんどなくなるような、凍える季節。
一歩外を出歩けば、吹き抜ける乾いた風が指の先、あるいは顔など、露出した無防備な部分から容赦なく体温を奪っていく。
もっとも、今は屋内にいるし、暖房も付けられているので決して前述したような過酷な環境に身を置いているわけではない。
ここは国内でもそれなりの規模を誇る、東洋式魔術師養成学園、その中等部である。
しかし、教室内にいるとはいえ、窓の外に広がる汚れなき銀世界は、遠慮なく視覚から寒気を運んで来ていた。
朝からしんしんと降り続ける雪は昼休みの中ほどを過ぎたこの時間になっても弱まる気配を感じさせない。
もう足首の高さより積もっているのではなかろうか。
その景色に反射的にぶるりと身を震わせると、
「蒼太! 進路表どこにした?」
熱血、情熱といった単語を連想するような、陽気な声が掛けられる。
彼は友人の南川紅介である。口の端に売店のカツサンドのソースが付いているが、別にそれがトレードマークというわけではない。
「工仏。受験パス校だし」
ジェスチャーで口の端にソースが付いていることを教えながら返答した。
とりわけ言い渋るような内容でもないのでサラリと応じる。
魔術師養成学園の生徒は、進路選択の幅が広い。
一般高校に進学するのも可、魔術師養成学園の高等部へ行くも可、実家や高名な魔術師のもとで修練を積むも可である。ほとんど全員がこのいずれかに進む。
その中の一つ、魔術師養成学園高等部への進学においては、受験パス校というものが存在する。
正式名称を"生徒別受験通過制度"とするそれは、生徒の現在までの成績を基準に、ある一定ラインまでの学校の《《受験を通過したもの》》とする制度である。面接も試験も一切ないので、本番に弱い生徒や面倒臭がりの生徒は積極的にその資格を獲得しようと早くから努力する。
俺はその制度に便乗するように、受験せずに入学できる学校の中から一つを選択していた。
「工仏って受験パスの最高ランクじゃん! 俺が行くなら一般で受けなきゃだけど、それならランク下げた所に進んで家で修行しろって爺ちゃんがうるさいんだよなー」
ソースをペロリと舐め取りながら文句を垂れる紅介。
「まぁ、家柄が家柄だしな」
いい所の坊ちゃんというか、名家の跡取りというか、そんな立ち位置に居れば仕方のないことだとは思う。が、ソースの処理の仕方から分かる通り、本人にそんな自覚はなさそうでもある。
「お前ん家だって似たようなモンだろー」
東洋式魔術の旧家名家として、北島家、南川家、東山家、西岡家はその道を歩むものには有名らしい。
だから紅介の家のように、教育機関で学ぶ内容のレベルを少し落とし、その代替として屋敷内、あるいは提携道場なんかで修練を積ませるという方策は珍しくない。
他の家でもよく見る教育方針だが、名家は特に顕著なんだとか。だが、
「いや、家は放任主義っつーか、"2回続けて失敗するまでは自由に"らしい」
「なんか深いよな、ソレ」
そう言われても返答に困るところではある。
「子供の将来に興味がないのか、単に面倒なだけなのか。まぁどちらにせよ、確かに自由にさせてもらってはいるし、ありがたいっちゃありがたいのかもなー」
「やり直すチャンス込みで自由にさせてるってところがミソだと思うぜ、俺は」
それに苦笑いで返しつつ、脱線した話題を元に戻す。
「じゃあ紅介とは学校別れるんだな」
声音に少し落胆の色が混ざる。彼とは中等部2年からの付き合いではあったが、名家の跡取り同士ということで親近感を感じていたし、実際によくツルんでもいた。
「俺はサイコー、才儒高校に行く予定。つっても、俺も受験パスだからもう確定みたいなモンだけど」
受験パス校へ進学する際は、進路表に記入した各生徒の希望校へ、教員が手ずから手続きを行ってくれる。
だからその方式を利用する生徒はあまり忙しくならない。
むしろ教員の方が忙しくなる時期とさえ言えた。
そういった理由により、継続した勉学や修練が可能なのも受験パス校制度の魅力的な点の一つであった。
「じゃ