プロローグ
転生すると分かっていたのなら。
もうちょっと。
その、なんて言うか。
見た目だけなら六歳前後の幼女は、あきらめに似た気持ちでため息をついた。
幼女の名前は、シーアル。
オレンジ色の髪を肩の少し上で切りそろえ、ナース服とロリータ服を足して、ゴシック風味に魔改造したようなワンピースを着ている。
リアルでは恥ずかしすぎて、着れないどころか買うこともできないような服だから、オンラインゲームのマイキャラクターに着せて楽しんでいたというのに。
気がついたら。
クリエートオンラインのマイキャラクター、魔法幼女シーアルに転生しておりました。
開き直りって、大事ですね。
転生前は大人の女性で、普通の会社員だったのですが。
もうね、オンラインゲームでは、幼女キャラクターな時点で中の人は男性扱い。
清楚な美少女系キャラクターが大事に護られるのを横目に、レベル上げとスキル上げに全力で燃えましたよ。
シーアルは、街の片隅にある、小さな教会の扉を開ける。室内には司祭が一名いるだけの、必要最低限の教会だ。
幼女ながらに、以前から、なにか変だなくらいには、シーアルは気がついていた。
呼吸をするように魔法が使えて、見えない鞄から物を取り出せるいう、当たり前のことに、なぜか違和感を感じていたのだから。
遠い記憶を必死で思い出す。
友達に誘われてプレイを始めた、懐かしいクリエートオンライン。いくつかの賞も獲得して、当時はそれなりに話題になったオンラインゲームだった。
種族はもちろん、身長、体重、顔つきから髪型に至るまで、細かい部分をカスタマイズできるキャラクターメイキングの自由度の高さと、豊富なグラフィックの武器、装備、衣装。
ファミリアシステムと名づけられた、複数キャラクターで家族を構成して戦う協力プレイがメインではあったが、守護天使システムも、マニアな人気を集めていた。
守護天使システム。
その言葉だけで、シーアルのテンションが上がる。シーアルは守護天使システムに、がっつりはまった派だった。
簡単に説明するならば、自分専用のNPCを創造し、NPCと一緒に戦えるシステムである。
NPCのメイキングにも、かなりの自由度があり、三つの条件さえ満たせば、好き勝手に創ることができた。
条件一、種族は、機械人か人造人間のどちらか。
条件ニ、髪があるならば、色は白。
条件三、外装に羽根、または、羽根の模様がある。
それはもう、シーアルはどこに行くにもNPCを連れ歩き、NPCのレベルがカンストしたことは言うまでもなく、プレゼントという名前の貢ぎ物を捧げ続けた結果、親密度もかなり高かったはずだ。
親密度という隠しパラメーターが、プレイヤーとNPCの間にはあり、親密度が高ければ高いほど、NPCはプレイヤーの指示通りに動き、プレイヤーを護る行動をしてくれる。
一人では行けない場所も、NPCと一緒なら行けた。
一人では倒せない敵も、NPCと一緒なら倒せた。
自分が創造したNPCが、自分のために戦い、自分を護ってくれる。
まさに、自分だけの守護天使。
オンラインゲームは好きだけど、人間関係がちょっと苦手なプレイヤーには、神システムだったのだ。
シーアルは教会の祭壇で、両手の指を組み合わせた。
イベントの発生条件は、教会内に司祭しかいない時に祈りを捧げる。
クリエートオンラインの世界に、シーアルとして転生したのなら、もう一度、私の創造したNPCに会いたい。
室内に、半透明の羽根が舞い始める。
教会の高い位置から差し込む、見ていられないほどの強くてまばゆい光が、たくさんの羽根を空中に浮かび上がらせた。
窓を飾っているステンドグラスが、光を反射して、鮮やかな色の雫をこぼす。
クリエートオンラインの守護天使システム、最初のイベント。
プレイヤーの祈りに応えて。
光の中を。
守護天使が。
創造したNPCが降りてくるはずだ。
シーアルの胸が踊る。
あんなに長い時間を一緒にすごしたというのに、画面を通さずに会うのは初めてだと、今更ながらに気がついてしまった。
初めまして。に、なるのだろうか?
もしかしたら、レベルも親密度も最初から?
それでも良い。
あなたに会いたい。
私が創造したNPC。私の守護天使。