9話
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午前中は、まるで真夏のような暑さで、大きさの斑の雲が、透明のような青に浮かんでいた。手を伸ばせば届くような距離に感じた。
僕は紺の無地のTシャツに、黒のジョガーパンツを履いて荷物のよく入るリュックを背負って自転車に跨った。腕時計のデジタルは11:10を刻んでいる。
風が心地よく爽快で、頭の中では繰り返し上機嫌な青春ソングが垂れ流れてきた。
鉄板のように平らな、土手の上のアスファルトを走っていると、いつも見ているはずの景色が違って見えた。休日を緩く楽しむかのように散歩をしている高年齢の男の表情は笑顔で、その下で、男を引っ張るように歩く犬も同じように笑顔に見えた。
斜面を滑りながら降りた先、読みかけの本をひっくり返したような切妻屋根が飛び出してきた。
家から20分もしないで、プレハブ小屋へ到着した。
待ち合わせ時間より早めに来たのは、少し中の様子を確かめたかったからだ。最近はここを使用することも少なくなった。
鍵を差し込んで横開きの扉を開く。部屋の中は古臭い匂いがした。
何年も使用していないが、特に変わってはいない。多分、今年になって父親が整理をしたのだろう。
部屋の隅には小さな冷蔵庫が一つあった。幼い頃、僕はここへ逃げ込む度に、冷蔵庫の中には缶ビールや瓶の酒が並んでいたのを覚えている。冷蔵庫を見てみると、中身は空だった。僕は冷蔵庫のコンセントを差し込んだ。すると、目覚めて身震いするかのように冷蔵庫は唸り出した。僕は電気が通っていた事に安心した。エアコンの電源をオンにする。陽が差し込む部屋の中に、徐々に生活の色が戻った。




