8話
僕の返事を聞くなり、律は嬉しそうに拳を上げて飛び跳ねた。
「やったあ!じゃあ今週の土曜日ね!」
「今週の土曜日って、明日じゃん」
僕は思わず突っ込んだ。
「早い方がいいでしょ?先延ばしにすると、永遠にその日が来ない気がするし」
と、律は少し唇を尖らせながら言った。
「それとも何か用事でもあるの?彼女とデートとかー?」
律は口を抑えてにやにやと笑っていた。僕が彼女などいないと知っての、イタズラっぽい顔だ。
「謙一に恋人なんていないって。奥手だし」
海斗は被せて言ってきた。僕は二人に言われるまま、いい気分はせずに、黙って目を細めながら二人を見ていた。
「ごめん、ごめん。冗談。謙一が良ければ、いいかな?私も謙一が来てくれた方が嬉しいし」
律にそう言われて、僕の心は単純にひっくり返った。何でもないような言葉なのに、僕にとってははしゃぐ程心地のよい言葉だった。
「じゃあ明日、プレハブで勉強会だ」
僕は言い放った。
「決まり!思い出つくろうね」
律はニカッと歯を見せていた。白いタイルが隙間なく並んでいるようだ。
「思い出って、勉強するんだからな。分かってるのか?」
海斗は横目で律を見た。
「分かってる。でも、楽しみなんだもん。お泊まり会だからね」
律は何気なく、お泊まり会と口にした。律と一緒に、同じ部屋で一晩過ごすという事だ。僕の鼓動は急に脈打つのが早くなった。顔が赤くなっていないか心配で、前髪や鼻を意味もなく触った。
「お泊まり会かー、子供の時以来だな」
と、海斗は思い出すかのように目線を上に向けた。
「ね、枕投げしようね。あとトランプ」
律は既に浮かれていた。海斗は、そんな律の額を軽く指で小突いた。
「だーかーら、勉強するために行くんだろ?」
えへへ、と律は笑みを止める事なく額をさすっていた。
僕は既にお泊まり会の事で頭がいっぱいだった。律だけじゃなく、異性と一緒に一晩過ごすというのも、高校生になってからは初めてだった。とても楽しみだ。
僕は、学校が終わって帰る途中でも、自転車に乗りながら笑いを抑えるのに精一杯だった。




