6話
海斗の言葉に、僕の心は楽になった。失敗しても、僕には二人がいる。そう考えると、どんなに辛い事でも頑張れそうな気がした。
しばらくして律が廊下から帰ってきた。ほっとしたように顔を緩ませ、息をひとつ漏らした。
「あー、もう緊張したあ」
「おかえり、どうだった?」
僕は聞いた。
「うーん、意外と早く終わったかも。でも、この時間じゃ終わらないから昼休みも使うみたい」
海斗は顔を顰めて「マジか、最悪」と言った。海斗の席は後ろから数えた方が早い位置にあった。僕は律の席からは一列横の、一番後ろの席だった。
この分だと、僕が呼ばれるのはギリギリ授業が終わらない頃だろう。
無駄話をしていると、時間は早く過ぎた。前の生徒が僕の名前を呼んで次の番だと知らせた。
「行ってらっしゃい」
律がバシと肩を叩いて見送る。
緊張で喉が締め付けられる思いで、廊下へ出ていった。
廊下には一つの机を挟んで二つ椅子が置いてあり、その一つに藤田ゆきえは座って、僕の顔をちらりと確認した。敵でも見るかのような眼差しだった。僕は、椅子に腰をかけて背筋を伸ばした。
「はい、それじゃあプリントを見せてください」
藤田ゆきえは僕が渡すよりも、奪うかのようにプリントを手の中から引っこ抜いた。目を光らせながら、プリントの記入欄を舐めるように見下ろしている。この人は本当に僕と同じ人間なのだろうか、時々思うことがある。
「第一希望、才旗大学ね……」
藤田ゆきえは暫くプリントを見て黙ったままだった。その沈黙に、僕はこの場から逃げたくて堪らなかった。
「はっきり言って、今の成績じゃ無理かもしれないわね」
「そうですか」
「別のところは希望してないの?」
「今のところ、そこの大学を受けようと思ってます」
「そっか……」
藤田ゆきえは悩ましげに眉を寄せた。何だか僕自身が失望させられているように思えて、苦しかった。
「まあ、頑張ればいけるかもしれないけど、私は他の大学をおすすめするわね。今度のテストの成績次第かな。頑張って」
藤田ゆきえは作業的にプリントを僕に渡した。頑張って、その一言だけで、崩れ落ちそうだった僕の足場は何とか保たれた。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げて、教室へと戻った。それと同時に、午前の終わりを告げるチャイムが鳴った。




