5話
「俺はもうほぼ決まってるからいいけど、流石にいきなりすぎたよな」
「海斗は頭が良いからいいじゃん。謙一はもう書き終わった?」
僕はどきりとした。プリントの欄は名前の部分だけが埋まり、他はまだ真っ白だった。
「いや、思いつかなくて……」
「ふーん、でも大学行くんでしょ?謙一」
「うん、まあ。だけど、自分の成績に自信がなくて。そこを目指しても、落ちるかもしれない」
僕の声はうまく通っていない気がする。何も書かれていない白は、僕を脅迫するように白すぎる白だ。シャーペンの芯が何度も黒い点だけを残していく。
そんな事を言っていると、藤田ゆきえによって律が呼ばれた。
「はーい、行ってくるね」
律はプリントを持って、廊下を出ていった。律の将来の夢は何なのだろう。僕は扉の窓をぼうっと眺めた。
「律はどうするんだろうな。将来」
そう口にした海斗へ、思わず目をやる。
「さあ。律なら何でも出来そうだけど」
海斗は僕と同じように律を気にかけているようだった。それが何だか嫌だった。海斗が、もしも律の事を好きだったら、自分が適うものなど一つもない。僕は、もやもや感を抱いたまま、第一希望に大学の名前を書いた。海斗はそれを見て、にっと笑った。
「へー、そこ受けるのか、謙一」
僕は気恥しげに黙って頷く。すると、海斗はぽつりと独り言のように呟いた。
「なんかさ、皆いつかは大人になるって考えると寂しい気もするな。楽しかった思い出も、苦しかった思い出も、大人になったら当たり前になって、何もかも忘れちまうのかなぁ」
海斗の目は天井を仰いでいた。それから続けて、今度は僕の目を見て言った。
「俺達三人は、卒業しても仲良くしような。大人になってもまた皆で集まろう。それでさ、どんな辛いことがあっても笑ってその話をしよう」
「もちろん、僕達はずっと一緒だ。どんな事があっても」




