3話
「あんたには教えないよーだ」
律が舌を出して言うと、海斗はポリポリと髪をかいて、眉を下げた。
「いいけど、そろそろ日が落ちる頃だぞ。帰った方がいいんじゃないか?」
「げっ、もう6時過ぎてるじゃん!私、今日習い事あるんだった。また鬼ばばに怒られる」
律は右腕の黒い腕時計を見て叫んだ。僕は、まだここに居たかった。黒い空が街を覆い尽くす様を、この目で見届けたかった。
「俺、送っていくよ。律のこと」
先に言い出したのは海斗だった。海斗の言葉を聞いて、僕は焦って口走った。
「僕が送っていくよ。律とは家が近いから」
律は困ったように眉を寄せて、僕と海斗を見眺めていた。それから笑顔で、「ありがとう。でも、一人で帰れるからいい」と、言って律は三歩前へ大きく進み出て、振り返り歯を見せた。
「校門までは送って貰おうかしら、執事さんたち」
腰に手をつき、わざと鼻につくような声を出していた。そんな律の態度を見て、海斗はやれやれとため息をつく。
「まったく、調子に乗るな」
律は反省する気もなく、ただ、へへっと照れ笑いを浮かべていた。
僕らは三人で校舎の門まで歩いた。三人とも自転車通学だった為、両手にはハンドルを掴んでいた。律は一足先に門を出ると、自転車にサドルに跨った。
「送ってくれてありがと。二人も気をつけてね。ばいばい、海斗、謙一!」
風が吹き抜けるように、自転車を漕ぐ律の背中を海斗と見送る。
「またな、律」
僕は静かに言った。
「じゃあな、律。また明日学校でな」
海斗は叫んだ。
続けて自転車に跨がると、軽く掌をあげて海斗にも別れの挨拶をした。
「じゃ、また」
「謙一も気をつけてな」
海斗は僕の肩を叩くと、後から自転車に乗って僕の横についた。海斗は、律とは別の道へ自転車を走らせていった。僕も同じくペダルを踏んでアスファルトを滑り、家路へと帰った。




