24話
律は僕から手を離すと、落ちた傘を拾って背中を向けた。最後に振り向いて、僕に向かって宣言した。
「海斗は渡さないから」
雨の降る音は一層激しさを増し、僕をこの場から置き去りにした。
*
季節は過ぎ、僕の心は痛みに慣れるどころか、むしろ歪に突き刺さってくる。昼休みに一人で食べるパンは味がなかった。
昼食を終えトイレに行くと、僕の足は、目の前の光景に思わずすくんだ。そこには三人組の生徒に囲まれて、小さくなっている海斗の姿があった。
「お前さ、ゲイなんだって?」
と、生徒の一人が言った。おもちゃを見つけた子供みたいに楽しそうに笑っている。海斗が返事をせずに黙っていると、一人の生徒が海斗の後ろの扉を思い切り蹴った。海斗はずっと黙ったままだ。僕は助けに行きたくても、その場に立ったまま、何も出来ずに見ている事しか出来なかった。
「小便したいなら、自分はゲイですって言ってみろよ」
海斗は、俯いたまま答えない。
「お前何見てんだよ」
と、僕の存在に気づいた生徒の一人が振り向いて睨んできた。僕は、その時やめろと言うべきだった。でも萎縮してそれは無理だった。海斗と目が合う。お願いだから助けてくれ、と、今にも崩れ落ちそうな目で訴えていた。僕は、それでも海斗を無視して、自分の用を足すとトイレから去ろうとした。
「早く何とか言えよ」
奴らの矛先は再び海斗へ向かった。
「おい、こいつ漏らしたぜ」
「きったね」
去り際に聞こえてきた言葉に、僕は海斗の顔を想像した。想像の中の海斗は、泣いていた。僕はトイレから出るとすぐに耳を塞ぎたくなって屋上へと急いだ。




