23話
「いや、全然」
言いたいことは山のようにあるのに、何一つ口に出せない。すると律が先に、雨でぼやける暗がりの向こう側を指差して言った。
「ちょっと、近くの公園に行こう?」
僕は頷いて、律と一緒に小さな公園まで歩いた。歩いている間、一言も会話を交わさなかった。ごめん、とか、会いたかった、とか、伝えたくても、僕はそれを軽々しく言うことが罪のような気がした。
体を捻らせて銀の柵をこえる。雨の降る夜の公園には誰もいなかった。
僕と律は、ペンキの剥げたブランコの前で向き合った。
「あのさ」
と、僕はやっと切り出した。
「ごめん。あの時の事」
律に向かって頭を下げる。すると律は穏やかな口調のまま言った。
「別に、もう気にしてないし。どうでもいいから」
僕はゆっくり頭を上げた。律は、僕を見ないようにしているようだった。
「海斗から聞いたんだ」
「え?」
「海斗、謙一の事が好きなんでしょ?」
「何でそんな事」
僕は正直、律には知られたくなかった。あの時の事はあの時のまま、永遠に自分の中で閉まっていたかった。
「私、海斗に告白したの」
律の顔は上を向いた。瞳に浮かんでいるのは、今も海斗の姿だった。
「それで?」
「振られちゃった。最悪。凄く悔しくて、もう何もかも嫌になっちゃった」
律の声は震えていた。僕は、思わず口にしていた。
「何であいつなんか」
こんなに自分は律の事が好きなのに、よりによって律は、何で海斗なんかを選んでいるのだろう。僕は少し苛ついて、湿った砂利を靴の爪先で抉った。
「あんたなんかいなければ」
と、律は言った。いつの間にか僕の顔を見ていた。それも恨めしそうな顔で。それから律は傘を落として僕に掴みかかって揺さぶった。
「何で?ねえ何で?何であんたなの!ねぇ何で!」
律の頬は雨じゃないもので濡れていた。僕は何も言えずに、ただ俯いていた。
「……私の方が、海斗の事好きなのに」




