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20話
律は小さく言いながら、今にも零れ落ちそうな涙を眉間でせきとめ、立ち上がり走ってプレハブ小屋から出ていった。
僕は追いかけることも、律を目で追うことも出来なかった。律を殴った手の痛みだけがリアルだった。
「おい、謙一」
いつの間にか、海斗は上体を起こしてこちらを見ていた。
「何やってんだ、お前。早く律追いかけないと!」
僕の頭の中は、これ以上堕ちようのない場所まで堕ちていた。罪悪感と憎しみ。感情は決壊したダムのように流される。
「海斗が行けばいいだろ」
「は?」
「海斗、ずるいよな。頭も良くて、女にモテて。その上性格もいいとか……完璧じゃん」
僕は苛立ちの中で、息を吐くように笑っていた。
「お前なんか変だぞ」
と海斗は、僕に近づいて両肩を掴んで揺さぶった。




