2話
余計なお世話だった。僕は視線を横に流して律を見ると、また遠くの何だか分からない建物の群れを見た。別に恋人を作りたくない訳ではない。僕の中で、恋人を作らない理由は複数あった。
「恋人なんかいらない」
声のトーンは、憂鬱を孕んでいたかもしれない。
律はそれ以上は突っかかってはこなかった。代わりに、柵に背中を預けはじめながら、考え込んでいるように真っ直ぐ、どこかを見詰めていた。
「無理してつくらなくてもいっか、別に」
律は、左の手首をさすった。それはいつしか始まった律の癖だ。僕は、その癖が始まった原因を知っている。律は口では教えてくれなかったが、何となくそれを察していた。時折、おかしくなる律は両親のことをよく口走っていた。
僕は、律のその癖を見るたびに、堪らなく抱きしめたくなる。
「律だって」
僕は何かを言いかけた。だけど、言葉が漏れるその前に、屋上の扉の方から、また聞き馴染みのある誰かが声をかけた。今度は、低いが清涼感の声だった。
「おーい!」
柵から手を離して振り返ると、笑顔で僕達に手を振る海斗がいた。
「お前らこんな所にいたのか」
海斗は僕よりも背が高く、光に照らされると茶色っぽく見える瞳や髪が、魅力的だった。僕なんかよりも当然、海斗はモテていた。幼稚園の頃から海斗が女の子から詰め寄られているのを隣で見てきた。
律は腹から出したような大きな声で返事をした。
「バカ海斗!あんたを待ってたんだから!」
海斗はへらっと笑いながら、僕達の前へ歩いてきた。
「何かあったのか?こんなセンチメンタルな場所に二人して居てどうした」
海斗に手紙の話は聞かせていなかった。こういう話を男同士でするのは、何だか気恥ずかしい気がする。




