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蒼春  作者: 白宮 安海
青春となにか
19/27

19話

泥のような夢にもがきながら僕は目が覚めた。夢の中で僕は五歳に戻っていた。五歳の僕は、缶ビールを片手に握っている父親に殴られていた。止めてと叫んでも父は止めてくれない。お前なんか役立たずだ。殺すぞ。父にそう言われて、僕は一生懸命に謝った。この地獄が早く終わって欲しかった。


起きたばかりで、喉がかわいていた。僕は冷蔵庫から水を取り出し、ペットボトルから直接喉に流し込んだ。冷房は付けているが、僕の体は熱かった。床で寝ているとやっぱり体のどこかが痛む。腰を反らしながら筋を伸ばす。その時、律の唸る声が聞こえて、振り返った。

「んー……」

険しく眉を寄せて寝返りをうっている。僕はそっと律に近づき、寝顔を見詰めた。下を向いた睫毛は長く、きめ細かい肌が窓から射す明かりに照らされ青白く光っている。僕は思わず息を飲んだ。

額を覆う細い髪を指で払う。小さな赤い丘が目に入り、抑えきれず、僕は唇へ、唇を落としていた。

唇は柔らかく、どこまでも吸い込まれそうな程だった。深い呼気が唇から漏れると、律の底無しのような瞳が、僕を捉えていた。

「……謙一?」

律は瞼を細めて、勢いよく僕の体を押し返した。

「ちょっと何?信じられない。キスしたの?」

僕の喉が何かに締め付けられるように、言葉が出なかった。

「本当、最低!」

頬に張り裂けるような痛みが伝った。律は、獣のように僕を全身で警戒しながら、睨んでいる。その瞬間、僕の脳内は空白になり、何かが切れたように律に手を上げて、気がついたら律の頬を叩いていた。律は、打たれて赤くなった頬を押さえながら、今度は目を見開いて怯えきった目を向けた。僕は咄嗟の出来事に、自分が何をしたのか、自分でも分からないまま、ようやく声を絞り出した。

「ごめん」

「やっぱり……、男って皆そう」

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