11話
「何もないけど、ゆっくりしていってくれ」
「ありがとう、謙一。私も色々持ってきたよ。ジュースと……、それからお菓子。冷蔵庫借りるね」
壁際の小さな冷蔵庫を開けると、律は持参した飲み物を詰めていった。
「俺も。飲み物と食いもん持ってきた。あとこんなのも」
海斗が、腕にぶら下げていた袋の中からガサゴソと取り出したのは、色鮮やかな花火セットだった。
「凄い!海斗、花火じゃん」
テンションの高い声が、振り返りざま打ち上がった。
「夜、皆でやろうな」
「浴衣で来ればよかったなぁ」
俺は密かに律の浴衣姿を想像した。落ち着いた寒色系よりも温かみのある色がきっと似合うに違いない。
「今日のメインはあくまで勉強会」
と、律を制するように海斗は言う。海斗はいつも律の扱いがうまい。子供の時、律が男友達にいじめられ泣いていた時、俺は戸惑うばかりで何も出来なかったのに、海斗は律の事をずっとあやしていた。既にその時からずっと、俺は海斗に敗北感を抱いたままだ。
「それから、今日は他にもいいものを持ってきた」
海斗の表情は、爽やかな笑顔とうって変わり、何か裏のあるような陰のある笑顔だった。
「いいもの?」
僕は、海斗の笑顔に不安を覚えつつも首を傾げた。袋からいいものを取り出そうとする海斗の手に、銀色のアルミ缶が見えた。
「それ、ビールじゃないのか」
不安は的中した。僕は内心恐怖を抱きながら、海斗に主張した。
「未成年がそんなの飲んだらダメだろ」
声色がしっかりと安定していないのを、自分でも分かった。だが、海斗はそんなのもお構い無しで、今度はいつものからっと晴れた笑顔で言った。
「誰もいないんだから大丈夫だって。それに、最後の夜なんだし、はっちゃけたいだろ」
僕がなんとも言えず、妙な沈黙が流れると、律が間を割って入ってきた。
「ちょっとくらいなら大丈夫だよ。ね?」
律にもそう言われ、僕はゆっくりと頷いた。そうだ。ちょっとだけなら大丈夫。あんな風にはならない。僕は自分自身に言い聞かせた。




