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北の魔女  作者: 神崎明
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01 誕生と使い魔

頑張ります……が、超遅筆なため、毎日更新はほぼあり得ません。

読んで頂ければ幸いです。

01 誕生と使い魔


 我はたった今この北の国に生まれた。

 先代の魔女が死ぬと、数年で新しい魔女がどこからともなくその国に生まれるのだという。生まれた時から、国を揺るがすほどの力と、世界のあらゆる知識を持つ、この世の恐怖の権化ごんげ。この世界に八人しかいない頂点。

 我は北の魔女、北の国に恐怖と絶望をもたらす冬の化身けしん



 生まれた山のいただきから北の魔女の城をのぞむ。あたり一面吹雪で真っ白に覆われていても、自分の城がどちらの方角にあるか言われずとも知っていた(・・・・・)。肌を刺す寒さと呼吸や視界を遮る雪に辟易へきえきし、すぐさま火と風の魔法を展開する。我二人分ほどの直径の障壁が吹雪をはばみ、温かな空気がこごえた手足をゆるませる。

 さて城に向かうかと一歩踏み出したところで歩みを止める事になった。ミャウ(非常に長い二本の尾を持つ猫に似た動物)とラービ(足先等に豊かな毛皮をたくわえた兎に似た動物)がまろび出てきたからだ。

 まだ幼く体が小さいのもあって、黒い毛皮が通常の冬毛より少し多く、丸……もこもこして見える。二匹は自分の使い魔なのだとすぐに分かった。我と同じ、その身の黒は北の国の貴色である。ミャウは右肩に、ラービは左頬に、少し走った際にころんで付いたとおぼしき雪の塊があるが指摘しないでおく。豊かな毛皮が災いしたようだ。

「あるじさま」

 少し甲高く、嬉しそうな声が下から聞こえる。可愛らしい、まるで幼い子供のような、ちょっと辿々《たどたど》しい声。その事に少し不満を覚える。歴代の北の魔女は概して大きく強い使い魔を持っていたからだ。ラゴンやビバーサ(共に大型肉食獣)といった具合に、使い魔自体が恐怖を表せるように。しかし、この二匹のせいではない。我が(・・)二匹を使い魔として生んだのだから。

 二匹に鷹揚おうように頷くと、再び歩き出す。しかしまたすぐに立ち止まる事になった。魔法で滑るように山を歩く我に比べ、二匹の使い魔は未だ生まれたばかりの動物と大差ない能力しかない為、障壁の範囲からも遅れてしまっていたのだ。

 我は少し戻ると、急いだ為また転んだのか雪(まみ)れな二匹を抱き上げ、雪を払った。ミャウの方の眼がうるんでいたが気づかなかった振りをした。

「すみません」

「ありがとうございます」

 少し鼻声でかしこまるミャウと嬉しそうなラービ。それぞれに個性があるのだな、と感心しながら、ミャウを右肩に、ラービを左肩に乗せ、城へ進む。温かな重みを感じ、ふかふかの毛皮が頬をくすぐり、我は大変満足だ。


「あるじさまがかわいくてうれしいです」

「あるじさまのしっこくのおぐし、とてもきれいです」

 ラービが道中(うるさ)かったが、ミャウに「あるじさまをわずらわせるな」と一喝いっかつされてから、口数は減った。だが、手数は増えた。おい、我の顔を挟んで喧嘩けんかするな。髪は二人の手の応酬でぐしゃぐしゃになり、顔は二匹の腹毛がまとわりついている。ミャウ、お前も大概不遜(ふそん)だからな!

「すみません」

「ごめんなさい」

 ぱちっと手を叩いて大きな音を出してやると、喧嘩は収まった。我の肩にいる時は喧嘩は金輪際こんりんざい禁止である。使い魔の腹毛が死因とか笑えないからな。


 しばらく経って城が見えてくると、ミャウがおずおずと話しかけてきた。

「……あるじさま。わたしたちに名をつけていただけないでしょうか?」

 二匹は現時点でも我の使い魔ではあるが、名づけが正式な契約となる。また、名づけによって契約者から魔力をもらえるようになり、使い魔として成長していけるのだ。通常は名づけのみであるが、魔女の使い魔ともなれば契約時の真名と共に、通常時の呼名も必要となる。これは魔女に名前がないのと同じ理由で、他者からの干渉を断絶する為だ。契約を他から見られないここで行うのも理にかなっている。

「ふむ」

 少し考えた後、おもむろに指をみ切る。二匹の慌てる声が聞こえるが、気にせず魔方陣を雪の上に描いていく。使い魔契約の魔方陣。普通の魔女と使い魔との契約とは少し違うが、これで良いだろう。ラービを少し離れた木の根元におろし、ミャウを魔方陣の中央に下す。

「真名をくろ、呼名をクコとす」

「いのちにかえましても、おのぞみをかなえます」

 クコが名を受け入れ、魔方陣が黒い影となって、我とクコに吸い込まれる。クコを木の根元に連れて行った後、もう一度魔方陣を描き、今度はラービを中央に置く。

「真名をこく、呼名をロクと為す」

「このみはあるじさまのものです」

 ロクは影が収まると、「あるじさまー」と叫びながら駆けてきた。……実際は数歩走ったところで雪に埋まったのだが。手間のかかる使い魔だ。


 呆れた顔のクコと雪を落としたロクを再び肩に乗せる。右肩を見ると、凛々しくつくろったクコがいる。左肩を見ると、歌い出しそうな満面の笑みをしたロクがいる。

「行くぞ」

 我達は居城となる北の魔女の城へ向かって進んでいったのだった。

北の魔女からの祝福(なくしていた十円が見つかる)とクコからの感謝とロクからの笑顔をお受け取り下さい。


※猫と兎は正確には一匹と一羽ですが、ミャウとラービは違う動物として二匹と統一表記致します。

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