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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
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「一人目ですか?」2

 ーーおい、ちょっと待てよ。何だよそれ!


 ーー遡ること数分前、


「それで、その長ってのはどこにいるのよ」


「知らん」


 草原に出た俺達は、長とやらを探していたが、一向に手掛かりはない。


「ーーところで、冒険者って言ってたけど、どんな技を使うの?」


「ないよ、そんなの。俺、まだ駆け出しだぞ? 今はまだ、この片手剣と⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」


 そう言って俺はポーチから曲がったスプーンを取り出す。


「⋯⋯何よ、それ」


「見て分からんか。スプーンだ、スプーン」


「分かるわよ、それくらい。私は何で曲がってるのか聞いてるの!」


「曲げたんだよ、俺が」


「それで?」


「いや、それだけだけど?」


「ーーぶふっ!」


 思わず吹き出すエル。そして、


「⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」


 と動作まで再現してみせる。そんなドヤ顔で、カッコよく言ってたはずはないのだが。


「うるっさいな! 役に立つかもしれないだろ!」


「立つわけないじゃないそんなの! 大体曲げて一体何するのよ!」


「知るかそんなの! それに一度曲げたら戻らないし! 何かできるなら俺が聞きたいくらいだ!」


「ぶふっ! ますます駄目じゃないそれ! ⋯⋯⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」


「だから俺の真似はやめろ! あと、絶対そんなんじゃなかったから!」


 その時、こちら目掛けて何かが物凄い勢いで走ってくるのが見えた。

 ーーゴブリンだ。


「おい、音に気付いて、こっちに来たぞ!」


「あんたが大きな声出すからでしょ!」


「お前だって大きな声出してたじゃねぇか!」


 そうこうしてるうちに、ゴブリンはどんどん近付いてくる。


「ったく、仕方ないわね。そこで見てなさい」


 そう言ってエルが俺の前に出る。

 そして、右手を光らせ、


「フレイム!」


 と言うと同時に、右手をゴブリン目掛けて振り上げた。

 途端に手の平からは火炎が放出され、ゴブリンもろとも周辺を焼き尽くす。

 いつ見ても凄まじい威力だ。ゴブリンの姿はーーそこにはもうない。


「ふん。だからこれくらい、私一人で十分だって言ったのよ」


 そう自慢げに言う彼女がとても頼もしかった。なんせ、あの屈強なゴブリンをいとも簡単に倒してしまったのだから。


「エル。お前すげぇな! あんな強そうなやつを一撃で⋯⋯」


 ーー次の瞬間、思いがけない一言が返ってきた。


「⋯⋯何言ってるのよあんた。アレはモンスターの中でも雑魚よ。」


「⋯⋯は? いやいや、だって⋯⋯」


「たしかに見た目は強そうだけど、実際は大したことないのよねー」


 おい、ちょっと待てよ。何だよそれ!

 俺は慌てて図鑑を開いた。たった今倒したから、情報が載ってるはずだ。


 ゴブリン⋯⋯見かけとは裏腹に、戦闘力はさほど高くない。ーーーー。


 ーー嘘だろ。じゃあ俺は、大して強くもないモンスターから逃げ回ったり、弱気になってたりしたってのか? 急に自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。


 そんな折、エルが、指を口にくわえて、大きく音を鳴らした。

 途端に辺りに散らばっていたゴブリンが、エル目掛けて突っ込んでくる。


「ーーだから、こういうのは、まとめてやるに限るわね!」


 そう言うとまた、先程と同じく右手を光らせ、


「フレイム!」


 の声と同時に火炎を繰り出した。

 火炎が通り過ぎた後、まばらではあるが、焼けた体や燃えカスが地面に横たわっていた。


「ふぅ。こんな感じで片っ端からやればいいんじゃない?」


 たしかに。こうやっていれば、いつの間にか長とやらも倒してしまうかもな。それに、さほど強くもないゴブリン達の長なら、その強さもお察し程度だろう。

 ーーそれにしても、さっきから、いや、出会った時から気になることが一つ。


「⋯⋯お前、加減ってものを知らないのか?」


「⋯⋯は、は!? 何言ってるのよ!」


「いや、たしかにお前のその、フレイム? とやらはすげぇけど、横っ広いというか、関係ない部分まで焼きすぎじゃね?」


「わ、私にだって加減くらいできるわよ!」


 そう言うエルはすごく動転していたので、ある推測を立てつつ、こう言ってみた。


「じゃあ、あそこにいるスライムをピンポイントで狙ってみろよ」


「よ、余裕よ! 見てなさい! ⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ!」


 指差した先にいる、立ち止まっているスライム目掛けて、エルは右手を振り上げた。


「フレイム!」


 どうやら加減は出来るみたいだ。ちょうど、スライムくらいの大きさの火の玉がスライム目掛けて⋯⋯ってあれ?

 火の玉はスライムを避けるかのように左にカーブして、少し先の岩にぶつかった。


「あ、あっれぇ〜? おかしいな〜?」


「お前⋯⋯もしかして」


「⋯⋯たまたま! そう、たまたまよ! 次こそ!」


 そう言ってまたスライム目掛けて火の玉を放つが、今度は右に逸れて地面に着弾した。

 それから何発か挑戦するも、一発も当たらない。終いにはスライムに笑われてしまった。


「ああ、もう! まどろっこしいわね! フレイム!」


 そう言って今度は物凄い威力の火炎を放ち、スライムごと周辺を焼き払った。

 ーー間違いない。こいつ、コントロールに難ありだ。その威力でなんとか射程範囲に入れてはいるが、実際しっかり狙えているわけではない。

 その時、俺の頭にある案が舞い降りてきた。そういえば、さっき散々馬鹿にされたんだよな。


「ーーなぁ、エル」


「何よ。改まっちゃって」


 そう聞き返すエルに向かって俺は、


「⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ!」


 とさっき自分がやられたのと同じようにしてみせた。


「ーーっ!! あんたねぇ! それ以上やったら許さ⋯⋯」


「おっと! さっきの仕返しだ! 許さないなんて言わせんぞ!」


「うるさーい! フレイム!」


「うわっ! おい! 危ないだろ!」


 加減を知らず繰り出されたフレイムを、間一髪避ける。


「今俺を狙っただろ!」


「ええ、そうよ! あんたもゴブリン達みたいに燃えカスにしてやるわ!」


「何っだと! この自惚れ姫が!」


「は、はぁ!? 自惚れてなんかないわよ!」


「どこが自惚れてないんだよ! じゃあ、さっきの⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ! は何なんだ、全然当たってなかったじゃねぇか!」


「ーーっ!! あんたまたやったわね! 今日は調子が悪かったの、調子が! それより今度こそ燃えカスにしてや⋯⋯」


 その時だった。先程、俺が回避したフレイムが直撃した、草の茂みから音がした。

 そして、音と共に他のゴブリン達よりか一回り大きい、頭に石で出来た冠をかぶったゴブリンが現れた。

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