「一人目ですか?」2
ーーおい、ちょっと待てよ。何だよそれ!
ーー遡ること数分前、
「それで、その長ってのはどこにいるのよ」
「知らん」
草原に出た俺達は、長とやらを探していたが、一向に手掛かりはない。
「ーーところで、冒険者って言ってたけど、どんな技を使うの?」
「ないよ、そんなの。俺、まだ駆け出しだぞ? 今はまだ、この片手剣と⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」
そう言って俺はポーチから曲がったスプーンを取り出す。
「⋯⋯何よ、それ」
「見て分からんか。スプーンだ、スプーン」
「分かるわよ、それくらい。私は何で曲がってるのか聞いてるの!」
「曲げたんだよ、俺が」
「それで?」
「いや、それだけだけど?」
「ーーぶふっ!」
思わず吹き出すエル。そして、
「⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」
と動作まで再現してみせる。そんなドヤ顔で、カッコよく言ってたはずはないのだが。
「うるっさいな! 役に立つかもしれないだろ!」
「立つわけないじゃないそんなの! 大体曲げて一体何するのよ!」
「知るかそんなの! それに一度曲げたら戻らないし! 何かできるなら俺が聞きたいくらいだ!」
「ぶふっ! ますます駄目じゃないそれ! ⋯⋯⋯⋯まあ、強いて言うならこれかな」
「だから俺の真似はやめろ! あと、絶対そんなんじゃなかったから!」
その時、こちら目掛けて何かが物凄い勢いで走ってくるのが見えた。
ーーゴブリンだ。
「おい、音に気付いて、こっちに来たぞ!」
「あんたが大きな声出すからでしょ!」
「お前だって大きな声出してたじゃねぇか!」
そうこうしてるうちに、ゴブリンはどんどん近付いてくる。
「ったく、仕方ないわね。そこで見てなさい」
そう言ってエルが俺の前に出る。
そして、右手を光らせ、
「フレイム!」
と言うと同時に、右手をゴブリン目掛けて振り上げた。
途端に手の平からは火炎が放出され、ゴブリンもろとも周辺を焼き尽くす。
いつ見ても凄まじい威力だ。ゴブリンの姿はーーそこにはもうない。
「ふん。だからこれくらい、私一人で十分だって言ったのよ」
そう自慢げに言う彼女がとても頼もしかった。なんせ、あの屈強なゴブリンをいとも簡単に倒してしまったのだから。
「エル。お前すげぇな! あんな強そうなやつを一撃で⋯⋯」
ーー次の瞬間、思いがけない一言が返ってきた。
「⋯⋯何言ってるのよあんた。アレはモンスターの中でも雑魚よ。」
「⋯⋯は? いやいや、だって⋯⋯」
「たしかに見た目は強そうだけど、実際は大したことないのよねー」
おい、ちょっと待てよ。何だよそれ!
俺は慌てて図鑑を開いた。たった今倒したから、情報が載ってるはずだ。
ゴブリン⋯⋯見かけとは裏腹に、戦闘力はさほど高くない。ーーーー。
ーー嘘だろ。じゃあ俺は、大して強くもないモンスターから逃げ回ったり、弱気になってたりしたってのか? 急に自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。
そんな折、エルが、指を口にくわえて、大きく音を鳴らした。
途端に辺りに散らばっていたゴブリンが、エル目掛けて突っ込んでくる。
「ーーだから、こういうのは、まとめてやるに限るわね!」
そう言うとまた、先程と同じく右手を光らせ、
「フレイム!」
の声と同時に火炎を繰り出した。
火炎が通り過ぎた後、まばらではあるが、焼けた体や燃えカスが地面に横たわっていた。
「ふぅ。こんな感じで片っ端からやればいいんじゃない?」
たしかに。こうやっていれば、いつの間にか長とやらも倒してしまうかもな。それに、さほど強くもないゴブリン達の長なら、その強さもお察し程度だろう。
ーーそれにしても、さっきから、いや、出会った時から気になることが一つ。
「⋯⋯お前、加減ってものを知らないのか?」
「⋯⋯は、は!? 何言ってるのよ!」
「いや、たしかにお前のその、フレイム? とやらはすげぇけど、横っ広いというか、関係ない部分まで焼きすぎじゃね?」
「わ、私にだって加減くらいできるわよ!」
そう言うエルはすごく動転していたので、ある推測を立てつつ、こう言ってみた。
「じゃあ、あそこにいるスライムをピンポイントで狙ってみろよ」
「よ、余裕よ! 見てなさい! ⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ!」
指差した先にいる、立ち止まっているスライム目掛けて、エルは右手を振り上げた。
「フレイム!」
どうやら加減は出来るみたいだ。ちょうど、スライムくらいの大きさの火の玉がスライム目掛けて⋯⋯ってあれ?
火の玉はスライムを避けるかのように左にカーブして、少し先の岩にぶつかった。
「あ、あっれぇ〜? おかしいな〜?」
「お前⋯⋯もしかして」
「⋯⋯たまたま! そう、たまたまよ! 次こそ!」
そう言ってまたスライム目掛けて火の玉を放つが、今度は右に逸れて地面に着弾した。
それから何発か挑戦するも、一発も当たらない。終いにはスライムに笑われてしまった。
「ああ、もう! まどろっこしいわね! フレイム!」
そう言って今度は物凄い威力の火炎を放ち、スライムごと周辺を焼き払った。
ーー間違いない。こいつ、コントロールに難ありだ。その威力でなんとか射程範囲に入れてはいるが、実際しっかり狙えているわけではない。
その時、俺の頭にある案が舞い降りてきた。そういえば、さっき散々馬鹿にされたんだよな。
「ーーなぁ、エル」
「何よ。改まっちゃって」
そう聞き返すエルに向かって俺は、
「⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ!」
とさっき自分がやられたのと同じようにしてみせた。
「ーーっ!! あんたねぇ! それ以上やったら許さ⋯⋯」
「おっと! さっきの仕返しだ! 許さないなんて言わせんぞ!」
「うるさーい! フレイム!」
「うわっ! おい! 危ないだろ!」
加減を知らず繰り出されたフレイムを、間一髪避ける。
「今俺を狙っただろ!」
「ええ、そうよ! あんたもゴブリン達みたいに燃えカスにしてやるわ!」
「何っだと! この自惚れ姫が!」
「は、はぁ!? 自惚れてなんかないわよ!」
「どこが自惚れてないんだよ! じゃあ、さっきの⋯⋯あんなの、私にかかれば楽勝よ! は何なんだ、全然当たってなかったじゃねぇか!」
「ーーっ!! あんたまたやったわね! 今日は調子が悪かったの、調子が! それより今度こそ燃えカスにしてや⋯⋯」
その時だった。先程、俺が回避したフレイムが直撃した、草の茂みから音がした。
そして、音と共に他のゴブリン達よりか一回り大きい、頭に石で出来た冠をかぶったゴブリンが現れた。