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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
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活躍ですか?6

「遅くなった、ってことはもう終わったのか?」


 ユウが尋ねると、ロマンは淡々とその後の状況説明を始めた。


「はい。十数分前に、突然その場にいたあの怪物達が消えたので、救助も兼ねて王都中を見て回ったのですが、一通り救助は完了。怪物も見当たりませんでした」


「そうか、ありがとうロマン。……それにしてもよくゾンビ達で救助が出来たな。さっきもだったけど、いきなりあれが現れるとやっぱりドキッとするし、ほら、見た目だって追われてた木の怪物とほとんど変わらないだろ?」


 率直な疑問を投げかけるユウに、ロマン。


「はい。見つかったと思って逃げられたり、その場にあった石などを投げつけられたと言ってましたが、最初に助けた女性が他の人達にも話してくれたおかげで、そこからは人とゾンビの二人一組ツーマンセルでどんどん救助して回れたと」


「そっか、それならよかっ……」


 そこまで言ったユウにはもう一つ、疑問が浮かんでいた。そして、それを口にせずにはいられない。


「え? 待って? 言ってたって誰が?」


「もちろん、ゾンビ達ですが……」


「あぁ、そう。ゾンビ達がねぇ……」


「「…………。えええええええ!?」」


 思わずエルも声を上げた。


「う、嘘!? あの怪物ってしゃ、喋るの!?」


 そのまま動揺するエルに平然とロマン。


「はい。"口"があるんですから、ゾンビ達だって喋りますよ」


 木の怪物とロマンのゾンビ達の違い。それは胴体に加えて、"口"の有無もあった。ぱっくり裂けた、その口の。


「そうか。喋るんだな、ゾンビ達」


 二人の会話を経て、ある程度落ち着いたユウが呟く。と、


「ええ。なんなら、今お見せしましょう」


 まさか二人にここまで驚かれるとは思っていなかったのか、自分の側に一体のゾンビを召喚してロマンは言った。


「では、お二人にご挨拶を」


 続けて、ゾンビにそう言うと、指示を出されたゾンビは、自分より下に見える膝枕の二人の方へ頭を落とした。


「……」


 ーーごくり。とおそらく二人は息を呑んだことだろう。

 そしてーーゾンビの口が開かれる。


「@%€○#*#!」


「いやいやいや! ちょっと待て!」


 すかさず、ユウが口を挟み、そのまま続ける。


「話す、っていうか、奇声にしか聞こえないんだけど……」


 ユウがそう言うのも仕方がない。

 何せ、二人に聞こえたのは、言葉、というには程遠い低く、雑音混じりのノイズのようなものだった。


「いえ、ちゃんと話してますよ。今も、ユウさんエルさんこんにちは、と……」


「え? え!? そうなの!? エル、お前聞こえた?」


「いや、私にも……さっぱり」


 またもや飛び出した驚きの事実に、ユウと、相変わらず体が動かない寝たきりのエルは困惑する。


「……悪いけどロマン、もう一度頼む」


「分かりました。では、もう一度二人に挨拶を」


 その後、ユウの頼みにより、訪れる二度目の機会。

 二人はさっきよりも意識を集中させて、ゾンビの言葉に耳を傾けた。


「@%€○#*#!」


「待て待て待て! やっぱり分かんねぇ!」


 そう言ってエルに視線を向けるも、彼女は何とか動かせる頭を横に振るだけ。

 相変わらず聞こえたのは奇声だけーーという二人に、


「分からない? 当たり前ですよ。彼らが話しているのは"死霊語"と言って、同じゾンビ同士か、死霊術者(ネクロマンサー)にしか分かりませんから」


 補足を入れるロマン。

 さすがに、ユーシャ育ちのユウとは言え、死霊術者の事は知っていても使役するゾンビのことまでは知らない。


「先に言ってくれよ……」


 気付けばそう呟いていた。


「ところで……」


 "ゾンビが話す"という一件を終えた二人に、次はロマンからの質問。


「お二人はなぜそのような状態に?」


 だが、その質問の内容は、思ったよりもえげつないもの。


「え、いや! あの、これはね? その……」


 引いていた赤みがぶり返し、慌てて言葉を探すエル。

 逆に、


「ああ、これか? これは……」


 ユウは淡々と説明を始めた。


 ■ ■ ■


「なるほど、ではあれが……」


 一通り話を聞いたロマンは、二人の後ろの、魔物の姿を見た。


「ああ、あいつが本体、だった。まあ、それはそれとして、今言った通り、エルに関しちゃ動けない状態だ。手を貸してやってやってくれ」


「分かりました」


 召喚された一体のゾンビが、エルを背中に乗せおんぶし、その後ユウもゆっくりと立ち上がる。


「よし、じゃあ行くか」


「行くって、どこに?」


「あそこだよ」


 そう言ってユウは、広場のさらに先、大きく構える城を指差した。


「城も、救助は済んでるんだよな?」


「いえ、ゾンビ達によると、あそこは僅かに残った兵士が守りを固めていたそうで、あとは、魔物の襲撃と同時に市民の避難も先導していたらしく、私達が救助していたのは逃げ遅れた人達だったみたいです」


「そうか。じゃあ、もう魔物はいないって報告しに行かないとな」


「はい」


 城に向かって歩き出したユウと、その後ろをついて行くロマン。

 エルを背負ったゾンビはさらにその後ろを歩いていた。


 ユウがおぶってくれればいいのにーーーーという考えが頭をよぎったエルは咄嗟に首を振る。


(私、一体何てことをーーーー)


 それでも、出来ればゾンビよりもユウが良かったというのは本心だった。

 そんなことを言ってはロマンに失礼だと、言わなかっただけで。


(でも、そこは普通ーーっ)


 前を歩くユウを見て、エルはそれ以上考えるのをやめた。

 前を歩くユウは、かろうじて平静を装っているものの、すでに疲労困憊なのがエルには分かった。

 人一人おぶったりしたら、もうーーーー


「ユウ!」


「ん?」


「あと少しよ! しっかりしなさい!」


「……は? 何言ってんだエル。魔力吸われすぎたか?」


 強がっているのは分かってるんだからーー


「ふふっ。いいの、別に何でもないから!」


「……はぁ」


 エルは、満面の笑顔でユウに笑ってそう言った。


 ■ ■ ■


「……というわけで、魔物は俺達が討伐しました」


「そうか! 君達が! 助かった。礼を言う」


 城の前まで来た三人(とゾンビ一人)は門の前で警備する二人の兵士と話をしていた。門の上には、先程まで木の怪物達と戦っていたのだろう。銃を構えた数人の兵士がいる。


「突然魔物が城の方へ来なくなったから、おかしいと思っていたんだがそういうことだったんだな」


「はい。城の方も無事だと聞きました」


「ああ、まあ、無事、なんだが……」


「……?」


 兵士の微妙そうな顔に、三人は困惑の色を浮かべ、そして、ロマンが言う。


「まだ何かあるんでしょうか?」


 その問いを受け兵士は、


「いや、君達がもう魔物を倒してくれたならもう心配はいらない。だが、中の状況を説明するにはやや複雑で……実際に見てもらう方が早いだろう」


 三人を城の中へと連れていく。


 門の中へ入ると、どうやら今の門は正門ではなかったようで、その先に正門と、手前に、通路を塞ぐ横に流れる川があった。

 その間には上げ下げ可能な大きな橋。これで敵が来た時、また非常時には通路を断つことができるのだろう。それでも向かってくる場合のために、正門前には第二陣と言わんばかりに数人の兵士がいた。

 そのまま三人はどんどん城の中へ連れられ、大広間の扉の前まで来ていた。


「ここに皆が避難している。ではいいか? 開けるぞ」


 三人を連れて来た兵士の一人はそう言って、大広間の扉を開けた。

 開かれた扉の奥からは、避難している市民達。そして、それより手前に、たくさんの兵士に剣を向けられる教祖服に身を包んだ者がいた。

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