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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
54/55

活躍ですか?5

「ーーっ!! ぶはぁ! はぁっ……」


 ユウには、何が起きたのか分からなかった。


「うぐぁぁぁ!」


 目の前では慌てて燃える腕を振りつつ、燃えた部分を落とすマンドラゴラ。

 そして気付けば自分はーーーー地面の上にいる。

 首を締めていた輪っかも燃えてなくなり、止まったはずの呼吸も、戻っていた。


「何が……起こったんだ?」


 訳も分からないユウに、


「お前、一体何をした!」


 消化し終えたマンドラゴラが叫ぶ。

 しかし、ユウにも何をしたのか分からない。むしろ教えてもらいたいくらいだ、と。

 そこへ、


「魔力は吸い取ってたはずなのに、それなのに、じ、地面からひ、火なんか出しやがって!」


 続けてマンドラゴラが怒りを露わにして言う。

 地面? 火? ユウは考えた。何が起こったのかを。


 たしかにマンドラゴラの言う通り、魔力は吸い取られていた。だが、それを差し引いても地面から火を出す魔法なんて使えない。

 考えろ。なぜ地面から火が? そもそも、あの時地面には何が……そうだ、たしか、剣とあいつの燃えた枝、それからーーーー


「まさか……」


 一つの可能性に辿り着いたユウ。

 すぐさまその場を見渡し、「あれ」がないことに気付く。


「くそっ! 絶対にお前は殺してやる!」


 依然、地面に座り込んだままのユウに、さっきよりも多い、十体以上の怪物達が向かってくる。

 ユウは、意識を怪物達では無く、ポーチの方に向け、それから、ポーチの中に手を突っ込んだ。


 あとーーーー三本。


 その後、そのうちの一本を取り出し、そして、


「フレイム!」


 と唱えて、怪物達の元へそれを投げ込む。

 すると、地面に当たったそれは、途端に猛烈な火炎へと変貌した。


「なっ! また! 一体、何を……」


「知るかよ。俺が聞きてぇ。でも……何となく分かった」


 ユウが投げ込んだモノ。そして、地面から無くなっていたモノ。それはーーーー「スプーン」だった。


「待ってろエル。すぐに助ける」


 すでに意識のないエルに向かってそう言ったユウは、地面の剣を拾い上げた。


「……まぁ、『こっち』ができるってことは多分、『あっち』もできるか」


「何をぶつぶつ言ってる!」


 再び襲いくる怪物。ユウはそれに真っ正面から立ち向かう。


 使えるスプーンはーーーー残り二本。


 次々と怪物の頭部を切り落とし、マンドラゴラの近くまで来たユウは、ポーチから二本のスプーンを取り出し、一本を思いっきり上へーーーー


「な、何だあれは!」


 そうやって気を逸らした後、もう一本をマンドラゴラの足元に投げ込んだ。


「た、ただのスプーンじゃないか。こんなものでこのオレのーー」


 気を引こうとでも思ったのか。そう言いたいんだろ? 残念。


「違う。スプーンじゃなくて……『雷』だ」


「雷? 何を馬鹿なことをーーーー」


 次の瞬間、空に放たれた一本のスプーンは、無数の雷に変化した。

 天の無数の雷は、その全てが、マンドラゴラの右手、その先端付近に降り注ぐ。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


 いくつもの雷に貫かれた右腕先端は切り落とされ、そこから、すかさずユウはエルを助け出した。


「何だよ、コントロールって、案外簡単だな」


 お姫様抱っこしながら、降り注いだ雷を見てユウは呟く。


「くっ! 仲間を助けたところで何だ! 二人まとめてーー」


 再び木の怪物を生み出したマンドラゴラに向かって、ユウ。


「いいのか? 自分から"燃料"なんか増やして」


「……え?」


 マンドラゴラが足元を見た時には既に、激しい火炎が迫っていた。


 ■ ■ ■


「うぅ……」


 長らく失われていた意識が目を覚ます。


「おぉ、エル! 気が付いたか」


「ユ……ウ?」


 徐々に開いていく瞼からは、ダイヤモンドさながらに白く透き通った瞳が輝きを放つ。

 戦闘中の煙や汚れで白く輝く肌が若干くすんでいたのもあって、一層その白い瞳はユウには輝いて見えた。


「ーーっ! って、えぇ!?」


 そして、エルはようやく気付く。自分の置かれている状況に。


「ねぇっ! こ、これって!」


「なんだよ、膝枕くらいで」


 時間としては、あれから十数分が経っていた。


「膝枕、くらいって……もっと他に何か……」


「仕方ないだろ? 近くに座らせられる場所もなかったし、だからって、地面に寝せるのは、さ? まぁ、たしかに俺がずっと持ち上げてやれてたら良かったんだけど……」


「も!? 持ち上げるって一体どういう……」


「ん? あぁ、ちょっと前までお姫様抱っこで……」


 ユウにとっては何気ない一言。しかしエルにとっては……


「お、お姫様……抱っこ……」


 多少顔を赤らめてエルは呟く。が、


「そうそう。でも、おも……」


 こちらもユウにとっては何気ない一言。しかしエルにとっては……


「わ、悪かったわね重くて! でもそこは思ってても言わなくたっていいじゃない!」


 不覚にも顔を赤らめてしまった自分が馬鹿だったと反省する。

 本当なら今にでも一発食らわせてやりたいところだったが、思ったよりも魔力を吸われていたようで、魔法を使いすぎた時と同じ状態、つまり、体が動かなかった。

 だが、次に返ってきたのは予想外の答え。


「え? 重い? いや、思ったよりも戦いで疲れたから、悪いと思いながらもこうやって……って言おうと思ったんだけど……『重い』、って何が?」


 その返答に、さっきとは違う意味で顔を赤くするエル。


「お、重いってのは……ほ、ほらあれよ! ホカホカに焼いたらホクホクの、あの紫の……」


「それは『お芋』じゃ……」


「と、とにかく、もういいの! 終わり! 終了! ……って、ねぇ、あれ!」


 と、無理やり話が終わったところで、二人の目の前の路地から、怪物が飛び出してきた。


「なっ! たしかにあいつは……」


 ユウは自分達の背後、確実に倒したであろうマンドラゴラを見る。

 過ちをいかして、ユウはしっかり生死を確認していた。

 その大きな、最初にエルが焼いた時よりも一層黒さを増した木の生死を。

 それに、もし万が一生きていたとしたら、この十数分もの間、ほとんど動けない二人を襲わないはずがない。

 マンドラゴラは、確実にーー死んでいる。


「ユウ! あっち!」


 体が動かないエルが目線で示す方を見ると、その路地からも、いや、見渡す限り全ての路地から怪物が出てきていた。


「まじかよ、まさか、本体を倒しても消えない? それとも、あいつも……っ!」


 辺りを見回し、もう一度前を向いた時、最初に目撃した怪物は、既に二人の目の前にいた。


「くそっ! こうなったら、とことんやってやる!」


 膝枕の体制のまま、ユウは脇に置いておいた剣を握り、怪物の首元めがけて振り上げた。

 しかし、攻撃の最中、ユウは気付く。相手が攻撃してこないことに。


 何かおかしいと、ユウは振り上がる間に、敵を見極める。

 目はない、鼻もない、口も……いや、ある! それによく見るとこいつの胴体は……


 振り上がった剣は怪物の首元数センチというところでピタリと止まった。


「ちょっと、ユウ! 何して……」


 慌てふためくエルにユウは言い聞かせる。


「まあ、そう慌てるな。もう大丈夫だ」


「……へ?」


「ったく、びっくりしたよ」


 何が大丈夫なのか分からないエルをよそに、ユウは、"怪物達の(あるじ)"に言う。


 遅れて路地から出てきたのは、主ーーーーロマン。


「すみません、遅くなりました」


 その後、周りにいた怪物達は砂塵となり消えていった。

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