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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
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活躍ですか?2

「なっ!」


 突然の提案に、ユウは驚き、


「急に何をっ……」


 その意図を問おうとした時であった。

 イアンは、ユウを見て言う。


「お前ならもう分かってるはずだろ? このままじゃ、王都の救助は間に合わねぇ」


「それは、そうだけど……」


 当然、ユウもそれは分かっていた。それでも疑問に思ったのは、自分達よりもイアン達が王都へ向かう方が良いと思ったから。

 たしかにバトルロイヤルで勝ったとはいえ、あれは半分マグレのような勝ちであったのだ、と。

 うつむいていたユウだったが、


「もちろん、そこのお嬢ちゃんの魔法が当たらねぇってのは知ってる」


 その言葉で顔を上げた。

 間違いなく、イアンはエルの方を見てそう言ったのだ。


「知ってたのか?」


 質問に対してイアンは、


「いや、最初は知らなかった。でも、その後の試合を見てたら笑えるほどに当たらねぇからよぉ?」


 最後の方は、試合の情景が浮かんだのか、思い出し笑いをしながらいうイアンに、小馬鹿にされたと思ったのだろう、


「ちょっと!」


 エルがご立腹でイアンに突っかかるが、


「だが、その威力はさすがエルフとでも言わんばかりのもの。ここにいる誰よりも強い魔法だ。役に立つことがあるかもしれない」


 返された言葉に、さっきまでの怒りはどこへやら、


「ま、まあ? 私は気高きエルフであって、それくらいはできて当たり前、っていうか? 余裕なわけで……」


 まんざらでもない様子。

 上機嫌なエルにイアンは、


「それに、当たるか当たらねぇかなんてのは、気合いでどうにかなるってもんよ!」


 と、根性論で締めくくって、次に、


「んで、そっちの嬢ちゃんは、間違いなく今いる中でトップの戦力だろう。実力も経験も申し分ない。そして、この数的不利を巻き返せる能力も持ってる。出来れば残ってもらいてぇってのが正直なところだが、こっちにこれだけ敵が来るって事は、王都はもっと危険な状態にある。だったらそっちに回すのが最善だ」


 ロマンの方に視線を移してそう告げた。

 最後に、ユウの背中を思いっきり叩いて言う。


「だから、自信を持て! たしかにお前は二人に比べると見劣りするかもしれねぇが、その二人をまとめられるのは、この場でお前しかいねぇ。お前達三人だから優勝できた、違うか?」


 その問いに対して、はっきり答えられないユウだったが、


「まあ、それはその通りね」


「私もそう思います」


 エルとロマン、二人は即答した。

 エルはそのまま、


「もう! いつまでそうしてるの? 早く行くわよ!」


 いつものようにユウに話しかけるのだが、直前の言葉もあってか、ユウにとってはいつもと違うもののように感じた。信頼。エルからユウへの。

 ユウがエルと逆方向を向くと、


「早く行きましょう、ユウさん」


 同じようにロマンも答える。

 二人からの言葉を受けて顔を上げたユウを見て、もう大丈夫だろう、とイアンは、


「俺達に勝ったんだ。しっかりやってくれなきゃ困るぜ?」


 不敵な笑みを浮かべて言う。


「ったく、言ってくれるぜ」


 それに返事するユウの顔には、もう不安は無かった。


「ただ、大丈夫なのか?」


 続けてイアンにユウが尋ねる。

 周りには依然、大量の敵。心配したのだろう。

 だが、


「ああ、大丈夫だ」


 自信満々に答えるイアン。

 その指差す方を三人が見ると、そこには、ユウ達が話している間、敵を食い止める戦士達の姿があった。


「さっきはいきなりの奇襲で不意をつかれたが、こっからはそうはいかねぇ。だから……安心して行ってこい」


 その言葉を受けて、ユウは、


「……分かった。できるだけ早く終わらせてくる」


 そう言って、エルとロマンと共に、王都へ向かって走り出した。

 残ったイアンは、三人の後ろ姿を見送ると、その視線を怪物の方へと向け、


「野郎共! あいつらが終わらせるまでくたばるんじゃねぇぞ!」


 大声で仲間の戦士達に叫び、自らも戦闘へとその身を投じる。


 ■ ■ ■


 道中、木の怪物が何度か襲いかかってきたものの、ロマンによって、その全てが退けられ、ユウ達は王都に辿り着いていた。

 到着してすぐその目に移ったのは、凄まじい光景。

 怪物がどこかしこにうろついており、一部の民家からは火が上がっている。移動中に薄暗くなった空は、その混沌さを更に際立たせていた。

 三人が辺りを見渡していると、


「きゃああああああ!」


 路地の隅から一人の女性が飛び出てくる。

 しかし、まもなくして女性は躓き転倒。遅れて隅から出てきた怪物はじりじりと距離を詰めていた。


「ーーっ! エル!」


 飛びかかる怪物。だが、


「フレイム!」


 間一髪、エルの炎がそれを燃やす。

 いや、正確には炎そのものではなく、分裂した小さな火の粉が燃え移ったのだが。


「大丈夫ですか!」


 三人は助けた女性の元へと向かった。


「は、はい! ありがとうございます!」


「良かった。とりあえず安全な場所に……」


 とは言ったものの、どこを見渡しても怪物がいる。どこにも安全な場所などないのではないか。

 そう思っている間にも周りの怪物達はこちらへ襲いかかって来ていた。

 それを、ロマンの召喚したゾンビ達が食い止める。


「どうするの? ユウ」


 エルが問いかけると、ユウは答えた。


「二手に分かれよう」


「え?」


 その後、ユウはロマンに向かって言う。


「ロマン。頼めるか?」


「はい、大丈夫です」


 ユウの考えが分かっているかのようにロマンは答える。一方、まだよく分かっていないエルは、


「ねぇ、どういうこと?」


 とユウに聞いた。ユウは、エルに自分の考えを説明する。


「ロマンもだが、こういう使役系の能力は、そのほとんどがそれを操っている本体がいる。そういう場合、本体を倒すことで使役されているものを止めることができるんだ」


 そこまで聞いてエルは分かったようで、


「つまり、私とユウはその本体を探して倒せばいいわけね?」


「そう。ロマンもいてくれたら心強かったんだが、この状況じゃ仕方ない。それぞれの能力的に考えても、ここはロマンを救助に割くのがベストだ。救助の方は任せたぞ、ロマン」


「はい」


「よし、それじゃあ行くぞエル!」


「ええ!」


 かくして、二人は王都の奥へと向かって走り出した。

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