「バトルロイヤルですか?」26
時は遡って、作戦開始前。
「一つだけ、聞きたいことがあるんだ。辛いのは分かってる。それを承知での頼みだ。エル。あと二発、魔法を使えないか?」
問いかけに、エルは疑問符が頭に浮かんでいるような表情をする。
一体、何をする気なの? と言いたそうな表情を。
俺は、その続きについて話を再開した。
「二発と言ったが、一発は最大火力のフレイム。もう一発は最低魔力のライトニングだ」
エルの表情が更に困惑で染まる。
今度は、どうしてそんなことを? とでも言いたそうだ。
「順番だが、先に使うのはライトニング。これは俺が合図した時でいい。とにかく俺が合図したら撃ってくれ。そして、ライトニングを撃ったら⋯⋯当たる、当たらないに関わらず、魔力切れを装って倒れてほしい。もちろん、その後もずっとそのまま」
もう、数え切れない程の疑問符がエルの頭に浮かんでいることだろう。
しかし、この話にはまだ続きがある。
「あと一発、フレイムがあるよな? これは、その倒れたフリの後に使う。倒れたと油断したバースに思いっきりな。合図は俺のフレイム。俺がフレイムを使ったら、バースめがけて思いっきりフレイムを撃ってくれ。これで一応作戦の内容は終わりだが、エルーー」
そこまで話した後、一言「できるか?」と聞くと、エルは快く了承してくれた。
ーー火炎がバースを包んでから少し後。
正直、大まかな作戦は立てていたが、そこまでどうやって事を運ぶか、そして、フレイムを当てるためどれだけエルに近いところへ誘き寄せるか、については全くいいビジョンが無かった。
それでも、行き当たりばったりで怪物とシンクロかましたり、必死にもがいたりして、何とかここまでやってこれた。
「やった、のか⋯⋯?」
炎はバースを通過すると、その威力は次第に弱まり、空中で消える。
ただ、撒き散らされた砂が、煙となって視界を塞いでいたため、どうなったのかは分からない。
が、それもやがて鮮明になってきて、俺の目に、はっきりとその光景が映る。
「⋯⋯なっ!」
見えたのはーーーーバースと、それを包むドーム状の青い膜。
そして、バースはその膜のおかげで無傷だった。
奥の手というやつだろうか。最後の作戦をあっけなく防がれてしまった俺は、打つ手なしの状況に陥る中、バースの方を見た。
「はぁっ! はぁっ!」
しかし、バースはその場に膝を付いたまま、冷や汗を流している。
今まで見せていない奥の手だ。それだけ反動の伴うものなのかもしれない。
そんな事を思っていたのだが、
「⋯⋯くそっ!」
バースはとても不満げな表情をしている。
その様子は、青い膜は自分が張ったものではないとでも言いたげだ。
となると、一体誰がーーーー
「っ!」
そうだ、心当たりがある。この膜はバースが張ったものではない。バースを火の玉が包む直前、微かに声がしたんだ。その声はたしか、向こうからーー
俺がその方向を向くのとほぼ同時に、そこに向けて、
「おい! 勝手な事してんじゃねぇぞ!」
大きな怒声が放たれた。
ーー俺の視線とその怒声が向けられた先にいたのは、修道服の彼女。
彼女が直前、よくは聞き取れなかったが何かを発していたのは間違いない。
そして、そんな彼女に対して、バースの怒りは続く。
「とっととこいつを消しやがれ!」
膜の内側から激しく叩いて怒鳴り散らすバース。
だが、修道服の彼女は、それを「できません」と断固拒否。
その返事に、バースの怒りは更に増す。
「ちっ! ならいい! 自分で消してやる。リバース!」
ドーム状の膜はてっぺんから割れ、欠片が空気中に分散して消えていった。
膜から出てきたバースだが、依然、その怒りは留まることを知らない。
「くそが! 余計なことしやがって!」
鋭い目つきで彼女を睨み付けるバース。それはまるで猛獣のよう。
そうなると、さっきの膜は、檻とでも言った方が適切なのかもしれない。
猛獣バースの鋭い視線。それを受ける彼女は、
「私はただ、バースさんをお守りしようと⋯⋯」
臆することなく自分の意見を述べる。が、
「うるせぇ! 誰が頼んだ! いいか? 次やったらただじゃおかねぇ!」
遮るようにバースの怒号が炸裂。
その怒号に威圧されたのか、それともこれ以上言い返しても同じことの繰り返しだと感じたのか、彼女は何も言わなかった。
「⋯⋯さて」
それを確認すると、バースはその鋭い視線をこちらへ向ける。
その鋭さを感じた俺も、彼女に配っていた目を、バースの方に戻した。
「やってくれるじゃねぇか」
ふつふつと煮えたぎるマグマのように、バースの怒りは熱を増す一方。冷え切る様子もない。
だが、それとは対照的に、作戦実行のため動き回った俺の体は、冷めてきていた。
そして、わずかに燃えていた"勝機"という火も、もうーー
「だが、これで終わりだ」
そう。終わり。
ありとあらゆる手段を使ったが、勝てなかった。
エルも今の作戦で力尽き、俺とロマンは疲弊しきっている。
それに、決して警戒を怠っていた訳ではないが、最後の最後で、バースの仲間が独断で手助けするとはな。
あの膜、エルのフレイムを軽々防いでいた。そんなものを打ち破る力はもう残っていない。打つ手なしだ。
この状態でできることなんて、何一つない。もがいたって戦力差はひっくり返らない。
それなら、やることは一つしかない。
「⋯⋯ギ」
そう、ギブアッ⋯⋯
「え?」
「ギブアップだ!」
「えええええええ!?」
ーー会場中に、高らかにギブアップ宣言が響き渡った。
今回で、バースとの戦いは決着。
次回からは表彰とその後の話が続きます。
そして、新しい展開へ。お楽しみに!




