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スプーンで世界はすくえますか?  作者: 木林森
第一章 イスト編
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「バトルロイヤルですか?」22

「うぐっ!」


 全身から地面にダイブする。

 心なしかその地面はさっきよりも冷たく感じたが、そうではない。自分が熱くなっているだけだ。


「ユウさん!」


 少し先にいたロマンがこちらへ駆け寄ってくる。

 心配そうな表情をしていたが、そんなロマンに「大丈夫だ」と前置きして、


「それよりも作戦を⋯⋯」


 と小声で呟く。怪我で大きな声が出にくくなっていたのもあったが、どちらかと言えばバースに聞かれないようにだ。

 もちろん、そんな微かな声、バースに聞こえていたはずなどなく、


「おいおい、もうくたばっちまったか?」


 相変わらずの不敵な笑みでやつはこちらへ向かってくる。

 俺は、まだ痛みが残っている中、再び立ち上がった。


「⋯⋯はっ、そうでなくちゃな」


 それを見てご満悦そうな表情をバースは見せる。

 この場合、遊ぶオモチャがまだ壊れていないことへの喜びだろう。とんだ加虐嗜好だ。

 ただ、立ち上がったとはいえ体は思うように動かない。

 それだけのダメージが体に蓄積していた。


「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」


 おまけに息切れも激しい。

 あと、どれくらいもつだろうか。

 状況が全く違うが、エルもこんな感じだったのだろう、とふと思う。

 だが、それと同時に、作戦を話した後のエルも思い出していた。

 今の俺よりもきつそうだったにも関わらず、快く引き受けてくれたエルを。


 ーーそうだ、そうだよな。俺が先に倒れてどうする。


 落ち着いて深呼吸する。

 相変わらず痛みはあるが、心なしか呼吸は落ち着いた気がした。

 息切れがない、整った呼吸に。


「ふーっ。さて、やるか。ロマン、一つやってほしいことがあるーー」


「分かりました。やってみましょう」


「じゃあ、頼んだぞ」


 会話を済ませると、俺はバースめがけて走り出した。

 その直後、ロマンが大量の怪物を召喚して、バースの視界から俺を消す。


「ちっ、また目くらましかよ。リバース。⋯⋯⋯⋯っ! はっ、今回はバカ正直に突っ込んできたってわけか!」


 消された怪物達。

 しかし、今回はそれに紛れて奇襲、ではなく進行方向を変えることなく直進していた。

 そのままの勢いでバースに殴りかかるが、バースが防ごうとした瞬間、ここぞとばかりに攻撃をやめ、勢いよくしゃがむ。

 そのしゃがんだ後ろには、


「っ!」


 同じように殴りかかっている怪物がいた。


 ロマンに頼んだのは、怪物を一体、俺と全く同じ動作で動かせないか、ということ。

 そして、このしゃがむタイミングで動作を分岐。怪物にはそのまま殴りかかってほしい。と。

 ロマンは、その要望通り見事にやってくれた。

 大量の怪物を召喚、それらが消された後すぐに俺の背後に一体召喚し、バースからは分岐する直前まで見えないほどの完璧なシンクロを。

 いや、この場合、必死で動きを合わせた怪物に賞賛を送るべきか?

 まあ、そんなことはいい。何にせよ、虚はつけた。


 俺はかがんだ状態からバースの腹部に向かって拳を繰り出す。

 バースの両手は初手の攻撃に割かれていた為、もう間に合わないだろう。

 それに、


「リバース!」


 怪物を『逆転』で消したとしても、俺の攻撃は打ち消せない。

 クリーンヒットを確信していたが、それは思わぬ形で防がれる。

 ーーすね。バースは咄嗟に右足を腹部へ持ってきて、すねで拳を防いだ。

 そのまますねから先を伸ばし、蹴りを繰り出してきたが、後方へ退がることによってそれを回避。


 惜しくも攻撃はくらわせられなかったが、俺は手応えを感じていた。

 この方法、案外いけるかもしれない。と。

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