「バトルロイヤルですか?」22
「うぐっ!」
全身から地面にダイブする。
心なしかその地面はさっきよりも冷たく感じたが、そうではない。自分が熱くなっているだけだ。
「ユウさん!」
少し先にいたロマンがこちらへ駆け寄ってくる。
心配そうな表情をしていたが、そんなロマンに「大丈夫だ」と前置きして、
「それよりも作戦を⋯⋯」
と小声で呟く。怪我で大きな声が出にくくなっていたのもあったが、どちらかと言えばバースに聞かれないようにだ。
もちろん、そんな微かな声、バースに聞こえていたはずなどなく、
「おいおい、もうくたばっちまったか?」
相変わらずの不敵な笑みでやつはこちらへ向かってくる。
俺は、まだ痛みが残っている中、再び立ち上がった。
「⋯⋯はっ、そうでなくちゃな」
それを見てご満悦そうな表情をバースは見せる。
この場合、遊ぶオモチャがまだ壊れていないことへの喜びだろう。とんだ加虐嗜好だ。
ただ、立ち上がったとはいえ体は思うように動かない。
それだけのダメージが体に蓄積していた。
「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」
おまけに息切れも激しい。
あと、どれくらいもつだろうか。
状況が全く違うが、エルもこんな感じだったのだろう、とふと思う。
だが、それと同時に、作戦を話した後のエルも思い出していた。
今の俺よりもきつそうだったにも関わらず、快く引き受けてくれたエルを。
ーーそうだ、そうだよな。俺が先に倒れてどうする。
落ち着いて深呼吸する。
相変わらず痛みはあるが、心なしか呼吸は落ち着いた気がした。
息切れがない、整った呼吸に。
「ふーっ。さて、やるか。ロマン、一つやってほしいことがあるーー」
「分かりました。やってみましょう」
「じゃあ、頼んだぞ」
会話を済ませると、俺はバースめがけて走り出した。
その直後、ロマンが大量の怪物を召喚して、バースの視界から俺を消す。
「ちっ、また目くらましかよ。リバース。⋯⋯⋯⋯っ! はっ、今回はバカ正直に突っ込んできたってわけか!」
消された怪物達。
しかし、今回はそれに紛れて奇襲、ではなく進行方向を変えることなく直進していた。
そのままの勢いでバースに殴りかかるが、バースが防ごうとした瞬間、ここぞとばかりに攻撃をやめ、勢いよくしゃがむ。
そのしゃがんだ後ろには、
「っ!」
同じように殴りかかっている怪物がいた。
ロマンに頼んだのは、怪物を一体、俺と全く同じ動作で動かせないか、ということ。
そして、このしゃがむタイミングで動作を分岐。怪物にはそのまま殴りかかってほしい。と。
ロマンは、その要望通り見事にやってくれた。
大量の怪物を召喚、それらが消された後すぐに俺の背後に一体召喚し、バースからは分岐する直前まで見えないほどの完璧なシンクロを。
いや、この場合、必死で動きを合わせた怪物に賞賛を送るべきか?
まあ、そんなことはいい。何にせよ、虚はつけた。
俺はかがんだ状態からバースの腹部に向かって拳を繰り出す。
バースの両手は初手の攻撃に割かれていた為、もう間に合わないだろう。
それに、
「リバース!」
怪物を『逆転』で消したとしても、俺の攻撃は打ち消せない。
クリーンヒットを確信していたが、それは思わぬ形で防がれる。
ーーすね。バースは咄嗟に右足を腹部へ持ってきて、すねで拳を防いだ。
そのまますねから先を伸ばし、蹴りを繰り出してきたが、後方へ退がることによってそれを回避。
惜しくも攻撃はくらわせられなかったが、俺は手応えを感じていた。
この方法、案外いけるかもしれない。と。




